第18話 俺、レイのいる村に到着!


 どうもこんにちは、リリルを泣かせちゃった俺、ハルです。

 いやぁね、俺だってかなり凹んでるんですよ。

 リリルの事大好きだよ、そりゃ!

 えっ、「てめぇ四十二歳の中身おっさんが七歳に惚れて、ロリを通り越してペドじゃねぇか!」だって?

 あのねぇ、この世界の子供は何故か成長早いの!

 それに俺も七歳だから、合法だって!


 おっと、話は逸れた。

 まぁガチで凹んでいるんだけど、でもレイも同じ位大好きなのさ。

 あいつ、何だかんだで面倒見いいし、剣に関しては俺のライバルでもある。

 リリルが妹兼惚れた女に対して、レイは親友兼惚れた女って感じ。

 どちらにしても、二人の内のどちらかって選択肢は俺にはない。

 ……まぁ今回の事で、両方なしになりそうだけど。

 そこは俺次第だな、頑張るぞ、俺!!


 さて、ちょっと走って約二十分位で、ゴールドウェイ家が統治している《ガーウィル村》に着いた。

 何かさ、パッと見村じゃなくて、町でいいんでね? って位、ひとつひとつの建物が綺麗だった。

 うちの村の名前は《エイール村》って言うんだけど、うちはザ・農村だ。

 月に一度行商が来る程度で、店なんて構えている村民はいない。

 でもこの村に関しては、市場があるようだ。

 結構栄えてるな、ガーウィル村。


 なら、情報収集はやり易そうだ!

 とりあえず入ってみると、俺はちょっと唖然とした。

 何故なら、理由は知らんけど、お通夜みたいな暗さが村中に漂っていた。

 何これ、どうしたのさ?

 情報を聞こうとしたけど、何か話しかけにくい……。

 

「ん~、じゃあどうやって情報を集めようか……」


 ポケットをまさぐってみると、金は持っていた。

 俺が住んでいる国は、《ジル》という単位で通貨を発行している。

 どうやら通貨価値は日本と同様で、1ジル1円だった。

 通貨は1ジル石貨、100ジル銅貨、1000ジル銀貨、1万ジル金貨、100万ジル白金貨で流通しているみたいだ。案の定紙幣はない。

 さて、俺の手持ちは両親からのお小遣いでコツコツ貯めた、1000ジル銀貨二枚に100ジル銅貨が六枚だ。

 ん~、まぁいけるかな?

 俺は村を見渡し、酒場を探す。

 情報を引き出すなら、やっぱりここっしょ!

 これだけ栄えていれば、酒場位絶対にあるだろう……うん、あった!

 俺は酒場に入ってみると、ここはさらにお通夜状態を拗らせている位暗い雰囲気を漂わせた大人達が、昼間から酒を胃に流し込んでいる。

 うっわぁ、荒れてるなぁ、皆さん。

 とりあえず俺は、溜め息ばっかり付いているおっさん二人がいる席を選び、そこに座って話し掛けた。


「ようおっさん、随分と昼から陰気臭く酒飲んでるなぁ」


「……あぁ? ガキかよ。ガキが来るには早いだろうよ」


「そうなんだけどさ、実はエイール村から友達に会う為にやってきたんだけど、喉乾いちゃってさ。酒場でもミルク位はあるだろうなって思って」


「ならカウンターの方に行けや。こっちはチビチビ酒飲んでたいんだよ」


 全然チビチビ飲んでねぇけどな。


「そうしたいのは山々なんだけどさ、何か村全体がすっげぇ暗いんさ。何でかなって思ってね。そこで一番やけ酒してるおっさん達に話を聞こうとした訳」


「……マスターにでも聞きな」


「まま、そう言わずにさ」


 俺は机の上に銀貨二枚を置いた。

 2000ジルあれば、今飲んでいる酒を四杯も飲めちゃうのだ!

 つまり、情報料を渡した訳だ。


「……随分とデキるガキじゃねぇか」


「まっ、世渡り上手なんでね」


「……まぁほぼ愚痴になるが、話してやるよ」


「あんがとよ、おっさん!」


 さて、話は思ったより長かったので、砕いて説明しよう。

 まずこんだけ皆が暗い原因は、レイが結婚する事だった。

 普通なら皆、貴族の安泰は村民にとっても利益があるから、諸手を上げて喜ぶはずなんだけど、そうじゃなかった。

 嫁ぐ先が問題だったようだ。

 レイの結婚相手は、この村から馬車で約一週間位離れている《ラーイルの街》という、流通の中継を担っている街を統治している貴族だ。

 だが、噂は良くないらしく、レイはきっと嫁ぎ先で酷い目に合う事確定なんだそうだ。

 まずラーイルの街を統治している貴族の男共は、全員女癖が悪いだけじゃなく、暴力を奮って痛がっている様を見るのが大好きらしい。

 ……ハードSM趣向者かよ。

 実は、その貴族に嫁いだ一ヶ月後、死体になって帰ってきた事もあった女性もいたらしく、死体の状態は目を覆いたくなる位酷かったらしい。

 

 俺は、レイがそういう状況になったのを、つい想像してしまった。

 

 ……殺すな、その貴族を。俺なら!


 まぁでも相手は大きな街を統治している程の権力を持っている貴族様だ、普通の人が束になっても返り討ちになるのが関の山だから、誰も報復しなかったんだろうな。

 俺も一人だと、ちとキツいな。


 それで、レイのお相手はハードSM趣向一家の長男十歳だそうで、父親を遥かに上回る残虐性を持っているのだとか。

 村民達はその事実を知り、こんなお通夜状態になったのだとか。


「つかさ、何でそんなクズ共の所に嫁に行かせるのさ、おたくらの貴族さんは」


「それは……俺達をかばっての事なんだ」


「どゆこと?」


「もしレイお嬢様を差し出さなければ、俺達を一人残らず殺すって脅されたらしい……」


「はぁ、なるほどな」


 村民を盾にされたか。

 根性腐ってる貴族だったら、この村を放棄してさっさと逃げ出してでも断っただろうな。

 でも、この村を見てわかったけど、村民に対してかなりの厚待遇をやっているみたいだな。

 じゃなきゃ、村程度の規模なのに、村民の家屋がこんなにしっかりしている訳がない。

 だって、全部の建物がレンガで出来てるんだぜ?

 うちなんて、そんな技術持ってる奴がいないし、レンガ作りする程の金がないから、うちを統治している貴族も含めて納屋みたいなもんだし、良くて木造だ。

 俺の家は、父さんがしっかり狩りで稼ぎを出しているから、木造なんだけどさ。

 とりあえず、レイの両親はかなり貴族としては人がいいんだろうな。

 その代わり、ゴールドウェイ家の家計は切羽詰まってそうだけどな。


「……レイお嬢様も、生まれた時から麗人として育てられ、すっかり男勝りになっちまったが、やっぱりお美しいのさ……。それが、あんなゲス共のおもちゃになる為に嫁ぐなんて。俺達は、耐えられねぇんだよ」


 レイの奴、皆に慕われてるな。

 理由を聞いてみると、あいつは学校がない日は、村中を見回るらしい。

 そして働いている村民を労ったり、辛そうにしている老人がいたら、率先して助けたりしていたみたいだ。

 レイが麗人だと知っている村民達は、日々美しくなっているレイに憧れを抱く奴等もいれば、自分の孫のように思っている老人もいるみたいだ。

 あいつ、本当面倒見がいいっつうか、貴族としての職務を全うしようとしてたんだなぁ。

 そこまで人気なら、こんなお通夜状態になるのも頷けるな。


「わりぃなおっさん、嫌な事を聞いちまって」


「いや、俺こそ金を貰って悪いな」


「気にするなよ、おかげで俄然やる気が出てきたからさ」


「……やる気? そういやぁお前、友達に会いに行くって言ってたな。誰なんだ?」


「ん? レイだよ、レイ。突然結婚するって言って退学しやがったから、ちょっくらどんな面しているか拝もうかと思ってさ」


「は? お前今……」


「ま、おっさんの話聞いて、こんな結婚ぶっ壊してやろうって思えてきたわ。サンキューな、おっちゃん!」


 俺は手をヒラヒラと振って、酒場を出た。

 背後で色々五月蝿くなってたが、今はそんなの気にしている余裕はねぇな!

 一応話によると、今日そのクソ貴族がレイを迎えに来るらしい。

 ナイスタイミングだぜ!

 俺のレイは、ゴミ貴族なんかに渡してたまるかよ!

 ちょうど変な想像をしちまったせいで、理不尽なムカムカに襲われてるんだよね。

 そのクソ貴族相手に、鬱憤を晴らさせてもらおうじゃねぇの!

 さぁ、レイに会いに行くか!!




 ――あっ。

 

 屋敷の場所がわからねぇや。

 俺はもう一度酒場に入って、おっさんに場所を聞いた。

 大爆笑された。

 うん、しまらねぇな、俺……くすん。

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