第19話 俺、レイと再会する!


「……さすがゴールドウェイ家。うちの貴族さんより儲けてるんじゃね?」


 酒場のおっさんに場所を聞いて辿り着きました、ゴールドウェイ邸に!

 でもね、うちの貴族と比べるのはいけないとは思うんだけど、屋敷でっけぇ!

 まぁ村があんだけ栄えてたら、屋敷もそれなりに見栄が必要なのかもな。

 さてさて、正面から入れそうかな?


 ん~、無理だな。

 鎧を着た厳格そうな門番が二人もいやがる。

 となったら、こっそり入るしかないよねぇ。

 俺は屋敷の壁沿いに歩いてみる。

 壁は俺の身長の2.5倍位高い。

 とてもじゃないけど、何かない限りはよじ登れなさそうだな。

 何かいい足場ないかなぁっと。

 壁沿いを歩きながら辺りをきょろきょろしてみると、太い枝が壁の頂点に届いている木を発見した。

 俺の体重なら、太い枝の上を歩いても折れなさそうだな!

 ってか、警備を厳重にするなら、この枝切った方がいいんでね?

 まぁ俺は助かったからいいんだけどね。


 木によじ登った俺はまず、壁の向こう側を見てみる。

 うん、敷地内をうろうろしているの、あんまいないな。

 ザルじゃね? 警備。

 俺は太い枝を歩き、壁を乗り越えて敷地内へ侵入に成功した。

 いやぁ、日頃の父さんとの訓練と、森での狩りが役立ってて、身軽になったわぁ。

 前世の俺だったら考えられない位の身体能力だぜ!

 後は、レイが何処にいるかなんだけどなぁ。

 手当たり次第探すってのも馬鹿馬鹿しいからな、ここは俺の可愛いサウンドボールちゃんに頑張ってもらおう!

 俺は屋敷の裏側に回り、《集音》と《伝達》を指示したサウンドボールを、部屋があると思われる場所へ放り投げる。

 サウンドボールは壁を通り抜け、広い空間に出たらその場で待機してもらっている。

 それを何度も繰り返し、屋敷の二階にも同様にサウンドボールを設置する。

 それでは、盗聴開始!


『あぁ、レイお嬢様がついに、あのゲス貴族に嫁がれるのですね』


『しっ、あいつの悪口は言ってはだめよ!』


『今日の昼飯何食おうかな』


『レイ、許してくれ……』


『あなた……ううっ』


 全ての部屋にサウンドボールを仕込んだから、色んな情報が入ってくる。

 多分、レイの両親の声も聞こえた。

 やっぱり、両親もこの結婚は望んでいないんだろうな。

 とりあえず、聞こえてくる音に集中しますか。

 しばらくすると、とある声が聞こえた。


『……ハル。怖いよ、ハル』


 聞こえた、レイだ!

 ってか、今まで聞いた事ない位弱々しい声だったな。

 まぁあいつもやっぱり女の子だな、自分の未来が絶望しかないから怖いんだろうよ。

 俺だって、結婚相手がそんな奴だったら怖くて失禁するね!

 えっと、レイの声が聞こえてくるのは、二十番のサウンドボールだったな。

 となると、場所は~~二階の一番右の部屋か!

 俺はレイの部屋にあるサウンドボール以外は全て消滅させる。そして、一つだけ残ったサウンドボールの命令を一部変更する。

 それは、《伝達》の命令を《相互伝達》に修正した。

 そうする事で、糸電話のような仕組みを作ったのだ!

 今日も便利ね、サウンドボールちゃん!


 俺はレイの部屋のサウンドボールと魔力の糸で繋がっているサウンドボールを手に持ち、それに向かって話し掛けた。


「おっす、呼ばれてないけど呼ばれた気がして来てやったぜ」


『えっ、ハル!?』


「おっ、しっかり聞こえてるみたいだな。ちょっくら窓に顔を出してみろよ」


 すると、レイの部屋の窓が開き、レイが姿を現した。

 ……うっそだろ、マジかよ。

 レイが……おめかししてる。

 何て言うか、すっげぇ綺麗なのよ。

 前々から大人びてるなって思ったが、めかし込んだらさらに美人に化けやがった。

 いつも後頭部で纏めている髪をほどいて、綺麗なロングストレートが風になびいている。

 純白のワンピースは、胸の谷間を見せる位まで開いていて、少し妖艶さを出している。

 ……これが七歳が出す色香かよ。怖いわ、この世界。


 おっと、俺が見惚れていると、あいつが俺の事を大声で呼びそうになった。

 俺は静かにっていうジェスチャーを送る事で、何とか大声を出させずに済んだ。

 アブねぇアブねぇ、ここで大声出されてたら、俺は見張りに捕まっちゃうからな!


「とりあえず、事情は把握してる。お前、学校辞めるんだってな」


『うん、そうだよ……。僕ね、結婚するんだ』


「そっか」


『ごめんね、僕が女の子っていうの知って驚いてるでしょ?』


「ん~、驚いたってより、何かしっくり来たって感じ?」


『……えっ?』


「だって、お前元々そんな男っぽくなかったしな!」


『なっ!!』


「んまぁ、でも今のお前の格好、すっげぇ綺麗だぜ」


『~~~~~~~!』


 何か声にならないような声を出してる!

 照れてやんの、可愛いのぉ!


「でもなぁ、一つ気に入らない事がある」


『……なんだい?』


「そんな綺麗な格好をしているのに、お前の表情は絶望してるぜ?」


『っ!』


「なぁ、レイ。お前、本当に結婚したいのか?」


 怖いって思っているのは、さっき盗聴してたから知っている。

 でもな、敢えて聞きたいんだよ。

 こいつの声で、怖いってな!

 だがこいつは強情だ、絶対に言わないだろうな。


『こ、怖くないよ。僕は貴族なんだ。僕が結婚する事で皆を守れるのなら、貴族として本望なんだよ』


「俺は貴族としてのお前の気持ちを聞きたいんじゃねぇよ、レイの本心を聞きたいんだよ」


『だから、それが僕の本心だ! 貴族は、村民の為に心身を削るものだ! それが、貴族の心得だ!』


 ノブリス・オブリージュだっけ?

 確か、《高貴さは義務を強制する》だっけかな。財産や権力、社会的地位の保持は責任が付いてくるとかなんちゃら。

 まぁご立派な事。

 だから、俺は貴族は大っ嫌いなんだよ!

 自分の為に生きて何が悪い?

 自分を貫き通して何が悪い?

 責任は確かに重要さ、だが自分を蔑ろにして他人を幸せに出来る訳ねぇだろうが!

 

「なるほどねぇ、それがお前の本心か」


『……そうだよ』


「んじゃ聞くが、何で泣いてるんだよ」


『……えっ?』


 気付いてなかったんかい……。

 あぁあぁ、いい女が泣いてるよ。

 何が本心だよ。

 思いっきり泣く位嫌なんじゃねぇか。

 せっかく化粧してるのに、涙で酷くなってるなぁ。


「ははっ、いい女が涙のせいで化粧お化けになってやんの!」


『う、うるさい! 僕だって泣きたくて泣いてるんじゃ……』


「ま、お前は貴族の前に七歳のガキなんだ。ワガママ言えよ」


『そんな、言える訳……』


「親には言えねぇだろうけど、俺には言えるんじゃねぇの? 俺は貴族でも何でもない、お前の隣にずっといた男ならさ」


 おっと、また盛大に泣き始めたぞ。

 もうちょっとかな?


「俺はな、お前が隣に居てくれないと調子狂ってしょうがねぇ。剣のライバルでもあり、俺の友達でもあり――」


 こりゃ、告白する流れだな。

 ま、いっか!


「俺の大事な女の子の、一人だよ」


『ハル……って、他に大事な女の子いるのかい?』


「おう、リリルだ!」


『……普通嘘でも、「大事なのはお前だけだ」って言わないかい?』


「俺は正直者だ、お前らには嘘は付かないと決めてるんだ」


 前世の記憶を持っているという部分だけは、死んでも隠し通すけどな!


「俺の隣には、リリルとお前がいないと、俺が死ぬ程嫌なんだよ」


『……それ、堂々と言う事なのかな?』


「それは俺だ、諦めてくれ」


『……そうだね』


 泣きながらだけど、やっと笑顔を見せてくれた。

 やっぱりさ、お前には笑顔が似合ってるわ。


「んで、お前の本心は?」


 すぐに返答は帰って来ない。

 葛藤してるんだろうな。

 本音を言いたいんだろうな。


『ごめん、貴族としての僕は、やっぱりこの結婚を破棄させる事は出来ないよ』


「……そっか」


 あぁ、だめだったか。

 そりゃそうだよな、村民全員の命を相手の貴族に握られているからな。

 こいつが断ったら、きっと報復してきてこの村は蹂躙される。

 まぁ、盗聴した時のレイの両親の声、苦しそうだったけどな。

 苦渋の決断だったんだろうな。

 まぁ俺はそれじゃ諦めないぞ、別の手を考えてやる。

 俺は立ち去ろうとしたが、レイが続けて喋った。


『でもね、女の子としてのレイの本心は――』


 俺は振り替えって、レイの顔を見た。


『――君の隣に、いたいんだよ』


 今までに見た事がない位、悲痛な顔をしていた。

 この瞬間、俺は覚悟を決めた。

 結構周りに迷惑を掛ける。

 いや、迷惑どころじゃねぇ、命を掛けてもらうかもな。

 だけどさぁ、ここでもし引いたら、俺は男として生きられないだろう!

 ああ、ここは引いちゃいけねぇな!


「オッケー! その願い、叶えてやるよ」


『おっけー? って、何をするつもりだい?』


 まぁ何となくやる事は決まってる。

 ハードSMが大好きな貴族様を、コテンパンに叩きのめしてやる!

 人の恋路を邪魔する奴には、地獄を見ながら退場してもらおうじゃねぇか……!

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