第40話 俺達、へっぽこパーティ!


 俺は自室のクローゼットを開けて、そこに閉まってあった装備を取り出した。

 今の俺の体格に一番フィットしている、片手で持てる重さの両刃剣を一度鞘から引き抜いて、刃の状態を確認する。

 少しでも刃こぼれしていたら、魔物を斬る時に骨を断つ事が出来なくなってしまうからな。

 小さい頃から父さんに剣の研磨だけは欠かさずやるようにしていたから、特に刃こぼれは見られなかった。

 俺は剣を鞘に仕舞い、左腰のベルトに固定する。

 うん、帯剣するのは久々だな、何だかんだで!


 次に俺が用意したのは、ウェアウルフの毛皮で作った自作ポシェットだ。

 ウェアウルフの毛皮は水滴を弾くから、ポシェットの中身まで濡れる事が圧倒的に減る。

 まぁダンジョンでは必要ないとは思うが、何か収納出来るやつが欲しいし、こいつを選んだ訳だ。

 そしてその中に油が入った小瓶三本と、火打ち石を入れる。

 何でそんな物を持っていくかというと、魔物の中には死肉を好物とする奴がいる。もし排除した魔物の死体を放置したままにすると、さらに魔物を呼び寄せて危険度が増す事がある。

 父さんと俺は、森で狩りをしているからそういった知識が身に付いた。

 つまり、死体を焼く為の備えだ。焼けば魔物はその肉を喰らおうとは思わない。食っても旨くないみたいだしな。


 ――よし、これで準備完了だ!


「待たせたな、ミリア! 準備は完了した……って、何呆けてるんだ?」


 俺がミリアの方を振り向くと、俺をぼーっと見つめている。

 何だ、どうした?


「えっ!? あ、いやね、ハルっちが剣を点検しているのがすごく様になってたなぁって」


「そういう事か。まぁ父さんと剣で狩りをしていたしな! これから魔物を狩るとなると、刃こぼれ一つで致命的な訳さ」


「へぇ、すっごいね!」


「普通だよ、普通」


 こいつ、ドストレートに褒めてくるから、ちょっと照れ臭いな。

 うっ、何だろう。首筋に寒気が走った。

 まさか、リリルとレイが何かを感じ取ったのか!?

 いやいや、そんな、まさかなぁ!

 ミリアにそういう下心は持ってない、断じて持っていない。

 俺には素敵な彼女が二人もいるんだ、十分だっての!

 それでも不満に思っていたら、俺はどんだけ贅沢なんだよ。


「じゃあ行くか。オーグ達は?」


「あっ、皆は寮の入り口で待ってるよ!」


「あいよ。んじゃ、行くか」


「うん!」


 俺とミリアは部屋を出て、寮の入り口へ向かった。

 入り口近くの管理人室にいる管理人さんに出掛けてくる旨を伝えて寮を出ると、オーグ、レイス、レオンがすでに待っていた。


「遅いぞ、ハル!」


 オーグが腕を組んで仁王立ちしていた。

 相変わらず態度だけはデカい。

 まぁ話してみると憎めない奴なんだけどな。


「あのなぁ、俺は今さっきミリアに誘われたばっかだっての。だから準備だって少しかかるっつぅの!」


「知らん! これは私とお前の野望に欠かせない事なのだ。突然の誘いであってもすぐに対応してほしいものだ」


「はいはい。で、お前らの装備は何なんだよ……。やる気あんの?」


 俺はミリアを含めた全員の装備を見る。

 俺は元々身軽の方が動きやすいから、動きやすい私服以外の防具は着けていない。これが俺の戦闘スタイルだ。

 戦闘を行えないミリアは、制服と魔力を少し増幅させる木製の杖って格好。

 うん、まぁミリアは仕方ないな。ヒーラーだから、前で戦闘する事は皆無だし。

 だけどなぁ……。

 オーグに関しては、私服であろう貴族様スタイルに細身の剣を帯剣している。

 以上!

 おい、随分と動きにくそうな服を着て挑もうとしているな!

 戦う気がないだろ!!


 次、レイス!

 レイスは制服に黒マントを着けて、自分の身長よりも長い杖を持っている。

 大体レイスの背丈一.五倍位の杖だ、マジで重そう!

 あれか? 形から入るタイプだったのか、お前!

 杖は、ただ魔力補助だけじゃなくて、いざ攻撃された時に自身を守る為に打撃武器にするんだけど、絶対ただ見た目だけで選んだぞ、こいつ。

 

 最後、レオン!

 うん、訳わからん。

 何でダンジョンに潜ろうとしているのに、そんな気合い入った服装にしているんだよ!

 黒のレザージャケットにズボンも革製……。随分とまぁ動きにくそうな格好だな。似合ってるけどさ。

 お前はダンジョンを男女の出会い場だと思っているのか!?

 

「あのさ、お前ら……。これから何しに行くんだよ」


「「「「ダンジョン探索」」」」


 四人同時に言いやがった。

 マジかよ、本気でこんな装備でダンジョン潜ろうとしてるんかよ。


「あのなぁ、ダンジョンって魔物も結構出るって聞いたぜ? そんな動きにくい装備じゃ不味いだろ!」


「あぁ、ハルっち。実は一週間前に国軍が間引きに入っていてね、今だと沸いてくるのは少量の力の弱い魔物だけなんだよ!」


「どういう事だ?」


「間引きって、ダンジョン最深部まで潜ってボスも退治して、魔物も出来る限り駆除するんだよ。で、ダンジョンの魔物は弱い魔物から先に沸いて出てくるの! バイトスパイダーも弱い部類でそろそろ沸いてくる頃だから、危険が少ない内に糸を採取しようって事なの」


 なるほどね。

 つまりこの装備の理由は、危険度が少ないから余裕だろっていう判断の元か……。

 ふ~ん。


「お前ら、アホか!!」


 俺は思いっきり怒鳴ってやった。

 四人はびくっと体を震わせた。


「あのなぁ、魔物舐めすぎ! お前ら四人の中で、魔物と戦った奴はいるか?」


 案の定、誰も手を挙げない。

 つまりは全員、命のやり取りをした事がないって事だ。

 何か、不安しかないんですけど!


「魔物はな、ある意味人より怖いんだからな? マジで覚悟しないと、死ぬからな?」


「大丈夫、一番剣が強いハルがいるじゃないか」


 そんな事を言うレイス。

 確かに俺は最近左手一本で、同時に三人まで相手して勝てるようになった。

 それを間近で見ているからこそ、安全だと思っているんだな。


「そうそう、ハルがいればどんな魔物だって楽勝だって♪」


 鼻唄混じりで言うレオン。

 殴りたい、このチャラ男。


「うむ。あの《猛る炎》殿の息子であるハルなら、余裕だろう?」


 オーグは俺に全てぶん投げるつもり満々だな。

 この貴族、一度痛い目見せた方がいいんじゃないか?


「ちなみに、リーダーはこの私だ」


 てめぇがリーダーかよ!

 無理だ、それは無理があるぜ!!

 反論しようとしたが、ミリアが遮る。


「ハルっちは結構強いもんね! 私、強い男の子、大好きだな!」


 こいつ、上目使いで目を潤ませて見てきやがる。

 最近やたらとミリアを宗教の教祖のように拝む奴等が出てきた程、こいつの男子受けは半端ない。

 やっぱりアイドル向けだよ、あざとい。

 だが、俺のリリルとレイには程遠い!!

 そんなものに俺は引っ掛かる訳がない!!

 まぁ俺を持ち上げてやる気を出させて、安全性を高めようとしてるんだろうな。

 だが、そうはさせんぞ。


「まぁ何とかしてやるが、一つ条件がある」


「条件?」


「ああ。リーダーは俺がやる。それが出来ないなら俺は降りるから、勝手に皆で行け!」


「「「「それは困るので、リーダーは貴方です」」」」


 早っ!!

 オーグまで敬語で俺にリーダーを譲ってきやがった。

 どんだけ俺に期待してるんだよ、こいつら……。


 まぁいい、俺がリーダーになったからには楽はさせてやらん。

 ふっふっふ、お前ら、俺を誘った事を後悔させてやるぜ!

 

 だが、その前に。


「とりあえず、ダンジョンに向かいながらでいいから、ダンジョンの事をもう少し詳しく教えろください」


「ハルっち、締まらないね……」


 うっせぇ、前から俺は格好良く締められないって自覚してるよ!

 ぐすん。




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