第6話 サウンドボール
「しゃーぼんだーまとーんだ、やーねーまーでとーんだー……」
俺の周りには、ユニーク魔法で生成したシャボン玉が八個浮遊している。
その内の一つに触れて上に飛ばし、何処まで飛んでいくかを帰宅途中に試していた。
「やーねーまーでーとーんでー、……壊れて消えねぇ」
このシャボン玉、いつまで経っても消えないし、一度その方向に動いたら止まらずに進み続ける。
しかも重力とかも逆らって進むんだぜ?
まっ、ただのシャボン玉なんですけどねぇ。
「……はぁ、これマジ使い道がねぇじゃんかよ」
試しに物体に当ててみた。
すり抜けた。
家畜に当ててみた。
すり抜けた。
どうやら、物理的に触れるのは俺だけだった。
ほんっとうに使い道が全くわかんねぇ!!
もう俺、ユニーク魔法はいいや。
封印して、父さんに師事して剣で生きていこう……。
うん、そうしよう……ぐすっ。
俺は泣きながら我が家に帰った。
父さんと母さんは家にいて、俺が泣いていた事にびっくりしていた。
「ハル、何があった! イジメか!? 安心しろ、俺がその子供をぶった斬ってやる!!」
物騒だな、ぱぱん!!
「あなた、斬るだけでは物足りないわ。八つ裂きにしてちょうだい!!」
ままんはさらに物騒だった!!
「違う、違うから!! これには訳があるんだって!!」
まるで赤い布を見た闘牛のように興奮している両親を何とか宥め、俺は事情を話した。
ユニーク魔法に目覚めた事、その魔法が俺にしか見えないシャボン玉という、大層役に立たないものだった事。
話している内にまた悔しくなって、泣いちまったよ。
だってさ、五年だよ!?
五年も魔法を使う夢を見た結果、こんな役立たずだったんだぜ?
見た目は五歳で中身は四十歳だけど、これは本当泣きたくなるって……。
でも、父さんと母さんは俺を抱き締めてくれた。
「よかったよ、ハルが無事で……」
「そうよ……。ユニーク魔法が発現したら死んじゃう事だってあったのよ? でも、死なないでくれてよかった」
「確かにお前は魔法を使いたいってずっと言ってたし、それが使い物にならないのは本当いショックだと思う。でもさ、俺達はお前が生きてくれてただけで嬉しいんだ」
「……父さん」
「お前にはまだ先の人生がある。だからさ、父さんと母さんが協力するから、何をしたいかを一緒に見つけようぜ?」
母さんも力強く頷いた。
……あぁ、俺は前世よりもいい両親の元に生まれたな。
すごくさ、すごく暖かいんだ。抱き締められている身体も、心もさ。
……うん、決めた。
「父さん、母さん。心配させてごめんな。でも、もう少し俺はこの魔法と向き合ってみる」
そう、俺らしくなかったんだよ。
俺は前向きが売りなんだ。
確かにスタートは大きく躓いたけど、きっとこいつだって使い道があるはず。
せっかくの第二の人生なんだ、心折れるまで試してみようじゃねぇか!!
「おう、頑張れ!」
「私達は、いつでもハルの味方よ!」
うん、この両親もいてくれるから、頑張れる。
「おう、俺は絶対にやってやるよ!!」
よっしゃ、この魔法を絶対に有用にしてやるぜ!!
俺は夕食を済ませた後、自室にこもった。
学校を出る前に、チャップリン校長(本名だったのにびっくりだ)からたくさんの本を貰った。
俺は早速これを読み漁る。
これらの本は、ユニーク魔法について書かれている書籍だ。
魔法の歴史は五百年と意外に浅いのだが、その五百年間で確認されたユニーク魔法は、たった十二件。俺が十三件目だ。
最初に発見されたユニーク魔法は、自分が感電する《雷》だ。
次に《氷》、《樹》、《操作》と立て続けに発見されたが、どれも有用な使い方を見出だせずに一生を終えている。
ここで百年程間が開いて、久々にユニーク魔法使用者が発見された。
属性は《雲》。自分の頭上に小さな雲を作る事が出来たんだとか。
だが、それだけで終わった。雲が出来ただけだったんだ。
それから様々な属性が見つかったが、結局有用な使い方を見出だせずに一生を終えていた。
でもやっぱり本を読み漁っても、俺のシャボン玉に近いユニーク魔法は記載されていなかった。
つまり、俺の魔法は前例にないって訳だ。
くっそぉ、俺も手探りでこのシャボン玉を調べなきゃあかんわけですな!
……面倒くせぇ!
こういう時、異世界転生もののテンプレで存在する、鑑定スキルがあると便利だったよなぁ。
まぁでも、俺はあれがなくてよかったって思う。
だってさ、何でもかんでも鑑定でわかっちゃったら、つまんねぇじゃん?
せっかくの第二の人生だ、山あり谷ありあってもいいじゃん?
そういうのを乗り越えるのが、人生の醍醐味だと俺は思っている訳。
盛大に異世界転生のテンプレをディスっちゃってるけど、別に嫌いじゃない。あくまで俺の考えだぜ?
とにかくだ、こりゃ手当たり次第やってくしかないわな!
俺はありがたい事に前世の記憶が残っている。
俺の記憶の中にある、漫画やアニメの知識をフル動員してでも、こいつが何なのかを突き止めてやる!
はい、二時間経過しました。
では、俺の魔法についてわかった事を発表したいと思います。
・シャボン玉は百個以上生成可能。
・一つ一つに指示を出す事で、ある程度はその通りに動いてくれる。
例えば、ボールのように弾みながら転がったりとか。
・基本指示を出さない限りは、どんな物体や生物であろうとすり抜ける。
・重力の影響を一切受けず、直進出来る。摩擦の概念もない。
・「弾けろ」と指示すると消える。弾けない。
・シャボン玉同士が、見えない魔力の線で繋がる事も可能。
上記の事が判明しました!
……くっ。
何の成果も得られませんでしたぁぁぁぁぁぁっ!
うわぁ、意外と厳しいぜ……。
俺が本気で集中すれば楽勝だぜって思っていたが、楽勝ではない……。
マジで辛いぞ、どうしよっか。
手詰まりな俺は、とりあえず十個のシャボン玉を生成して空中に浮遊させ、魔力の線で繋いでいる。
あぁ、くそっ。お前らはどういう魔法なんだよ!
「あぁ、もう! 俺はさ、こんな地味な魔法はいらなかった訳!! こう、もっとさ、『バンッ』て派手な魔法をぶっ放したかった訳よ!」
頭の中で、ド派手な爆発と爆発音が鳴り響くイメージをした。
やっぱりさ、そういうのって憧れるやん?
だからさ、そういうのを望んでいたわけ。
それが、こんな地味なシャボン玉だからなぁ。もうさ、『バーンッ!』って音出しちゃいなよ。
『バーンッ!!』
うわっ!!
俺の部屋で爆発音が鳴ったぞ!
しかもかなり大音量!!
何だ何だ!?
「おい、ハル!! どうかしたか!?」
「ハル!! ユニーク魔法が暴走した!?」
あの爆音で、両親が駆け付けてきた。
まぁそりゃあんだけ音がでかかったんだ、二人にも聞こえるだろうよ。
「……いや、何でもない。大丈夫」
何度も心配されたが、とりあえず大丈夫ってのを伝えて戻って貰った。
しっかし、びっくりした……。
いきなり爆発音だからなぁ。
でも、おかげでヒントが掴めた。
次にやってみて成功したら、属性が確定する。
俺は風鈴の音をイメージする。
優しい、心が落ち着く音色だ。
すると、十個のシャボン玉から、懐かしい風流な音色が聞こえた。
……うん、確定だ。
俺の属性は、《音》だ!
十個が風鈴の音を出したのは、全てが魔力の線で繋がっているからだろうな。
そして、線で繋げばリンクするって仕組みだな。
ふむふむ。
ん~、あれ。
この属性って、やろうと思えばすっげぇ有用性高くね?
特に音楽業界に身を埋めていた俺なんて、特にさ!
あんな事だって、こんな事だって出来る訳だろ?
もしかしたら、戦闘にだって使えるかもしれない。
……ふ、ふふふふふっ。
地味だ、この属性は超地味だ。
だが、俺に掛かれば素晴らしい魔法になるぜ!
はっはっはっはっは!
俺にも光明が見えてきたぜ!!
とりあえずこの魔法に名前を付けよう。
そうさなぁ……。
ま、安直だが《サウンドボール》だな。
これからこいつを使って、研究しまくるぜ!!
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