第143話 芸術王国流文化侵略ノススメ ――初撃――
俺達のステージの時間が来た。
あんなに緊張していたのに、今は不思議と早く演奏したくて仕方ない。
ただ、不安要素が一つある。
この世界にロックというジャンルはない。故にすぐに受け入れてもらえるジャンルではないという事だ。
前世の歴史でも、フォークソングやクラシックに聞き慣れている大人達は眉間にシワを寄せて避難した。しかしここまで広まったのは若者に受け入れられた事と、ロックに憧れて自分達も演奏を始めて多くのバンドが生まれた事だ。
俺達の今回のライブでのゴールは、若者に受け入れてもらう事。
そして、強烈な印象を残して様々なバンドを産み出すきっかけになる事だ。
上手く行くかはわからない。何せ、前世の文化をこの異世界に押し付けるんだからな。
これでコケたら、ロックを浸透させるのに結構時間を費やしてしまう。
まぁ、俺達なら大丈夫だろうな。
俺が先頭で舞台袖から出ていく。
そしてミリア、レオン、レイス、オーグの順番で舞台へ出た。
観客席を見渡す。
年齢層的には若干中年層が多いって感じかな?
表情を見る限り、「今から何が起こるんだ?」って表情をしていた。
いいねいいね、その表情!
その表情を一変させて驚愕させて、そっから熱狂させてやろうじゃん!
「いえーいっ!!」
最前列にいる女神様が、早速ウルトラオレンジのサイリウムを折って点灯させて、自分の頭上に掲げて振っている。
タイミング早いっすよ、女神様!?
そして振る度にその豊満な胸が揺れるもんだから、周辺にいる男達は女神様のおっぱいをガン見している!
しかし当の本人はまったく気にしていないと来た!!
まぁ、何かとっても楽しそうだし、いっか?
……俺もそれを見て、眼福でした。
ちなみに、反対側の舞台袖には王様と王太子様、そしてレイとリリルとアーリアが見てくれていた。
何だろう、愛しの三人が見てくれているとすっげぇ力が沸いてくる。
俺達はそれぞれ自分の担当楽器の前まで移動し、準備を始める。
まずはレオンがリードギター、ミリアがサブギターといった形。レイスはベースでオーグはシンセサイザー。そして俺がドラムだ。
ライブの一発目は、見た目も派手なレオンがやった方が強烈な印象が残るからだ。
俺は自分のドラムセットを確認する。
各部分のフットペダルもしっかり動くから問題ないし、ドラムの音も問題がない。
天気も快晴で問題なし。
まさに今日は野外ライブ日和だぜ。
メンバー全体を見渡す。
……全員が問題なかったようで、俺に向かって頷いてきた。
よし、準備完了だな!
ちなみに俺達の衣装は、全員が黒のジャケットに黒のジーンズ(ミリアだけは黒のミニスカート)、インナーは白といった服装に統一している。
カロルさんが特注で作ってくれた自信作らしい。
最高にロックだ!
さぁ、一発目は軽く挨拶と行くか!
俺は口でカウントせず、ドラムスティックを叩いて音を出す。
リズム良く四回鳴らし終わった直後が演奏開始!
俺が選曲したのは、布袋寅泰作曲の《
ボーカルが入っていないものの、静かにじわじわと盛り上がってくるこの曲は、ロックが存在していないこの異世界では最適だと判断したんだ。
この曲は、任侠映画である《新・仁義なき戦い》のテーマソングでもあり、クエンティー・タランティーノ監督の《キル・ビル》でも採用された、有名な曲だ。タイトルは、《仁義なき戦い》を英語に直訳したものだったりする。
約二十秒程、レオンだけが静かに演奏する。
リューンとは違った不思議な音色に、観客全員がざわめく。
そりゃそうだ、クラシックギターの心地よい弦を弾く音とは違って、エレキギターはエフェクターを介して音を歪ませてスピーカーから音を出す。
ただしこの世界では科学は発展していない。そこでアーリアが独自に研究をして、前世の機器と遜色がないレベルで魔道具として作り上げた。
いやぁ、アーリア様様ですわ。
もちろん、この曲はずっとその調子じゃないぜ?
ここからじわじわと、低温火傷を負うように胸を焦がしていってくれ。
二十秒が過ぎた。
ここだ、ここで一気にテンションを上げていく!
さっきまで静かだったのに、このたった三回ピックを流す時に全員でそれに合わせて演奏を始める。
急にやってきたサウンドに、観客全員がびっくりした様子だ。
現状、ここまで音量が出せる楽器はないもんな、そりゃびっくりするわ!
だが、またここから最初の二十秒と同じフレーズで演奏するんだが、今度は全員が静かに演奏をし始める。
レオンはステップを踏みながらノリノリで演奏している。その一つ一つの動作が妙にサマになっていて、主に女性を虜にしているようだ。
レイスはピックを使わないフィンガー・ピッキングでベースの太い弦を弾いて、低音を奏でている。
ミリアはリードであるレオンをサポートする役だ。一定のリズムで曲にワンアクセントを加えた演奏をする。俺がリクエストしたツインテールを左右に揺らしながら懸命に弾いている姿は、十代位の男の視線をかっさらっている。まぁ、可愛いからな、ミリア。
オーグは演奏しつつ摘まみを操作して、次の音を作り出している。しかし慣れた手付きで涼しい顔でやっている。
こいつも元々整った顔をしているからなぁ、女性には人気が出るだろうよ。
肝心の俺は、全員が突っ走らないように曲の土台を支えている。
まぁ、地味だよね、俺。
だが、この曲はどれかが目立とうとすると崩れてしまう曲だ。
リードギターをしっかりと立てて、他の楽器は曲の骨組みを固めていかなくてはいけないんだ。
今のところ上手くいっているようで、観客達が徐々にリズムを取ったり体を揺らし始めた。
曲がどんどん盛り上がっていく毎にそういった動きが増えてきている。
俺は会場全体にサウンドボールを放ち、観客の声を拾った。
「な、何か賑やかだな……」
「この音おもしろーい!」
「複数人数で演奏するのか……。新しくて斬新で楽しいな」
「ちょっと騒がしいなぁ」
「めっちゃくちゃテンション上がるんだけど!」
「何か格好良くない?」
「あのリューン、独特な形をしているな。今のリューンってあんな感じ?」
「真ん中で演奏している人、超格好いい!! 好き!!」
「いやいや、あの薄い板を演奏? している人の方が格好良いわよ!」
「ねぇ、あの赤い髪の子って、もしかして《双刃の業火》じゃ?」
「まさか、稀代の二刀流剣士が演奏なんてやるわけねぇじゃん!」
まぁ今のところは賛否両論って感じかな?
だが、段々観客達も盛り上がってきたみたいだ。
ちなみに、まだこの曲はジャブだ。
これだけで終わらせるつもりはない!
演奏が終わる。
最高潮なテンションの状態でこの曲は終わる。
熱が入ってきた観客達は、まばらながらも拍手をくれた。
うん、とりあえずは入りは上々だな。
「ひゅーひゅー!!」
うん、相変わらず女神様は最初からクライマックスだね。
ほらほら、そんなぴょんぴょん飛ばない!
でっかいマスクメロン二つが上下に揺れてるから、周囲の男達の鼻の下が伸びてるぞ?
……素晴らしいバニシングバスト、ありがとうございます。
さて、観客を休ませるつもりはこれっぽっちもない!
ちゃっちゃっと次に行くぜ!
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