第39話 俺、ダンジョンへ行く!
オーグも《勤勉派》に加わってから一週間が経過した。
まぁ進捗をさくっと説明しよう!
まず魔法戦技について。
あれから俺はずっと左手で戦っていた。
いやぁ、正直右手だったら楽勝な相手が、とっても手強くなってる!
違うな、まだ俺が左手で剣を振るう技術が未熟すぎて、大苦戦しているだけだ。
それに俺は自主的に、魔法戦技中は魔法を使わないでいる。
純粋に剣技だけでクラスメイトと戦っているんだ!
どれだけ俺が魔法に頼りきっているか、ここに来てようやくわかったわ……。
それでもクラスメイト達には勝てるし、日に日に左手でもまともに戦えるようになってきた。
ふふん、これもポイント購入した才能のおかげだな!
でもさ、この才能があれば楽して剣技を向上させられると思ったが、何だかんだで特訓を重ねて成長している俺。
そこは異世界転生物のテンプレとは違っているけど、今となってはやりがいがあっていいとは思っている。
作詞の授業に関しては、先生からようやく形になってきたと評価を頂いた!
この一週間で一番嬉しかった出来事だな!
やっとこさ、前世と今世の言葉の違いを乗り切って、まともな作詞が出来るようになったんだ。
後はとにかく練習をしなさいと言われ、俺は寝る間を惜しんでリュートを片手に、作詞作曲の両方をやっている。
言葉の壁を乗り越えた俺は、完成した曲を先生に聴いてもらい、その都度評価を頂いた。
「作曲は何も教える事がない位素晴らしい。ただ、作詞がその素晴らしさに追い付いていない。精進しなさい」
うぅ、まだ俺は安心して作詞は出来ないようだ。
ちなみに、クラスメイト達の作詞も見てみようとしたんだが、誰も見せてくれない……。
そんなに恥ずかしがるなよ、仲間だろ?
全く……、その内晒す事になるんだから、今の内に恥をかこうぜ!?
そんな俺だが、今日と明日は学校が休みだから自室に篭って読書中だ。
何を読んでいるかというと、王都で大人気の吟遊詩人が出版した詩集である。
俺の今の問題は、やはり文字数だ。
それをクリアして完璧に作詞出来るようにする為に、人気の詩から学び取ろうとしている訳だ。
「……いやぁ、流石は大人気吟遊詩人。言葉選びがすっげぇわ!」
もう感心するしかないでしょ!
前世だったらまだ俺は自他共に認める程の作詞能力はあったさ、でも今世に関してはゼロからのスタートだ。
前世の記憶があったとしても、何だかんだで壁にぶつかるのが人生なんだなってしみじみ思うわ。
俺は詩集のページをめくろうとした時、俺の部屋の扉が開かれた!
「やっほー、ハルっち! お誘いに来たよ!!」
ミリアが来た。
満面の笑みで。
「勝手に入ってくるな! それに、何のお誘いだよ!!」
「これから私とレイスっち、レオンっち、オーグっち、ハルっちの面子でダンジョンへ行こう!!」
「だ、ダンジョン!?」
ダンジョン、だ、と?
えっ、この異世界ダンジョンあるの!?
何それ、テンション上がるんですけど!!
ミリアに詳しく聞いてみると、この世界にはダンジョンがやっぱりあるみたいだ!
しかも定期的にいつの間にか自然発生していて、放っておくとダンジョンから魔物が表に溢れ出して、町や村に被害が及んでしまうのだそうだ。
故に定期的に国軍が間引きに乗り出している。どんなにボスを倒そうが、魔物は自然に沸いてくるみたいだ。
そういえば、この国で冒険者って単語を全く聞かないな。システム的にないのか? 普通ならダンジョンって、冒険者が乗り込んで宝物とかを持って帰るイメージがあるんだけど。
いやいや、待て待て。
何でダンジョンに行くんだよ?
「ミリア、何しに行くんだよ。ダンジョンなんかにさ」
「実はね、オーグっちが頼んできたの」
「オーグが?」
「うん。今オーグっちが作ってる楽器の素材で、《バイトスパイダー》の糸が必要なんだって」
あぁ、ピアノの弦部分に使いたいのか。
《バイトスパイダー》は直訳すると《噛み殺す蜘蛛》なのだが、面倒臭いから俺が勝手に翻訳した。
その名の通り大きい蜘蛛で、糸でぐるぐる巻きにした後に強靭な顎を以て人や家畜を噛み殺し、死体に卵を植え付ける。
この糸が固いらしく、リューンの弦にも使われている。
しかし、確かこの世界では商人ギルドがあって、そこに依頼する事で収集してきてくれるサービスがあったはず。
それを使わなかったのかとミリアに聞いてみた。
「オーグっちもそれを考えたらしいんだけど、どうやら仲介料含めて15万ジルもかかるんだって。さすがにオーグっちでも払えなかったみたいだよ?」
「たっけぇな! なら冒険者に頼んだ方が安上がりじゃね?」
「う~ん、確かにそうなんだけどね。冒険者って、色々面倒なんだよねぇ」
「どういう事?」
「冒険者って安いには安いんだけど、この国には冒険者ギルドがないんだよねぇ」
「……つまり、冒険者が結構やりたい放題って事か?」
「そうなのよ!」
この世界のギルドは、各々が好き勝手しないようにする為の抑止力になっている。
だが、レミアリアには冒険者ギルドがない。
どうやらこの国はあまり冒険者を良しとしていないらしいから、冒険者ギルドを置いていない。
一応冒険者はいるにはいるのだが、ここ最近ではちゃんとした人間を選ばないと法外な報酬を吹っ掛けてくるから、レミアリアでの冒険者の印象はかなり悪化している。故にまともな冒険者稼業を行っている人は、他国で活動をせざるを得ないらしい。
なら冒険者ギルドを設立した方が早いと思うんだけどなぁ。
まぁ国王様が何らかの理由で嫌ってるんだろうから、俺がわーきゃー言っても変わらないな。
「だから、魔法戦技で強かったレイスっちとレオンっち、可愛くて水属性で回復魔法が得意な私が選ばれた訳!」
「さりげなく自分を棚上げしてるな……」
レイスは火属性で魔力量はランクBだが、高威力の魔法を放てる。
レオンに関しては風属性で魔力量はランクC。攻撃魔法は持っていないけど身体能力を補助する魔法を持っていて、レオン自身も剣をそこそこ扱える。
ミリアは自分で言っていたが回復魔法に長けている。まぁリリル程じゃないけどな。
オーグに関しては光属性魔法を使えるんだけど、ランクはDで明かり程度の魔法しか使えないし、運動神経は壊滅的。
まぁオーグ一人じゃ何も出来ないから、このメンバーをチョイスしたんだろうな。
「で、ハルっちはクラスの中じゃ一番剣が使えるから、私の推薦でお誘いに来た訳!」
「なるほどねぇ」
ちなみに俺の音魔法を知っている人間は、アーバインとオーグだけだ。
他の皆の認識は、「魔法は使えないけど、剣がすごい」みたいだ。
ん~、ダンジョンか……。
超魅力的だな!
一度行ってみるかな!
「んじゃ、そのお誘い乗ってやる!」
「本当!?」
「ただ、あくまでバイトスパイダーだけが標的だ。調子に乗って奥まで行くなよ?」
「えぇぇ? 何でぇ?」
「何でって……。もし強い魔物と遭遇したらどうするよ。間違いなく死ぬぜ?」
「うっ……」
「だから、調子に乗らないで、バイトスパイダーだけを狩るぞ。いいな?」
「わかった」
ミリアの表情は不満タラタラだ。
こいつ、すぐ調子に乗るからなぁ。
俺は調子に乗って父さんの左腕を失わせちまったから、魔物が絡んでいる時は慎重に行きたいんだよ。
約束を守れなかったら即効帰る旨を念押しして、俺は支度をする。
まぁ何だかんだで久々の命を懸けた実戦だ。
結構鈍りに鈍ってるだろうから、勘を取り戻すには持ってこいだろうな。
よっしゃ、ダンジョン潜り、気合い入れていくぜ!!
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