第141話 リューイの街、奪還!


 結論から言おう。

 リューイの街の奪還は一瞬で終わった。

 ここを領地としていた貴族が素っ裸で貼り付けにされたヴィジュユを見た瞬間、土下座をして降伏してきたんだ。

 俺も含めて皆、多少の戦闘は覚悟していたんだけど、かなり拍子抜けだったなぁ。

 まぁここの貴族は思いっきり肥えていて、良心的な領主ではなくて自分の欲に忠実そうだなって印象だった。

 だってさ、金ピカのアクセサリーで自分を飾ってるんだぜ? ちょっと眩しい位に光り物を身に付けてるんだ。

 

 さて、現在捕虜が一万以上いる訳なんだが、この街にそいつらを収容する場所はない。

 だからニトスさんの提案で、役職がある兵士――つまり隊長格だったりね――とサリヴァンとヴィジュユ、リョースはそのまま捕虜として確保して、他の兵士達は国へ返した。

 殺すのかなって思ったが、そうじゃないらしい。


「ここで兵士達を処刑したら、ここの住民は私達を怖がってしまう。忘れたのかな? 私達の狙いはアレだと」


「あぁ、なるほど。恐怖心があっちゃアレは達成できないか」


「そうだ。だから怖がらせる要素は取り除かないといけないんだ」


 そう、俺達の最終目的は別に武力を以ての奪還ではない。

 ある種武力制圧よりタチが悪い、なっかなかえげつない方法ではあるけどな。

 さらに、国へ帰った兵士達には、ヴィジュユや隊長格が捕虜になっている事も皇帝のクソ野郎に伝えてもらわないといけない。

 それで終戦処理の交渉に来るか武力行使か、どちらを選択したのかをニトスさんは見たいのだと言う。

 まぁ十中八九で武力行使をしてくるだろうな。

 ヨールデンの帝都である《ラヴランチュア》は、ここから歩いて片道十五日かかる程の距離だ。解放した兵士達は全員徒歩だから片道はそれくらいかかるとして、もし奴等がこちらに向かってくる際は馬を使うだろう。そうすると約十日に縮まるようだ。

 おおよそ一ヶ月。俺達はそれまでにアレを成功させないといけない。


 そうだ、リューイの街について説明をしよう。

 元々うちの国の領地だったこの街は、今から約二十五年前にヨールデンに攻め込まれて占領されてしまう。

 不当な理由での進軍を禁止する国際条約にサインを書く前にやられてしまった為、今や世界の認識としてはヨールデンの領地となっている。

 何度も話し合いの場を設けようとしたのだが、ヨールデン側が突っぱねていて、聞く耳を持ってくれない状態で今に至る。

 ……前世の日本と同じ状態といった方がわかりやすいな。

 現在の人口は約八万人と、この世界では都市レベルの人工だったりする。

 何故、ヨールデンはこの街を狙ったのか? どうやら二つ理由があるようだ。

 一つ目、ここを占拠すれば、うちの王都まで目と鼻の先で攻め込みやすいという理由。

 もう一つが、海外との貿易がしやすい理由だ。

 ヨールデンは山岳地帯が多い国で、貿易を行える拠点が一つ存在しているものの、国中に流通させるのに山を越えなくてはいけないという不便な場所にあったみたいだ。

 そこで、うちの国の貿易拠点の一つであるリューイの街に目を付けた。

 リューイの街は帝都まで平地であり、他の町や村にも流通させやすいルートを持っていた。

 レミアリアとヨールデンはそもそも貿易を行っていたのだが、ヨールデンが欲張って自分のメインの貿易拠点にしてやろうと考えたらしい。

 そして、前触れも無しに侵略行為をされ、抵抗虚しく占拠されてしまったとの事だ。


 このままじゃ王都も攻め込まれると考えたレミアリア側は、速攻でガウェイン砦を建築して防衛戦を築いた。

 調度いいタイミングで国際条約も結ばれ、何とか今日まで平和を保っていられたらしい。


 ちなみに俺はというと、降伏した貴族が住んでいる屋敷を俺達の拠点とし、割り振られた部屋のベッドでごろごろしていた。


 いやぁ、流石に疲れたわぁ。

 ほぼ馬の上だったし、何だかんだで精神的に疲れるんだわ。

 今ニトスさんは、外で領民を集めて演説をしている最中だ。

 内容としては、レミアリア軍が占領したが、皆の人権を侵害するつもりはない。

 そして奪還が遅れてしまい申し訳ない、お詫びで明日催しを無料で行う。

 こんな感じだ。

 今俺が出来る仕事は全くない。

 だから俺は、ある一報が来るまではグータラしているんだ。


「ああ、久々ののんびりだぁ。このままだと堕落しちまうかもだぁ~……」


 一応自分の部屋に籠る前に街をぐるりと見て回ってみたが、普通に発展した街だった。

 気掛かりなのは、娯楽系施設が少ない点かな?

 酒場も一件しかないし、食事処も三件程と異様に少ない。

 ちょっとした軽食を売っている屋台を見つけたので、買い食いしながら店主に聞いてみた。


「ヨールデンってさ、軍事に異常な程力を入れているでしょ? だから、私達帝国民の仕事は大体が武器製造が中心なのさ。まぁ料理とかの腕がいい奴は、こうやって出店とか酒場は持てるけど、なかなか申請まで時間が掛かったねぇ」


「そうなんだ。苦労してたな」


「ん~。稼ぎは正直今の方がいいんだけどねぇ。レミアリアに属していた時の方が、皆笑顔だったわよぉ。どっちがいいんやらねぇ」


「まぁそれは明日の催しを見てから決めればいいんでね?」


「赤髪の兄ちゃんの言う通りだね!」


 軍事帝国って言うだけあって、ほとんどが剣や防具を作らされるのが仕事のようだ。

 給料はいいらしいが、その分遊べる場所が少なくてそこが不満に感じているみたいだった。

 うん、俺だったらそんな国にいないわ。


「さて、そろそろアーリアにお願いしたのがそろそろ来てもいい頃なんだけどなぁ」


 すると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 もしや、来たか!?


「入っていいぜ」


 俺がドアに向かって声を掛けると、開いたドアからカロルさんが顔を出した。

 俺はベッドから飛び起きて、カロルさんに向かって早歩きで向かい、握手した。


「待ってたぜ、カロルさん!」


「ふふっ、アーリア姫様から知らせを頂いて、速攻で準備してきました。私としても利益がありますしね」


「ありがとう、助かるよ! 後いくつかお願いしてるんだけど」


「はい、把握していますよ。一つの方は今この屋敷の応接室で待機しています。もう一つはこの書状に」


 カロルさんは懐から王家の印が押された封筒を俺に渡してきた。

 綺麗に封筒を開けて、中に入っていた便箋を見る。

 ……よし、計画通りに進んでるな。

 我慢できずについついにやっと笑ってしまった。


 俺とカロルさんは部屋を出て応接室に向かう。

 すると、レオン、レイス、ミリア、オーグがソファに座って待っていた。

 応接室に入った俺を見るなり、皆が一斉に立ち上がって俺に近寄ってきた。


「ハル、大丈夫だったかい!?」


「心配かけたな、レイス。俺はこの通り、ピンピンしてるぜ!」


「まぁハルだったら問題ないっしょ♪」


「お前は少し心配してくれよ、レオン……」


「だって、ハルっちは大体自分で解決しちゃうもんね!」


「そんな事、ねぇよ? ミリア」


「私は、少し心配したぞ」


「……やっぱ男は心配しなくていいや、オーグ」


 全員が俺を笑顔で迎えてくれた。

 親友達も何もなくてよかった。


「しかし、アーリア姫様から手紙が来たのはびっくりしたよ……」


「わりぃな、レイス。急なお願いで」


「いや、構わないよ。むしろ、俺達が役に立つんだ。問題ないさ」


「そう言ってもらえて助かるわ!」


 これで明日からの準備は出来た!

 ここからが、俺――いや、俺達の本領発揮だ。

 俺達がいれば、ここの領民だって魅了されるだろうな。特に娯楽に餓えた奴等にはな!


「さぁ、始めようぜ。楽しい楽しい、《芸術王国流文化侵略》!!」


 俺達はこれから、文化侵略を行う。

 軍事しか取り柄がない帝国に、大きな爪痕を残す為に。

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