第28話 俺VS父さん!
父さんが走りながら、剣を左脇腹に構える。
水平に薙いで来るか!
俺は咄嗟にしゃがみ、その体勢のまま斬り上げる。
だが、父さんに読まれていたようで、一番威力が出る手前で、俺の木剣の鍔辺りを靴裏で受け止めた。
くっそ、完全に威力が乗っていなかったから、斬り上げる斬撃は中断されてしまった。
しかし父さんは今地面に着いている足は、一本だけ! もう一本は幸いにも俺の攻撃を受け止める為に使ってしまっている。
ならば!
俺はそこから俺の足で、足払いを放った。
それも父さんは読んでいたみたいで、地面に着いた片足一本で跳躍した。
そしてそこから振り下ろす斬撃を放ってきた。
「うおっ!?」
俺はしゃがんだ状態から後方に跳ぶ事で、辛うじて回避に成功した。
やっべぇ、超ギリギリだったんですけど!
というか、父さんがかなりテンション上がっているみたいで、さっきから獰猛な笑いを俺に向けている。
毎朝の訓練でも、そんな顔あまり見せないのになぁ。
こりゃ油断してると、一瞬で勝負が付いちまうな……!
「なら、今度はこっちの番だぜ!」
「おう、来い!!」
俺は今の体で出来うる限りの全速力で、父さんに突進する。
父さんは俺の突進に合わせて迎撃しようと、突いてくる体勢を取った。
よっし、俺の目論みに乗った!
俺はそこで急ブレーキをかけると、父さんの突きはギリギリ俺に届かなかった。
ふっふっふ、動作によるフェイントさ!
「なっ!?」
流石に父さんもびっくりしたようで、目を開いて驚いていた。
「もらったぁぁぁぁぁっ!!」
俺は剣を上段に構え、父さんのまだ突きの体勢から通常の構えに戻せていない父さんの右手目掛けて振り下ろした。
俺は魔法を使えるようになり、天狗になってドラゴンに襲われてしまった時、父さんが自分の左腕を犠牲にして助けてくれた。
だが、容赦はしねぇ!
俺の有利なアドバンテージを最大限に活かす!!
ここで右手が使えなくなったら、後は一方的だぜ!?
「良い狙いだが、もう一越え欲しかったな」
父さんは真っ直ぐ伸びきった自分の右腕を、敢えて戻すのではなく、自身の体を時計回りに回転させる事で俺の斬撃を回避した!
「マジか!?」
「ああ、マジだ!」
回転によって付いた勢いに乗って、父さんが横に剣を薙いで反撃してきた。
これはヤバイ!
でも、良い手を思い付いた。
「――ほほぅ、やるなぁハル!」
「お・か・え・し♪」
俺は父さんがやった事をそのままやり返してやった。
俺の靴裏で、父さんが握っている木剣の鍔辺りを蹴った。
まだ斬撃に威力が乗る直前だ、体格差がある子供の俺の体でも、十分に父さんの斬撃を中断させられる!
でも、このままじゃ体力差で間違いなく俺が負ける。
ならば、ただ攻めるのみ!!
「うおぉぉぉぉぉっ!!」
俺はとにかく斬りかかる!
横薙ぎ、袈裟懸け、突き。様々な斬撃を父さんに放った。
この攻撃はやけっぱちにやってる訳じゃない。
全て、父さんの急所を捉えた斬撃だ。
父さんは全て剣で受け止めるが、余裕がない表情だ。
一応、俺の有利ってところか!
「ふっ!」
「……ちっ」
父さんは俺の剣を受け止める度、舌打ちする。
恐らくカウンターを狙ってるはず。
だがそれをさせていない。
父さん直伝、カウンター潰し!
乱撃を加える中で、相手がカウンターを狙ってきそうなタイミングの場合、今までで一番鋭い斬撃を放つ。
そうする事で、急に速くなって襲ってくる斬撃に対応出来ず、受け止めるか回避するか、下手すれば斬られるかのどれかになる。
俺は、父さんを観察する事で、どのタイミングでカウンターを狙ってくるかを判断した。
今んとこ、全部当たってた。
よかったよ、マジで。
「ちっ、自分が教えた技術とはいえ、やられてみたら何気にきついぜ!」
「どうよ、自分の息子が好敵手になっている気分は!?」
「はっ、自惚れんな! まだ俺の好敵手には及んでねぇよ!!」
「そうかいっ!!」
ここから一振りずつ、俺と父さんが交互に斬撃を振る形となった。
父さんが俺の攻撃を避けて剣を振り、その斬撃を俺が避けて剣を振る。
それを全力でお互いに繰り返した。
どうやら、見学している生徒達には、これがとんでもないものに見えているようだ。
「す、すげぇ。ハルの奴、あんな攻撃を避けてやがる……!」
「まるで、《猛る炎》が二人いるみたいだ……」
「俺、ここの教師をやっていてよかった!」
俺らの戦いを絶賛してくれているようで何より。
だけど、俺はこの剣士に勝ちたいんだ。
そんな絶賛なんかいらない!
欲しいのは、勝利だ!!
「うおぉぉぉっ!!」
「いいぜハル! 全力を振り絞れ!!」
「父さんもな!!」
「ハンッ! 俺はまだまだ全力を出さない! 悔しかったら、俺に全力を出させてみろ!!」
「言われなくても!!」
再び俺と父さんは、交互に攻撃する形へもつれ込んだ。
俺の一振り一振りは、全て全力だ。
だけど悔しい事に、父さんはまだ全力じゃないのがわかる。
ちっくしょう!!
すると、とある声が聞こえた。
「頑張って、ハル!!」
「ハル君、負けないでぇ!!」
俺の大好きなレイとリリルからの声援だ。
あぁ、すっげぇ力がみなぎってきた!
「女の子二人の応援に応えられなきゃ、男じゃないでしょ!!」
俺はニカっと笑い、再度乱撃を仕掛けた。
さっきまでのとは違う、みなぎる力と鋭さを上乗せした、一つ一つが当たったら致命傷になりうる斬撃だ!
父さんは必死になって、俺の乱撃全てを受けきっていた。
そう、必死になって。
父さんの表情には一切の余裕がなくなっている!
そりゃそうだ、今の俺は百人力のパワーが湧いているんだ!!
「……すっかり大人の男になったなぁ」
「へっ! 極上の女の子二人が、俺の女なんでね!!」
「――なら、全力を見せてやる。しっかり見ていろよ」
うっ。
父さんの体から殺気が出ている!
そして、冷たさを感じる位の無表情だ。
間違いない、何か仕掛けてくる!?
「いくぞ。――《無明》」
「なっ!?」
俺の《無明》!?
バカな!!
父さんは魔力が一切ない、魔法適正ゼロなはず。
《無明》は、俺のサウンドボールを右腕全部に満遍なく吸着させ、『術者だけがサウンドボールの感触を感じる事が出来る』という特性を利用して、腕に九着させたサウンドボールを音速で移動させる。
それによって、俺の腕もサウンドボールと一緒に音速で動き、目に見えない音速の斬撃を放つ技だ。
魔力がない父さんには、そんな音速の斬撃なんて出来ない!!
「俺を、《猛る炎》を、舐めるなよ?」
父さんは剣を左脇腹に構えた。
と思った次の瞬間、俺の腹に父さんの剣がめり込んでいた。
「ぐ、は―――っ!!」
俺は、吹き飛ばされた。
そして地面に落下してしまった。
くっそ、何だよマジで!
俺の《無明》と全く同じじゃねぇか!!
全く斬撃が見えなかった!
音速の斬撃を、父さんは魔法なしで放ちやがった!!
あぁ、でももうこりゃ戦えねぇ。
あまりにも痛くて、体が動かない。
くそっ、俺の負けだ……。
「はぁっ……。まいった」
「まぁ、剣だけにしちゃ、ハルもよくやったぜ。素直に褒めてやる」
「くそっ、俺は勝ちたかったの! そんな慰めみたいな褒めはいらねぇやい!」
「なら、魔法だけじゃなくて剣も頑張れよ?」
「ああ、絶対一泡吹かさせてやる!!」
皆が歓声を上げた。
はぁ、絶対これ、父さんに対してだよ。
俺は皆から怨恨を買ってるし、仕方ないけどなぁ。
――くそっ、身の程知らずかもしれないけど、マジで悔しい。
ちょっと涙を流したのは、内緒にしとこう。
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