第98話 予定の詰まった一日 ――お城編3――


 俺は王家の皆さんと歓談しつつ朝食を頂いていた。

 朝食は意外と普通で、スクランブルエッグに焼いた食パン、そしてトマトとキャベツにレタスを盛ったサラダだった。

 ただし違うのが使っている食器。

 メッキ加工とかじゃない、ガチの純正の銀で作られた食器だった。

 銀で飯食うなんて、俺には考えられません……。

 

 俺は食事をしつつ、父さんと戦って何とか勝った事を伝えると、食い付いて来たのは王様と王太子様だった。


「是非、是非詳しい話を聞かせてくれないか!」


「私もどんな戦いだったのか、知りたいです!」


 ここまで食い付いてくるとは思わなかった。

 出来れば詳しくと言われたから、覚えている限りの戦闘内容を伝えると、鼻息を荒くして大興奮!

 なんていうか、特撮ヒーローを見て大興奮している子供のようだった。

 一方アーリアは、呆れつつ黙々と食事をしていた。

 やっぱり男はこういった戦いは大好きで、女の子は興味なしってのが明らかにわかる図だなぁ。


「しかし、十歳でロナウド殿を越えるとは……。ハル殿は本当に文武両道を突き進んでいるな」


「まぁ音楽は身体の一部で、剣術は趣味ですからねぇ」


「剣術が趣味?」


「ええ。剣ってのは上達が如実に感じられますからね。特に戦っている時に。そういうのが楽しいし気持ちいいんですよ」


「余は、そういう気持ちはわからんな」


「でも痛いのは嫌だから、いかに痛みを伴わずに相手を倒すかってのを常に考えて訓練してますけどね」


「……なるほど」


 音楽は楽曲を弾けるようになるまでは上達が自分でもわかるが、それ以降の表現の有無に関しては第三者から指摘されないと気付かない。

 つまり、自分自身で上達したというのが感じられなくなるんだ。それに男ってのはやっぱり強さに憧れる。だから俺もつい追い求めたんだろうな。

 後は俺にとっての音楽は、もう趣味の領域をとっくに飛び越えていて、飯の種でもあるし出来て当たり前の領域なんだ。だから、身体の一部だと思っている。

 そういえば、王族の人達って趣味あるのかな?


「王族の皆さんは、趣味ってあるのか?」


「「「趣味?」」」


「うん。いやさ、俺ならこんな窮屈な仕事やってたら、趣味の一つや二つないと絶対鬱になるから気になって」


 王様、王太子様は頭を捻って考えている様子だが、アーリアが手を挙げた。


「わたくしは、ハル様のお手伝いが趣味です!」


「それ趣味か?」


「ええ! あのアンプ……とかシンセサイザーっていう魔道具を作るのって結構楽しいんですの。なんていうか、自分で色々仕組みを考えて出来上がった時が本当に嬉しくて!」


 へぇ、意外と職人気質なんだな。

 一応試作品はかなり形になっているらしいし、この後どれほどの物なのかを見るのが楽しみだ。


「余はこの生活が当たり前だと思っているからなぁ。趣味と言ったら読書だな」


「私もすでに当たり前だと思っていましたから。強いて言うなら、乗馬ですね」


 意外と質素な趣味だったなぁ。

 王族だから、もっと豪華な趣味かと思ったけど。

 いや、王太子様の乗馬は結構豪華な趣味だな。

 でも王様は読書が趣味なんだよな。じゃあ何か面白そうな本とか持ってそうだな。


「王様、良かったら俺にお勧めの本を――」


 俺が王様に何か本を借りようかと言おうとした瞬間、部屋の扉が勢い良く開いた。

 

「おい、ハル・ウィードはいるか!!」


 うっ、でっけぇ声だな。そして態度もでけぇ。

 豪華な服装を着ているが、それでも隠しきれていない体躯の良さ。相当鍛えていらっしゃって体が大きく見える。

 そしてベリーショートのくすんだ金髪を立たせているから、チンピラに見えてしまっている。

 ってか、誰だこいつ?


「サリヴァン……。静かに入ってこれないのか」


「俺がどのように入ってこようが勝手だろう? お父上?」


 サリヴァン。

 確か第二王子の名前だったよな。

 じゃあこいつか、戦争大好きなはた迷惑な王子様は。

 しかし、こいつ父親である王様に対しても態度がでかいな。

 何と言うか、本当の親子じゃないような、二人の間に見えない壁を感じる。


「それで、そこの赤髪がハル・ウィードか?」


「…………」


 俺はあまり関わりたくないから、この王子様を放っておいてスクランブルエッグを口に入れた。

 うん、やっぱり朝は卵だな。美味い!


「貴様、何を無視している! 俺は第二王子だぞ!!」


「…………」


 うむ、この食パンもなかなか美味い!

 ふわふわっとしていて、甘味がある。

 前世の食パンと遜色ない美味さだ。

 いいなぁこれ、後で王様に頼んで何処で買ったか教えてもらうか。

 いや、そもそもこれ、買えるのか?


「貴様ぁ、いい加減にしろ!」


 俺が無視しすぎたせいで、怒って胸ぐらを掴もうと手を伸ばしてきている。

 当然俺は男に触られる趣味はないので、その手を叩く。


「何、そんなに構って欲しいわけ? 構ってちゃんなの?」


「まずは答えろ、貴様がハル・ウィードか?」


「だったら俺の質問から答えてよ。構ってちゃんなの?」


「ならその言葉をそのまま返す! 貴様は俺の問いをさんざん無視しているではないか!」


 あっ、言われてみればそうだな。

 そう言われちゃ返さないといけないな。


「仰る通り、俺がハル・ウィードだけど。で、何の用ですか?」


「貴様、俺に対しての口の聞き方が――」


「ちゃんと答えたんだから、次はそちらが答える番でしょ。で、ご用事は? ただ構ってほしいだけ?」


「違う!」


 違うんだ。

 じゃあ何なんだよ。

 俺は早く飯を食いたいし、こんな変な野郎と喋ってる時間が惜しい位、今日は予定が詰まっているんだよ。


「貴様、大層な剣の実力を持っているそうじゃないか。ありがたく思え。今日から貴様を俺の直属の部下にしてやる!」


「あっ、結構です」


「……は?」


 はぁ、どうせそんな事だろうと思ったわ。

 こいつは軍事関係に相当お熱で、強者を強引な引き抜きで自分の傘下に入れているって噂を聞く。

 お陰でこいつの評判はジェットコースターの勢いで下がる一方らしい。

 王族って臣民の評判が一番大事なはずなんだけどな。


「もう一度言う。今日から貴様は――」


「耳悪いんですか? 結構です」


「……」


 かなりやんわり断っているはずなのに、こめかみに血管が浮き出る位怒っていらっしゃる。

 なかなかしつこいな。

 しつこい男はモテないぞ?


「いいか、貴様。王家直属の部下になるという事は、臣民にとっては名誉な事であって、給料もいいんだ。わかっているのか?」


「わかっていますが、臣民も頭を下げる人間を選べるってのをご存じで?」


「……つまり貴様は、俺は頭を下げる価値がないと?」


「ええ、その通り」


 当たり前だ。

 王族は大層な権力を持っているが、実は一番の敵は隣国ではない。

 自分の下にいる臣民達だ。

 臣民達から慕われなければ自分達の給料である税金を払ってもらえない。

 酷い時にはクーデターを起こされて、殺される危険性だってある。

 だから頂点に立つ王様は、臣民の為の政策を取るか、上から圧力を掛けて従わせる恐怖政策を取るかの二択だ。

 間を取ると中途半端過ぎて、臣民から舐められてしまい有事の際には、言う事を聞いてくれない。

 うちの国は臣民の為の政策を重視している為、相当評判が良い。もちろん王太子様もだ。

 まぁ一人だけ評判を落としているのが、この戦争大好き第二王子なんだけど。


 要するに、だ。

 こいつには従う価値すらないし、従っても未来がないのがはっきりわかるから、俺は頭を下げない。

 俺が金で釣られると思うなよ?


「貴様ぁ……! 不敬罪で殺処分してくれる!! 我が《アルベイン一刀流》を受けてみよ!!」


 は?

 こいつ今、《アルベイン一刀流》って言ったか!?

 それは隣の軍事帝国、《ヨールデン》でしか伝わっていない、門外不出の流派のはずだ!

 何でこいつがその流派を名乗っていやがる!


「サリヴァン!! いい加減にしろ!!」


 第二王子が剣を抜こうとした瞬間、王様がテーブルを叩いて怒声を上げた。

 その剣幕はまさに鬼そのもの。

 殺気とは違うプレッシャーに、俺も唾を飲み込んだ。


「ハル殿は余の大事な恩人にして客人だ。少しでも何かしてみろ、息子であるお前でも容赦しないぞ」


「っ!」


 王様の迫力に、第二王子も負けてしまったのか、剣を納めた。


「……一応、息子と思っているのだな。お父上?」


 そう言って、第二王子は部屋から出ていった。

 何か、引っ掛かる言い方をしたな。

 まぁいいや。

 面倒臭い人間も消えたし、朝食を頂きますか!


「全く、ハル殿は肝が座りすぎているな……」


 俺がすぐさま朝食を頂いている様子を見て、王族の皆さんに呆れているような表情をしていた。

 

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