新たな始まり。

- チュン チュン -


昨日は、疲れていてすぐに眠ってしまったようだ。

窓からさしこむ光りに鳥のさえずりが心地良い。ベッドに仰向けのまま、背伸びをした。

大きく深呼吸して、ベッドから起きあがった。窓からベランダを見ていると、小鳥たちが居る。今日も良い天気だ。そう言えば、精霊界に来てからまだ、天気が崩れた事はない。

過ごしやすい世界だな。窓の外を見ていたら、ファルルの着信音がなった。レイからだ。ギールから連絡があり、昼前に集まって欲しいとの事。

そう言えば昨日、ギールから時間は聞いていなかったな。朝食も抜きのようだ。

まぁ、豪華な料理とか出そうだし。

お腹をすかせて行かなければ失礼に当たるとか、そう言うのがありそうだな。

ファルルで、映像を流してみるとニュースが流れていた。

行方不明になっていたバルトが無事に発見されると言うのがちょうど流れている。

バルト、昨日の今日で早速、ニュースになっている。大変そうだな。

バルトも祝いの席にも参加するのだろうか?

まぁ、ギールの家で泊まったくらいだし、バルトも参加するだろう。

ギールは皆に好きな格好で来るように言っていたが、私は何を着ていこうかな。

やっぱり、身動きのとやすい服装が良いか…。

レイは、ドレスか何か着て行くのだろうか?

まぁ、行く前に誘ってくれるだろう。

サシャやミリアがどんな服装で来るのかも少し気になるが…。

私は、身動きのとりやすい服装で出発まで待った。


- コンコン -


ドアをノックする音。ドアを開けると、レイが居た。


レイ  「ちょっと遅いけど、おはよう。」


私   「あぁ、おはよう。 その格好で行くのか?」


レイ  「はい、変ですか?」


私   「変ではないけど、ドレスか何か着ていくのかと思っていたから…。」


レイ  「あぁ~。 私は、これで行きます。」


レイは、ドレスではなく普通の服を着ていた。まぁ、服装は自由だし良いか。サシャもミリアもドレスって感じではないな。皆、普通の服装で来そうだ。


レイ  「そろそろ、行きますか?」


私   「え? でも、ちょっと早くないか?」


レイ  「早めに行って皆を待つくらいが、ちょうど良いですよ。」


私   「まぁ、遅れて行くよりは先に着いている方が良いか…。」


私とレイは、宿を出てギールの家に向かって歩き始めた。その途中、ミリアに出会った。


ミリア 「あぁ、こんにちは!」


私とレイも挨拶を返した。


レイ  「ミリアも出発が早いね。」


ミリア 「遅れて行くよりは、先に着いていた方が良いじゃないですか?」


私   「私と同じ意見だ。 仲間だな。」


ミリア 「サリア2号ですね?(笑)」


ミリアは、笑いながら言った。私の2号って何だ?

謎だが、そう言う事にしておこう。ミリアも普通の服装だ。


そして、3人でギールの家まで行くと兵士がいつも通り出迎えてくれた。


兵士  「お待ちしておりました。 御案内します。」


兵士について行くと皆、すでに来ていた。ノイルもバルトもサシャも居る。

そして皆、普通の服装だというオチ。


レイ  「皆、早いですね。」


ノイル 「当たり前だろ。

      料理が間に合わないからって、ギールに呼び出されて一緒に

      手伝っていたんだからな。俺達の祝いの場なのに、何で手伝って

      いるのか意味が分からない。」


相変わらず、ノイルは無愛想だ。

まぁ、確かに祝ってもらえる側が手伝うというのは、なかなかのカオスだ。


ミリア 「料理は、豪勢ですか!?」


ノイル 「それは、秘密だ。 今、明かしたら面白くないだろ?」


ミリア 「えぇ~~~!!!」


そこに、ギールがやって来た。


ギール 「皆、今までご苦労じゃったな。

      今から、祝いと言う名の食事会をしよう。

      お腹いっぱい食べると良い。ほら、兵士よ。

      お前さんも一緒に食事会に参加しなさい。」


バルト 「私も参加して良いのですか?」


ギール 「勿論、構わない。 無事に帰ってきてくれた事だしな。」


ギールが合図を出すと、色々な料理が机に運ばれてきた。飲み物の種類も豊富だ。

相変わらず、私にはどの料理がどう言う食材から出来ているのかは分からないけど、一つ言える事は、精霊界の料理は美味しいと言う事。


サシャ 「うわぁ~、こんなに沢山の料理は見たこと無いですぅ~。」


サシャが驚いて言った。確かに、これだけの人数が居てもあまるくらいの量はある。


ギール 「料理が残ったら、持ち帰って家で食べてもらっても構わない。」


ミリア 「本当ですか!? お土産にしよう♪」


ミリアは、お土産にするらしい。私も、あまったら少し持って帰ろうかな。


レイ  「サリア。うちの宿には、持って帰れないからここで食べてね。」


私   「そうなのか?」


レイ  「料理を持ち込んで宿に入る精霊は居ないから。」


まぁ、確かに泊まるのだから、料理も宿で食べるのが普通か…。

私の持ち帰ろうという考えは、無駄に終わった。

その後、皆で話しながら飲んだり食べたりして、数時間が経過した。


サシャ 「もう、お腹いっぱいですぅ~。」


ミリア 「私も…。」


レイ  「朝ご飯、食べてこなかったけどもう無理かも。」


私   「私も、これ以上は…。」


バルト 「兵士なんか、すでに食べられなくなって何処かへ

      行ってしまいましたよ。」


確かに、バルトに言われて気付いたが兵士の姿が見あたらない。

それより、気になったのは、ノイルの食欲だ。ノイルは、休まず食べている。


バルト 「ノイルは相変わらず、大食いだよな?」


ノイル 「そこは、放っておいてくれないか?

      てか、お前ら、お腹いっぱいなのは分かったがこのあと、デザートも

      あるからな。

      デザートが食べられるだけは、お腹の中、あけとけよ?」


皆、ノイルの発言に凍りついた。

すでに皆、お腹いっぱいで、いくらデザートとは言え、休憩をはさまない事には食べられないだろう…。


サシャ 「少し休憩してからのデザートを希望~。」


サシャの意見にノイル以外、全員が賛成した。

おそらく、休憩をはさまずにデザートを食べる事が出来るのはノイルだけだろう。


ギール 「まぁ、皆。 楽しんでくれていて何よりじゃ…。」


ノイルの大食いを皆、見ていてギールの存在を危うく忘れるところだった。

この食事会を企画してくれた精霊を忘れるとは、私も酷い精霊だな。


ギール 「私も久しぶりに、こんなに沢山の料理を食べた。」


レイ  「イベントがない限り、こんな贅沢な事はしませんからね。」


ギール 「そうだな。」


そう言うと、ギールは席をはずした。その後、ノイルも食事を済ませ皆、くつろいでいた。

そこへ、兵士が戻ってきた。兵士は、デザートを置くスペースを確保したいので一旦、料理を片付けますと言って料理を片付けた。


ノイル 「ふぅ~。 食べた食べた。」


ミリア 「かなりの量、食べていましたよね?」


バルト 「ノイルは、大食いだからな。精霊界の食べ物、食べ尽くされるぞ?」


サシャ 「えぇ~、それは困りますぅ~。」


ノイル 「そんな訳ないだろ。」


ノイルが冷静に答える。

まぁ、確かにノイル一人でこの精霊界の食材を食べられたら、他の精霊も困るし、何より怖いな。


ノイル 「おい、サリア! なんか、ろくでもない事、考えていただろ?」


私   「そんな事はない…。」


確かにろくでも無い事を考えていたが、表情で読み取られてしまったか…。

気をつけないと…。そこへ、ギールが戻ってきた。


ギール 「食後のデザートの前に、皆に大事な話がある。」


ギールは、真剣な顔つきで話し始めた。かなり、大事な話のようだ。


ギール 「まずは、サリア。 お前さんに仕事を与える。」


私   「仕事………、ですか?」


私に出来る仕事なのだろうか?

仕事を与えてくれるのは、ありがたい話だが、精霊界の事は詳しくない。


ギール 「安心しろ。お前さんにしか出来ない仕事じゃからのぉ。」


流石はギール、心の中を早くも読んだらしい。


ギール 「今まで精霊界には、精霊達を護る存在が無かった。

      今回の件で、私も精霊達を護る存在が必要だと痛感した。

      そこで、私は今後、精霊界の精霊達を護る事が出来る防衛軍を

      作る。その軍の指揮を、お前さんに任せよう。

      悪魔とも戦えるだけの力だ。

      精霊を護るために、その力を使ってくれ。」


私   「それは、危険なのでは無いですか?

     戦う事を精霊達に教えるには、色々なリスクが伴いますよ?」


ギール 「軍に入れる素質のある者は、私が選ぶ。

      勿論、そのままの状態では、軍には入れない。

      お前さんと同じように、少し術をかける。

      そうする事で、他の精霊達に悪影響は出ない。

      勿論、それだけではダメだとは思うが、ダメなところは徐々に

      改善させていく。防衛は、必要だ。」


ノイル 「悪い話じゃ、無いだろ? 引き受けろよ?」


ノイルが他人事感丸出しの言葉を投げかけてくる。確かに、悪い話ではないと思う。

私の力を発揮する事が出来る仕事かもしれない。私は少し考え、答えを出した。

引き受ける事にする。


私   「分かりました。 その仕事、引き受けます。」


ギール 「ありがとう。 次にレイ、お前さんも防衛軍に入ってくれるか?」


レイ  「私には、断る理由はありませんよ。 サリアも一緒なら喜んで☆」


ギール 「話が早いのぉ。レイは、サリアをサポートしてあげてくれ。

      まだ、精霊界の事も全然、分かっていないから徐々に

      教えてやってくれ。」


レイ  「はい、任せてください☆」


ギール 「次に、サシャとミリア。 お前さん達も防衛軍に入ってくれないか?」


サシャ 「ミリア、どうする~? 私は、どっちでも良い~。」


ミリア 「なんか私達、結構、良いメンバーだと思うし入っても

     良さそうじゃない?」


サシャ 「ね~☆ じゃあ、入ります。」


ミリア 「私も入ります。」


ギール 「断るかと思っていたが、入ってくれるのか。ありがとう。

      サシャは施設やお風呂に入れない精霊達を清潔にしてほしい。

      病気でお風呂に入れない精霊も出てくるからのぉ。」


サシャ 「私の力、かなり有効に使えそうですぅ~。」


ギール 「ミリアは、もっと強力な治癒術を使えるように自分を磨くのじゃ。

      万が一、戦う事になれば負傷する者も出てくる。

      その時、すぐに治してあげられるようにしておくのだぞ?」


ミリア 「私も私の力を最大限、仕事に活かせそうですね!」


あー、私は分かったかもしれない。ギールは、このメンバーを解散させる気は確実にない。全員を防衛軍に入れるつもりだ。だが、ノイルはそう簡単にはいかないだろう。

やりとりが楽しみだな。


ギール 「ノイル。お前さんには、防衛軍に入るかどうかは聞かない。」


ノイル 「はぁ? 何でだよ?」


ギール 「ノイル。 お前さんは、防衛軍に入るのじゃ。」


ノイル 「何で、俺だけ強制なんだよ?」


ギール 「入ってくれるか聞いたら、お前さんは即答で断るじゃろ?」


ノイル 「当たり前だ。俺は、防衛軍なんぞには入らない。」


ギール 「だから、強制で言う。お前さんの料理の腕は良い。

      必ず一流の料理人になれる。一流の料理人になって、一流の店で

      料理人として働く事だけが一流か?

      精霊を護るための軍に入り、精霊を護る者の健康を考えながら

      美味しい料理を出す。そっちの方が、やりがいは無いか?」


ノイルは、考え込んだ。まぁ、ノイルは断るだろう。


ノイル 「分かった。 ただし、それだけの食材は用意しろよ?」


ギール 「勿論だ。 約束しよう。」


ノイル 「入ってやるよっ! おい、サリア。

      俺が入った以上、何の食材か分からないは許さないぞ?

      精霊界の食材、全部、覚えてもらうからな。」


ノイルが防衛軍に入る事を受け入れるとは…。嬉しいような嫌なような。

ノイルは、私を睨みながら言った。これは、食材は早く覚えないと私の身がもたないな。

そう言えば、バルトはどうなるのだろう?


ノイル 「ギール、バルトはどうなるんだよ?」


バルト 「………。」


ギール 「バルトには、罪は軽くするが、罪はつぐなってもらう。」


バルト 「はい、覚悟しています。」


ギール 「バルト、お前さんには防衛軍の中に研究施設を用意する。

      お前さん一人に任せると今回のような事が起きるかもしれん。

      同じ過ちはしないと言う強い思いは伝わってくるが、今後は私も

      研究所内を見てまわる。良いな?」


バルト 「それで、私はどうやって罪をつぐなえば良いのです?」


ギール 「精霊達の命を救えるような薬を死ぬまで作り続ける事だ。」


バルト 「ギールさん………。 ありがとうございます。」


結局、全員が防衛軍に入る事になった。まぁ、途中から予想は出来ていたが…。

これで、私もお金をもらえる。精霊界で、自立した事になるのだろうか?


ギール 「皆、ありがとう。」


ギールは、心から感謝している。

それにしても、防衛軍はいつから活動を始めるのだろうか?


バルト 「私は、早く研究を始めたいです。

      防衛軍は、いつから活動を始めるのですか?」


バルト、素晴らしい質問だ。

皆、バルトの質問を聞いてギールを見つめる。


ギール 「そんなにすぐではない。まだ、建物すらない状態だ。

      早くても数ヵ月後だな。それまでは皆、自由に過ごすと良い。

      そのかわり、防衛軍が活動を始めたら皆、各自の能力を最大限に

      発揮してくれ。」


皆、うなずいた。

私は、今後もしばらくは、レイの家の宿にお世話にならなければならいようだ。


私   「レイ、防衛軍が出来るまではお世話になる。」


レイ  「はい、ずっと住んでいても良いですよ?」


私   「いや、それは流石に抵抗がある。 快適だけど…。」


レイ  「半分冗談ですよ☆」


その後、皆で食後のデザートを食べた。デザートは別腹だ。

皆、結構、食べていた。


ギール 「さぁ、食事会も終了だ。 サリア以外、そこに一列で並ぶのじゃ。」


ギールは、私にかけた術と同じものをかけようとしている。


私   「ギールさん、私と同じような術をかけるのであれば、今でなくても

     良いのではないでしょうか? 防衛軍が出来てからでも…。」


ギール 「それもそうだな。 出来てからでも良いだろう。」


そう言うと、ギールは術をかけるのをやめた。


ギール 「それでは、防衛軍が活動できる状態になれば皆のファルルに

      メッセージを入れる。その時に、また集まってくれ。」


こうして、私達は自由な時間を与えられた。

私とレイ以外は皆、残った料理を入れ物に入れた。

私も料理、お持ち帰りしたかったなぁ。


サシャ 「それでは~、今度は防衛軍として会いましょう~☆」


ミリア 「今のうちにいっぱい遊んでおきます!」


ノイル 「俺は、料理修行の旅にでも出とくわ。 バルト、一緒に来るか?」


バルト 「仕方ないですね。 良いでしょう。」


各自、色々な過ごし方があるのだな。皆、いきいきとしている。

皆と別れた後、私とレイも宿に戻るため歩き出した。


レイ  「防衛軍かぁ~。精霊界には、防衛軍なんて必要ないと思うけど

     楽しみですね☆」


私   「そうだな。 精霊界は、この先もずっと平和だろう。」


そう、この時の私達は精霊界の平和がずっと続くと思っていた。

防衛軍が出来て、その数年後、防衛軍が出撃するような事態が起きるとは誰も予想すらしていなかった。

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主人公は、あなただと思う。 神崎 @kannzaki-353

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