第49話 リリルのオリジナル回復魔法


 ――リリル視点――


 わぁ、ここが王都なんだぁ!

 すごい、たくさんの人で賑わってます!

 ハル君、こんなすごい所で頑張ってて、本当に尊敬しちゃうな。


 私、リリルとレイちゃんは、ハル君へ宛てた手紙通りに王都へ来る事が出来ました。

 結構大きな改修工事らしくて、一ヶ月位は休校になりました。

 それを利用して私とレイちゃんは、この王都にやってきました。

 王都は本当に遠くて、到着するのに九日もかかってしまいました。

 馬車はレイちゃんのお父さんが用意してくれたんですが、護衛に何と、ハル君のお父さんが着いてきてくれました!

 私達はお礼を言ったんですが――


「いやな、俺もちょっと国王陛下に呼び出されてさ。その用事と被っただけの事さ」


 ロナウドさんは、国王陛下の命を救った事があるようで、それから仲良くなっていると聞きました。

 ロナウドさん、何で猟師なんてやっていたのでしょうか?

 その事を聞いてみると、


「あぁ、俺はああいうかたっ苦しいのは無理無理!! 後王都は賑やか過ぎて、住みたいかって言ったら住みたくないなぁ」


 と言っていました。

 あまり出世欲とかはない人みたいです。


 レイちゃんは、すっごくハイテンション。

 剣の稽古以上のはしゃぎようで、ちょっと怖い位です。

 

「やっと、やっとハルに会えるよ! すっごく楽しみなんだよ!!」


 最近まで男の子として育てられていたレイちゃんは、今でも「僕」と言っています。もう癖だからしょうがないって言ってました。

 そんな彼女が、とっても眩しい位の笑顔でハル君と会うのを楽しみにしています。

 今はもう立派な恋する乙女です。


「そういうリリルだって、さっきからニヤニヤしっぱなしだよ?」


 レイちゃんがからかうように行ってきました。

 だって、やっとハル君に会えるんです!

 嬉しくない訳がないです!!


「私も、ハル君に会えるの、すっごく楽しみだもん!」


「だよね。会ったら何してもらいたい?」


「えっと、ぎゅーってしてもらいたい」


「僕は、あのキスってやつをしてもらいたいな」


「うん、私もしてもらいたい!!」


「いやぁ、うちの息子は愛されてるなぁ! 流石俺の息子だ!!」


 私達はリュッセルバニアに入る手続きを済ませて、ハル君が過ごしている寮へと向かいました。

 でも、寮の管理人さんから、衝撃の事実を聞きました。

 仲間内でダンジョンへ行ったら、大怪我をして帰ってきて、現在入院中。しかも意識不明との事でした。

 レイちゃんはあからさまに顔を真っ青にして、この世の終わりみたいな表情になっていました。

 私は、ハル君の事が心配すぎて、泣いちゃいました。


「おい二人共、まだハルが死んだ訳じゃない。早く病室に行くぞ!」


「「は、はい!」」


 ロナウドさんは、流石大人です。こういう時でもしっかり冷静でいます。

 ……前言撤回します、私達の事を置いていき、全力疾走しようとしていました。


「す、すまん。やはり俺も何だかんだで心配でな……」


 私達もかなり心配ですから、すごく気持ちわかります。

 そしてロナウドさんの案内の元、何とか王立病院に到着し、ハル君が入院している病室まで着く事が出来ました。

 私以上に慌てていたレイちゃんは、扉をノックもせずに開けました。

 そして、私達の眼に入ってきたのは、苦しそうな表情で目を閉じているハル君でした。

 そんな姿を、私達は見たくありませんでした。

 レイちゃんは口を手で押さえ、目が相当潤んでいます。

 私も頭が真っ白になった気分です。


「ハル!!」


 レイちゃんが飛び出すように、ハル君の所へ向かっていきました。


「ハル君!?」


 私も同時にハル君が寝ているベッドへ向かいました。

 目立った外傷は一切ないです。

 でも、左腕は動かせないように包帯で固定されています。

 もぞっと動く度に、辛そうな表情をします。

 全身が相当痛いみたいです。


 後ろを振り返ってみると、ロナウドさんとお医者さんが話していました。


「ハルの容態は?」


「はい、全身むち打ちの上に《ブースト》による身体強化で全身の筋肉が裂傷を起こしています。特に左腕が脱臼に骨折と一番重症です」


「回復魔法による治療は?」


「それについては魔力量Sランクの魔法医師が在籍しているので、彼が治療を施しました。ですが、内部的な症状となると完全に回復するのは難しいです」


「……魔法も万能じゃないって事だな」


「……申し訳御座いません」


「いや、先生達を責めねぇよ。気を悪くさせてすまんな」


「謝らないでください。全力で治療にあたらせて頂きます」


 二人の話を聞いて、ハル君の容態を確認する事が出来ました。

 むち打ちに全身の筋肉の裂傷……えっと、肉離れって言うんだっけ? 左腕は脱臼に骨折。

 私は確信しました。

 これなら、私のオリジナル魔法を使えば、全快に出来ると。


 実は前に私は、ハル君におねだりしました。


「レイちゃんと新しい技開発したなんてずるい! 私も愛の結晶がほしい!」


「ぶほっ!!」


 ハル君は盛大に吹き出しました。

 何でだろうと疑問に思ったので、理由を聞いてみました。


「あのね、その言い方だとさ、赤ちゃんが欲しいって聞こえるぜ?」


 赤ちゃん……?

 えっと、最近赤ちゃんの作り方をお母さんに教わった…………え?

 つまり、私は、ハル君と、その……うぁ。


「~~~~~~~!!」


 顔が真っ赤になりました!

 恥ずかしい、子作りをねだったなんて!!

 違う違う!! 私はいつもハル君と一緒に開発した技を「愛の結晶」って言ってたので、そのまま言っただけです!!

 うぅぅぅぅぅぅ。


「わかってる、リリルもオリジナルの技を開発したいんだよな?」


「むぅ、いじわるだよ、ハル君」


「あはは、だってリリル可愛いからさ」


 可愛いって言われて、顔が熱くなるのがわかります。

 とりあえず、私とハル君の共同開発という事で、オリジナル魔法が二つ出来上がりました。

 ハル君はすごいです!

 どんな本でも書いていない事を知っていて、覚えの悪い私に嫌な顔一つしないで、丁寧に教えてくれました。

 一つ目は水を使った攻撃魔法なのですが、あまりにも凶悪なので使いたくありません……。

 もう一つは回復魔法なのですが、これはハル君限定の全快魔法になっています。

 でも、使った後、私はとっても恥ずかしくなっちゃいます。

 ハル君はこれを使った後、とっても嬉しそうにしてくれるんですが、私は恥ずかしすぎます!


 でも、今はそんな事言ってられません。

 皆の前だと、本当に恥ずかしいんですけど、ハル君が元気になるなら、私、やります!


「『ハル君、いつも私のそばにいてくれてありがとう』」


 私は、言葉にハル君への気持ちを乗せます。

 すると、私の中にある魔力が、どんどん膨れ上がっていくような感じがしてきました。


「『ハル君、私は心の底からハル君が大好きです』」


 顔が熱くなります。

 でも、魔力は体の外へと漏れ出して、私の掌に集まってきているのを感じます。


「『だからお願い、元気になって!』」


 掌に集まった魔力が、神々しい青い光を放っています。

 そしてその光に、元気な姿のハル君を想像し、魔法を放ちます。


「……詠唱完了。お願い、《ラブ・ヒーリング》!」


 青い光は優しくハル君の全身を包み込みます。

 この魔法は、私の愛している人をとにかく元気にしたい、そういう想いから生まれた魔法です。

 ハル君から教えて貰った人体の仕組みのイメージ、ハル君への想いが魔力を増幅させて、ハル君を全快にする魔法。

 欠点としては、Sランクもある私の魔力量ですが、それを半分もごっそり持っていかれるので、一日二回しか放てません。

 それと詠唱を省く事も出来ないですし、遠回しの言い方だと発動もしません。

 真っ直ぐにハル君への気持ちを言わないと、魔力が詠唱に一切反応しないのです。

 恥ずかしいなぁ……。


 私が放った、ハル君を包み込んでいる青い光は徐々に消えていきます。

 《ラブ・ヒーリング》が効いてきて、全快に向かってきている証拠です。

 そして、光は完全に消えたと同時に、ハル君はぱちっと目を覚ましました。

 うん、上手に全快に出来ました!


「えっと、ここは……?」


 ハル君は状況を飲み込めていないようで、あちこちをきょろきょろ見ています。

 そして、私とレイちゃんの姿を見て、がばっと体を起こしました。


「えっ、リリルにレイ!? どうしてここに!?」


 あぁ、ハル君だ……!

 元気なハル君が、今ここにいる!!

 私は嬉しくなって、ハル君に抱き付きました。レイちゃんも同じタイミングで抱き着きました。


「ハル!! すっごい会いたかった!!」


「ハル君、ハル君!!」


 久々のハル君の体温。

 久々のハル君の臭い。

 ……ちょっと臭うけど、病人だったから仕方ないです。


「これ、夢じゃねぇよな……?」


「夢じゃないよ! 本物の僕達だよ!」


「私達、会いに来たよ……!」


「……リリル、レイ!」


 ハル君が私達の腰に手を回して、ぎゅっと力強く抱き締めてくれます。

 

「すっげぇ、会いたかった……」


 ハル君も私達と同じ気持ちだったみたいで、私とレイちゃんは泣いちゃうほど嬉しかったです。






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