第126話 再会の後
「ハル、皆が見てるよ……」
「は、ハル君、恥ずかしい……」
二人がそんな事を言っているが、気にするか。
俺は二人を離さないように、二人の腰に手を回して力強く抱き締めた。
ああ、会いたかった。
「く、苦しい」
「ちょっと、力弱めて……」
レイとリリルからそんな言葉が弱々しく漏れて、俺ははっと我に返った。
俺は一旦二人から距離を取って、改めて二人を見る。
レイは、本当にさらに綺麗になった。
茶色の光沢ある腰まで届く長い髪は、弱い風でも柔らかくなびいている。
顔立ちも本当に大人だ。二年前は大学生のお姉さんだったのに、今はOLのお姉さんって言ってもいい位になっている。
化粧も薄くしているんだろう、桜色の唇がとても色っぽい。
身長はさすがに俺の方が上だけど、それでも俺の鼻辺りまであって、そこまで大きな差がない。だからなんだろうな、手足がすらっとしていて長く見える。
今日の服装は動きやすそうな絹のシャツの上に革製の軽い胸当てを着けていた。下半身はスカートではなくて脚の曲線がわかる位ピタッとした白のパンツルック。そして腰には前々から使っていた細身の剣が帯剣されていた。
何かさ、前より引き締まって細く見える。
だからといって出ている所はちゃんと出ていて、胸も多分普通にある。きっとある!
リリルに関しては、表情が前より柔らかくなったのか、ただ可愛いだけでなく母性があるように思えた。
ふわふわしている肩までの長さの金髪は変わらずだけど、前より柔らかいように感じた。
そして何でも受け止めて貰えそうで、優しい笑みを浮かべている彼女は、男を懐柔させてしまう危うさがある。
多分レイとお揃いの口紅を使っているんだろう、月の光に反射した桜色の唇は潤っていて、今すぐキスをしたくなっちまう。
身長も俺の肩辺りまで伸びているし、何より服の上からでもわかる位胸がでっかい!
もう一度言おう、パイオツカイデー!!
服についてはやっぱりあまり肌を露出させるのは好きじゃないみたいで、身体のラインがわからない位ゆったりしたものになっている。胸はそれでもわかる位ボリューミーなんだけどね!
スカートも足首まで長いゆったりとしたものだし革のグローブもしているから、肌が出ているのは顔と首だけだったりする。
手にはリリルの身長と同じ長さの木製の杖を手にしていて、それなりに使い古されているような印象だった。
あぁ、本当に、本当に会いたかった。
「ハル、久しぶり。しばらく見ない内に本当に大人びたね……。とても男らしくて結構ドキドキしてるよ」
「そうか? 俺としてはそこまで容姿は変わってねぇと思うけど」
「ううん、変わったよ。それに眼からはとてつもない力強さを感じる。二年前より遥かに凄みがあって素敵だよ」
レイが俺を見て微笑みながら言ってくれた。
そっか、レイがそう言うならそうなんだろうな。
結構照れ臭い。
「ハル君、待たせちゃってごめんね?」
「結構待ったぜ? それにしても、レイもそうだけどリリルも綺麗になったな」
「そ、そうかな……、えへへ。ハル君もとっても格好良くなっているし、さらに自信溢れているって感じがして、何かね、さらに好きになったよ」
リリルは頬を赤らめてそう言ってくれた。
そして、俺の右手を両手で包み込むように握りしめてきた。
レイも俺の左手を優しく握ってきた。
「「貴方にとても会いたかった」」
二人の目から涙の雫が一滴落ちた。
俺はそんな二人を見て、貰い泣きをしてしまった。
「俺も、会いたかった!」
王様や王太子様、兵士の皆に囲まれながら、俺達は互いの存在を確かめるように抱き締め合った。
その時、そっとアーリアがその場から離れていくのが見えた。俺は咄嗟にサウンドボールを吸着させて、常に俺にしか聞こえない低周波数の音を出し続けるように指示した。この音を拾えばアーリアの場所がわかる。
「レイ、リリル。一つ謝らなくちゃいけない事があるんだ」
「……予想はつくけど、聞こうかな」
レイがそう言い、リリルはゆっくりと頷いた。
「俺はずっと、レイとリリルだけって決めていたんだけど、やっぱり俺は不誠実だったみたいだ。アーリアも大事な存在になっちまってた。だから俺は二人はもちろん、アーリアも迎え入れたいんだ」
「……うん、何となく予想出来てた」
「そうなのか?」
「だって僕達、頻繁にアーリア様から手紙貰ってたんだ」
へ?
何でこの二人とアーリアが文通してたんだ?
「最初は僕とリリルに対して宣戦布告だったんだよ。ね? リリル」
「うん。でもね、いつの間にか定期的にハル君の近況を教えてくれるようになったし、アーリア様の眼の事も聞いたの」
眼の事…………魔眼の事か。
「最初はびっくりしたけど、ハルが何とも思っていないなら問題ないなって思って、そのままずっと文通してたんだ」
「それで、最近になって私とレイちゃんを排除するんじゃなくて、三人一緒にハル君を支えたいって話になったの」
「うん。でもハルがアーリア様の事を受け入れてくれるかわからないから、とっても不安だったみたいだよ? ね、アーリア様……って、いない!?」
レイがアーリアがいない事にようやく気付いたみたいだ。
他の兵士さんも王様達も気が付いてなかったようで、焦っている。
おい、見逃すなし!
「俺が何となくわかるから、アーリアの所に行ってくる。とりあえず、二人はアーリアの事迎え入れてもいいって事か?」
「……まぁ、しょうがないよね。今までハルを支えてたのはアーリア様だったし」
「私も、大丈夫だよ」
「……ありがとう、レイ、リリル。愛してるぜ!!」
俺はアーリアに吸着させたサウンドボールの音をすぐさまキャッチして、その方角に向かって走り出した。
しっかり気持ちを伝えよう。
レイとリリルの二人と結婚する時点で不誠実なんだ、なら開き直って俺なりに正直な想いをぶつける!
上手くいくかはわからんけど、きっと大丈夫。
何となく、そう思うんだ。
――リリル視点――
私とレイちゃんは、アーリア様を追い掛けに行ったハル君の背中を、見えなくなるまでずっと見ていました。
二年振りに会ったハル君は、とっても格好良くなっていました。
しかも、私達の事をずっと想ってくれていたのが、抱き締めてくれた時によくわかりました。
でも、手紙でアーリア様とやり取りをしている中で、一生懸命ハル君を支えていた事を教えてもらってとっても不安でした。
ハル君はアーリア様だけの事を好きになって、私達の事を忘れているんじゃないかって。
そんな心配は杞憂だったみたいです。
だけどハル君の欲張りは相変わらずで、アーリア様を含めた私達三人と結婚したいと豪語したんです。
しかも、それを言い出した時のハル君の目は、もう決めたっていう決意が滲み出た強い目でした。
私とレイちゃんは、このハル君の目に弱いです。
だって、とっても格好良くて碧眼がすごく綺麗で、迷いのない目が大好きだからです。
「はぁ、ハルは本当に不誠実だね。僕達がすでにいるのに、もう一人奥さんが欲しいなんて」
「うん、確かにそうだね。でも――」
「でも?」
「ハル君は私達三人まとめて、幸せにしてくれるって確信があるんだ、私」
「リリルも? 不思議だね。僕もそう思ってるんだ」
何でそう思ったのか。私達には確信は一切ありません。
だけど、ハル君だったらきっと三人をまとめて幸せにしてくれるって思えたんです。
これが惚れた弱味ってやつなんでしょうか?
「レイちゃん、久々にハル君に会った感想は?」
「うん、率直に言えば惚れ直した」
「あはは、私も」
この二年間で私達はハル君を支える為に、かなり修行をしました。どういった事をしたかは今は内緒です。
だからハル君に追い付いたって思っていたのですが、まだハル君は先にいるようです。
全く、すごく大変だけど追い掛け甲斐がある、大きな背中です。
それでも、以前よりは絶対にハル君を支えられるという確信もあります。だから、私達は自信を持ってハル君の前に現れたんですから。
「レイちゃん」
「何だい?」
「頑張って、ハル君を支えていこうね」
「ああ、当然だよ」
もう私達は、ハル君から離れない。
そう、決めたんです。
「あのぉ、君達」
すると、兵士さんの中で美形な男性が私達に話し掛けてきました。
私はまだハル君以外の男性が苦手で、レイちゃんの背後に隠れちゃいました。
「君達は、ハル君の、何だい?」
「僕達ですか? 僕達は、ハル・ウィードの婚約者ですよ」
レイちゃんが満面の笑みで答えました。
その瞬間、その場にいた兵士さん達がどよめきました。
「あ、あいつ、俺達のアーリア様じゃ飽きたらず、別のお姉さんに手を出してるなんて!」
「くそっ、ハル君モテすぎだろ!! 俺にもお裾分けしてくれてもいいじゃんか!!」
「ちくしょう!! 俺なんてまだ独身だし、女は娼婦しかしらねぇってのに!!」
「「「恨めしやぁ~~~!!」」」
皆さんがハル君に対して呪詛めいた事を言い始めました。
何か、すごく怖いです。
「えっと、茶髪のお姉さんはハル君より年上だよね? 年下が好きなんだ?」
「は? 来月に十二歳なんですけど……」
ちょっと不機嫌そうにレイちゃんが言うと、王様や王太子様を含めた全員が大声で驚いた声を出しました。
うん、レイちゃん。私から見ても同い年って思えないよ?
最近だと魔力量が多い人は、成長が著しく速いって研究論文が上がったみたいですし、私達はそれに該当するのだと思います。
私の場合は身長じゃなくて、胸だったみたいです……。
とりあえず、兵士さん達がすごく食い気味に質問してきて怖いので、早く帰ってきてよ、ハル君~……。
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