第38話 俺の野望に一歩前進!
「せ、先生。これでどうでしょうか?」
「どれどれ? ……ん~、相変わらずくどいですね。でも、先程見せていただいた時よりは幾分マシにはなりました」
「幾分……かぁ」
オーグと協力する事になった翌日、俺は作詞の授業を受けていた。
この授業は、先生が適当に作曲した曲に対して、作詞を付けるというもの。
特に制限やルールはなく、各々がその曲に感じたものを作詞しても良いという。
ま、今俺が一番苦戦している授業なんだよね……。
さて、俺は絶賛言葉の壁にぶち当たっている。
この世界の言語はとにかく一つの単語が長い!
どうもそれが曲と合わせるのが非常に難しく、何とかフレーズに収まる単語をチョイスしているんだけど、すると言葉足らずになると指摘を食らう。逆に長くしたら、くどいと言われてしまう。
あぁ、くそっ!
日本語と英語でいいんだったら、スイスイ言葉が出てくるのに。
だが、今俺はその弱点を克服する為に学びに来ている。ならば、徹底的に食らい付いてやる!
「では先生、どういう風な言葉を選んだ方がよかったですか!?」
「そうですね。今回ハル君が作った詞は恋の歌ですね。最近王都では、愛を伝える言葉として流行っているものがあります。それをこの『君に愛してると伝えるよ』の部分を、『月の祝福を』にするといいでしょう」
「なるほど、王都のトレンドですよね!」
「そうです。歌詞に今のトレンドを盛り込むのはダメではありませんから。積極的に使っていった方がいいですよ?」
今、先生から頂いたアドバイスだが、『君に愛してると伝えるよ』という単語は、『デリュー・ディ・マリークリュー・リュゥゼピリュ』とこっちの世界では言うんだが、長ったらしい!
そして先生が教えてくれた『月の祝福を』は、『ミミアディレ・ラーシャ』で済んでしまう。
この差は作詞をする上ですごく大きい。
やっぱり、こりゃ様々な単語を勉強し直した方がいいな。
あまりにも単語に対する知識が足りなすぎて、いつまで経っても作詞が出来ない。
「ハル君はかなり良い詞を書いています。しかし、まだ語彙力が足りていないと思われます。どういった単語を選べばいいのかという引き出しを、是非増やしていってください」
「ありがとうございます! また色々ご教授頂けると嬉しいです」
「ふふ、君みたいな熱心な生徒なら、いつでも歓迎しますよ」
俺はこの先生を、心の底から尊敬していた。
何故なら、作詞能力もとてつもなく高いんだが、五十歳という年齢ながらも自分の足で常に世の中の流行りを調べるんだ。
だから彼が作詞した歌は、民衆に抵抗感なく受け入れられていっている。
今でも彼に作詞の依頼をしてくる音楽家がいる程だ。
俺はとにかく、愚直に先生から作詞について学んでいった。
そうだ、少し話を戻そう。
昨日オーグと少し話し合いをして、あいつの野望を聞いた。
どうやらトイピアノを使って実家の資金を増やしたかったらしい。
だが資金運用が芳しくなく、オーグは少しでも家を助けようとして何か売れる商品がないかを考えたらしい。
そこで開発したのが、トイピアノだった。
コンセプトは、「これで君も音楽家だ!」という事で、子供に音で遊んでもらおうとしていたらしい。
だが、オーグのパパンは、そんなオーグの気持ちを汲んでやれず、真っ向否定。さらには激昂して音楽学校に送られたという訳だ。
オーグ自体は音楽家になろうとは思っていない。ただ思い付いて開発した程度なんだとさ。
そして学校で燻っている時に、俺と出会った。
俺がオーグのトイピアノを弾き、それに感動した事でグランドピアノの完成を目論んだ。
そして進級試験の時に、俺とオーグが合同という形でピアノを発表し、世の音楽家にアピールしたいらしい。
試験の時にはアーバインだけじゃなくて、国王や音楽業界の重鎮達も来るみたいだから、商品のアピールには持ってこいだそうだ。
つまり、俺が上手く演奏すれば、ピアノの需要は伸びていき、ピアノ生産を産業としてオーグの実家にも金が入る。
俺は進級試験をクリア出来て、まさにウィンウィンという事だ。
進級試験まではもう半年を切ってしまっている。
オーグは急いで御用達の職人を王都へ呼び、到着し次第急ピッチで開発を進めるみたいだ。
俺のせいで忙しくなるとか言っていたが、あいつは嬉しそうだった。
全く、ツンデレさんめ!
ま、男のツンデレはノーセンキューだがな!
充実した作詞の授業が終わった後、昼休みに入った。
俺は《勤勉派》の連中と飯を食うんだけど、その中で群を抜いてつるんでいるのは、やっぱりレイスとミリアにレオンの三人だった。
いつもはそこに俺が加わって、学校の食堂で飯を食う。
だが、今日はさらに一人加わる!
「……オーギュスト・ディリバーレントだ。宜しく頼むぞ、平民ども」
「「「……」」」
俺がオーグを引っ張って、俺達のグループに率いれようとした。
そしたらこの高圧的態度ですよ……。
俺は一発頭を叩いた。
「何をするか、ハル!!」
「お前はバカか!! 自己紹介でいきなり上から目線って、バカじゃねぇの!?」
「しかし、貴族である以上――」
「貴族である前に、俺達は同じ学生だろうがよ!! しっかり挨拶し直せ!」
「ぐっ……。こ、これから私は、《勤勉派》として共に勉強をしていこうと思っている。気軽にオーグと呼んでくれ。よろしく、頼む……」
実はこいつ、二つある派閥である《貴族派》、《勤勉派》のどっちにも付いていなかった中立だったんだ。
だったら俺がいる《勤勉派》にご招待しちゃおうとした訳だ。
さってさて、三人の反応は?
「ハルが……貴族様の頭を殴ったぞ……」
とレイス。
俺がオーグの頭を叩いた事に驚きを隠せないというか、何かを諦めたみたいだった。
「ハルっち、大物になるとは思ってたけど、貴族の頭ぶつなんてここまで行ったら命知らずだよぉ……」
ミリアはびくびくしていた。
「ははは、ハルはやっぱり面白いわ!」
腹を抱えて笑うレオン。
うん、レイスとミリアの反応が正しいからな、普通。
「まぁとりあえず、今日からオーグは俺らの仲間になったんだ、仲良くしてやってくれ」
「「「了解」」」
意外とすんなりオーグを受け入れた三人。
どうやら、しっかりと学ぶ姿勢を持っているなら、《勤勉派》は受け入れるらしい。
緩いな、《勤勉派》。
「でも、どうやってハルっちはオーグっちと仲良くなったの?」
オーグっちって……。
いきなり変なあだ名付けられて、オーグの表情が引きつっている。
「まぁ、利害関係が一致したんだよ。な、オーグ」
「そうだな。私とハルで合同で進級試験を受ける事にしたんだ」
「「「何だって!?」」」
三人組が変な反応を示した。
何だ、そのリアクション?
「オーグ君、君は楽をしたいが為にハルに近づいたのか?」
レイスが珍しく怒気を込めてオーグに言った。
「オーグ君も知っていると思うけど、ハルはアーバイン様と同等のリューンの腕前を持っている。《貴族派》の連中はハルと合同で試験を受ける為に必死になって動いているんだよ」
「えっ、そうなのか?」
何それ。
《貴族派》の連中、相変わらずろくな事しないなぁ。
「オーグ君も、そういった連中と同じ口かな?」
「はっ、あんな低俗共と一緒にしないで貰おう。まぁお前達になら言っても平気だろうから言おう。私は今、とある楽器を開発中だ」
「それは、新しい楽器なのか?」
「そうだ。そして完成した暁には、ハルに演奏してもらう予定だ」
「……なるほど。そういう理由だったのか。変に疑ってすまないね」
「いや。私も将来貴族になる者だからな。そういう疑いを掛けられても仕方ない」
レイスはどうやらオーグの理由に納得したようだ。
ミリアはどういう楽器なのかを、オーグに根掘り葉掘り聞いているが、オーグは困りながらも何とか質問を流していた。
「なぁ、レオン」
「ん? どうした?」
俺は一番近くにいたレオンに話し掛けた。
「これから、進級試験までの間、忙しくなりそうだけど楽しくもなりそうだな!」
「だな。この面子は飽きないな」
俺は、これからの学校生活が楽しみで仕方なかった。
半年という短い期間の中で、俺はしっかり学んだ事を俺の経験として吸収出来るだろうか?
このメンバーで動いていって、何があるのか?
不安だけど胸が踊る。
だが、それがいいんだよ。
一度死んで転生した身としては、やはりある程度障害があった方が燃えるってもんだ!
さぁさぁ、学校生活を十分に謳歌してやろうじゃないか!!
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