第27話 八歳になりました!


 リリルとレイ、二人と付き合う事となった俺は、すくすくと育って八歳になった!

 早く俺の成長具合を披露したいところなんだが、まず一つ報告をしなくちゃいけない。

 それは、残虐貴族の親子についてだ。

 結論から言うと、あいつらは三日しかもたなかった。

 レイが親子の末路を何処からか仕入れ、俺に教えてくれたんだ。


 あいつらは生き残った従者を引き連れて、馬車で帰宅途中だった。

 レイの屋敷から逃げて三日目、親子は従者を雄叫びを上げながら全員斬り殺したらしい。

 常に頭を押さえ、歯を食い縛り、まるで鬼のような形相をしていたそうだ。

 自分の馬すら斬殺し、ついには通りかかった商人や一般人まで襲おうとした。

 そこで颯爽と現れたのが、無名の剣士だった。

 二十歳になったその剣士は、あざやかに二人の首を斬り落とし討伐したのだそうだ。

 剣士曰く、頭を押さえながら「うるさい、全てがうるさい、だまれだまれだまれぇぇ!!」と発狂していたみたいだ。

 この事でラーイルの街を統治する貴族が不在になってしまい、王家としては新たな貴族を選出しなければいけなくなった。

 そこで白羽の矢が立ったのがこの剣士だ。

 剣士の名前は、《ライジェル・グローリィ》。無名だった彼は、発狂して国民を襲った貴族を討伐した武勲を称えられ、一気に貴族へ登り詰め、ラーイルの街を統治する事となった。

 ライジェルに政治手腕はなく、どうやら相棒であり妻であるミーリアという女性が政権を掌握していた。

 ミーリアの手腕は見事としか言えず、さらに街は発展していく。

 ライジェルは剣の腕には自信があり、元々からあった自警団に自らの剣技を伝授する事で、街の自衛力は比べ物にならない程強化される。

 一年も経っていないのに、グローリィ家は最も注目されている貴族になった。

 

 まぁ、やっぱり自分達はいじめられた経験がないのだろう、たった三日しか持たなかったようだ。

 正直もう少し苦しんでから死んで欲しかったが、もし街で発狂していたらかなりの被害が出ていただろうな。

 そう考えたら、そのタイミングで倒されたのは正解だったかもしれないな。


 さってさて、俺は八歳になった訳だが、身長が伸びました!!

 ようやくレイと同じ位になったぜ!

 俺の体の成長も、八歳にしてはかなり速いと思う、前世と比べるとね。

 レイが「僕より小さいハルも可愛くて好きだったんだけどなぁ」と、ぼそっと呟いたりしていた。

 俺は難聴系ではないから、しっかりとその呟きは拾ってたぜ!


 レイは身体的に大きな変化はないんだけど、雰囲気がさらに大人びていた。

 何かすっげぇ女の子のファンを獲得してるんだよね、レイ。

 後輩からは《レイ御姉様》と呼ばれていて、レイ自身も困惑していた。

 見た目が大人なのに、雰囲気も大人びて来るとか……。

 本当こいつ、なんなの!?


 リリルに関しては、身長はあまり変わんない。

 ただし、幼さが抜けてきていて、胸がさらに育っている!

 多分、八歳なのにすでにCカップはありそうだな……。

 この世界ではブラとか一切ない!

 サラシを巻いているみたいで、走るとぽよぽよと幸せな胸の動きが見れる訳ですよ!

 俺のこの手が触りたいと疼くのだが、しっかりと俺の理性は抑えてくれている。


 学校の方に関しては、無事四年生になった。

 相変わらず、俺はリリルとレイを独り占めしているから、全男子生徒に恨みを買っているから友達はいない……。

 いいもん、俺にはリリルとレイがいるもん!

 ……くすん。

 正直、友達の多さに関しては、前世の方が遥かに上だな……。

 後、もう一つ学校では大きな動きがあった。

 それは、魔法戦技の授業だ。

 まさか、まさか――


「まさか、うちの父さんを講師に招き入れるとはねぇ~」


 話は今から数週間前に遡る。

 チャップリン校長が、我が家へ訪れるやいなや、いきなり土下座をした!

 俺を含めた家族全員が、何事かと驚いてオドオドしていた。

 理由を聞いてみると、最近魔法戦技の講師の質が落ちているのだと言う。

 まぁ確かに、俺でも楽勝だし、正直骨がない。

 他の生徒でも、ちょっと物足りないって言ってる位だからなぁ、全体的にレベルが低い。

 校長が金をケチってるからじゃねぇの?

 でも資金繰りは色々大変みたいだし、チャップリン校長も何とかしていたんだろうな。


「我が校はご子息のおかげで、戦闘能力が格段と向上しているのですが、いかんせん教師陣が情けない状態になっております……。そこで、私はかの有名な剣士であるロナウド殿に講師となっていただきたく、参上した訳です」


 俺のせいにするなよ!

 でもまぁ、大体の生徒と戦って返り討ちにしたからなぁ。俺に一泡吹かせたい為に頑張っているのだろうか、日に日に皆強くなっているのを、俺は肌で感じていた。

 男としては、そういうのは嫌いじゃないぜ!

 まだ負ける気は一切ないけどね!


 父さんは、「でも狩りとか畑仕事があるしなぁ」と無い左腕の断面部分を擦って言った。

 母さんも唸りながら考えている。

 するとチャップリン校長は二人に耳打ちすると、うちの両親は満面の笑みで校長と熱い握手を交わした。

 ……金で釣りやがったな?

 俺はジト目で批難したが、チャップリンは軽く受け流しやがった。こいつ、結構いい性格してるな……。

 まぁうちの家計が豊かになるんだから、ありがたい話だよな。


 そんなこんなで、父さんが今、魔法戦技の授業で講師として俺達の前にいる。


「俺がロナウド・ウィードだ。俺は一切魔法を使う事が出来ない、剣だけで生き抜いてきた。きっと君達も俺位の剣士に遭遇するかもしれないから、俺を殺す勢いでぶつかってきて欲しい」

 

 おおぅ、なかなか心配しそうな事言うな!

 息子としちゃ心配なんだけどなぁ、他の生徒は目を輝かせて父さんを見ていた。

 ……他の先生もそうだ。

 やっぱ、父さんって自分が思っているより有名だったのだろう、知らない父さんの頬に冷や汗が通った。

 珍しく緊張してやんの!


「は、ハル! 本物の《猛る炎》は凄いね!!」


 おお、レイがテンションアゲアゲだ!

 早く戦ってみたいのか、左腰の鞘に納めてある剣の柄を握っていらっしゃる。

 もう戦闘体勢って感じだ。

 桜色の口紅を塗っているのに、そのキスしたくなる口元を三日月のように邪悪に釣り上げる。

 相変わらず美人なのに、剣が大好きで男らしい性格だ。


「私も、魔法が何処まで通じるか、試してみたい」


 リリルも両手を胸元で拳を作って、気合い十分って感じだ!

 そうそう、リリルは最近になって、俺とレイには喋り方がたどたどしくなくなった。

 他の人にはまだオドオドしちゃうけどね。

 う~ん、前のリリルも可愛かったから好きだったんだけど、今のリリルも可愛いから全然オッケーだ!

 あれから俺と色んな魔法を開発したからな、前世の記憶を必死に引っ張り出して、何とか形に出来た。

 それらを試してみたいんだろうな。


 ……うちのパパンは、それを上手くやらせないとは思うけど。


 こうして、授業が始まった。









「魔法を撃つのが遅い! もう少し早めて! 味方の動きに合わせないとだめだ!!」


「は、はい!!」


「おっと、剣が大振り過ぎるな。脇腹がお留守だ」


「ぐはっ!! っ……はい!!」


「そこの女の子、今が魔法を撃つ絶好の機会だったぞ! 後衛は魔法を当てる瞬間を逃しちゃだめだ!!」


「はいっ!!」


 パパンは、結構容赦なかった。

 とりあえず俺は見学している。

 どうやらアンナ先生は、俺と父さんがいつもどんな訓練をしているのか、是非見てみたいそうで、体力温存の為に見学中だ。

 父さんは三十人の生徒に対して、一人一人指導をしながら相手をしている。

 ってか、端から見ているとわかるが、父さんの空間把握能力がとんでもない。

 何処に今、どんな奴がいるかを把握しきれている。

 どのタイミングで魔法を撃ってくるか、そういうのも頭の隅に入れておいて、反応できるようにしている。

 もし、それが違っていたら後衛役の生徒に指導する。

 そう、父さんが教えているタイミングは、父さんがもっとも魔法を撃たれたくないタイミングなんだ。

 いやぁ、端から見てて勉強になるわ。

 父さんの動きは、常に最悪のタイミングを避けるように立ち回っているからな。

 俺にはまだ難しいわ、これ。

 サウンドボールに頼らせていただくわ!


「さて、これでハル以外の全員を指導出来たかな」


 父さんは、全校生徒を約十分間のローテーションで戦い、勝った。

 しかも一切疲れていない様子で、準備運動が終了したような感じの余裕さだ。

 

「んじゃぁハル、いっちょやるか!」


 うへぇ、一番父さんが強い時にやるのかよ……。

 ほらほら、いいおもちゃを見つけたみたいな、獰猛な笑みを浮かべてるし!

 ……腹を括るか。

 俺は木剣を持って、父さんの前に立った。


「今日はどうやって戦う?」


 俺が尋ねる。

 特訓の場合、いくつか俺に条件を付けて戦う場合がある。


「そうだな、お前は最近魔法に頼りすぎだな」


「うっ……」


「魔法戦技の授業だが、魔法は禁止だ。後はもう全力でかかってこい」


「……了解!」


 音魔法を使えば、今勝率はようやく五分五分なんだけど、純粋な剣技だとまだ一度も勝ててない。

 確かにサウンドボールに頼りすぎているなぁとは感じていたから、この一戦は俺にとってもかなり利があると思う。

 俺は右手に剣を持ち、片手で構えた。

 父さんも俺と同じように構えた。

 リリルとレイ、生徒達や先生が緊張した面持ちで見学している。

 俺の頭はもう戦闘モードに切り替わっている。

 どうやって目の前の最大の障害に打ち勝つか、それだけを考えていた。


「ハル、いつでもいいぜ」


「……今日こそは吠え面かかせてやるぜ!?」


「フッ、まだまだ無理だと思うがな?」


「ガキってのは、大人が思っているより成長は早いんだぜ?」


「かもな。それが楽しくてしょうがねぇよ!」


 父さんが俺に向かって走ってきた。

 先制攻撃か!

 こうして、俺と父さんの本気の試合が始まった。

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