第99話 予定の詰まった一日 ――お城編4――


 第二王子のせいで、楽しかったはずの朝食が台無しになった。

 おかげで沈黙が続いているし。

 とりあえず、俺は王様に注意を促す。


「王様、あの第二王子はしっかりと監視した方がいいですぜ?」


「……理由を聞いても?」


「さっきアイツが言った《アルベイン一刀流》は、お隣の《ヨールデン帝国》の人間以外には絶対に教えない、門外不出の剣術だ。それを名乗ったと言う事は――」


「なるほど。監視しないといけないな」


 流石王様、俺が言いたい事を完全に理解したらしい。

 帝国人以外の人間が《アルベイン一刀流》を名乗った。すなわち、何かしら《ヨールデン帝国》と繋がりがあるという事だ。

 しかもこの帝国は軍事国家だ。様々な条約に縛られているから何もしてこないが、何かしらきっかけがあったら速攻戦争をしてくる位、武力至上主義であったりする。

 まさに第二王子が望んでいる国家の在り方だ。

 どうせろくでもない事を考えているに違いないだろうな。

 出来れば関わりたくない奴だが、どうせまた接触してくるんだろうね。面倒くせぇ!

 

 どんよりした空気の中朝食を食べ終わると、アーリアが俺の腕に抱き着いて来た。


「ハル様、早速わたくしの成果を見てくださいませ! もし満足出来るものでしたら、是非褒めてくださいね?」


「おう! しかし、俺の楽器作りに王族が支援してくれるとは思わなかったわ。個人的にアーリアに頼むつもりだったのにさ」


「芸術王国を名乗る国のトップが、新しい楽器と聞いて食い付かない方がおかしいですわ。ねぇ、お父様?」


「うむ。しかも今回は一気に複数と来た! ピアノでも十分に驚かされたのにまた驚かされるのかと、余はワクワクしているよ」


 王様と王太子様が目をキラキラさせながら言ってきた。

 アーリアも結構自信があるらしく、一番は俺に見てもらいたいって言ってたっけ。

 実際俺もワクワクしている!

 異世界でエレキギターやらドラムやら、シンセサイザーにベースが誕生するんだぜ!?

 科学が全く存在していない世界でよく出来たもんだよ、本当にさ。


「では早速発表させていただきますわ。皆さん、例の物を」


 アーリアがそう言って手を二回叩くと、六人の侍女さん達がシートに包まれている何かを部屋に持ち込んで来た。

 多分、あれがアンプやらドラムセットやらなんだろうな。

 二人掛かりで持ってきたりとかしているから、結構重そうだ……。

 そして運び終わると、侍女さん達は帰らずにその場に留まった。


「では、お披露目しますわ。わたくしと、ハル様の、愛の結晶を!!」


 何か愛の結晶にこだわるなぁ、この世界の女の子達は。

 侍女さん達はアーリアの音頭と共にシートを外す。


「お、おぉっ!!」


 感嘆の声を漏らしたのは、俺だった。

 だってさ、前世の楽器セットがそのまま、この異世界にあるんだから。

 エレキギターはアームが付いた鋭利なデザイン。《チルドレン・オブ・ボドム》のボーカル兼リードギターの《アレキシ・サンダー・ライホ》が使っている《アレキシ・モデル》を意識したデザインだ。それを二セット作ってもらった。

 そしてベースも出来上がっている。デザインは三人組ヘビーメタルアイドルユニット、《BABYMETAL》のライブ時のベーシスト、《BOH》氏のベースを参考にさせてもらった。

 シンセサイザーは鍵盤を上下に階段のように二セット付けたモデルで、摘まみを捻る事で電子音の調整を可能にしている。

 ドラムについては、四つのシンバルセットにタムタムにフロアタム、スネアにバスドラムといったセットにしてある。

 バスドラムのキックペダルは、両足で交互に踏む事で高速ツーバスを可能とした仕様だ。

 さらにアンプもあるしエフェクターもある。


 やべぇ、本当に感動的だ。

 これでこの世界にはなかったバンドを広める事が出来る。


「さぁ、ハル様! 是非演奏してみてくださいませ!!」


 アーリアがいつも以上に抱き着いて来る。

 いや、恐らく色仕掛けとかではなく、本気で早く試してもらいたいんだろうな。

 何せ人々から忌み嫌われている《虹色の魔眼》を活用して、全く新しい楽器を産み出したんだから。

 言われなくても、俺だって今すぐにでも演奏したいさ!


 まずはギターだ。

 あぁ、懐かしいなぁ、《アレキシ・モデル》。

 当時は《チルドレン・オブ・ボドム》にかなりハマっていて、彼らが使っているギターのレプリカモデルが発売された瞬間に友達が購入したから、めっちゃ恨めしかったっけ!


 手に持ってみる。

 ん~、少し重いか?

 いや、俺がまだ身体が子供だからそう感じるだけか?

 俺はコードをエフェクターとアンプに刺して、ピックで弦を弾いて音を奏でた。


 ギュイィィィィィンッ


 アンプから発生する、まるで何かが鳴いているかのような音が流れる。

 アーリアを含めた王族の皆さんと侍女さん達が、身体をビクッとさせて驚いた。

 あぁ、この音も懐かしいなぁ。

《ミュージックプレイヤー》で何度も音楽を再生していたけど、こうやって自分で奏でた音を聴くのはかなり懐かしいんだ。

 さて軽く演奏してみるか。

 何を弾こうかなぁ……。

 おっ、何故か頭の中で《メガデス》の元ギタリストの《マーティ・フリードマン》の名前が出てきたぞ。

 ならば、とある音楽番組でやっていたやつをやってみるか!


 俺が演奏し始めたのは、《石川さゆり》の曲で《津軽海峡冬景色》だ。

 かなり有名な演歌なのだが、このアームが付いているギターだと音を歪ませたりヴィブラートを効かせるのが容易になる。

 そうすると、このエレキギターで演歌のこぶしを表現する事が出来るんだ。

 うん、アームも問題ないな。

 アンプ、エフェクターも正常に動いている。というか、前世のギターと遜色がない素晴らしい出来だ!


「な、何と言う事だ……。楽器が歌っている?」


「とても……心に響く音だな」


「あぁ、ハル様、素敵ですわ……」


 まぁ俺が演奏している部分は、まさに歌の部分。

 こぶしやヴィブラートは大袈裟かって思う位がっつり効かせて演奏した。

 王族の皆さんにも好評のようだ。


 俺はそれから全ての楽器を演奏し、前世のそれと遜色ない事を確認した上でアーリアに完璧と伝えた。


「良かったですわ。ではご褒美に、頭を撫でてくださいませ」


 まぁこんな素晴らしいものを完成させたからな。

 それ位でいいならと思い、銀髪を滑るように頭を撫でた。

 とても気持ち良さそうなアーリアが、やけに可愛らしかった。

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