第24話 決着、残虐貴族!


「ハル!」


 俺が奴等に立ち向かおうとした時、俺の隣から声がした。

 いや、振り向かなくてもわかる。

 レイの声だ。


「僕も一緒に戦うよ!」


「おいおい、もう男じゃないんだからさぁ。女は男に守られていろよ」


 正直、こいつの剣の腕は半端じゃない。

 実はレイも転生した時にポイントで剣の才能を買ったんじゃないか? って思わせる位だ。

 何せ、魔法を絡めない純粋な剣術だと、俺と勝率が五分だしな。

 だから一緒に戦ってくれるのは心強い。

 でもさぁ、今俺は男の意地を張ってるんだよ。

 お前を守る為にね!

 ちょっとは格好付けさせてくれよ、ったく。


「ハル、僕は最近まで男の子として生きてきたんだ。残念ながら、守られるなんて性に合わないよ」


 そう言うとレイは、ドレスのスカートの側面部分を縦に裂いて、脚を露出させた。

 うわおっ、何という美脚なんでしょ♪

 ――じゃなくて、すらっとしてるけど引き締まっていて素晴らしい脚線美♪

 ……じゃなくて!!

 こいつ戦う気が満々だし!

 何気に剣も持ってきちゃってるし!

 あぁもう、こいつは止まらないな。


「ったく、お前、今から人殺しするかもしれねぇんだぞ?」


「こんな外道を人とは思ってないよ」


「はぁ、わかったわかった。なら、今向かってきている六人の内、半分は任せられるか?」


「誰に言っているんだい? 僕は君の剣のライバルだよ? その程度朝飯前だよ!」


「本当に、男前だねぇ」


「し、仕方ないだろう? 最近自分が女の子だって知ったんだから……」


「でも、まぁいい女だよ、お前は」


「……えへへ。うん!」


 俺とレイは並んで剣を構える。

 あぁ、こいつなら俺の横を任せられる。


「じゃ、右は頼むぜ、レイ!」


「わかったよ、左はよろしく!」


 俺達は左右に分かれた。

 こんな相手に怪我するなよ、レイ!







 ――レイ視点――


 さて、僕はハルから三人任された。

 なんだろうな、力がすっごくみなぎる!

 ハルにいい女って言われたからかな?

 それとも、隣に立てるのが嬉しいからかな?

 どっちでもいいや、ハルの助けになるなら!


「へ、俺達の相手は女かよ。適度にいたぶって俺達が遊んでやるよ」


 うわっ、寒気がする。ハル以外に触られるなんて冗談じゃない。

 絶対に返り討ちにしてやる!

 相手三人は都合が良い事に剣を構えていない。

 だったら、先手は僕だ!


「『祝福の光よ、全てを照らせ』、詠唱完了。起動! 《ブライト》」


 僕は辺りを照らす光属性魔法、《ブライト》を使った。

 それを、三人の内の一番近い奴の目の前で使ったんだ。ちょうどいい目潰しだね。


「ぐあぁぁぁぁ、目が、目がぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 よしっ、今の内に――


「うぉぉっ、すっげぇ美味しい台詞言った! レイ、もう一人それをかましてくれ、頼む!!」


 な、何でそんなにハルは戦いながらも嬉しそうなんだい?

 変に興奮してて、ちょっと引くんだけど……。

 僕は細身の剣――一応斬撃も出来るけど、どちらかといったら刺突に向いた剣――で、相手の左胸を突いた。

 ずぶりと刀身の半分まで刺さり、多分体を貫いたと思う。

 僕は引き抜いて刀身に着いた血を振り払った。

 その後、刺された男はばたりと倒れた。

 多分死んだだろうね。まぁ命のやり取りをしているんだ、お互い様でしょ。


「それで、まだ僕を捕まえて、慰め物にするつもりかい?」


「うっ、こ、こいつぅ~」


 静かに怒っているね、お相手は。

 最初から本気で来ればよかったんだよ。

 では、僕の光属性魔法をお見せしようかな。

 僕は相手に聞こえないように小声で詠唱する。


「『我は光、何人たりとも、我に降れる事は出来ず』、詠唱完了。起動! 《ゴッドスピード》」


 僕の体が光に変え、誰にも捉えられない速さで移動できる、僕とハルが考えた術だ。

 光速っていうらしいんだけど、光は世界の中で一番速いそうなんだ。だからハルと僕で考えて、自分自身を光に変えて光速で移動するんだ。

 名前に関しては、『神の領域の速度だから、ゴッドスピードな』って言っていた。

 そんな大それた名前でいいのか戸惑ったけど、僕自身しっかり意識していないと立っている場所すら把握出来ない程の速さで移動するから、名前の通りかもしれないね。


 僕は《ゴッドスピード》で相手の真後ろに移動した。

 相手はまだ気付いていない。


「おい、後ろだ!!」


 もう一人の敵が咄嗟に声を出したけど、もう遅いよ。

 振り向く前に僕は、細身の剣で相手の背中を斬った。

 この剣は代々ゴールドウェイ家に伝わる名剣だ、切れ味抜群だから深い斬撃を見舞えた。

 多分まだ死んでいないだろうけど、傷は深いはずだから戦えないと思う。


 さぁ、最後の一人だ。

 僕も結構イライラしているんだよ。

 君達にハルと離ればなれにされそうだったからね!

 僕は剣先を最後の一人に向けた。


「こ、この女もつえぇっ!」


「ふん、いい大人が僕達七歳に負けているなんてね」


「お、お前は七歳なのか!?」


 失礼な、どう見ても七歳だろう?

 まぁよく僕は大人に間違われるけど、そんなに驚く事はないじゃないか。

 僕は、小声で詠唱を始める。


「『刃を照らすは、惑わせる光。真実は光に消え行く』、詠唱完了、起動! 《秘剣・陽炎》」


 僕は走り出す。

 最後の一人との距離を縮め、右から水平に剣を薙ぐ。


「はっ、そんな大振りの攻撃、簡単に受け止められるぜ!」


 まぁ、そう見えるよね。

 だけどこれは、僕とハルの、愛の結晶だよ!

 ハルの知識の元、僕が必死になって完成させた、僕だけの技だ!!

 君如きに、この技は止められない!!


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「え、なっ!?」


 相手もわかったみたいだね。

 この技は、光で刀身を見えなくしたんだ。

 人間は光の反射を目で捉えて、映像として認識しているとハルは言っていた。

 この原理を使って、魔法で刀身に光を当てないように回り込ませる事で、見えない刃の出来上がりだ。

 これが、《秘剣・陽炎》だ。

 当然相手は見えない。

 自分の剣で受け止めようとしても、その刃が見当たらないんだ。相手は動揺する。

 動揺の結果、相手は何も出来ずに、見えない刃に斬り裂かれる。

 僕の見えない刃は相手の腹部を深く斬り、そのまま通過した。

 一拍遅れて、大量の血が腹部から吹き出た。


「そ、んな、バカ、な……」


 まだ信じられないといった様子で、相手は倒れた。

 そんな安い鎧程度で、僕のこの剣は防げないよ。


「君達が僕を女と油断してくれて助かった。おかげでとても楽に勝てたよ」


 うん、思ったより人を斬った事に罪悪感はない。

 元よりこいつらを同じ人間だって思えていないからね。

 さて、僕はハルの戦いでも見ていようかな。

 僕は剣を鞘に納め、立ったままハルの戦いを見物した。







 ――ハル視点に戻る――


 相手の攻撃を避けながら、少しレイの戦闘の様子を見ていた。

 うん、全然問題ないな。

 っつか、あいつさらに剣の腕あげてねぇか!?

 ちょっとちょっと、そのうち俺、この音魔法がないと勝てなくなっちゃうんじゃないの!?

 とりあえず、安心した。


「さてさて、俺も残り体力マジでヤバイから、ちゃちゃっと始末するんでよろしく!」


「てめぇ、舐めやがって!!」


 舐めてるんじゃない、純粋にガチで体力がヤバイんだって!

 さて、どうやら俺が二十人に対して大立回りしたのを知っているようで、三人同時に斬りかかってきた。

 ならこのタイミングで、俺の奥義を見せてやる!

 父さんですら、これを見て驚愕した位の大技だ。

 でもこれをやると、腕の筋肉が悲鳴を上げて、その日は使い物にならなくなるんだよねぇ。

 三日に一回しか使えない、取って置きの切り札だ!


 俺は自分の右腕全部に満遍なくサウンドボールを吸着させる。

 そして与えた指示は、《音速で指示した方向へ移動する》と、《俺の腕も一緒に連れていく》だ。

 このサウンドボール、術者である俺が触るとしっかりと感触があるのだ。

 これは、その性質を利用した技だ。


「喰らえ、《無明》!」


 同時に斬りかかってきた三人がちょうど真横に並んだ瞬間、俺の左脇腹に構えていた剣はいつの間にか、瞬間的に右側へと移動していた。

 そして、三人の腹から同時に鮮血が吹き出る。

 何が起きたのかわからない三人は、そのまま混乱しながら倒れた。

 そりゃそうだ、音速の剣撃なんて目で捉えられるはずがない。

 この《無明》は、サウンドボールが勝手に移動をするから、斬る為の事前動作が一切ない。

 故に、どんな達人であろうと、その一撃の元に斬り伏せる事が出来る。

 事実、父さんにはこれを見舞ったら勝てたんだ。でも、次からは対策されちゃったけどね。


 うん、こいつらは多分死んだな。


 戦闘が終わった俺は、剣を鞘に仕舞おうとしたが、右腕に一切力が入らない。

 いつの間にか剣すら握れなくなっていて、地面に落としてしまった。

 無理もない、人間の体が音速に耐えられる訳がない。

 そして襲ってくる、右腕全体が細々と千切れたかのような鋭い痛み!

 いたたたたたたっ!!


「ハル、大丈夫かい!?」


 レイが心配そうに駆け寄ってきてくれた。

 俺の右腕を、優しく両手で包み込んでくれている。

 まるで、小学生が学校で怪我をして、それを心配してくれる高校生のお姉さんって感じ!!

 だが今は! 男を見せなくてはいけないところなのだ!!


「ああ、心配要らねぇよ。でも、ありがとな、レイ」


 俺は左手を、レイの手にそっと添えた。

 やっぱり剣を嗜んでいるせいか、少しゴツゴツしている。

 でも、それでもしなやかに伸びた指は綺麗だなって思うな。


 俺に手を触れられたレイは、顔を真っ赤にして俯いている。

 うっわ、初めて見た、こんなレイ!!

 すっげぇ可愛いんですけど!!

 くっそぉぉぉっ!! 何で右腕動かないのよ!?

 動いたら、絶対にぎゅって抱き締めたのによ!?

 あぁ、《無明》のばか野郎が!!


『ハル君、私の、事も、忘れない、でね?』


 何故かリリルの声がした。

 ばっか野郎、忘れる訳ないだろう!?

 後でジャンピング土下座はします、はい。


 さて、村人達の戦闘はどうなったかな?

 ――うん、問題はなさそうだ。

 傭兵より村人の方が数が多かったからな、いくら屈強な傭兵であっても、数には敵わない。

 まぁ俺やレイみたいに強力な魔法を放てればいいんだろうけど、そもそもあんな混戦じゃ魔法すら放てないな。

 放ったら味方ごとぶっ飛ばしちゃいそうだしな。


「ではでは、これから残虐貴族へ地獄を見てもらおうかな」


 俺とレイは尻餅を付いているゲラルドと、ゲーニックの元へと歩いた。

 自分が用意した戦力が、悉く打ち破られてへっぴり腰になっちまったみたいだな。

 俺とレイが残虐貴族親子の元に辿り着いた時、待ってましたと言わんばかりに、レイの両親と使用人達が後からやって来て、逃がさないように豚親子を取り囲んだ。


「き、貴様ら! 私達に対する不敬罪で処罰するぞ!!」


「そ、そうだぞ! パパはすごいんだぞ!!」


 豚が凄んでも、全く怖くはない。

 俺が言い返してやろうとした時、レイのパパンが言い放った。


「どうぞご自由に。ただし、その時は私も命懸けで貴方と対峙しよう」


「貴様! 田舎貴族の分際で!!」


「私も目が覚めた。私は貴族である前に、レイの父親だ。レイの為だったら私一人でも喜んで立ち向かおう」


 ……すげぇ、レイのパパンは男だった。

 正直体型は豚までではないが、恰幅が良くて人が良さそうな容姿だ。

 でも、その瞳には強い意思を感じる。

 やっぱり、これが父親ってもんだよな。


「村の皆にも迷惑を掛けるかもしれない。だが、娘一人を守れないで村の皆を守れる訳がないのだよ!」


 俺の隣では、レイが俺の腕を掴んだまま、「父上……」と感涙していた。

 俺は左腕でレイの頭を撫でてやった。

 さてさて、レイのパパンに見せ所を作った所で、俺の憂さ晴らしもさせてもらうか。


「レイの親父さん、ここは俺に任せてください」


「君は……レイのお友達? だったかな」


「まぁ、こいつらには死ぬより辛い、地獄を見てもらいます」


「……確か君七歳だったよね。なかなか物騒な事を言うね……」


「とりあえず、見ててくださいな!」


 俺はレイに掴んだ腕を解放してもらい、ゲーニックとゲラルドの前に見下すように立った。


「よう、今からてめぇらには、死すら生温い目にあってもらう」


 俺がにやっと笑うと、二人は「ひっ!?」と恐怖する。

 失礼な、俺の顔を見て怖がるなし!!


「さて、俺の魔法について種明かしをしよう。俺の魔法はユニーク魔法で、操る属性は《音》だ。俺は一見使えそうにない属性を、今や戦闘にまで活かせるようにしたんだ」


 俺の言葉を聞いたレイ以外の皆は、「ユニーク魔法を操れている?」だの「音なんて、どうやって活用しているのかしら?」と散々な事を言ってくれている。

 仕方ない、ユニーク魔法は使い物にならないってのが、この世界の一般常識らしいし。

 いや、俺の考えでは有用に使おうとすら思わなかったんだろうな、ユニーク魔法の術者達は。


「そして音ってのはな、人に呪いを掛ける事が出来るんだな、これが」


 音は、人心を操れる。

 それは前世の世界の歴史が証明している。

 騒音がストレスになり、鬱病になるのも音が原因。

 ピアノで演奏する曲によって、人心にもたらす効果が違うのも音が原因。

 音とは、常に人と密接に存在しているものなんだ。

 音は、人に呪いを掛けるのも、容易いものなんだよ。


 俺は、残虐貴族親子の両耳にサウンドボールを吸着させた。

 そして与えた指示は、《集音×十倍》だった。

 簡単に言っちゃえば、人の聴力を十倍に高めたものだ。

 そうなると、結果はどうなるかわかるな?

 俺が軽く足音を立てる。

 すると――


「「ひぎゃっ!?」」


 親子は二人して耳を押さえた。

 そう、ちょっとした音も十倍まで増加させられ、騒音となる。

 そして今自分達が上げた声も、十倍に増加させられて、相当な騒音となってるだろうな。

 案の定、自分の悲鳴が五月蝿くて悶絶していた。


「ハル、何をしたの?」


 レイが聞いてきた。

 レイのこの何気ない質問すら、この親子にとっては騒音で耳を押さえて悶絶していた。


「簡単に言えば、人の聴力を十倍にして、全ての音を騒音にしてやった」


「えっ……」


 レイは人差し指を顎に当てて考えている仕草を見せる。

 ……すっげぇ様になってて可愛いな。


「まぁ自分が話す声も、自分が立てる足音も、今の俺達の会話も、全てが五月蝿く感じるってこった」


「……それ、いつまで続くんだい?」


「そうだなぁ、多分三年位かな?」


「さ、三年!?」


 レイとレイの両親と使用人が驚く。

 多分、想像が着いたんだろうね、俺が施した呪いの辛さ。

 俺は自分自身の魔力の半分を注ぎ込み、三年もサウンドボールが形成されるようにした。

 俺の魔力量は膨大だ。ランクSを凌駕しているらしいから、半分注ぎ込めば三年は余裕で消滅せずにいられる訳だ。

 そして、残虐親子も顔面が蒼白になっている。

 ふん、いい気味だ!

 でも俺は、こんな奴等が三年も無事に耐えられる訳がないと思っている。

 まぁ多分、良くて発狂、ダメなら自害かな。


「さぁ皆さん、盛大に拍手をしましょう!!」


 俺はトドメを刺す。

 大きな声で取り囲んでいる全員に呼び掛けた。

 俺が意図している事がわかったのだろう、皆無表情で拍手をし始めた。

 パチパチパチ!

 まるでそれは拍手喝采!

 称賛を最大限の形で表している拍手だ。

 でもこの親子には、相当の騒音なんだろうな。

 口から泡を出していた。


「やめて、やめでぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


「もう、もうやめて、やめてぇ!!」


 そして自分の声でさらに悶絶。

 多分これからは、ベッドの布が擦れた音、軋むベッドの音も耳障りに感じるだろうよ。

 苦しんで、苦しんで、てめぇらがやった残虐非道の数々を思い返して後悔しやがれ。

 あわよくば盛大に死んで、犠牲者に謝ってこい。


 残虐親子は耳を塞ぎながら、使用人をはね除けて逃げ出した。

 スピードはすっげぇ遅いけど、必死になってレイの屋敷の敷地から出ていった。

 こうして、俺は無事にレイをあいつらから守る事が出来た。


「ハル」


「ん?」


「ありがとう。大好きだよ」


 レイに抱き締められた。

 まだ俺はレイに身長では負けているから、抱き寄せられた時にはこいつの胸元近くだった。

 うん、眼福だから、この際は身長の小ささに感謝しようじゃないか。

 ……こいつもリリル程じゃないけど、胸あるな!

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