第5話 俺の魔法は、シャボン玉……


「ハル、大丈夫だったかい?」


「は、ハル君……大丈夫?」


 俺はアンナ先生と教室に戻って自分の席に座ると、レイとリリルが心配そうに話しかけてくれた。

 

「おう、大丈夫! 俺、ユニーク魔法持ちだったみたいだ!」


「「えっ……」」


 ああっ、二人の表情が悲痛そうな顔になってる!

 どんだけだよ、ユニーク魔法!!


「そ、そういう目で見るなって! ほら、ユニーク魔法っていうと俺しか使えない魔法じゃん!? だったら今まで誰一人極められなかったユニーク魔法を、俺が極めればいいだけの話だしさ」


「で、でも……私、ユニーク魔法持っちゃうとどうなるか、知ってる、もん」


 あぁぁぁぁ、リリルさんや!

 俺の為にそんな泣きそうな顔になってくれるのは嬉しいけど、そんなに俺自身悲観していないから、マジやめて!

 女の子の泣き顔見ると、マジで心折れそう……。


「リリルの言う通りだ。僕も知っている。その……」


 あぁ、大体のユニーク魔法所持者は自爆して最悪死んでるのを知っている訳か。

 つまり発現させたら俺もそうなるんじゃないかって、二人共心配してくれてるんだな、きっと。

 ……ありがてぇな。


「心配してくれてありがとうよ! ま、死なない程度に今日から特訓するからさ!」


「「えっ、特訓?」」


「おう、アンナ先生が見ている上なら、魔法の特訓してもいいらしいぜ」


「ほ、本当に大丈夫かい?」


「き、き、危険だ、よ?」


「先生がいるなら大丈夫だって、だいじょ~~ぶ!」


 俺がこんだけ大丈夫って言っても、二人共まだ不安そうな顔してるわ。

 とりあえず俺は、二人の頭をくしゃくしゃっと撫でる。


「うわっ、何するんだ!」


「は、ハル君?」


「ははっ、俺はツいてる! 入学早々最高の友達が二人も出来たんだからさ!」


「と、友達?」


「ありゃ、俺が勝手に友達って思ってたパターンかな? なら改めて俺と友達になってくれ、リリルとレイ!」


 俺は二人の顔を交互に見た。

 うん、嫌そうな顔はしてねぇな。

 もし嫌そうな顔してたら、おじさん傷付く。

 結構俺、メンタル弱いんだぜ?


 するとレイが、「ぷっ」と吹き出し小さく笑い始めた。


「あははっ、こんなに面白い男の子は初めてだよ! 喜んで、お友達になろう!!」


 レイが俺に握手を求めてきた。

 さっすが貴族! しっかり友情を形にして表現してきやがった。

 人間、何だかんだで目に見えない『人間の関係性』を何とか形にしたいからな。

 俺はにかっと笑って、握手をがっちりした。


 リリルも、声を振り絞りながら、赤面しつつ言った。


「わ、私も……話してて楽しいし、こん、な私に……『しゃきっと喋れよ、キョドり女』って言ってこないのが、嬉しい」


 あ?

 誰だ、可愛いリリルにそんなふざけた事抜かしたガキは!

 それが可愛いのがわからんとは、やっぱりガキだな、所詮は!

 ……後で誰かわかったら、蹴飛ばしてやる。


 まぁそれは置いておいて。

 リリルも遠慮しがちに握手を求めてきた。

 小さい手だなぁ。

 彼女のそんな手をがっちり握り、強い友情の証として握手をした。


 その時、リリルは満面の笑みを見せてくれた。

 

 そうだよ、女の子はやっぱり笑顔が一番だぜ!


 さぁ、頑張って授業を受けてやろうじゃないか!!








 さて、待ちに待った魔法特訓の時間です!

 えっ、授業風景はどうしたって?

 だってさぁ、これも異世界転生物の鉄板でさ、四則演算のやり方からだったんだぜ?

 俺はそんなの前世で日常的にやってたから、今更なんです。

 眠気を抑えるのが本当に大変だったけど、俺とレイでリリルの手伝いをしたりしてたら、眠気は吹っ飛んだ。

 レイはさすが貴族の息子、すでに四則演算は普通に出来ていたな。


 今俺は、学校の魔法訓練所にいる。訓練所は魔法の試合等を行える場所でもあり、観客席が設けられている。

 この場にいるのはアンナ先生と、心配で様子を見に来てくれたレイとリリル。

 ただしレイとリリルは観客席からの見学だ。

 

「では、始めましょう。ハル君、心の準備は良いですか?」


「全然問題なしのオールグリーンですよ~」


「わかりました! なら始めましょう」


 とか言ってるけど、実はアンナ先生が俺より遥かに緊張しているのは知ってるんだぜ?

 アンナ先生もなかなか可愛いのぉ!

 

「さて、私と校長先生で特訓内容を決めました。まずハル君には、《魔力瞑想》をやっていただきます」


「なんですか、それ?」


「魔力瞑想は、体内にある魔力を体外へ放出するものです。その時に放たれる魔力の色や質で、ハル君の魔法属性をおおよそ決めます」


 おおよその判断なんだ……。

 でもまぁ、手掛かりが全くないよりかはマシだな!


 俺はアンナ先生の指示に従ってその場で座禅を組み、目を閉じる。


「ハル君、まずは心を落ち着かせてください。すると回りの音が気にならなくなり、自分の心臓の音だけが聞こえるようになるでしょう」


 そこまで集中するのか。

 でも俺は、集中に関しては前世から得意なのだよ!

 ……それで死んじまったけど。


「それが魔力瞑想の第一段階です。第二段階になると血が血管を流れている音が聞こえるようになります。そして魔法解放出来ている人は、血液と一緒に流れている魔力を感じられます。それらを外に放出するイメージをしてください」


 マジか!

 相当集中しないと、その第二段階に行けないって事だな。

 オーケー、やってやろうじゃん!!


 ……


 …………


 ………………


 どくん、どくん。


 心臓の音が聞こえた。

 何だろう、心臓の鼓動って落ち着くな。

 一定のリズムで刻まれていて、心地良い。

 

 どくん、さーっ、どくん、さーっ。


 そして心臓が動く度に、何かが流れる音がした。

 そっか、血液が流れる音か。

 全身に血が巡る音なんだな、これが。

 すると、血管の中に光り輝くものが認識できた。

 直感でわかった。これが魔力だ。


 俺の魔力量はランクSを凌駕しているらしい。

 だから、俺の全身の血管という血管が光り輝いているようだ。

 よし、これを外に放出するイメージをしよう。


 …………


 っ!

 体が、熱い!!

 体が弾けたようだ!!


「きゃぁっ!! この放出量は尋常ではないわ!!」


 これはアンナ先生の声か?

 俺は目を開けてみる。

 すると、俺を中心にして衝撃波が発生していた。


「ハル君、物凄い放出量です!! 私もびっくりしました!!」


「そうなんっすね……! なん、か、体がすっげぇ、熱い!!」


「もう少し我慢していてください! 恐らく体が弾けそうな感覚に襲われていると思います。それを抑え込むようにイメージしてください」


「ういっす!!」


 よっし、イメージするぞ!

 そうだなぁ……。

 抑え込む……どうやって?

 これ、結構しんどくて、上手くイメージ出来ないんだけど。


「ハル、頑張れ!!」


「ハルくぅん、がんばれぇぇぇぇ!」


 レイとリリルの声がした!

 えっ、リリルがあんな大きい声を出した!?

 レイだってあんなに大きく口を開いて……。

 その瞬間、何故かわからないけど、二人に抱き締められるイメージが沸いた。

 まるで、包み込まれているような、そんな感じ。

 正直、抱き付くのはリリルだけにして欲しかったが、まぁ男の友情って事でレイに抱き締められるのも止むを得ず許可しようではないか!


 すると、体が弾けそうな感覚は一瞬にして引いた。

 何て言うか、魔力が俺の全身に吸着したような感じだな。

 上手く抑えられたようだ。


「ハル君、早くも魔力瞑想のコツを掴むとは、素晴らしいです! 今、君の魔力は目に見えるオーラとなりました。自分でも確認してみてください」


 アンナ先生がにっこりして褒めてくれた。

 ふふん、集中とイメージは俺の専売特許ですぜ!

 さて、俺のオーラを確認するか。


 自分の手を見ると、全く透明のオーラが俺の手や腕を覆っている。

 あれだ、ド○ゴ○ボ○ルみたいな感じだ。

 でも、無色だね、俺の魔力……。


「ねぇアンナ先生、俺の魔力の色、無色っすよね」


「……ええ、無色ですね」


「えっと、……つまり?」


「………………属性ではない可能性が出てきます。前に話した《操作系》等の現象を操る魔法の可能性が出てきました」


 《操作系》とは、何かを操作する魔法だ。

 ほんの数ミリしか物体を動かせなかった魔法だったよなぁ。

 何か聞く限り、色々やれそうな気がするんだけどね、その魔法も。


「では次の段階に行きましょう。今纏っている魔力のオーラを掌に集めてみてください。文献によると、これで大抵のユニーク魔法の正体が掴めるとの事です」


「了解!」


「ただし気を付けてください。それを行った事で、《氷属性》の使い手は全身氷漬けになって死亡しました。《樹属性》の使い手も自分が樹になってしまいましたから」


 おおおおいっ!!

 さらっと怖い事言わないでくれる!?

 くそっ、アンナ先生、俺の事もう五歳児として扱ってくれてねぇ!!

 まぁ、そっちの方が気楽でいいんだけどね。


 えっと、掌に集めるイメージだっけか?

 あっ、これもド○ゴ○ボ○ルを元にイメージした方がいいな。

 よっしゃ、やるぜ!!


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 うん、ただ叫んだだけ。

 そうした方が雰囲気出るじゃん?

 さぁ、何か出ろ、何か出ろぉ!!


 ……ちょっと屁が出たが、気にしない。


 おっ、掌が熱くなってきた。

 よっしゃ! そのまま発現したまえ、俺のユニーク魔法!


「来い来い来い来い、来た来た来た来たぁ!!」


 ぽわんっ。


 ……はい?

 俺の掌に、シャボン玉みたいなのが生成された。

 えっ、何これ。


「アンナ先生、シャボン玉が……出来ました」


 えっ、まさか俺のユニーク魔法、シャボン玉を作る魔法……?

 マジ、本当にマジ?

 ははっ、辞めてよそんな冗談。マジいらねぇよ、冗談は。

 今の俺の顔、絶望してる顔なんだろうなぁ。


「えっ、私には何も見えませんが?」


「うえっ? ほら、俺の掌にあるじゃないですか、シャボン玉!」


「……何もありませんよ?」


「うっそだぁ!! レイとリリル、俺の掌にシャボン玉があるよな?」


 観客席に座っているレイとリリルにも聞いてみた。

 だが、二人共首を横に振っている……。

 ……マジで?


「……つまり、君以外には見えないシャボン玉が作れたという訳ですね」


「……そういう事っすかね」


「……使い道、一緒に考えましょう」


「……俺、泣きそうっす」


 俺のユニーク魔法。

 俺にしか見えないシャボン玉を生成する魔法でした。


 まっっっっっっっじで、役に立たねぇ!!


 俺はこの二度目の人生で、赤ちゃんの時以来初めて泣いた。

 流石の俺も、ここまでの理不尽は悲しかった。

 くっそぅ、本当にユニーク過ぎて、もう乾いた笑いしか出てこねえよ……。

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