第16話 レイの真実
学校が終わった後、俺は家に帰って両親と食事をしていた。
今食ってるのは、ウェアウルフの肉と野菜を突っ込んだ、いわゆる鍋だ。
俺が鍋を食いたくなり、母さんに遠巻きに「全部ぶっ混んで煮込むと旨そうだよね」と言ってみた所、試してくれた。
結構味も旨くて、ウィード家はただいま鍋ブームとなっている!
驚いたのは、米はあったんだよね。
だから鍋食っている時は白ご飯を食卓に出す、これが我が家の鉄則だったりする。
「でさぁ、いくら皆リリルの事が好きだからって、俺に死ねぇ! とか言ってくんの。もう、最近のガキは怖いねぇ!」
「……いや、お前も色んな意味で十分に怖いぞ」
「母さんもそれには同意するわ……」
おおっと、盛大なブーメラン!
いいんだよ、俺は中身現在四十二歳だからさ!
でも、確かに俺が知っている五~十歳よりは言動が大人びてるというか……。
恐らくは小さい頃から家の仕事をしていたり、命の危険に晒されているのがあるんじゃないかなとは思っているけど。
まぁ魔物とかがいて命の危険に晒されているせいなのか、俺も含めて身体の成長が速いのです!
リリルなんて胸がすでにぽよぽよしてるしな!
よく腕にしがみついて来るんだけど、その時に腕に幸せな感触があります。もっとくれ!
……対するレイは、前世の女子高生位にしか見えないんだが。
あいつ、やっぱ女じゃね!?
レイさ、今俺より身長があるんだよ。もしあいつに抱きつかれたりしたら、所謂オネショタな訳ですよ! 俺がショタだな。
前に俺がこの世界の歴史の事でレイに教えてもらったら、すっげぇ良い匂いがした。
それに、耳にかかった長い髪を耳の後ろにずらす仕草なんて、七歳と思えない色気があり、結構どきっとしたりする。
もう、僕はあの子を男の子として見れません!
イケない道に目覚めちゃいそうで逃げたいけど、レイが自分の魅力で俺を繋ぎ止めてくるから逃げられません!!
やっべ、本当に目覚めてしまいそう……。
父さんの左腕は、無くなったけど無事に切断部分は塞がった。
たまに幻痛がするみたいだけど、年々薄れているらしい。本当によかった。
俺があんなミスをしても、両親は接し方が全く変わらない。それどころか、父さんとの稽古は苛烈を極め、母さんは抱き付いてきて頭を優しく撫でてくる。
理由を聞いてみたら、父さんは一人でドラゴンも倒せるようにする為、母さんはドラゴンから生きて帰って来てくれたからさらに愛情を注ごうとしている、との事。
照れ臭いが、二人の愛情が感じられて嬉しかったりするが。
「そうだハル、今度リリルちゃんとレイ君を連れてきなさいな」
母さんが突然そう言った。
「えっ、何で?」
「だって、ハルとこんなに仲良くしてくれているのに、母さん一度も会った事ないのよ?」
あぁ、そうだね。
俺は二人とよく外では遊んだり話したりしているけど、家には連れてきた事は一度もないな。
「それに、そこまでご執心なリリルちゃんを、見てみたいの」
うわっ、すっげぇニヤニヤしてる。
何だ、俺のリリルを見てどうしようってんだよ!
……ま、からかったり根掘り葉掘り聞くんだろうけどよ。
でも、こういうやり取り、前世ではしてなかったからすっげぇ新鮮で楽しくもある。
だから、母さんの提案に乗ってやろうじゃん。
「じゃあ今度二人を誘ってみるけど、あまりリリルをからかうなよ?」
「んふふ、わかってるわよ」
だめだ、わかってねぇ。
まぁ母さんなら大丈夫か。
「こんな変な息子でも友達やってくれてるんだ、遊びに来たら飯でも食ってってもらおう!」
「変な息子って失礼だぞ、父さん!」
「はっ! 今更何言うんだ! ドラゴン討伐の手伝い出来る子供が、変以外何て言えばいいんだよ!」
「神童(キリッ)」
「………………母さんや、こいつのお友達に飯を奮ってやってくれ」
おおおおい!?
俺をスルーしないでくれや!
そんな「は? 何言ってるんだ、こいつ」みたいな非難的な目は止めて!
とりあえず明日でも連れてきて良いかを両親に確認したら、いいよとの事。
あっ、でも待てよ?
実はレイのお母さんが子供を身籠っていて、明日が出産予定日だ。
あぁ、こりゃ明日は無理臭いな。
「ごめん、明日はレイを連れて来れなさそうだから、明後日でもいいか?」
「それか、リリルちゃんだけでも連れてくればいいじゃない?」
ママンはリリルを見てみたいだけでしょうに!
ま、それでいいならいいけどさ。
もしリリルがいいって言ったら連れて来ると言って、食事を終えた俺は自室に戻った。
毎日欠かさずやっている、魔法の訓練を行う為だ。
やっぱり女神様の所でポイント購入した才能が活かされているのか、サウンドボールを使う度に色んな事が出来るようになってきている。
脳内に記憶している音楽を再生するってのも、一年前位に突然出来た事だしな!
まぁ地道な努力が実を結んだって事だな!
俺は寝るまで、現状出来る事と出来ない事を確認した。
俺の野望が、徐々に形を成してきた!
翌朝、父さんとの稽古を終えた後、いつも通り学校へ登校した。
まぁいつもと変わらない朝だな。
だが、一つ違う所があった。
レイが来ていなかった。
いつも通り俺の隣に座ったリリルと顔を合わせて、首を傾げた。
普段通りであるならば、大体同じ時間に学校へ来ているはずなのだけど……。
ん? 確か今日が出産予定日だったよな?
ま、まさか、あいつのお母さんの身に何かあったのか?
もしそうだったとしたら、レイは落ち込んでるだろうな……。
こういう時、どう声を掛けてやればいいんだ?
なんて考えていたら、アンナ先生がやってきた。
「皆さん、おはようございます」
『おはようございます!!』
皆アンナ先生の挨拶の後に、元気一杯に挨拶をし返した。
……俺以外はね。
しかし、いつもにこやかなアンナ先生なのだが、今日はちょっと険しい顔をしている。
何だ?
「突然で申し訳ありませんが、しばらくの間自習にします。皆さん、私がいないからって遊ばないように」
皆返事はしているけど、絶対に騒ぐし遊ぶな。
何だかんだでガキだなぁって思っていると、アンナ先生はさらに続けて言った。
「ハル君とリリルさんは、職員室へ来てください」
「「え?」」
何で俺達!?
リリルは俺に視線で、「私、何かしちゃった?」みたいに訴えてきていたから、俺は否定するように首を横に振った。
いやぁ、マジで怒られるような事して――
あっ、昨日の集団戦で思いっきり相手をボコっちゃったわ!
いや、でもそれで怒られるのは俺だけなはずだよ。
何でリリルも?
とりあえず、俺達はアンナ先生の後に付いていき、職員室の端にある応対スペースに着座させられた。
「え、と。私達、何か、しちゃいま、したか?」
リリルがより一層ビクビクしながらアンナセンセに聞いた。
俺は何故呼ばれたのかがわからないから、怖いっていうよりどうした? っていう疑問しか浮かばない。
「お二人に来ていただいたのは、レイ君についてです」
はっ? レイについて?
まさか、俺が懸念していた事が実際に起こってしまった?
「先生、まさか、レイの母親に何か……?」
「……なるほど、ハル君。それは深読みし過ぎです。予定より一日早く元気な男の子を出産しましたよ」
俺が懸念していた事を理解したアンナ先生は、まずそれを否定してから安産だった事を教えてくれた。
ふぅ、なんだよビックリさせやがって。
じゃあ何で俺達が呼ばれたんだ?
益々理由がわからなくなってきたんだが。
「今回お二人を呼んだのは、レイ君自身の事です」
「レイ自身の事?」
「ええ。恐らくハル君なら察してはいるかと思いますが、レイ君は《麗人》です」
「えっ……」
リリルが驚いた表情を見せ、小さく声を漏らした。
まぁビックリするわな。
麗人。
前世では綺麗な女性とかって意味なんだけど、この世界ではちょっと意味合いが変わってくる。
レイの実家、つまりゴールドウェイ家は小規模ながら貴族だ。
貴族は基本的に男が家を継ぐ事になっている。
ではもし最初に生まれた子供が女だったら、貴族はどうしているか?
選択肢は二つ。
一つ目は、別の有力貴族の跡取りに嫁いでもらえるよう、徹底的に英才教育をする。
二つ目は、男が生まれるまでの間、男として育てて長男となってもらう。
レイはその二つ目の選択肢を強いられた存在だ。
そういった存在を、この世界では《麗人》と呼んでいる。
つまり、レイは女の子だったという訳だ。
女の子だったんだよ!!
「いよっしゃぁぁぁぁぁっ!!」
「「!?」」
「おっと失礼、俺とした事が取り乱しました」
「「は、はぁ……」」
あまりの嬉しさに、つい叫んでしまった。そのせいでリリルとアンナ先生がびっくりしちゃってる。
失礼失礼。
だってさ、俺正直困ってたのさ!
俺はとりあえず男として接して来てたんだけど、俺を見る視線に熱があるんだ。
俺は同性趣味じゃねぇから、マジで困ってたんだ。
だってあいつのその視線、ちょっと嬉しく思ってたからさ。
ついに、ついに俺は、禁断の扉を開けちまうのかと本気で悩んだんだけどね。
だが、だが!
あいつは女の子だった!!
あいつの視線に熱があったのは、異性として俺に好意を持ってくれていたって事だ!
いやぁ、俺の悩みも解決だ!
レイはリリルと違ってお姉さんのような色気が出ている、超美人だ。……七歳なのにな。
リリルは超可愛い系だから、そんな二人にサンドイッチされている俺は、超幸せ者だ!
おっと、脱線しすぎたから、話の続きを聞こう。
「それでお二人にお願いがあります」
「なんすか?」
「恐らくレイ君は今後、色々な視線を浴びる事になると思いますし、人間関係ががらりと変わるでしょう」
「あぁ、多分そうっすね」
「ですので、仲が良い貴方達は、変わらずにいつも通り接してほしいのです」
なるほどね。
麗人は結構イジメの対象になりやすいって、何かの本で読んだな。
よくレイと遊んでた俺とリリルにはそうなって欲しくないから、事前に事実を伝えてお願いしてきた訳か。
まぁ田舎貴族ではあるが、学校としては貴族を敵に回したくないのだろうな。
さて、俺の気持ちは変わらんけど、リリルがどう出るかだな。
「わ、私は……平気、です」
おっ、オドオドしながらもしっかり意見を言ったな。
リリルが意見をしっかり言う時は、決意したって事なんだ。
普段ひかえめなのに、そういう時にはちゃんとはっきりするリリル、可愛い。
「レイ君……レイ、ちゃん? ……どっちにしても、私に、とっては、大事な、と、友達です」
うっし、よく言ったリリル!
俺は頭を撫でてやると、ちょっと嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
うん、可愛い。
「ま、俺は別に麗人だろうが何だろうが、レイである事に変わりはない訳っすから、アンナ先生に言われなくてもいつも通りにしますよ」
うん、嘘付いた。
多分俺のハーレム要員の一人として、積極的に囲い込んで行くつもりだ。
リリルはほぼ確定だから、レイも絶対に加えてみせる!!
そもそも、二人がハーレムを認めてくれるか、なんだけどね。
いいや、転生した俺なら大丈夫!
主人公補正が効いているはずだから、大丈夫、なはず。
「ありがとう、二人共。恐らく明日には学校に来ると思いますから、仲良くしてあげてくださいね」
アンナ先生がそう言って、この話は終了した。
いやぁ、レイが女の子でよかったなぁ。
本当、近所の年上のお姉さんって感じだからさ、あいつ最高なのよ!
胸は……どうなんだろうか?
何か無いような気がするけど。
まぁそこは気にしない!
とりあえず、明日が楽しみだなぁ!
だが、レイは翌日も、その次の日も、学校に来なかった。
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