第120話 十二歳間近! しかし……?


 意外と、二年はあっという間だった。

 まぁ俺がかなり忙しかったからってのがあるだろうな。

 ついに、ついに俺は、一週間後に成人である十二歳になります!

 長いように感じたけど、本当に短かったと思ったよ。

 さて、どれだけ俺が濃厚な日々を過ごしていたか、ダイジェストで紹介しよう。


 まず、俺の秘書に関して。

 アーリアとのデートが終わって次の日、俺は王様に紹介された奴隷商会と商人組合へ足を運んだ。

 王様には事前に男性を希望しておいた。これ以上女性関係で心労を増やしたくないんだよ!

 まず奴隷商会だったが、正直時間の無駄だった。

 何をどう勘違いしたのだろう、俺はスケジュール管理出来る人材が欲しかったのに、金勘定が出来るし見てよこの上腕二頭筋! とひたすら肉体自慢をされた。

 どうやら計算も出来て俺の身も守れますよ! とアピールをしたかったらしいのだが、そのアピールは悉く俺の希望から逸れていた。

 ああ、新入社員の入社面接ってこんなもんなのかなってちょっと思ったりした。

 二十人程紹介されたんだが、結局これだって人材に出会えなかったから、「ちょっと紹介された奴隷を吟味するから、時間ちょうだい」と言って立ち去った。もちろん、連絡する気は皆無だ。

 そして筋肉の森を見続けたせいで精神的に疲労した俺は、あまり期待せずに商人組合へ足を運んだ。

 そこで求めていた人材と出会った。

 彼はカロルさん。俺より歳上で二十歳だ。

 くすんだ金髪のショートヘアーにちょっと洒落た銀の眼鏡をかけており、知的な印象を受けた。だが、無害そうな目とは裏腹に、胸中にはどんなものを利用しても成り上がろうとする野心があった。

 何より、俺が彼を採用したのは、カロルさんと初対面した時の第一声だった。


「私は貴方の幅広いコネクションを利用させていただきます。その代わり、貴方が望む仕事を完璧にこなしましょう」


 この瞬間に俺は、手を伸ばして握手をしていた。

 出会って二十秒も経っていない出来事だった。

 俺は野心を持たない奴は信用できないんだ。だって、人間は野心があるからこそ成長するもんだと俺は思っている。

 ただ金が欲しいからってだけなら誰でも出来る。だがそういう人間に限って、雇い主の手間を増やすんだ。そして時間の無駄にもなる。

 しかし野心を持った奴は、雇い主を思いっきり利用して、賃金以上の利益を得ようとする。もちろん悪い野心を持っている奴もいるから、そこは見極めが重要なんだが。

 どうやらカロルさんは小さな商会を開いていて、俺の秘書業をやりつつ自分を売り込み、自身の商品も売って利益を上げようと考えたんだ。

 こういう利用のされ方は、正直言って大好きだったりする。

 実際カロルさんは俺が求めた仕事を軽く越える程の事をしてくれた。

 増え続けるピアノの家庭教師の申し出を、カロルさん自身が受付をやってくれており、断る所は断って、俺のスケジュールを切迫させない余裕を持たせて穴を埋めていく。しかも売上金の勘定もやってくれるから、俺の負担は大分軽くなった。

 そして彼の本当の狙いであるコネクション形成は上手くいっているようで、俺のピアノの生徒の休憩時間中に上手く商品を売り込み、注文を得ていた。

 最近はお城の兵士さん達にも売り込んでは買ってもらっているようで、商人組合からも期待のルーキーとして様々な支援を受けられて、カロルさんの商会は右肩上がりの成長を続けていた。


「本当にハルさん様様ですよ。まさか王族ともコネクションがあるなんて思ってもみませんでした」


 もう俺のところで働かなくてもいい位に稼いでいるのに、これからも是非やらせてくださいと言われ、今に至っている。

 俺としてもかなりありがたいけどね。


 次の報告はバンドだな。

 週に一度の夜に、俺の屋敷に集まって地下室で徹底的に練習をした。

 オーグは貴族だから、何とか予定を作ってくれてはいるが参加できない事も多々あった。

 だけど参加できなかった時は自宅で猛練習していたようで、何らマイナス点はなかったんだ。

 皆、複数の楽器で織り成すハーモニーの楽しさに目覚めたようで、俺も含めて楽しんで練習をしていた。

 ミリアはというと、体力が付いたのか、華奢だった体に筋肉がついてほんの少しだけ丸みを帯びていた。心なしか胸も大きくなった?

 そして躍りながら歌ったり、エレキギター改め魔道リューンを見ないで演奏しながら歌う事が出来るようになった。

 さらに俺が徹底的にあざとい振り付けを教えてやって、アイドル顔負けなミリアの魅力を引き出せた。

 レイスは、本当に皆を支える事が好きなようで、ベースも上手くなったが実はドラムの才能もあった。

 俺は感情が高ぶると突っ走ってしまう傾向にあるのだが、レイスは正確無比、そしてツインバスの正確さはマジで気持ち悪い(褒め言葉)の一言だ。

 ただ、ひ弱なレイスにドラムを打ち続ける体力が備わっておらず、毎日十キロ程のランニングと三十回の腕立て伏せを命じると、優男から引き締まった好青年へ暮らすチェンジしていた。ちっ、こいつも実はイケメンだった!

 まだまだメタル独特のハイスピードな演奏は出来ないが、この先練習を重ねていけば出来るようになると思う。

 次にレオン。こいつに歌わせてみたらまさにビジュアル系ドンピシャだった。

 しかも気分が乗ると、その曲調に合った振り付けをアドリブで行い、「目の前に女性の観客がたくさんいる事を想像してみろ」と言った瞬間、顔付きを変えて甘いマスクで一回手招きしたりと、ライブでもきっとこの調子で行うんだろうなという一面を見せてくれた。

 オーグはまさに愚直。悪く言えば個性はないが確実に仕事をこなしている。

 そもそも演奏経験がほぼないのに、この二年で大体の曲は演奏できているのは正直すごいと思う。

 後はもっと弾き続けていけば、自分なりの個性とかを身に付けて演奏し始めると思うから、期待の成長株だったりする。

 バンド用の曲として、俺は六曲を作詞作曲をした。

 今俺達は、この曲をより素晴らしいものにするために必死になって、夜遅くまで練習に励んでいる。


 最後にアーリアについて。

 アーリアとの関係は良好だ。

 あの時のデート以来、王都全体で「ハル・ウィードとアーリア姫様は、結婚前提のお付き合いをしている」と噂され、俺が知り合いとすれ違う度に「いつ結婚するんだ?」と聞かれたりする。

 否定をすると、さらに詰められそうな気がしたから、とりあえず黙って流した。

 とりあえず相変わらず楽器製作の協力は惜しまないらしいし、年々アプローチの積極性が増している。

 全体的に幼さを残しながら大人の女性になりつつある彼女だったが、残念ながら胸に関しては二年前と大して変わっておらず、腕に抱き着かれる際は骨が当たった。

 うん、こんな事を思っているとばれたら、アーリアに泣かれるな。よし、墓場に持っていこうそうしよう。

 たまにアーリアがキスをせがんでくるが、俺はそれを回避する。

 正直心が揺れまくっているけど、辛うじて止まっている。

 まだ俺は、彼女に手を出していない、断じて手を出していない!!


 そうだ、そして俺と友人達によるバンド名が決まった。

 この世界の言葉で、《ディリーパード》だ。

 意味は《親友達》。俺達は親友だから、この言葉こそ俺達にふさわしいとして、満場一致でこの名前に決まった。

 さらに、俺が成人を迎えてから一ヶ月後、城の中庭にて新作楽器発表も兼ねて《ディリーパード》のライブを行う事になった!

 これは王様に直談判したところ、二つ返事で了承をもらえたんだ。

 ついに俺達は、プロとしての第一歩を踏み出すんだ。


 だが、俺達――いや、この国全体はまだ知らなかった。

 まさか、とある阿呆が調子に乗ってとある事を行った事で、平和は崩れ去る。

 しかも、それが俺の誕生日当日に起きた出来事だった。

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