第26話 二人の最高の女の子


 ――リリル視点――


 ああ、ハル君と顔を合わせられなくて、学校を休んでしまいました。

 初めてのズル休みです……。

 だって、きっとハル君はレイ君……レイちゃん? と付き合っちゃったと思うから。

 じゃなきゃ、ハル君はあんなに真剣にはならないと思います。

 あっ、また涙が出てきた。

 私は、布団に全身を隠して泣いちゃいました。

 すると、私の部屋の扉を叩く音が聞こえました。


「リリルぅ? そろそろ部屋から出てこない?」


 お母さんです。

 お母さんは時間を置いて、私の様子を見に来てくれています。

 心配させちゃってるけど、今の私の顔はすっごい酷いから、部屋から出たくないです。

 私は、お母さんの言葉に答えず、無言を貫きました。

 さっきまではそれで諦めてくれていたのに、今回はしつこく扉を叩いてきます。


「あのねぇ、今リリルのお友達が来てくれているのよ? 部屋から出なくてもいいから、せめて部屋には入れてあげてちょうだい」


 お友達?

 ハル君かな、それとも……。

 私、自分で言ってて悲しいですが、ハル君とレイ……ちゃんしか友達はいません。

 他の人は、何か目が怖いんです。

 何か胸をチラチラ見られている気がして……。

 ハル君も見てきますけど、ハル君はいいかなって思ってます。


 私は部屋の扉の鍵を開け、扉を少し開けて顔だけ出しました。

 すると、すっごく綺麗なレイちゃんがいました!

 びっくりです!

 髪を下ろすとすごく大人っぽくて、白いワンピースがとっても似合ってます!

 うわぁ、本当に綺麗としか言えません。

 でも、随分変わったなぁ……。

 ハル君と、付き合ったからかな。


「やぁリリル。入ってもいいかな?」


「う、うん……」


 口調は今まで通り男の子っぽいなって思いました。

 私はレイちゃんを部屋へ入れました。

 本当、綺麗だなぁ、レイちゃん……。

 私はベッドに座ると、レイちゃんも私の隣に座りました。


「……目が真っ赤だね」


「……そ、そんな事、ない、よ?」


「そっか」


「うん……」


 嘘です、ずっと昨日から泣いていました。

 悲しくて、本当に悲しくて、ご飯も食べられない位落ち込んでいました。

 今まで私はハル君の隣にいられたけど、今度はレイちゃんしか隣にいられないんです。

 そう思うと涙が止まらなくて、休んじゃったんです。

 きっとレイちゃんは、私に報告しに来たんだと思います。


 私は、どんな事をレイちゃんに報告されても、泣いてでも祝福しよう、そう心に決めました。


「リリル、今から話しても大丈夫かい?」


「う、うん……」


 ついに、報告されるのかな……。

 そう思っただけで、涙が溢れてきます。


「僕とハル、一応両思いだったんだ」


「そう――えっ、一応?」


 何か、『一応』って言い方が気になります。

 どういう事なんだろう?


「うん。あいつさ、僕の事を好きとか言っておきながら、他にも好きな人がいるんだって」


「え!?」


 驚きすぎて、声が裏返っちゃいました。

 レイちゃんの他に、好きな人がいるんだね、ハル君……。

 ハル君は一途じゃなかったんだね。ちょっとがっかりです。

 でも、他の好きな人って誰なのか、とっても気になります。


「だ、誰?」


「ん~、本当はリリルが直接聞いた方がいいと思うんだけどなぁ~、どうしようかなぁ~」


 うう、すごく知りたい!

 とっても知りたいです!


「教えてレイちゃん! 教えて!!」


「わわわわわわわわわかったから、ゆゆゆゆららさないでぇぇぇぇぇぇぇ」


 は!?

 あまりにも知りたくて、レイちゃんの肩を掴んで揺さぶっちゃいました。

 レイちゃんが「最近僕、結構脳を揺さぶられている気がするよ」と呟いていました。

 まず、レイちゃんは実はすごく暴力的な貴族に無理矢理結婚をさせられそうになり、殺されちゃう可能性もあった事を教えてくれました。

 私は、そこまでの事情があった事は知らなかったから、ハル君が向かったからレイちゃんは助かったんだね。

 レイちゃんは大事なお友達だから、そこはすごく安心しました。


「それでさ、助けてくれたあいつは、とある事をすっごく後悔してたんだよね」


「後、悔?」


「そうなんだよ。僕の所へ来る時に、僕と同じ位大事な女の子を泣かせちゃったってね」


 あれ?

 それって……


「――君の事だよ、リリル」


 レイちゃんが、私の顔を見て微笑みながら言いました。

 えっ、私?

 本当に私なの!?

 嘘じゃない、よね?


「あいつ、僕とリリルが隣にいないとダメなんだってさ。欲張りだよねぇ、本当に」


「う、ん。欲張りさん、だね。でも――」


「でも?」


「その、欲張りさんの、おかげで、私はまた、ハル君の隣に、いれる」


 私は嬉しくて、泣いちゃいました。

 ハル君を独り占めは出来ないけど、それでもまた一緒にいられるんです。

 レイちゃんも大切なお友達だから、一緒にいれるのも嬉しいです。


「そうだね。リリルとも一緒にいれるね」


「うん! 私の、大事な、お友達、だから嬉しい!」


「うん、僕も嬉しいな」


 その後、レイちゃんと遅くまで色々お話していたら、夜になっちゃいました。

 夜になるとウェアウルフとかがたくさん動き出すらしいので、私の部屋でお泊まりです。

 レイちゃんは今日は馬車で来たみたいで、従者の人に私の家に泊まる事をご両親に伝えてと頼んでいました。

 お友達を泊めるなんて初めてだったので、すっごく嬉しかったです。

 ハル君の何処を好きになったかとか、何処で好きになったのかとか、一緒のベッドで寝ながら話しました。

 貴族からレイちゃんを助け出した時の話も聞いて、私は想像してきっと格好良かったんだろうなって思いました。

 正直、見たかったです。

 レイちゃんは実は、ハル君と技を作っていたみたいです。

 だから今度、私もハル君と新しい魔法を一緒に考えたいと思います。


「さぁて、明日ハルはリリルに、どう話しかけるかな?」


「楽しそう、だね、レイちゃん」


「まぁね! あいつが焦る姿はなかなか見れないからね。楽しみなんだよ!」


 レイちゃんはくすくすと笑ってて楽しそうです。

 私も実は、ちょっとだけ楽しみです。










 ――ハル視点に戻る――


「本当に、すみませんでしたぁぁぁぁぁっ!!」


 翌日の朝、学校にいち早く登校し、俺はリリルが来るのを待っていた。

 そしてリリルの姿が見えた瞬間、俺は必殺のジャンピング土下座をリリルの前で披露した、クラスの皆が見ている前で。

 リリルはびくっと体を震わせた。まぁ突然だからびっくりしたよな。

 すると、レイが俺の頭を叩いた。


「違うでしょ!!」


「いってぇ! 何が違うんだよ!!」


「謝るんじゃなくて、リリルにも言う事あるでしょ!?」


 あぁ、そういう事か。

 つまりあれだ、リリルに告白しろって事だな?

 クラスメイトの前でコクるなんて、恥ずかしいんだけど!

 でもな、多分レイが俺の気持ちをリリルに教えたんだろう、リリルは顔を赤くしてそわそわしている。

 くっ、期待されている。

 ここは、男を見せなきゃいけない時!

 よっしゃ、全校生徒を敵に回しても、俺はリリルとレイを手に入れる!


「……リリル」


「は、はい!」


「ごめんな、俺は一途じゃなかったみたいだ。でもさ、ずっとレイとリリルの二人と一緒にいたからさ、二人共好きになっちまった」


「……う、ん」


「レイも、リリルも、どっちも比べられない位、どっちも欠けちゃいけない位、俺にとってはすっげぇ大事な女の子なんだ」


 リリルも、レイも、俺の目をずっと見つめている。

 二人共、真剣に俺の言葉に耳を傾けている。


「欲張りですまないけど、ずっと、俺の傍にいて欲しい。ダメか?」


 しばらく沈黙が教室を支配する。

 誰も言葉を出さず、レイとリリルの言葉を待っている。

 俺も、受け入れてもらえるかわからず、心臓バクバクの状態で答えを待っていた。

 すっげぇ怖い!

 前世を含めて、人生初の告白だ!

 しかも二人同時だし!!

 もう怖いさ、めっさ怖いさ!

 俺は目を瞑り、答えを待った。


「本当はさ、僕だけを選んで欲しいんだけどねぇ」


「わ、私も、私だけを、選んで、欲しかった、です」


 で、ですよねぇ!

 申し訳ない、でも俺は自分の心に嘘は付けないのです!

 二人とずっと一緒にいたいのです!


「でもさぁ、ハルの告白がすごく嬉しい僕がいるんだよね」


「う、ん。私も、すごく、嬉しい」


 えっ!?

 つまり、つまり!?


「うん、これからも三人で仲良くいようね」


「ハル君、よろしく、ね?」


 二人共、すっごく眩しい位の笑顔で受け入れてくれた。

 あぁ、この笑顔に俺は心臓をガッチリ捕まれてしまってる。

 ロリコンって言われても仕方ないな。

 仕方ないじゃん、本気で好きなんだからさ!


「おう、これからもよろしくな!」


 俺はレイとリリルに抱き付いた。

 その瞬間、男子生徒からは恨みが篭った罵声を浴び、女子生徒からは黄色い悲鳴が飛んだ。

 何はともあれ、二人と一緒にいれるのが本当に嬉しかった。

 何かと至らない点はあると思うけど、これからも宜しくな、最愛の二人!

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