第128話 二日目開戦直前


 月の下で無事両思いになった俺は、アーリアと手を繋いで皆の元に帰った。

 兵士さん達皆からは本気ではないものの、取り囲まれて全員から頭を叩かれた。

 一人か二人、ガチで殴った奴いたなぁ。覚えた、この戦いが終わったら倍返しで仕返ししてやる……!

 王様と王太子様からは「アーリアを貰ってくれて、ありがとう」と感謝された。

 まぁ彼女の魔眼の事もあるし、俺位しか彼女を貰おうっていう酔狂な男はいないよな。

 レイとリリルに関しては予想していたようだった。でも改めて二人には絶対に蔑ろにしない事を誓った。


「僕はハルを信じるよ」


「私も、ハル君を信じる」


 二人共笑顔でそう言ってくれた。

 うん、こんなに俺を想ってくれるんだ、蔑ろになんか出来る訳がねぇよ。

 しっかし、俺も器用だよなぁ。

 レイ、リリル、アーリアを本気で優先順位付ける事なく、平等に好きになっている。

 まぁ丸く収まってよかったよかった!


 この夜は、アーリアの部屋でガールズトークをするらしく、レイとリリルは王様達の後ろに付いていきながら城へと向かった。

 またね、って約束をして。

 うん、俺は絶対に負けられない。そして絶対に死ねない。

 俺はこの戦争を勝って、しっかり生き抜いてやる。


 あっ、そうそう。

 実はアーリアには一つお願いをしたんだ。

 これも作戦の一つなんだけど、それは後のお楽しみって奴だ。

 ニトスさんと考えたこの作戦は、かなりえげつなくてヨールデンに大打撃を与えられる内容だ。

 個人的にはライブを延ばされてしまった恨みがあるから、心の中ではザマァって思ってるけどな!


 さてさて、俺達陣営は熟睡して疲れが取れた訳で、兵士さん全員疲労が一切なく朝を迎えられた感じだった。

 俺が楽しみなのは、敵さん側がどれ位酷い状態になっているかだったりする。

 俺とニトスさん、そして他の軍師補佐の人達は、司令塔になっているテントに集まっていた。


「では、敵陣営の状況を確認して、それに合わせて迅速に作戦を組み立てるぞ」


『はいっ!』


 ニトスさんの言葉に、軍師補佐達が元気よく返事をする。

 皆戦争をしているのに精神的疲労感を一切感じさせない表情をしていた。

 さて、二日目はどのように動くかな?

 俺は軽く指を鳴らし、相手陣営になり響いているあの黒板を爪で引っ掻く時に出る音の音量を、こっそり二倍にしてやった。









 ――サリヴァン視点――


 …………やっと、夜が明けた。

 こんなにも時間が流れるのが遅いと思う感覚を、生まれて十三年で初めて味わった。

 しかもさっき、急に音が五月蝿くなったのだ。もう頭が割れそうな位に辛く、耳栓をしても全く効果がないこの不快な音のせいで、我が陣営はすでにかなりの消耗をしていた。

 天幕から出てみると、兵士の死体が転がっている。

 大体がレミアリアから引き抜いてきた俺の部下だった。

 音による心労のせいなのだろうか、自分で喉を剣で貫いて自害していたり、暴れていた所を他の兵士に処分されたり。

 まだ疲弊する戦況ではないにも関わらず、我が陣営は一週間以上も戦い続けている位に消耗していたのだった。

 くそっ、音というのを舐めていた!

 数では圧倒的に有利だったのに、ここまで俺達は追い詰められている。

 現状戦える兵士は一万九千の内、一万四千まで減らされてしまった。

 どうやらレミアリアにも戦争が出来る優秀な人間がいたようで、昨日は我々の作戦を読んでいたかのように先手を打たれてしまった。結果、死者は最終的に二千におよび、二千五百人は戦闘不能状態の大火傷を負ってしまっている。何故俺はそいつを引き抜かなかったのだろうか!


 ……いや、後悔していても仕方ない。

 何とかこの状況を打破しないといけない。

 もう少しで《ヴィジュユ・フォン・ヨールデン》殿下がここに到着してしまう。しっかりと俺と軍師殿が立案した作戦を詰めて、殿下に納得して頂かなければならない。

 俺も軍師殿も、正直眠すぎて立っているのがやっとだ。だが、そうも言っていられないのも事実。

 ようやく、心から望んでいた戦争をする事が出来るのだ。

 初戦はやられてしまったが、ここで逆転をしてレミアリアは俺達ヨールデンが貰う!

 俺はあんなつまらん国にはこれっぽっちも未練はない。

 何故なら、俺は元々王族の血脈なんぞ引いておらず、ヨールデン生まれの孤児だったからだ。


 俺はヨールデンの小さな村である《ララウィの村》で生まれ、ヨールデンの軍事を支えるべく、村人全員で魔道具の部品を作って国に納品していた。

 ヨールデンは軍事に非常に力を入れており、食料については他国に売り払った武器で得た資金を元手に輸入、若しくは国土の一つを畑にして自国生産をしていた。当然自国生産はさほど力を入れていないから、食料は全て輸入任せだ。

 代わりに攻撃用魔道具の完成度は半端ではなく、他国は自衛手段としてヨールデンから購入していた。この利益は莫大で、帝国民全員に食料も余裕で行き渡っていた。他国では内戦がある所もあり、そういった所では予約待ちになる位に大盛況だったりする。

 

 俺が五歳の時、隣国である芸術王国レミアリアの王都、リュッセルバニアへ両親と一緒に向かっていた時だった。

 俺達は盗賊に襲われた。

 俺達家族は武術は一切嗜んでおらず、両親は奴等に蹂躙されて殺されてしまったんだ。

 そしてついに俺が殺されるという寸でのところで、レミアリアの兵士に助けられた。

 彼は一人で圧倒的な力で盗賊を斬り捨てていった。手こずっている様子もなく、余裕を持って一人一人を剣で葬っていった。


 正直、その強さに憧れたよ。

 それと同時に、小さな俺は理解したのだ。

 この世は力、暴力には言葉では対抗出来ない。力には力を以て、暴力には暴力を以てでしか対抗出来ない。同じ土俵に立つ事すら許されないのだと。

 

 そんな俺は兵士に保護をされ、リュッセルバニアの孤児院に入った。

 両親が殺されて兵士に助けられた時から強さに憧れた俺は、孤児院の誰とも仲良くならずにひたすら剣の素振りをしていた。

 ただひたむきに強さのみを求め、剣を振っていた。

 そこから二年後、俺は突然レミアリアの国王である《ドールマン・ウィル・レミアリア》に養子として選ばれた。

 理由は第一王子が病弱でいつ死んでもおかしくないから、その時の後継者として俺を選んだのだとか。

 まぁ俺は健康的で身体も丈夫だったところが選ばれたのだろうがな。

 それでも俺はもし第一王子が病死して俺が王太子になり、そして王となったとしたら、俺を助けてくれたこの国に恩を返す為に全力で国王を勤めようと決心したのだった。


 しかし、俺は絶望したのだった。

 この国はあまりにも軍事に金を掛けていなかったのだ。

 ヨールデンとは休戦状態だとしてもいつ侵略されてもおかしくないはずなのに、呑気に芸術に力を入れているのだ。

 全く以て有り得ない。この国はこんなに体たらくだったのか!

 俺は第二王子という立場ながら、何とか軍部の状況を少しでもよくしようと必死になって動いた。

 しかし、全く動かないのだ、腰が重いジジイ共は!


 もうこの国は変えられない。

 俺は貯金していた私財を叩いて、同じく軍部が蔑ろにされている事に不満を抱えていた幹部クラス四人と結託して《武力派》を結成。

 レミアリア国内で破壊活動を行わせつつ、国民の安全を適度に脅かしてあまり対応しない兵士に対する不満を、国民に溜めさせた。

 そして俺は、ヨールデン皇帝と秘密裏に会談し、俺をヨールデンの民としてそれなりの地位を用意して迎え入れてくれるという約束も得た。

 皇帝の望みはただ一つ。

 芸術王国レミアリアを我が物にし、国土を広げて世界統一するというものだ。

 俺は打ち震えた。ここまで力を重要視している方に出会った事がない!

 俺は皇帝に忠誠を近い、定期的にレミアリアの情報を流して皇帝の信頼を獲得していったのだった。

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