第72話 強化ゴブリン集団 対 猛る炎


 ――ロナウド視点――


 ゴブリンの王様の咆哮によって強化された、ゴブリン九匹。

 筋肉は隆起しているし、赤いオーラを纏っている。

 目付きも鋭くなっているし、息が荒い気がする。

 こんなゴブリン達を強化するという能力は、今まで聞いた事もないからどれだけ強化されているかわからない。

 さってさて、どうするかな?

 俺は剣を地面に突き立て、コートの内ポケットに右手を入れた。コートの中に忍ばせている暗器や魔道具をいつでも取り出せるようにしている。


「「「ギィッッ!!」」」


 おっと、三匹が同時に攻撃を仕掛けてきた!

 俺は三匹を瞬時に視認した後、一番先に俺へ攻撃をしてきそうな奴を確認した。

 三匹の内、中央の奴が先に攻撃を仕掛けてくるだろうな。手に持った棍棒を思いっきり頭上に振りかぶっている。

 とりあえず中央の敵の攻撃は、半身になって回避しようとしたが、さっきより攻撃速度が上がっていた。振り下ろした棍棒の速度は俺の予想を遥かに越えていた。

 

「うおっと!?」


 半身での回避では被弾してしまうと判断した俺は、半身になった瞬間に軽く後方へ飛んだ。

 俺の脳天目掛けて振り下ろされた棍棒は空を切り、地面に叩きつけられた。

 しかし、威力が半端なく、棍棒は地面にめり込んだ。


 うわっ、通常のゴブリンとは段違いな膂力だな……。

 おっと、そんな無駄な事を考えてる暇はない!


 俺は右方向から襲ってきている強化ゴブリンに視線をやると、こいつも俺の脳天を叩き割ろうとしている。

 だがまだ振り下ろされるまでに時間はかかるだろうな。

 俺は懐からとある暗器を取り出し、それをゴブリン目掛けて鋭く投げる。

 それはくるくると回転し、奴の腹部に浅く刺さる。

 実はこれは、柄がなく、全部が刃となっている珍しい投擲ナイフだ。被弾箇所によっては殺害が可能だが、俺はそういった目的で使用していない。


「ギャヒッ!?」


 軽く悶絶するゴブリンだが、浅いせいか動きは止まらない。

 まぁ仕留める為に投擲した訳じゃない。

 このナイフの刃には、毒が塗ってある。

 刺さってから約十秒で効果が発揮する、《パラライズパイソン》という魔物から抽出した即効性がある毒を塗ってある。

 このゴブリンの攻撃を回避したら、半日は麻痺して動けなくなる。

 俺は二匹目のゴブリンの振り下ろし攻撃を回避し、速攻で最初のゴブリンに視線をやり、次の攻撃動作に入っていたので奴の顔面に蹴りを入れる。

 鼻が折れた音と感触がした。

 奴は倒れて鼻を抑えて悶絶している。これでちょっとは時間を稼げたはずだ。


 俺は地面に突き刺さったままの剣を回収し、三匹目のゴブリンと向き合った。

 ゴブリンの王様のおかげで膂力が上がり、重そうな棍棒をまるで木の枝のように振り回して攻撃してくる。

 まさに怒濤の連続攻撃!

 だが甘い。実戦経験を相当積んでいる俺からしたら、動作が丸見えだ。

 俺は一歩も引かず、その場で半身にしたり体を仰け反らせたりして攻撃を回避する。

 そして、奴の懐に潜り込めるチャンスを待っていた。

 

 痺れを切らした正面のゴブリンは、両手で棍棒を握って水平に全力で振ってきた。

 それを待ってたぜ!

 俺は中腰にかがんで攻撃を回避した直後、地面を蹴ってゴブリンの懐に入った。

 剣を奴の腹中心に深く突き刺し、そのまま俺自身の体を回転させると同時に剣を水平に薙いだ。

 剣の刃は中の内臓を切り裂きながら、脇腹から外に飛び出した。

 勢いよくゴブリンの赤い血が吹き出し、地面を濡らした。


「ギャベッ、ギギィ……」


 腹を半分切り裂かれたゴブリンは、内臓をボトボト地面に落としながら前のめりに倒れて動かなくなった。

 ここで足を止めてはいけない!

 俺はダッシュでさっき顔面に蹴りを見舞ったゴブリンに近寄る。

 奴は起き上がって俺に襲いかかろうとしていたが、動作が遅かったので先に俺が奴の喉元に剣を突き刺してやった。

 ゴブリンの口から息が漏れる音がしたのを確認した直後、俺は剣を引き抜かないままコートの中から深緑色をした掌位の大きさの石を取り出した。


「魔道具、三秒後発動。《ペブルグレネード》!」


 俺はこの《ペブルグレネード》と呼ばれる魔道具を、ゴブリンの王様とその周辺にいるゴブリン達に向かって投げた。


「三、二……」


 この魔道具は、五秒まで指定発動できる爆弾だ。

 ただし爆風によって殲滅するのではなく、石の中心で小爆発を起こし、内部から細かく破壊された石が爆発の勢いによって周辺にばら蒔かれる。

 勢いよく周囲に飛び散った小さな石つぶての威力は、ゴブリン位だったら体を貫通までとはいかないが内臓まで達する程になっており、一気に殺害までにいかなくても行動不能に陥れる事が出来る優れものだ。


「一!」


 俺は喉を貫いて絶命しているゴブリンを盾にして、ペブルグレネードの爆発に備えた。

 バンッと小さな破裂音がした後、複数のゴブリンの悲鳴が聞こえた。

 そして盾にしているゴブリンの死体にも衝撃が俺に伝わった。いくつかはこいつの体に石つぶてが突き刺さったんだろうな。

 俺は喉に刺さったままの剣を引き抜き、死体を蹴り飛ばした。

 すると、ゴブリンの王様以外は全員死んでいるか戦闘続行不可能な状態になっていた。

 あるゴブリンは額に石つぶてが被弾し、そのまま絶命。あるゴブリンは両目が潰されてしまっている。

 運が悪すぎるゴブリンもいて、どうやら石つぶてが密集していたんだろう。それらが太ももに被弾したようで、皮一枚繋がっている状態だった。

 そしてゴブリンの王様は、仲間を盾にしたようで、無傷だった。盾にしたゴブリンは絶命している。


「仲間を盾に使うなんて、独裁政治やってるどこぞの国の王様と同じ事やってるな」


「貴様、人間ノ分際デ、俺ノ部下達ヲココマデ倒ストハ……」


「その人間如きにここまでコテンパンにされてるお前は、きっと無能な王様だな」


「貴様……俺ヲ侮辱シタナ?」


「ああ、したさ。お前達に見下される筋合いはないしな」


「ナラ、オ前ニハ惨メナ死ヲクレテヤル!」


「ふっ、やれるものならやってみな」


「ギィィィィィィッ!!」


 ゴブリンの王様からも赤いオーラが吹き出す。

 くっ、とてつもない威圧感だ。

 まるでドラゴンと対峙した時のような感覚だぜ。

 まぁ、ドラゴン程じゃないけどな。


 さて、奴の手には棍棒じゃなくてロングソードが握られている。

 しかも新品だ。

 ったく、《武力派》の奴が買い与えたな?

 本当に余計な事しかしない、迷惑な連中だぜ。


 さぁ、ここからは未知の敵との戦闘だ。

 気を抜かずに戦おうか!

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