第48話 ミリアの停滞、レイスの覚悟
――ミリア視点――
ダンジョンから戻ってきて急にハルっちが倒れてから、今日で三日目……。
私はあれから学校が終わったら、王立病院のハルっちの部屋へお見舞いに来ているの。
治療は無事に済んだんだけど、病院の回復魔法でも、《ブースト》の弊害のせいで全快に至っていない。
そんな彼はたまにうなされてて、その時に誰かの名前が出てくるの。
「……リリル………………レイ……」
レイって男の子の名前だよね。多分故郷の村の親友かな?
でもリリルって女の子の名前……ハルっちが言ってた恋人の名前だよね。
ハルっち、相当大好きなんだろうな。
うっ、すごく胸が痛いんだ。
私もハルっちの事はすっごく好きだけど、きっと私のこの恋は報われないだろうなって思う。
だってさ、うわ言で私の名前が出てこないんだもん。絶対に無理だよ……。
はぁ、とても辛いなぁ。
何で私、ハルっちを好きになったんだろう。
理由はわかってるよ、他の男の子より大人っぽくてしっかり目標があるんだもん。
しかも最近他の女子達もハルっちに告白しようとしてるみたいだし、結構モテているんだよね。
他の男子からも演奏技術が見込まれてて、そして鼻にかけない明るい性格だから仲が良さそうだし。
ハルっちは男女問わずに人気になっていた。
とにかくそんな彼の力になりたいって思っているんだけど、私は回復魔法も役に立たないから、ただ彼の目が覚めるのをただ見守るしかないんだ。
本当、あんなに迷惑掛けておいて見守るしか出来ないなんて、悔しいなぁ。
すると、私の背後から誰かが私に対して声を掛けてきた。
「ミリア、ハルは目覚めそうにないかい?」
レイスっちだ。
いつも誰かの事を気にかけている、本当に優しい男の子。
そして、多分私の事を好きなんだろうな。
何度か告白されそうになった事があって、そんな風に予想しているけど、十中八九当たってると思う。
「うん。まだ目開けてくれない……」
「でも、全身むち打ちで左肩は脱臼と骨折。さらに《ブースト》によって全ての症状がかなり悪化してるんだよね。本当、この男はその状態でよくミリアを助け出せたよね。尊敬するよ」
「……うん」
ハルっちはあの回転扉を破壊した時に発生した衝撃波で、体が吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた。
そのせいでむち打ち状態になったのに《ブースト》を掛けて症状を悪化させちゃった。
さらに恐らく壁に突っ込んだような怪我をしている左肩は、脱臼と骨折という重症。
そんな中で彼は、私の為にゴブリン七匹を一人で相手にし、私をおんぶして寮まで連れて来てくれたんだ。
本当、すごすぎるよ、ハルっちは。
あの時助けてくれたハルっちを思い出すと、胸が暖かくなるし顔が熱くなるなぁ。
「君が、ハルを好きになっても仕方ないよね」
「うん――えっ!?」
「バレバレだよ。ハルを見る時の君の表情は、俺達とは違うものだからさ」
そんなに顔に出てたんだ、私……。
何か恥ずかしいな。
「ミリア。俺はね、君の事が好きなんだ」
えっ。
ここでまさかの告白!?
私はびっくりして、何も言えない。
「君がハルを好きだと知ってても、この気持ちは簡単に消せるものじゃない」
うん、今の私ならその気持ちわかるよ。
ハルっちに恋人がいるからって、恋心は簡単には消えないもん。
だから、すっごく辛いんだよ。
きっとレイスっちも、そんな感じなんだろうな。
「でも、君を幸せに出来るのはハルじゃない、俺だと思う。いや、俺だよ」
結構色んな男子から告白を受けたけど、容姿の事以外で気持ちを伝えてきてくれたのは、レイスっちが初めてだよ。
何かとっても嬉しい。
嬉しいけど、レイスっちじゃダメなんだよ……。
「レイスっち、私は――」
「わかってるよ、どうしてもハルの事が好きなんだよね?」
「……うん」
「そっか」
ハルっちの部屋が、静寂に包まれる。
その間が、私には息苦しく感じる。
きっと、レイスっちだってそう感じてるだろうな。
「俺は、恐らくハルにはなれない」
「うん」
「でも、俺は、ハルとは違う形で、君に相応しい男になるよ」
「……違う、形?」
「ああ。今はどうするかわからないけど、そうしないと君を振り向かせるのは難しそうだしね」
レイスっちが、困ったような笑顔を見せてくる。
本当に、本当に、意外と近くにいい男の子がいたんだ。
気が付かなくて、気付く前にハルっちに恋をしちゃった。
きっともっと早く気付いていれば、私はレイスっちを好きになってたに違いない。
それに気付いても、私はハルっちに対する気持ちは揺るがなかったの。
「今は君を振り向かせられない。でも、絶対にさらに男にも磨きをかけるよ。だから、覚悟しててくれ」
何も言えない。
だって、こんな真っ直ぐな気持ちをぶつけられても、私の気持ちは揺るがないんだもん。
残酷だな、私って。
すると、レイスっちはハルっちに近づいて、返事はしない彼に対して話しかけた。
「ハル、レオンとオーグは、君の代わりに今頑張っているよ。あの時はダンジョンを出るのに必死で回収を忘れちゃったバイトスパイダーの糸を、あの二人で回収しようとしているんだ。絶対に、自分達でやり遂げようって、すごく張り切ってるよ」
オーグっちはいち早く開発中の新しい楽器を完成させる為に、レオンっちはハルの為でもあり、自分をさらに鍛える為に。
三日前のダンジョン探索で、皆に心の傷痕を残しちゃったけど、皆克服しようと頑張っている。
私は、まだそれが出来ずにいる。
レイスっちも勇気を出して私に告白してきたのに、私はずっと立ち止まったまま。
本当に、何やってるんだろうな、私……。
「それとハル、君にミリアは渡さないからね。全力でミリアを振り向かせるから」
ちょっ!?
何宣言しちゃってるの、レイスっち!?
動揺して何も言えない私に、追い討ちを掛けるように私の方を向いて口を開いた。
「これが、俺の覚悟だよ」
あれ、何か急にレイスっちが大人びたような、気がする。
何かさ、男の子ってずるいや。
ちょっとした事で、急に成長するんだもん。
ああ、何か悔しいよ。
「じゃあ俺は戻るよ。ミリアはどうする?」
「えっと、私もそろそろ出ようかな――」
とか言いながら席を立とうとした時、廊下から走っているような足音が二つ、この病室に向かってきていた。
そして、勢いよく病室の扉が開かれた。
「ハル!!」
「ハル君!?」
誰だろう、この女性達。
一人は長くて綺麗な茶髪の髪で、白い肌に白いワンピースがよく似合うお姉さん。
もう一人は、ハルっちと同い年位の金髪の女の子なんだけど、何か胸おっきくない?
急いで駆けつけたのか、かなり息を切らしていた。
そして最後に遅れて来たのは、赤い短髪に野生味溢れる顔、自信に満ち溢れた力強い目をした男性だった。
「……こりゃずいぶんとまぁ、派手にやったな、ハル」
ろ、ロナウド・ウィード様!!
嘘でしょ、本物が今、私の目の前にいらっしゃる!!
え、何で、何で!?
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