第73話 決着、ゴブリンの王様!


「ギィィィィィィッ!!」


「おおおおおおおおおっ!!」


 激しく剣がぶつかり合う音が、辺りに響くのがわかる。

 そりゃそうだ、今俺とゴブリンの王様が斬り合ってるんだからな。

 ゴブリンの王様は、ジェネラル以上の膂力を精一杯使って、力任せに攻撃を仕掛けてくる。

 単調に見えるその攻撃は、膂力によって攻撃速度や攻撃の切れが数倍にも増されていて、反撃の隙が見当たらない。

 俺は、奴の攻撃を受け流しつつ反撃を試みているが、攻撃の隙を帳消しにする程の筋力を屈指して即座に体制を立て直してしまう。

 故に現在、戦況は全くの膠着状態。


 と、思われたが、膠着状態は次の瞬間に崩れ去った。


「ギギッ、《フレイムランス》!」


「げっ、魔法撃てるんかよ!!」


 詠唱を省略して、魔法名だけで発動させてきたのだ。

 ゴブリンが魔法を撃てる事実に戦慄を覚えた。

 今確認されているゴブリンの個体で、魔法を撃てる奴は存在していない。

 つまり、王様クラスになったらどうやら放てるようになるらしい。


 ちっ、予想外で油断してしまった。

 俺は自分のコートを脱いで、飛んでくる《フレイムランス》目掛けて投げた。

 コートと《フレイムランス》が触れた瞬間、ボンッと小さい爆発が起きた。


「あぁ、総額80万ジルの魔道具達よ、さらばだ……」


 普通のコートだったら貫かれて俺に被弾していたが、コートの内側には数種類の魔道具が備えられていた。

 つまり魔道具があったお陰で、調度いい具合に相殺されて相手の魔法を打ち消せたんだ。

 ……高い魔道具すら全部消えちまったけど。


 でも、命が助かるんだったら、80万ジルも安いな。

 俺は、第二子にお目にかかってないんだよ!

 それまで俺は絶対に死ねない!!


 俺は地面を蹴って、ゴブリンの王様との距離を詰める。

 どうやら奴にも俺の狙いはわかっていたようで、掌に火の玉を生成していた。

 《ファイアボール》だ。

 だけど俺も何かしら魔法を準備しているのは把握していた。

 奴が魔法を発射したと同時に、俺は体を捻ってギリギリに回避する。

 火の玉と俺の体の距離はそんなになく、ただすれ違っただけでも皮膚が焼けたように熱かった。

 だが、その程度じゃ怯まない。


「うおぉぉぉぉぉっ!!」


 多分皮膚は火傷したと思うが、気合いの声に乗せて痛みをごまかす。

 俺は喉元目掛けて斬撃を放つが、奴は剣で軽々と受け止める。

 ちっ、これでもダメか。


 となったら、ここはハルの攻撃を取り入れてみるか。

 普通の剣士は絶対にやらない事。

 それは――


「ガフッ!?」


 剣以外の攻撃、つまり蹴りを放つ事。

 俺の蹴りが奴のみぞおちに突き刺さり、前屈みになった状態でゆっくり後退していく。

 大きな隙が出来た!


「ふっ!」


 俺は短く息を吐き、剣先を奴の眉間に突き刺した。

 剣が深く刺さり、後頭部を突き抜けた。


「ギャヒ、ギギャ……」


 脳を貫かれて、一瞬気持ち悪い表情をする。

 そしてすぐに動かなくなり、ゴブリンの王様という珍しいゴブリンは絶命した。


 ふぅ、なかなか手強い相手だったぜ……。

 俺は正直人間との戦いより、魔物との戦いの方が怖い。

 何故なら、魔物は基本的に本能で戦う。本能で戦われると、俺達人間の予想を遥かに越える行動をやってくる場合が多い。

 それに能力的にも一部分が尖っている個体が多く、そんな状態で本能で戦われたらたまったもんじゃない。

 今回のゴブリンの王様は多少理性があったからまだ戦いやすかったけど、もしゴブリン並みの本能だけで戦闘してくる奴だったらと思うと、ちょっと寒気がする。


「はぁ、でも流石にこれだけのゴブリン達を相手にするのは、すっげぇ疲れる」


 正直その場に座って、少し休憩したい気分だ。

 だが俺はすぐに走り出した。

 ハルが《武力派》の連中に襲われているんだ、恐らく!

 

「待ってろよ、ハル!」


 いくらハルが強くても、流石に《武力派》は苦戦するだろう。

 俺は疲れた体を奮い立たせて、音楽学校へ向かった。











 ――ハル視点――


「が、ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 変態野郎が、部屋の床に倒れて悶絶していた。

 両腕は無数の細かい切り傷、両足の甲はざっくりと切り裂かれていて、歩行は不可能だろうな。


「ハル・ウィード…………、何という、何という剣の才能だ」


 俺を見る目が怯えている。

 そりゃそうだ、傷だらけの奴に比べ、俺は無傷だからな。


「さぁ、俺を殺してくれ、ハル・ウィード! お前という最高の剣士なら、極上の最期を送れる!!」


 最後の最後までこいつは気持ち悪いな……。

 まぁいいさ。

 なら、最悪の最期をこいつにはプレゼントしてやろうじゃねぇか。


 俺は心の中でほくそ笑んだ。

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