第25話 戦いが終わった後
「本当に君は、真剣にレイと付き合いたいって思っているのかね!?」
「ははははははいいいいいいい、思ってままままままますすすす」
こんにちは、ハルです。
今絶賛レイのパパンに肩を揺すられています。
理由は簡単!
馬鹿正直なレイが、「僕の他にも、リリルっていう女の子も大事なんだって」という爆弾を投下し、このような状況になっている!
くっそう、レイがにまにましてやがる!!
さては狙ったな!?
レイのママンは、「あらあら、重婚したいのね?」と暖かい目で見守っている。
見てるだけじゃなくて助けてほしいんだけど、ママン!
レイの使用人達は、外の掃除や怪我した村人の手当てをしている。
十人以上の傭兵が死んだらしく、使用人達は死体処理を行ってくれている。
幸い、村人に死者はいなかったが、骨折だったりと重傷者は多いみたいだ。
俺がレイのパパンに肩を揺すられる前に、酒場にいたおっさんに礼を言うと――
「へっ、気にするな。逆に礼を言いたいのは俺の方だ」
「おっさんが?」
「ああ。レイお嬢様の為に体張ってくれてありがとうよ。それと、目ぇ醒まさせてくれてありがとうな」
おっさんも相当な怪我をしていたが、達成感に満ちた表情をしていた。
うん、男を取り戻したな。
すっげぇいい表情してるぜ、おっさん!
レイのパパンに肩を揺すられながら、おっさんの表情を思い出していた。
うん、やっぱり大人の男は腐ってちゃだめだよな。
俺も何があっても、しっかりと立ち上がって男の意地を見せ続けてやる。
あっ、でもそろそろ揺するのやめて。
脳が揺れて気持ち悪くなってきた……。
「ふぅ、レイのせいで酷い目にあったぜ……」
「あはは、ごめんごめん」
今俺は、レイの部屋にいる。
うん、最近まで男として育ってきたせいか、すっげぇシンプル。
白を基調とした部屋で、シンプルな机にベッド、本棚という、女の子らしさ皆無な部屋だ。
俺とレイはベッドの上で、肩が触れ合える距離で座っている。
「右腕、大丈夫かい?」
「ん? あぁ、明日まではちっと使い物にならないかもな」
今も悲鳴を上げ続けている俺の右腕は、ほぼ力が入らない。
やろうと思えば動かせるんだけど、すっげぇ痛いんだよね!
とりあえず、明日までは痛みに耐えて生活する必要がある。
「でも凄い技だったね、あの《無明》! 剣の煌めきすら見えなかったよ!」
レイが立ち上がってドレス姿で、俺の《無明》の真似をした。
こいつ、相変わらず剣が好きだな。
だけどレイの《ゴッドスピード》の方が凄いと思うんだけどなぁ。
だって、光速で移動出来るんだぜ!?
立案は俺だけど、あんな卑怯技が出来るとは思わなかったわ。
後は《陽炎》だな。あれも十分驚異だよな。
俺達は、しばらく剣術談義をしていた。
レイが自分の剣術の改善策を一緒に考えたり、新技作りたいとか、もう色々。
うん、しばらくこいつに女の子らしい話題を求めるのは無理だ!
でもさ、こういう話が出来るのは、意外とありがたいんだよ。
気楽に話せるし、剣の腕を競い合えるしさ。
すると、レイが急にもじもじして尋ねてきた。
「そ、それでさ……。僕達、付き合うって事で……いいんだよ、ね?」
「おう、そりゃもち――」
『ハル君!』
付き合うって事でOKって言おうとした時、リリルを泣かせてしまったのを思い出した。
しまった、レイを助ける為に集中してたせいで、その事を忘れてしまってた。
俺は急にどんよりしてしまう。
「と、突然落ち込んで、どうしたんだい!? 僕と付き合うの、そんなに嫌?」
レイがすっごく焦り出してる。
冷や汗が出てるしな。
こんな取り乱す姿も初めて見たわ。
俺はレイの頭に手を置いて、落ち着かせた。
そして、レイの所に来る前のリリルとのやり取りを説明した。
「……あぁ、うん。なるほどね」
「……やっちまったな、俺」
「うん、やっちゃったね、ハル」
ですよねぇ!
やっちまいましたよね、俺!!
あぁ、これ絶対リリルから避けられるパターンだ!
某恋愛ゲームで例えると、爆弾処理に失敗して好感度ダダ下がりって奴だな!
完全にミスったな。
もっと気が利いた言い方だってあったろうに……。
こういう時に恋愛経験がないから、びしっと決められないんだよなぁ。
これはもう、ジャンピング土下座じゃ済まないぞ……。
くっそ、いい手はないのか!?
「……僕がいるのに、そこまで落ち込まないでよ」
レイがちょっと拗ねたような仕草で、俺を見つめてきていた。
うわっ、すっげぇどきってした……。
「わ、わりぃ」
「でも、何となくハルの気持ちはわかるよ」
「え?」
「本当はさ、ハルを独り占めしたいんだけどね、でもリリルがいないってのが僕も考えられないんだよね」
「れ、レイも?」
「うん。だからさ、今回は僕がリリルと明日話してみるよ」
マジか!
いやぁ、助かるわ!
持つべきものは親友兼恋人だな!
お礼を言おうとした時、レイは俺の肩に頭を置いた。
「でも、今だけは、こうして、いい?」
……こいつ、本当に七歳かよ。
くぅ、俺がさっきからドキドキさせられっぱなしなんですけど!!
俺の方が歳上なのに、歳上なのに!
悔しいけどドキドキしちゃう!
悔しいから、俺もレイの手を握った。
びくっとレイの体が震えたが、直後には握り返してくれた。
あぁ、俺は前世では、こういう経験をほっぽって、仕事に専念しちゃってたんだな。
前世の内に味わっておくべきだったよ、こういう甘酸っぱい時間を。
前世での後悔を胸に仕舞い、レイとの時間を楽しんだ。
エッチな事はしてないからな!?
エッチな事をするのは成人してから……って、俺、この世界での成人年齢知らんわ。
後で父さんと母さんに聞くか!
俺が帰る頃に、レイの両親にたくさん感謝をされ、また遊びに来なさいと言ってくれた。
でもよかった。レイをあんな残虐貴族に渡さないで済んでさ。
今俺は帰宅途中。
すっかり日も暮れちゃってる。
あぁ、多分学校フケた事は両親にばれてるだろうなぁ。
何て言い訳しようかな……。
……うん、素直に言うしかないな。
さて、歩いて約四十分、我が家に着きました!
怒られるかなぁ、流石に。
意外に母さんは怒ると超怖い!
まぁ俺の前世で母親の記憶がほぼないから、すっげぇ新鮮で嬉しかったんだけど、やっぱ怖い。
でも、怒られるような事をした訳だし、覚悟を決めようぜ、俺。
俺は家の扉をゆっくり開ける。
「ただいま~……」
おう……仁王立ちで立っていらっしゃる。
父さんと母さんが。すっごい形相で。
しかも、アンナ先生までいらっしゃる。すっごい形相で。
はは、俺死んだな。
「ハル、俺達が言いたい事、わかってるよな?」
「は、はは。な、何となく~かな?」
うおっ、父さんのこめかみに血管が浮き出た!
かなりの怒髪天!?
「さぁ、俺達にしっかりと事情を説明してくれよ?」
「は、はい……」
俺はリビングの席に座り、両親とアンナ先生にレイの家で起きた事を説明した。
俺が大立ち回りした相手が残虐貴族だった事に、三人共びっくりしていた。
でも父さんは何故か思いっきり褒めてくれた。
「よくやった、ハル! 女の為に命を賭けてきたんだな。立派な男になってるじゃないか!!」
「あ、あなた! 今褒めるべきじゃないでしょ!?」
「いいや、褒めるべきだな。もし逆にその子を見捨てたなら、半殺しにしてでも根性叩き直してやる所だったぜ」
うわっ、マジか!
まぁ俺の中で、レイを見捨てるって選択肢は一切なかったけどな。
「もう……。ハル、母さんはね、ハルさえ無事だったら他の子はどうでもいいの」
「ちょっ、お前!」
「あなた、私にとってはハルが宝物なの。ハルに何かあったら正気じゃいられないわ」
「……まぁ、俺もそうだけどさ」
「だからね、なるべく危ない事はしてほしくないの。……でも、父さんの血を濃く引いちゃってるみたいだし、無理だと思うけど……」
……母さんがそこまで思ってくれている事にすごく嬉しくなっちまった。
ちょっと泣きそうだよ、俺。
「ハル君、正直言って私は貴方を七歳として扱っていないですが、一つだけ言わせてください」
「は、はい」
アンナ先生、俺の事七歳として扱ってないって……。
まぁ結構ストレートに伝えてくるから、もう大人として扱われてるのかもね。
「貴方は天才と言っていいでしょう。でも、それに天狗にならないでください。貴方はどう足掻いても子供です。頭脳は違ったとしても体は子供なのです」
「そうですね」
「その内、大人でないと解決出来ない問題も出てくるでしょう。だから、これは自分で解決できるかをしっかり見極めてください」
今回の事でも感じたな。
子供の体だから、剣で大人を斬る時も必要以上に力を使う。
体力だって大人と比べたら少ない。
今回は村の皆やレイが助けてくれたから乗り切れた。
俺一人じゃない、皆の力があったからなんだ。
わかってはいたけど、改めてアンナ先生から言われて、その意識が軽かった事を再認識出来た。
あぁ、まだ俺自身を過信し過ぎているな、俺。
「でも、今回は本当に頑張りましたね。素晴らしいですよ、ハル君」
アンナ先生が満面の笑みを浮かべて褒めてくれた。
何だろう、結構嬉しいな。
色々話している内に夜になり、先生を交えて夕食となった。
俺は右手が使えないから、左手で食べるのは相当苦労したなぁ。
父さんと母さんは《無明》を使った後の事を知っていたから、色々気を使ってくれた。
夕食後に帰るアンナ先生を見送った後、俺は自室で速攻眠った。
あんだけ戦闘をしたんだ、流石に疲れたよ……。
とりあえず、明日はレイがリリルに話してみてくれるらしい。俺もしっかり誠意を見せないとな。
だが、人生とはなかなか上手くいかない。
リリルが、登校しなかったのだ。
「リリル、来てないね……」
「あぁ、来てねぇな」
登校してみたら、男子からめっちゃ殺されそうな視線を集中的に受けた。
きっと、昨日リリルは相当酷い状態だったんだろうな……。
うわぁ、マジか!
俺自身が招いた事とは言え、レイの次はリリルか!!
あっ、そうだ。
俺の隣にいるレイは、今は女の子の格好をしている。
他の男子から、「ついに女装に目覚めたか?」なんてからかわれていたけど、「僕、実は女の子だったらしいんだ」と堂々と告白した。
今まで纏めていた髪をほどき、薄めに化粧をしているせいか、男子は一気に心を鷲掴みされたようだ。
登校するなり俺は胸ぐらを掴まれて、「リリルちゃんだけじゃなくて、レイ……ちゃんまで毒牙にかけやがって……!」と呪詛を掛けられた。
話を戻そう。
とにかく、リリル相当精神的に来ているな。
多分リリルは、俺に振られたって思ってるかもしれねぇな。
うん、どう考えても俺が悪いです、はい。
あぁ、どうしよう!
もしリリルに嫌われたとしたら、俺も結構立ち直れない!!
どうすればいいんだ!
するとレイが、軽くため息を付いた。
「ハル、学校が終わったら、僕はリリルの家に行ってみるよ。そこで話してみる。都合がいい事に、今日は学校はお昼までだ。時間はたっぷりあるからさ」
「レイ……本当にありがとう!」
「一応、リリルは恋敵なんだけどなぁ……」
くっ、その拗ねた仕草がとても可愛い!
後でしっかりとお返ししなきゃな。
「ちゃんと礼はするよ。本当、すまない」
「なら、今度ハルの家に遊びに行くからね! ちゃんとご両親に紹介してよね?」
「おう……ん?」
両親に紹介して?
えっと、つまり、それは……恋人として!?
えっと、色々早くないですかね、それ。
だけどレイは、微笑んで言った。
「言質、取ったからね?」
こいつ、意外と策士だ。
まぁ、紹介するつもりだったからいいんだけどさ。
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