第8話 アンナ先生と魔法バトル!


 さぁやってまいりました!

 ついに、ついに《魔法戦技》の授業だ!!

 いやぁ、やっぱり算数とか無理だわ。

 何度も言うけど、今さら四則演算は勘弁してほしい……。


 今俺達は、学校の校庭に来ている。

 この授業は全校生徒合同で行われるようで、二年生から五年生の上級生も一緒にいた。

 しっかしまぁ、上級生はこの授業に慣れているからか、何か目がギラギラしてるんだよねぇ……。

 最年長で十歳のはずなんだけど、俺ですらびびっちまう位の鋭い眼光を宿している。

 あれだ、ウェアウルフの獲物を見る目と同じだ。

 ちょっと怖い……。


「さて皆さん、今日から《魔法戦技》を行います。ここでしっかり実戦を覚えていき、自分自身を守れるようにしましょう」


 アンナ先生の言葉に俺達一年生の生徒は皆、元気よく返事をした。

 ……俺以外ね。

 無理、そんなガキみたいな返事出来ない!


「では一年生の子は、あちらの先生の御指導の元、魔法を撃つ練習をしましょう。魔法適正がなかった子は、先生の所に来てください。ハル君もですよ?」


 アンナ先生は俺も魔法が使えない生徒として認識しているらしい。

 まぁしゃあないよな、術者以外視認出来ないシャボン玉しか生成できないって思ってるんだし。

 とりあえず先生の所へ向かうと、木で出来た剣と槍が置いてあった。どれも刃はないやつだな。


「君達はこの中から好きな武器を選んでくださいね」


 適正がなかった俺以外の三人は、どれにしようかなと頭を抱えて悩んでいた。

 俺はノータイムで剣を選んだ。

 他の三人も各々で決めた武器を手に取った。

 しっかし、この三人は魔法が使えないとわかった時は、絶望を表したかのように号泣していたのに、一日でもうケロっとしてやがる。

 流石は子供と言うべきかな、立ち直りが凄まじく早いな!


「それでは君達は武器を使った戦い方を学んで貰います。ハル君以外は今後ろにいる武術担当の先生に教えてもらってくださいね?」


 えっ、アンナ先生、俺以外ってどういう事?

 あの三人は「はーいっ」と返事をして、後ろに立っていた筋骨粒々の男性の先生の所に向かっていった。


「えっと、何で俺だけ残されたんすか?」


「あなたの場合は特殊なのです。魔法は使えるけどその……ユニーク過ぎるので」


 そこは素直に役立たずって言ってもいいんだぜ?


「なので私が直々に教えようと思います。そのユニーク魔法の使い方も一緒に研究しましょう」


 アンナ先生が胸を張って手で胸を叩く。

 ……あれ、胸を張るとわかったんだけど、アンナ先生って着痩せするタイプ?

 手で叩いた時、結構ボリューミィな揺れ方したのですが……。

 くっ、俺がもっと早く生まれていれば、きっとアンナ先生に求婚していただろうに!!

 ん? 振られるとかの考えはないのかって?

 もし振られたら、男を磨いて再アタックすればいいのだ!

 男とは砕けてなんぼだって、おばあちゃんが言っていた。言ってないけど。


 でもね、アンナ先生。

 もう俺の魔法はわかったんだ。


「研究はいらないっす。だって、昨日色々検証してわかりましたし」


「えっ、わかったんですか!? 属性はなんだったのですか!?」


 アンナ先生が俺の肩をがしっと掴んで揺さぶってくる。

 脳が、脳が揺れる!!

 怖い怖い怖い怖い!!


「ちょっ、アンナ先生! おおおおおおお落ち着いて!!」


「落ち着いていられますか! ユニーク魔法を無傷で解明したんですよ!?」


「俺の魔法、そんな殺傷能力ないですからね。でもまぁ――」


 俺はアンナ先生に向かって、ニヤリと笑ってみせた。


「アンナ先生には勝てる魔法ですよ?」


 ちょっと挑発してみせた。

 父さんに勝ったからって天狗になっているかって?

 いや、違うね。

 俺はわざとアンナ先生を挑発する事で、本気で戦ってもらうように仕向けたんだ。

 多分だけど、彼女は高位の魔術師なんだと思う。

 魔法の事に関して、並々ならぬ自信や情熱を感じるしね。

 そういう一つの物事に特化した人間は、俺の前世の経験上、相当強い。

 きっと先生もそういう人間だ。何で村の教師をやっているかはわからんけど。

 とりあえず、俺は彼女と本気で戦って勝ちたい。

 いや、絶対に勝つ!!


 するとアンナ先生の表情は無表情になり、何かとてつもないプレッシャーを放つ。

 こ、こえぇぇぇぇっ。


「……君は少し礼儀を知らな過ぎるようですね」


 ひえぇぇぇぇぇっ、怒らせちゃったよ!

 やべぇ、やりすぎた!

 でも俺も男の子だ、今は引いてはいかんぜよ!!


「まぁ五歳のガキなんで、礼儀は鋭意勉強中って事です」


「……君の歳で、自分の事をガキって普通は言いませんが?」


 あっ、確かにそうね。

 中身四十歳だから、俺のこの年齢はガキだって反射的に認識しちゃってるんだよね。

 まぁ、これ位なら誤魔化せるか。


「両親の教育の賜物ですかねぇ? 俺は何も知らないガキだって思い知っているだけですよ」


「……本当に五歳児?」


「どう見ても可愛い五歳児でしょ?」


「……オヤジ臭い気がします」

 

 そ、そうか!?

 俺オヤジ臭いか!?

 そっか、そっかぁ~……。

 何かショックだなぁ、オヤジ臭いって言われるの。


「まぁそんな事いいじゃないっすか。早速やりましょうよ! 俺の魔法も披露しますんで!」


「……いいでしょう、今回は教育も兼ねて全力で行きましょう」


 俺とアンナ先生は、校庭の中央に向かい合って立った。

 いつの間にか、俺達の戦いを見ようと、全校生徒が戦闘練習を投げ出してギャラリーになっていた。

 こんなに視線を集めるなんて経験ないから、ちと緊張するな。


 アンナ先生が掌を俺に向けた。

 戦闘体勢ばっちりって感じだな。

 俺は左手に握っていた木剣の柄を握り、鞘から引き抜くような動作をした。剣道の向き合う時にやるあれだね。

 でも同時に、その動作でサウンドボールを、アンナ先生の周辺約半径三十メートルに九十個配置した。

 俺のサウンドボールは小さい動作で無数に生成できる。

 開始前にすでに俺の有利状況を作っている反則技だけど、「よーい、どん」で始まる実戦なんて絶対に存在しない。

 だから反則ではない、断じて違うからな!


「では、まいります!」


 先生は小さな声で詠唱を始めた。

 この世界の魔法は、魔力を言葉に込める事でこの世の理に接続する。

 詠唱はどのような現象を起こすのかという理に対する指示のようなもので、言葉に込めた魔力量によって威力は左右される。

 俺の魔法は生憎、詠唱は全くいらない。

 この時点で、俺の魔法は非常識なんだってさ。

 まぁこの音の属性は、非常識だからこそ強い!


「その詠唱、させるか!」


 俺は九十個のサウンドボールの内、一つに対してアンナ先生の口に張り付くように心の中で指示を出すと、それは指示にしたがってアンナ先生の口に吸着した。

 まぁ俺以外は触れた感触すらないから、絶対に気付かない。

 そしてもう一つの指示を出した。


「《遮音》」


 そのサウンドボールは指示を忠実にこなし、アンナ先生の小さな声で紡いでいた詠唱を、完全に聞こえなくした。

 先生もそれに気が付いたようで、困惑しているようだ。

 サウンドボールはあらゆる音を操る。

 音を出す事も出来れば、音を遮断する事も出来る。

 本来なら骨振動によって自分の声が聞こえるはずだが、それすらも遮音させてもらった。

 だからいくら喋っても、本人にすら聞こえなくなった。


 さて、この勝負はもらった!!


 俺は全力で走ってアンナ先生との距離を詰める。

 だが、不意に先生は笑った。

 やべ、この人何か隠し玉持っていやがるな!?


 すると先生の掌から火の玉が生成された。

 えっ、ちょっ!?

 魔法って詠唱しないと使えないんじゃねぇの!?

 そんな俺の疑問を、ギャラリー達が教えてくれた。


「すっげぇ、高位の魔術師じゃないと出来ない無詠唱をやりやがったぜ!」


「アンナ先生、すっげぇ!!」


 何だよ、無詠唱あるじゃんかよ!

 でもその口振りだと、無詠唱出来る人間は数少ないみたいだな。

 まぁいい、それを妨害する策は、俺の中にある!


 俺はとあるサウンドボールに指示を出した。

 すると、アンナ先生から見て左側から、俺の声がした。


「アンナ先生、討ち取ったりぃぃ!!」


 アンナ先生もびっくりして、火の玉を正面の俺じゃなく、自身の左側に向けた。

 でも、そこには俺はいないぜ?

 あるのは目に見えない、俺の声を出せと指示したサウンドボールだけだ。

 まだまだ、俺は畳み掛ける。


「残念でした、こっちだよ!」


 お次は反対方向にあるサウンドボールに指示を出して、俺の声を出させた。

 当然アンナ先生はそっちを振り向く。

 彼女の困惑した表情が、さらに色濃く表に出ている。


「どこ見ているんだよ、アンナ先生?」


 トドメとして、正面にいる俺本体に対して背中を向けるように仕向けた。

 先生は声がした方向に、素直に体ごと向けてくれる。

 背中を無防備に晒させるのが非常に容易い。


 俺は自分の両足にサウンドボールを吸着させて、走って際に出る音を遮断。

 全力で走っているのに足音を完全に殺した状態で、アンナ先生との距離を完全に詰めた。

 そして、木剣の刃の部分を、彼女の首筋に当てた。

 一瞬先生の体がびくっと跳ね上がった。


「はい、俺の勝ちっすよね?」


 アンナ先生の首が、まるで錆び付いたロボットのようにぎこちなく回り、彼女の背後に立つ俺を見た。

 そして悔しそうな表情を浮かべて言った。


「……私の……負け、です」


 対魔術師戦でも、俺の音魔法は十分に通用した。

 やっべぇ、俺最強じゃね!?

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