第7話 サウンドボール、実験!
「ふ、ふあぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
うあぁ、クソ眠い……。
徹夜して俺の魔法の研究をし過ぎた。
いやぁ、あんなにのめり込んだの、初めてVOCALOIDっていうソフトがこの世に登場した時以来だぜ。
あの時の衝撃は忘れないなぁ。
だって、歌手を探さずに自分で思い通りに出来るんだぜ!?
そりゃ音楽に携わる人間としては、興奮して止まない代物だった訳ですよ!
話が逸れたな。
とにかく、この《音属性》は相当応用が利く便利な魔法だった。
そして、ある実験も成功したのだ……。
くっくっく、俺の壮大な計画の一つが、確実に実行出来そうだな。
だけど、まだこの魔法は極めきっていない。俺としてはまだ非常に様々な可能性がある、延び幅があると思っている。
しかし俺には前世の記憶という、極めてチートなものがあるのだ!
前世の知識をフル動員して、絶対に俺の魔法を極めてやるぜ!!
俺は眠気でだるい身体に鞭を打って、朝食を頂く為にリビングに向かう。
リビングって言っても、うちの家は裕福じゃないから、リビングって言う程立派なものじゃないけどね。
あくびをしながらたどり着くと、すでに朝食を準備し終えた母さんと、朝の剣の素振りを終えた父さんがすでに座って待っていた。
「おはー、父さんと母さん」
「おはよう、ハル。しっかしお前、随分遅くまで魔法の特訓をやってたみたいだな?」
「まぁねぇ……。やっと俺の魔法の正体がわかったんだ、鉄が熱い内に色々試そうかと思ってね」
「俺は時たま、お前が五歳とは思えないんだが……」
「何言ってるんだよ父さん、立派な五歳のガキだぜ」
まぁ中身はおっさんだね!
しかし子供の体で夜更かしは、結構辛い!
しばらくは控えよう、うん。
朝食を終えた後、学校へ向かうまでの約三十分間は父さんと剣の稽古をする。
父さんと俺は、木刀で打ち合う。
俺は父さんに一太刀でも与えたら勝ちなんだけど、やっぱり純粋な剣術じゃ歯が立たない!
父さんと鍔迫り合いになったら、十中八九剣を弾かれ、無防備になった腹に蹴りを入れられる。
優しい蹴りだけど、俺のプライドをズタズタにするにはちょうど良い攻撃だ。
だが、今日の俺は違うぞ!!
「父さん、ちょっと魔法を使って戦っていいか!?」
「ふっ!! それで越えられるならやってみな!!」
わおっ、うちの親父殿がとっても獰猛そうに笑っていらっしゃる。
こんな事初めてで、ちょっぴりちびっちゃったよ。
だけど、今日こそ一矢報いてやるぜ、覚悟しな!
「な、何なんだ……、お前の魔法は」
父さんが俺の一太刀を受けて、へたり込んでいた。
そりゃそうさ、見事に全力の斬撃が父さんの脇腹に入ったんだから。
五歳児の全力の一撃がクリーンヒットしたんだ、いくら大人でも痛くない訳がなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……。へへ、魔法を使ったけど、だい、勝利ぃ」
俺は父さんにVサインを出して、一本取った事を誇ってやった!
この魔法、やりようによっては戦闘でも十分に使えるのが、父さんとの戦いで実証できた!
やっべ、俺の魔法は超最強じゃね!?
……攻撃魔法は一切ないんだけどね。
「まさか、その一見戦闘では役に立たなそうな魔法に、そんな使い方があるなんてな……」
「まぁ、ね! 徹夜して研究した成果が出たってもんよ!」
父さんもやっぱり俺の《音属性》魔法は役に立たないって、そう思ってたんだな。
まぁ俺も最初思ったよ、うん。
だけど、世の中使えないものなんて絶対にないんだ。
使い手次第で優良にもゴミにもなるんだからな。
魔法だって、頭を使えば何にでも使えるんだ!
ふっふっふ、さすが俺様だぜ!
「よし、ハル! 明日から魔法をドンドン使え。ただし、俺も本気で戦うからな!」
「うえっ!? 父さん、五歳児に本気なんて大人げないだろ!?」
「お前、気付いていないのか? その魔法、本気でかからないと必ず負けるぜ?」
俺のユニーク魔法は、実例が一切ない属性の魔法だ。
俺がしっかり上手く使えば、必勝とも言える位の使用方法を、俺は父さんに使った。
知らない魔法だから、正しく対処できずに負ける。
俺が使う魔法は、そんな魔法なんだ。
「とにかくハル、俺はお前の魔法を悉く打ち破る」
「おおぅ、強気だな!」
「対処はいくらでも出来るからな。だからお前は、もっと戦術の幅を増やせ。俺に打ち破られたら別の戦術を考える。それをとにかく繰り返せ」
なるほど、言いたい事はわかった。
つまりだ、俺のこの魔法の戦術を今の内に広げる事で、どんな不測の事態にも対処できるようにしろって事だろ。
まぁこの世界は魔物だったり、盗賊だったりがあふれ返っていて命の危険がありまくりだしなぁ。
自衛の意味も含めた、父さんなりの親心なんだろうな。
「了解、父さんが泣くまでボコボコにしてやるぜ!」
「ほほぅ、言ったな? まだ純粋な剣技では俺が遥かに上だぜ? 調子に乗ってんじゃねぇぞ?」
やっべ、父さんの闘争心に火が着きやがった!
ちょっと調子に乗りすぎたか……。
明日から剣の特訓、すっげぇ厳しくなりそうだなぁ……。
明日の事を思うと憂鬱になってきた時、母さんの声がした。
「ハル、そろそろ学校へ行く時間よ?」
「えっ、もうそんな時間かよ? わかった、今すぐ行くよ!」
俺は傍にあった井戸から水を汲み、頭から水を被って汗を流す。
タオルで体を吹きながら家の中に入り、服を着て学校へ向かう為に家を出た。
「んじゃ、いってきま~す!」
「「いってらっしゃい!」」
父さんと母さんが手を降って見送ってくれた。
うん、今日も頑張って勉強してこよう!
こんにちは、ハルです。
今俺は、廊下に立たされています。
何故かって?
算数の授業中に寝ちまったからですよ!
だってさ、だってさ!?
ただでさえ夜更かししてて眠い中、今更四則演算だぜ!?
アンナ先生の優しい声で、
「3+5は? …………はい、正解です♪」
なんて言われるとさ、あまりにも簡単過ぎて退屈なのと、先生の優しい声が子守唄になってさ、俺の意識を闇へ誘うのさ。
気が付いたら寝てて、アンナ先生の怒髪天を喰らって廊下に立たされたって訳。
廊下に立たされるなんて、本当小学校依頼だぜ、懐かしいな。
まぁ立ってるだけなのは暇だから、俺は誠意サウンドボールの研究中だったりする。
この不可視のサウンドボール、指示を出せばボールみたいにバウンドするんだ。
その指示を上手く調整すると、一定のリズムのまま弾み続ける事も可能だ。
重力も摩擦も全て無視できるこいつは、俺が止める指示をしない限りは忠実に従ってくれる。
(んじゃ、こういうのも出来るかな?)
俺はとある指示を込めて、新たなサウンドボールを生成する。
それを真っ直ぐ投げると、ゆっくりと真っ直ぐに浮遊しながら進んでいく。
そして約五十メートル先にある柱の辺りで、それはピタリと止まった。
よっしゃ、俺の指示通り!
このサウンドボールに出した指示は、時速十キロ程度で直進し、柱の辺りに到着したらその場で停滞するようにした。
いいねいいね、さらに俺の戦術に幅が広がるぜ!
次の実験は、何も指示を出さずに浮遊しているサウンドボールに、新たな指示を出す。
指示を出したいサウンドボールに意識を集中させ、命令を出す。
すると、そのサウンドボールは急に、重力に身を任せたかのように廊下の床にぼとっと落ちた。
うっし、後から命令を出すのも出来る訳だ!
さて、実験の締めだ!
俺はサウンドボールに最速で廊下の向こうまで飛ぶように指示を出して、新しいサウンドボールを生成し、射出!
……
…………
あれ?
飛んだ、よな?
全然見えなかったんだけど。
もしかして、俺が望めばどんなに速い速度でも飛ぶのか!!
弾道すら見えなかったって事は、光速も行けるって事か?
マジか!? はは、最高じゃねーか、サウンドボール!
こいつはマジで、俺の最優先すべき野望の理想系だぜ。
まっ、それはまだ言わないでおこう。
具体的に形になったら、行動を以てお教えしようではないか、はっはっは!!
でもなぁ、この属性は一切攻撃能力がない。
サウンドボールにいくら「固くなれ!」と指示して物体に当てても、何事もなかったかのようにすり抜けていく。
だから不可視のサウンドボールでの攻撃は、早々に諦めたんだ。
だって時間の無駄だべ、無理そうなものを追求するの。
だから俺は思考を切り替えて、長所である《サウンドボールは、思い浮かべた音を奏でる》能力を、最大限活用出来る方法を模索する事に注力した。
結果は、着実に出ている。
「さってさて、こんだけ長い廊下だ。音を出して色々実験だな」
「……ハル君、君は何をしているのでしょうか?」
背後から寒気がしたと同時に、聞き覚えがある声がした。
やっべぇ、アンナ先生だ……。
まさか俺を見に来るとは思わなかった。
「い、いやぁ、廊下に立ってるだけなのも暇なので、魔法の特訓をしてましたぁ……」
テヘペロっと、五歳児の愛嬌を以てやってみた。
うん、アンナ先生のこめかみに怒りの青筋が出ちゃってる。
これはやっべぇな、やり過ぎた!
「いい加減にしなさい!!」
アンナ先生の渾身のゲンコツが、俺の頭に落ちてきた。
うん、目から火花が出るってこういう事か……。
めっちゃくちゃ痛かったです、はい。
でもまぁいいや!
何故なら、この授業が終わった後、《魔法戦技》という授業が始まる。
どういう内容かと言うと、小さい内から魔法を使った戦い方を覚えて、魔物や盗賊から自衛出来るようにしようという授業だ。
じゃあ魔法が使えない子供はどうするか?
そんな難しい話じゃない、剣や槍等を持ってどのように魔術師と戦うかを学ぶんだ。
少しでも魔法が使えないというハンデを、武器での戦いで乗り越えてもらう授業でもある。
まぁ怪我しやすいから、回復魔法が使える先生が必ず一人いるような感じだな。
くくく、俺の魔法はシャボン玉を作るだけじゃないんだぜ。
絶対に皆をあっと驚かせてやる。
俺の魔法がどれだけすっげぇか、思い知らせてやろうじゃないか!
……うん、何か俺、童心に返っている気がする。
ま、今ガキになっているし、ちょうどいいや!
思いっきりやってやるぜ!!
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