第20話 僕から見たハル
あぁ、僕より身長が少しだけ小さいのに、ハルの背中はあんなにも大きいのだろう。
僕はハル・ウィードが好きだ。
もう、ごまかす必要はないんだよね。
彼の事が心から好きだ。
僕は、いつからハルの事を好きになったのだろう。
――うん、恐らく一年前だろうね。
一年前、学校の野外授業で魔物を狩るというものがあった。
森に出現するウェアウルフを、三人一組になって狩るんだ。
日頃から授業で戦闘訓練を受けている僕達生徒は、一人は前衛、もう一人は魔法迎撃役、最後は回復役という風に役割が当てられている。
僕はハルとリリルで組んだ。
僕達には魔法迎撃役になれそうなのはいなかった。
リリルの水属性魔法は、攻撃というよりは回復や補助に向いていたんだ。
だから僕達は、僕とハルが前衛で、リリルが回復役となった。
ウェアウルフは基本群れない。だから僕達子供でも三人で討伐すれば一匹は仕留められるんだ。
僕らの中で一番森に慣れていたハルが先頭に立ち、僕達をしっかり案内してくれた。
その時僕は知っていたんだ、リリルはハルにゾッコンだって。
進路に藪があったら、彼は率先して断ち斬って、僕やリリルの肌に傷が付かないようにしてくれてたんだ。
リリルは頬を染めて彼の背中を見つめ、僕は「好き勝手やるのに、気遣いは出来るんだね」って心の中で感心していた。
そして、進んでいく内に、ついに一匹のウェアウルフに遭遇した。
ハルがやると瞬殺できちゃうみたいだから、攻撃をしないで自分に敵意が集まるように動いて僕がトドメ。リリルは僕を補助する形になった。
初の命のやり取り。
僕とリリルは悪戦苦闘しながらだけど、一匹を仕留められた。
「や、やった! やったよ、ハル君!!」
「ぼ、僕にも出来たよ! ハル!!」
あまりの嬉しさに、僕達二人は声を上げて喜んだ。
だけど、これが駄目だったんだ。
「馬鹿、声をあげるな!」
ハルは僕とリリルの声を塞いだけど、遅かった。
茂みから五匹のウェアウルフが飛び出してきたんだ。
ウェアウルフは群れない。でも獲物を見つけた場合は一斉にやって来る場合がある。
だから、森では大声を出してはいけないし、戦闘中でも不用意な声も出しちゃいけないんだ。
それを森に入る前に事前に先生から聞いていたのに、守れなかった。
あぁ、僕達は食べられちゃう。そう思った時に助けてくれたのが、ハルだった。
ハルは怖くて動けない僕達の前に立ち、剣を構えて次々とウェアウルフの首を斬っていく。
何度かウェアウルフに引っ掻かれながらも全て倒したハルは、僕達が動けるようになったと同時に森を出るように指示したんだ。
この時の助けてくれた時の背中、僕達の先頭に立って森を出る時の背中が、すっごく大きく感じたよ。
その背中を見る度に、僕の心臓が早く動いていた。
ここだね、僕がハルに恋をしたのは。
でも、この時はまだその気持ちに理解していなかった。
さて、森を出た後、僕とリリルはアンナ先生にたくさん怒られた。
僕とリリルはひたすら泣きながら、ハルに謝ったっけ。
ハルはハルで、笑顔で平気と言ってくれた。
本当に彼は優しいな。
学校に戻った後、リリルが魔法で治療をし、完全に傷が塞がらなかったので、僕が包帯を巻いた。
「うおぉぉぉっ!! ナイスオネショタシチュエーションきたぁぁぁぁ!!」
なんて言っていたけど、僕達にはさっぱり意味がわからなかったなぁ。
それから僕はハルの隣で共に行動をし、笑い合ったり時には喧嘩したり、悔しくて泣いた時はハルが慰めてくれたり。
七歳になる直前で、僕はようやく自分の恋心を知った。
でも、その時はまだ男だと思っていたから、僕は異常だって相当悩んだし苦しかったな。
そこで七歳になった後、弟が生まれた。
この時に僕は《麗人》で、実は女の子だったと知った。
とっても喜んだのを覚えているよ。
だって、ハルを堂々と好きでいていいんだからね。
だけど、人生はなかなか上手くいかない。
この直後、突然ラーイルの街を統治している貴族、《ゲラルド・ブリリアニア》の長男である《ゲーニック・ブブリアニア》が僕の屋敷にやってきた。
あの《残虐貴族》として有名なブリリアニア家始まって以来の苛烈な残虐性を持っているという、ゲーニックが僕目当てで来たんだ。
「君がレイ・ゴールドウェイだね? あはは、喜んで。君が新しいボクのおもちゃだよ!!」
こいつはそもそも僕を人間扱いしてない。
本当、おもちゃとしてしか見ていないんだな。
もちろん僕の両親は、反対してくれた。
でも、ゲーニックは止まらない。
「あぁ、元々君達に拒否する権利はないよ。それでも拒否するなら、君達の目の前で村民を一人一人公開処刑ね?」
ゲーニック、こいつは本当に十歳か?
その歳でそんな残虐な事を考えられるなんて、どうかしてるよ。
でも、このまま拒否をし続けたら、村の皆は殺されてしまう。
そうなったら、僕が選択するのは一つしかないじゃないか。
僕は、村の皆を盾にされた感じで、ゲーニックの家に嫁ぐ事を決めた。
一応こいつは結婚という形を取って、嫁に対して相当な仕打ちをする。
だが、四回結婚していて全員嫁は死亡している。
つまり、僕はこいつに嫁いだら、死んでしまう事が決まっちゃってるんだ。
今法律では、結婚は何歳からという規定はない。
だからこいつは、そんな横暴ができてしまっているんだ。
怖いよ、すごく怖い。
でも、それで村の皆が助かるなら、行こうじゃないか。
それが、貴族っていうものだと、僕は思うから。
「あはは、普通のおもちゃだと泣き叫ぶのに、君は気丈でいいね! 壊しがいがある!! ボクも用事があるから、三日後に迎えに来るからね。それまでにしっかり別れの挨拶を終わらせておいてね、あははははは!!」
とても嬉しそうな声を上げて、ゲーニックとその従者達は帰っていった。
両親は使用人達は、悲しみに暮れていた。
僕は自室のベッドに顔を埋め、思いっきり泣いた。
そしてあっという間にゲーニックが迎えに来る日が訪れた。
僕の世話をよくしてくれている使用人が、泣きながら僕をめかし込んでいった。
普段束ねていた髪をほどき、化粧をする。一度も来た事がない白のワンピースドレスを着る。
うわぁ、僕は化粧をすると、本当に女の子だったんだなって、この時実感した。
この姿をハルが見たら、どんな反応をしてくれるんだろう。
綺麗って言ってくれるのかな?
あぁ、最後に会いたかったな。
化粧が終わり、あいつが迎えに来るまで僕は部屋で待っていた。
僕は部屋で震えていた。
怖い、怖いよ。
ずっと震えが止まらない。
ゲーニックの所へ行ったら、僕は何をされちゃうんだろう。
僕は、どんな風に死んじゃうんだろう。
僕は、つい呟いた。
「……ハル、怖いよ、ハル」
すると、部屋のどっからか声がした。
『おっす、呼ばれてないけど呼ばれた気がして来てやったぜ』
えっ!?
ハル!?
多分、サウンドボールを使っているんだろうなって思った。
『おっ、しっかり聞こえてるみたいだな。ちょっくら窓に顔を出してみろよ』
僕は恐る恐る窓を開けて、顔を出してみた。
すると、そこにハルがいたんだ。
あぁ、ハル!
会いたかった、すごく会いたかったんだ!
そしてハルは僕の格好を見て、こう言ってくれた。
『んまぁ、でも今のお前の格好、すっげぇ綺麗だぜ』
もう!
何でハルは、僕が欲しい言葉をくれるんだ!
嬉しいんだけど、恥ずかしくて顔が熱いよ!!
その後、しばらくハルと会話をした。
ハルにとって、僕は大事な女の子の一人らしい。
もう一人はリリルなんだって。
本当彼は、素直に生きてるよね。
でも、僕も大事な女の子なんだって言ってくれた。
とっても嬉しいんだよ。
あぁ、こんな事になる前に聞きたかったなぁ。
そして僕も彼に本心を伝えた。
本当はハルの隣にいたいって。
告白の意味も込めてるんだけど、伝わったかな?
そうしたら、ハルは――
『オッケー! その願い、叶えてやるよ』
たまにわからない言葉を使うけど、どうやらこの状況を何とかしてくれるみたい。
何でだろう、ハルなら何でもできちゃう気がするんだ。
あぁ、僕はやっぱりハルの背中が好きなんだって思った。
とりあえず、もうサウンドボールがないかもしれないけど、ハルに言っておくかな。
「ハル、好きだよ」
聞こえていたら、いいな。
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