精霊界での9日目。
- シャーーーーーーッ -
聞き慣れない音で目が覚めた。
皆、この音で起きたらしい。ノイルは相変わらず早起きだ。
すでに、料理の準備にかかっている。
ミリア 「この音、なんですか?」
ノイル 「この辺りに住む鳥だろ?」
誰よりも早く、ノイルがその答えを出した。
ノイルは確か、生物には詳しい。
悪意がある鳴き声にも聞こえないし、それで良いか。
サシャ 「目覚めがわる~い。 この鳴き声…。」
レイ 「精霊の生活圏に戻りたいなぁ…。」
私 「悪魔のような存在の本体を消し去れば、すぐに戻れるさ。」
ノイル 「今日、決着がつくとは限らないだろ?」
私 「それは、そうだが…。」
ノイルは、冷静だ。私も正直、精霊の生活圏で平和に暮らしたい。
ここは、色々と危険だ。精霊も住めない訳だ。
ノイル 「とりあえず、お前ら夜遅くまでゲームしていただろ?
目を覚ますための飲み物も作ってやったから飲め。」
そう言うと、ノイルは全員に飲み物を配った。はっきり言って、緑色で臭い。
いったい、これは何なのだろう?
精霊界に来て、初めてのはずれかもしれない。
飲んでみると、まずかった。
私 「ノイル。 まずい! これは、まずい!」
レイ 「何これ…。」
サシャ 「美味しくない…。」
ミリア 「これは、薬草。 まずっ…。」
ノイル 「昨日、薬草が生えている所を見つけたんだよ。
お前ら、どうせゲームしてグダグダな朝を迎えると思ってな。
まぁ、安心しろ。その薬草は体力を回復させる力もある。
それに、今朝の朝飯だが、皆が最大の力を発揮できるように
考えたメニューだ。俺もこんな生活は嫌だからな。
今日で全てを終わらせて帰る。ただ、それだけだ…。」
ノイルのくせに格好良い事を言っている。
でも、正直、この飲み物は無いわぁ。初めてのはずれだ。まずい。
でも、良薬は口に苦しとか言うし良薬であった事を祈ろう。
それにしても、ノイルの料理は美味しい。
朝食にこんなに美味しいものをいただけるとは…。
- ドンッ! ドンッ!! -
皆と朝食をとっている最中、建物を叩く音が聞こえた。
レイ 「何!?」
ミリア 「何か、外に居ます!」
サシャ 「悪魔のような存在が向こうから来たかな~?」
ノイル 「・・・・・。 食事は終わりだな。」
ミリア 「どうしよう…。」
私 「ミリア、建物を消す事は出来るか?」
ミリア 「はい、設定時間以内の解除も出来ます。」
私 「レイ、全員にシールドを! ミリアは、建物を消してくれ!」
レイは全員にシールドを張り、ミリアは建物を消した。
すると、私にでも分かる精霊界以外の生物がそこには居た。
ノイル 「なんだ、こいつら…!?」
そこに現れた生物は、全員が驚く生物だった。無理もない。
巨大ミミズのような生物がそこには居た。
しかも、目と思われる部分は多数あり赤色の光や黄色の光を放っている。
これこそ、悪魔のような存在だ。
ミリア 「私達、ここで死ぬの?」
ミリアが不安そうに言う。
私 「ここで、死んだら精霊界の平和は護れないだろ? 安心しろ。」
そう言って、私は武器を作り出した。武器と言っても、動きを封じ込めるだけ。
網目のものをかけて、動きを封じ込めた。
私 「今のうちに逃げるぞ。 こんな奴と戦っている暇は無い。」
ノイル 「そうだな。」
全員で走って逃げた。そして、逃げた先こそが悪魔のような存在が居ると言う場所だった。皆、息を切らしていて水筒の水を飲んだ。周囲には木々以外、何もない。
ファルルを見てみると、ギールが指示した場所に間違いない。
でも、そこには悪魔のような存在どころか何も居ない。静まり返っている。
私 「ギールが教えた場所。 ここだぞ?」
ノイル 「間違っているんじゃないか? 何も居ないじゃないか?」
レイ 「恐ろしいくらい静か…。」
ミリア 「何か居ます。 あの木の上!」
サシャ 「精霊?」
ミリアの指差す方を見てみると、暗い木の上に何かが居る。
その何かは、私達の方を見て、木から降りてきた。
そして、私達の方へ歩いてきた。精霊のように見える。
ノイル 「そんな…。 バルト…?」
私 「バルト?」
バルト? 精霊の名前だろうか? 近づいてくるにつれ、その姿は鮮明になってくる。
背の高さは、ノイルと同じくらいの高さ。白い髪で長髪。
精霊のようには見えるが、何かが違う。
レイ 「バルト? あの行方不明になっている?」
サシャ 「バルト?」
ミリア 「ほら、数ヵ月前に行方不明でニュースに出ていた精霊!」
サシャ 「あぁ~~~…。」
ノイル 「バルトなのか!?」
行方不明の精霊? ノイルとこの精霊は知り合いなのか?
私 「ノイル、知り合いなのか?」
ノイル 「あぁ、行方不明になっていた俺の昔の友人だ。」
バルト 「ギールがお前らをここに案内したのか?」
何かがおかしい。
ファルルを見てみると、悪魔のような存在の本体に、バルトが反応している。
それ以外に、反応するものは無い。しかも、ギールの事を知っている。
私 「ノイル。 これを見ろ…。」
私は、ファルルをノイルに見せた。
ノイル 「バルトが悪魔だと? バルトは精霊だ!」
バルト 「もう一度、言う。 ギールがお前らを案内したのか?」
バルトが話しかけてくる。私は、その問いに答えた。
私 「そうだ。 ギールが、ここを案内した。」
バルト 「そうか、ふふふ…。 お前らをここで消し去ってやる!」
そう言うと、バルトは攻撃をしかけてきた。
私は、レイにシールドを全員に張るよう指示した。
バルトの攻撃は、レイのシールドで回避できた。
私 「精霊同士は、争わないって話は嘘だったのかよ!
人間と同じなのか?」
レイ 「精霊同士は争いません。」
私 「だったら、これは何だ? 攻撃してきているじゃないか?
ノイル、あれは精霊だろ?」
ノイル 「精霊だ。 バルトは精霊だ。」
私 「皆、私を騙していたのか? 精霊同士は争わないと…。」
レイ 「それは、違います!」
レイは、違うと言うが現実問題、バルトは精霊なのに我々を攻撃している。
私 「レイ、シールドの強度は?」
レイ 「大丈夫です。人間界とは違い、強度はあります。」
ノイルの昔の友人を攻撃するわけにはいかない。でも、バルトの攻撃は容赦ない。
ノイル 「バルト、何があった!? 攻撃をやめろ!!」
バルト 「ノイル。 誰に向かって指示をしている?」
ノイル 「・・・・・。」
私 「ノイル、バルトに攻撃しても良いか?」
ノイル 「ダメだ! バルトは俺の友人だ!」
精霊同士は争わないのに、目の前で起こっている光景は精霊同士の戦いにしか見えない。こちら側は攻撃しなくても、一方的に攻撃してきている。
精霊同士の争いは人間同士の争いとイコールだ。
出来れば、戦いたくはない。でも、なんでバルトは攻撃してくる?
精霊なのに…。精霊が嘘をついているようには見えない。
精霊界にきて、まだ日は浅いが、精霊が嘘をついているようには思えない。
私 「ノイル、悪いがバルトを攻撃する。」
バルト 「貴様、人間界の香りがする。 人間界で育った精霊か?」
私 「・・・・・。」
バルト 「ハハハハハ、図星か…。
ギールも心を読ませないようにしても、人間界の香りまでは
消さなかったようだな。」
何故だ。
何故、人間界の香りとかが分かる。
バルトは、本当に精霊なのか?
バルト 「人間界で育った精霊ごときに、私を攻撃するなど不可能だ。」
ノイル 「サリア、バルトの発言に乗るな。
バルトは元々、危険な術を使おうとしていた精霊だ。
話せばきっと分かる。」
私 「これが、話して分かる奴か? とにかく、攻撃する。
このままでは、レイのシールドも消えてしまう。」
そう言うと、私は銃を作り出した。
ただし、バルトに怪我を負わせる程度で消し去ろうとは思ってはいない。
ノイルは、私がバルトを消し去ると思い、必死で私をとめているが、私は聞く耳をもたない。銃口を向け、弾を撃った。が、バルトはその弾を弾き返した。
私は、更に速度の速い弾を撃った。弾は弾かれた。
バルト 「そんな攻撃。 当たるとでも思っているのか?」
ノイル 「バルト、やめろ! 何があった!?」
バルト 「ノイル。お前は私の事を友達と勘違いしているようだが、私はお前
を友達だとは思っていない。」
そう言うと、バルトはノイルを狙って攻撃した。
レイのシールドが、まるで効果が無かったかのようにノイルを直撃した。
ノイルの右腕から血が出ている。レイは、再びノイルにシールドを張った。
ミリアは、ノイルの傷を治しにかかった。
バルト 「なるほど。ギールは、素晴らしい精霊部隊をよこしたようだな。
お互いに支えあえる存在の部隊を用意したのか…。つまり、実際に
戦えるのは、人間界の香りがするお前だけか、名前は何と言う?」
私 「サリアだ。」
バルト 「唯一の存在か…。 笑えるな。
その唯一の存在、ここで私が消し去ってやろう。」
私 「・・・・・。 ノイル、これでもバルトは友人か?」
ノイル 「・・・・・。」
ノイルは、何も答えなかった。
ミリア 「そんなに傷は深くないのに、なかなか治らない。」
レイ 「ミリア、頑張って!」
ミリア 「はい!」
ノイルには悪いが、私はバルトを消し去る事にする。
ファルルは、バルトを本体としめしている。
そして、バルトは攻撃してくる。私は、バルトを敵とみなす。
全員が無事にギールのもとへ帰るためには、バルトを消し去らなければならない。
私も精霊。バルトも精霊だ。精霊同士の争い。私は参加したくないがやむを得ない。
バルト 「もう、ノイルに用は無い。 サリアよ。 私と戦え。
精霊同士が争わない。そんな訳が無い。
人間界で育った精霊のお前なら、その意味が分かるはずだ。」
レイ 「サリア、精霊同士は本当に争いません。
それだけは、分かってください。」
私 「・・・・・。」
レイは真剣だった。とても、嘘をついているようには思えない。
バルト 「サリア、まずはお前が私と戦う価値があるか試してやる!」
バルトはそう言うと、変な生物を呼び寄せた。
地面の中から、それは現れた。ごつごつした岩のような生物。
目は赤く、かなり背が高い。私は、対岩用になりそうな銃を作り出し、その生物に弾を放った。一撃で、消し去る事に成功した。
バルト 「なかなか、やるじゃないか。
ギールが戦いに行く事を許可しただけはある。
まずは、サリア。お前を精霊界から消し去ってやる。
そのあと、ノイルも含め一人ずつ消し去ってやる。」
私 「友人を消し去るなんて、よく言えるな?」
バルト 「ノイルは、友達でも何でも無い。」
ノイル 「バルトは、友人だ…。」
バルト 「勝手にそう思っていろ。 その友達にお前は消されるのだからな。」
私は、どうすれば良い。私は、争いたくはない。しかも、相手は同じ精霊じゃないか。
バルト 「さぁ、サリアよ。 もっと、私を楽しませてくれ!」
そう言うと、バルトはまた次の生物を呼び出した。
この生物、バルトの思いの力で出てきているのか?
出てきた生物は、水と炎をまとっていた。これなら簡単だ。
ギールの訓練施設で訓練したようなもの。水は氷らせ、炎は水で消し去る。
私は強力な銃を作り上げた。そして、生物の水を氷らせ破壊し、炎を水で消した。
バルト 「サリアよ。その生物は、その状態から強くなるのだ。
ギールの訓練施設のような、くだらない場所で鍛えた力など役には
立たない事を思い知らせてやる!」
確かに、その生物は弱点であるはずの部分を攻撃したはずなのに力を増しているようだ。
バルト 「ハハハハハ…、さぁ、どうする? どうする?」
私は、考えることなく強度のあるものを破壊する銃を作り上げ、その生物に向けて弾を放った。でも、それでなんとかなった。
ノイル 「サリア、お前、強いな…。」
ミリア 「ノイル、喋らないで…。 傷が治るまでは…。」
ノイル 「………。」
サシャ 「サリア、頑張って!」
皆、表面上は戦ってはいないが表面下では戦っている。
ミリアは、ノイルの傷を治している。サシャは、私を応援してくれている。
ノイルは、友人だと思っていたバルトに裏切られたが、まだ信じている。
レイは、不安そうに私を見ている。
バルト 「サリアよ。 こいつを倒す事が出来たら、私が相手をしてやろう。」
すると、バルトは凄い生物を用意した。
翼をもつその生物は空を飛べる上に、かなり巨大だ。
ノイル 「そんな…。サリア、気をつけろ。その生物に弱点は無い!」
弱点の無い生物。なるほど、そんな相手に勝てたらバルトは相手をすると言うのか…。
面白い。私は、マシンガンを作り出し、生物に向けて撃った。
が、その弾は数こそ多いものの威力は無く、生物は無傷だった。
そして、その無傷だった生物が攻撃をしてきた。
火の攻撃、そのまま直撃したがレイのシールドによって守られた。
レイ 「サリア、シールドが消えました!」
一撃で、強度のあるシールドを消し去る生物。これは、本当にヤバいかもしれない。
私 「レイ、シールドをまた張れるか?」
レイ 「大丈夫です。 シールドは今、張りました。」
流石はレイ。だが、何回もシールドを突破されては、レイもシールドを作れなくなる。
なんとか、この生物をしとめなければならない。私が武器を考えていると、生物は空を舞い、私の方に突っ込んできた。私は間一髪、ギリギリでよけた。そして、火炎放射器を作り出し、その生物の翼めがけて放った。生物の翼は焼け焦げ、ボロボロになった。これで、空から攻撃される事は無いが、丈夫な身体を貫ける武器が必要だ。
バルト 「さぁ、どうする? そいつの身体は丈夫だぞ?」
私 「………。」
バルトは余裕だ。弾を撃っても弾かれるのがオチだ。
私は、鳥籠を作ってその中に閉じ込める事を考えた。
鳥籠を作り出し、生物を鳥籠に入れる事は出来たがすぐに鳥籠は破壊され、生物は出てきた。
バルト 「鳥籠か? 考えたな。
でも、それでは思いの力が消えた時は無意味だぞ?」
確かに、バルトの言う通りだ。思いの力は、精神的なダメージが大きい。
それなら、重い塊を上から落とせば、消し去ることは出来なくても気絶をさせるくらいは出来るんじゃないか?私は、重い塊を生物の上に作り出し落とした。
すると、生物は気を失い倒れこんだ。倒れこんだ途端、バルトは生物を攻撃し、消し去った。
バルト 「ほぉ、なかなかやるな。 それでは、私が相手してやろう。」
ついに、バルト本人が出てきた。
ノイル 「バルト、やめろ…。」
バルト 「ノイルよ。 お前は本当に、おめでたい奴だな。」
ノイル 「バルト、お前は友人だ。」
バルト 「友達? お前は、友達でも何でも無い…。」
その後も、ノイルとバルトのやり取りは続いた。
話は、同じ事の繰り返しだった。
その中で、私はある事に気づいた。ノイルは、本当にバルトを友人だと思っている。
レイは、本当に精霊は争わないと私に訴えかけてくる。
ミリアも、ノイルの傷を真剣に治したいと思っている。
サシャは、何も出来ない事を不安に思っている。
その中で、心を読む事が出来ないのは、バルトだけだ。
バルトが何を考えているのか全く分からない。
ノイルの事を友達ではないと言っているが、その友達と言うワードにも何も感じない。
もしかすると、バルトは何者かに操られているのではないか?
私は、そう思うようになってきた。
私 「ノイル、バルトは本当に友人か?」
ノイル 「あぁ、友人だと俺は思っている。」
私 「ミリア、本気でノイルの傷を治したいと思っているか?」
ミリア 「勿論です!」
私 「サシャ、今、何もできない自分が不安か?」
サシャ 「不安ですぅ。」
私 「レイ、精霊同士、争いはしないよな?」
レイ 「はい、争いません!」
皆、心と発言が一致している。
私 「バルト、本当にノイルは友人じゃないのか?」
バルト 「何度も同じ事を言わせるな。 ノイルは友達ではない。」
やはりそうだ。バルトの心だけ読めない。何者かに操られている。心か?
心を操られているのか? だとしたら…。
バルト 「さぁ、サリアよ。 私と戦え。」
バルトは、私を消し去る気だ。
私 「レイ、精霊の心の中に入る事は可能か?」
レイ 「心の中ですか?」
ミリア 「出来ない事は無いです。でも、危険です。」
だいたい、危険の予想はつく。
心に入って、そのまま私が消え去ってしまう危険もあるのだろう。
まぁ、人間界で中立軍をしていたとしても戦いに身を投じていても死んでいた可能性は高い。ならば、ここで賭けに出るのも良いだろう。私は、バルトの心の中に入る事を決めた。
心を操られているのなら、その操っている者を消せば良い。
私 「これが、私の最後の指示だ。」
ミリアだけは、私が何をしようとしているのか気づいているようだった。
私 「ミリアは、建物を建てろ。その中に、皆、避難を…。
レイは、その建物全体にシールドを、それだけだ。」
レイ 「サリアは?」
ミリア 「止めませんよ。止めても聞かないでしょう?」
私 「ミリアは、私が何をしようとしているのか分かっているのか?」
ミリア 「はい。でも、無事に戻ってきてください。」
私 「努力はする。 レイ、私に新しいシールドを張ってくれ!」
レイ 「はい。」
そう言い残し、私は真剣に思った。バルトの心の中に入り込む事を。
バルト 「さぁ、戦え。」
私 「戦う。 だが、バルト、お前とではない!」
バルト 「何…!?」
思いの力が足りないのか、なかなかバルトの心の中へ入れない。
やはり、空間移動は難しいのか………?
それでも、私は思い続けた。
バルト 「何もしないなら、こちらからいくぞ!」
そう言うと、バルトはこちらに向かってきた。
私は、気にせずバルトの心の中に入る事を思い続けた。
そして、バルトの攻撃を受ける寸前で、私の身体は不思議な感覚を伴って、精霊界とは違う次元に入り込んだ。ここが、バルトの心の中かどうかは分からない。宇宙に居るような感じで、身体はふわふわとしている。静かな世界だけど、周囲は明るい。丸い物体や四角い物体、色々な物体が飛んでいる。その一つ一つを覗き込んでみると、そこにはバルトが居た。ここは、バルトの記憶の中?いや、バルトの心の中か…。その中には、確かにノイルの姿もある。楽しそうに話していたり、喧嘩をしているような場面もある。確かに、ノイルとバルトは友人だったのかもしれない。友人を信じるノイルと、何者かに操られるバルト。操られた心では、争いが起きてもおかしくはない。だが、その心を操っている者は、いったい何処に居るのだろう?少なくとも、今の私の視界に、それらしきものは存在していない。勢いで、バルトの心の中に入ってきたは良いが、戻る時はどうすれば良いのだろう?本当に、私は消え去ってしまうかもしれない。でも、それでノイルとバルトがまた、友人同士に戻れるなら、それはそれで良いだろう。精霊同士の争いは無い。それが、守られるのだから。それにしても、バルトの記憶も温かいものが多い。それなのに、なんであんなバルトが出てきたのか…。一つ一つ、記憶を覗いているうちに、ついに発見した。明らかに不自然な物体が、そこにはある。操っている者?とても、生物には見えない。大きな球体の半分を覆う黒い物体。まるで、アメーバのような存在。この球体、これがバルトの心の本体なのか?気づかれないようにゆっくりと球体に向かう。が、気づかれた。アメーバのようなものは、こちらに攻撃をしかけてきた。精霊の心の中で武器を使うのは、ありなのか?なしなのか?そんな事を考えている余裕はない。私は、攻撃をさけつつ銃を作った。その銃口を、黒い物体に向け弾を撃ちこんだ。全く効果がない。弾は黒い物体に吸収されてしまった。それどころか、吸収した弾をこっちに向けて撃ち返してきた。レイのシールドのおかげで、なんとか無事でいられる。こちらの攻撃をそのまま返してくるとなると、これはまた厄介だ。攻撃するにも考えて攻撃しなければ、自分の攻撃で自滅するわけにはいかない。黒い物体が、球体をさらに飲み込んでいく。これ、完全に飲み込まれたら、バルト自身も危ないんじゃないか?そう言う考えが、私の中で生まれた。でも、焦りは禁物だ。焦って自滅するような事は出来ない。この球体から、黒い物体をはがす事が出来れば、それは大きな進歩だろう。だが、どうやって?
ガムをはがすような感じで良いのだろうか?私は思いの力で、ヘラを作ってみた。
そして、球体を傷つけないように黒い物体をはがそうとした。思いの力が足りないのか全く歯がたたない。黒い物体は、びくともしない。失敗だ。球体が傷つかないよう、徐々に弾を大きくして威力を増してみるか…。私は、銃を作り出し、その威力と弾を徐々に大きくして一発ずつ撃ちこんでみた。一発撃つごとに、その弾の攻撃をそのまま返されたが、一発ずつなのでよける事が出来た。それでも、全く黒い物体には歯が立たない。こうしているうちにも、外は大変な事になっているだろう。ミリアの建物もどこまでもつか分からない。レイのシールドも…。ノイルが運よく戦えたとしても、それほど長くはもたないだろう。早く、黒い物体を消し去らなければ…。でも、どうすれば…。油…、油はどうだ?油でなら、はがせるんじゃないか?勢いよく球体に当てても液体だから、それ程、傷つける事も無い。これだ!
私は、油を作り出し球体に勢いよくあびせた。すると、徐々にではあるが黒い物体は球体からはがれそうになった。威力を徐々にましていくと、黒い物体は球体から完全に離れた状態になった。離れた黒い物体は、まとまりただの黒い球体になった。
そして、それは形を変えて生物の形へと変化した。黒い翼をまとう精霊。いや、黒い翼をまとう悪魔だろう。黒いのは翼だけではない。全身も真っ黒だ。
悪魔 「ギャーーーーーッ!!!!!」
悪魔は叫んだ。鼓膜が破れそうだ。頭に響く声。
悪魔 「私の邪魔をするな。」
私 「邪魔?」
悪魔 「ギャーーーッ!!!」
私 「何が目的だ?」
悪魔 「精霊界を悪魔の世界にする。 それが、目的だ。」
私 「お前が、バルトを操っていたのか?」
悪魔 「そうさ。
あと少しで、バルトの身体と心を乗っ取れていたというのに…。
貴様は邪魔をした。 許さない。」
悪魔はそう言うと、更に形を変え、私の姿になった。
黒い私。私の心の闇を見ているようで複雑な気分だ。
私 「何のつもりだ?」
悪魔 「私は、お前が思っている通りの悪魔だ。私には、お前の心も読める。
ギールの術など、私の前では無力なのだよ。
そして、お前が人間界に居た事も、中立軍だった事も全て
お見通しって訳さ…。」
私 「悪魔は、全世界を見ているのか?」
悪魔 「その通り。 バルトと仲間を護りたければ、私を倒す事だな。
さぁ、戦え!」
悪魔だと言う事は分かっているが、自分の姿をしている悪魔と戦うのは、とても苦痛だ。
それも、悪魔の狙いなのかもしれない。でも、本物の悪魔と戦うなんて想定外だ。
悪魔に有効な武器って、なんだ?
悪魔 「ハハハハハ…。 攻撃も出来ないのか? 悪魔に有効な武器など
存在しない。」
悪魔は、私の心を読み放題と言う事か…。厄介な相手だ。有効な武器が存在しない?
だが、昔の話では、人間は悪魔を封印したり、倒したりしている。
口から出まかせを言って、私を混乱させようとしているに違いない。
悪魔は攻撃してこない。じっとしている。
私 「攻撃してこないのか?」
悪魔 「何もしない相手に、攻撃する価値は無い。」
なるほど、計算高い悪魔のようだ。
効果はないと思うが、何もしないよりはマシか…。
私は、銃を作り出し、悪魔に銃口を向けた。
すると、悪魔も同じ武器を作り、こちらに向けてきた。
悪魔の銃は、翼と全身の色と同じ黒色だが、その形は私と同じ武器だ。
私 「同じ武器を作ったのか?」
悪魔 「お前の心を読んで、そのまま同じ武器を作っただけだ。
同じ武器で狙われ、自滅するが良い。ハハハハハハ…。」
なんて悪魔だ。どうかしている。私と同じ姿で、私と同じ武器を使う。
互角の戦いと言う事か…。でも、こちらにはレイが作ってくれたシールドがある。
そのシールドは透明で、ちゃんと存在しているかどうかは分からない。
シールドが存在することを信じて、出来る限り悪魔に攻撃をしよう。
私は、作った銃で悪魔に狙いを定め、弾を撃った。悪魔も同時に弾を撃ってきた。
悪魔が放った弾は、レイのシールドにより、弾き返された。
私の弾は、悪魔に命中したが悪魔には、全く効いていない。
悪魔 「なるほど、シールドが張られているのか…。」
私 「………。」
悪魔 「シールドが見えない分、不安の中、攻撃している感じだな?
そのシールド、見えるようにしてやろう。」
そう言うと、悪魔は呪文を唱えた。
すると、レイが作ったシールドが見えるようになった。
黄色いシールドが、私を護っていた。
悪魔 「さぁ、そのシールドが消えるのも時間の問題だ。
戦え、そして消え去れ!」
シールドが見えるようになったのは、こちらとしては都合が良い。
シールドが消えてしまえば、それなりの戦い方を考えないといけない。
私は、更に違う銃を作り出した。普通の弾がダメなら、普通の弾は使用しない。
火の属性と水の属性の弾ならどうだ?
悪魔も同じ武器を作り出した。そして、私と同じタイミングで、私に銃口を向ける。
悪魔 「一つ助言してやろう。同じ攻撃を自分も受ける事になる。
それを考えて攻撃しないと、自滅するだけだ。ハハハハハ…。
どんなにあがいたところで、お前に勝ち目はないがな。」
この悪魔。何様だ。この戦いの中、助言をしてくるとかありえない。
それだけ、自信があると言う事なのか?
私は、悪魔に狙いを定め火の属性と水の属性の弾を撃った。
悪魔も同時に撃ってきた。なんとか、レイのシールドは消えることなく弾を弾き返した。
火の属性の弾と水の属性の弾は時間差で悪魔に命中したが、悪魔にダメージは与えられていない。この悪魔、かなり強い。
悪魔 「ハハハハハ…。今頃、気づいたのか? そう、私は強い。」
私 「………。」
悪魔 「どうした? 負けを認めて、消し去られる事を選ぶか?」
私 「精霊の心を無駄に読みすぎだ!」
悪魔 「それが、悪魔だ。 心を読み、弱みに入り込む。
お前は、私を消し去れるつもりだろうが、それは無理だ。
お前は、私に消し去られる運命なのだ。」
何か、何か弱点があるはずだ。悪魔の弱点。弱点。弱点。聖水。
そうか、ただの水じゃなく聖水。
聖水であれば、こちらに攻撃が返ってきても痛くもなんともない。
悪魔には、有効かもしれない。私は、強力な水鉄砲のような銃を作り出した。
聖水と言うものが、どのようなものかは知らないが、とりあえず、悪魔に効果のありそうな聖水を強く思った。悪魔も同じ武器を作り、こちらに向けてくる。だが、その攻撃はこちらには意味は無い。こちらから攻撃する事に意味がある。私は聖水を悪魔に向けて放った。悪魔も聖水をこちらにむけて放った。
悪魔 「ハハハハハ…。これが、聖水のつもりか?
お前、聖水と言うものがどう言うものか知らないだろ?
確かにこの聖水も力が全くない事は無いが、その力は弱い。
こんなもので、私は消し去れないぞ。 残念だったな。」
確かに私は、聖水がどのようなものかは知らない。無謀な攻撃だったか。
悪魔に対する武器。他にも何かあるはずだ。聖水以外にも…。光…。聖なる光はどうだ?
でも、光。この空間全体を光に包み込むほどの力は私にはない。
なばら、特殊な銃を作るか。悪魔の上で弾が聖なる光を放つような…。
よし、これでいこう。私は銃を作り出し、弾を放った。
素早く弾を撃ったが、悪魔も同時に弾を撃ってきた。
心を読める分、どれだけ早く攻撃が出来たとしてもほぼ互角で撃ってくるのか…。
弾は悪魔の上で光を放った。
悪魔 「ハハハハハ…。確かに聖水も聖なる光も、お前には無効だ。
ただし、私にも無効だ。こんなのは、ただの光だ。」
私 「そんな………。」
この悪魔。本当に弱点はないのか?少しでもダメージを与えられたら良いのに…。
悪魔 「もう終わりか?」
私 「………。」
悪魔の挑発か…。挑発にのって、むやみに攻撃しても無駄だ。
悪魔 「ほぉ、私の挑発を見抜くとは…。」
私 「お願いです。 弱点を教えてください。」
押してダメなら引いてみる。
発想の転換、悪魔に弱点を教えてほしいと丁寧に言ってみた。
悪魔 「ハハハハハ…。だから言っているだろう? 私には弱点は無い。
無いものは、教えられない。」
もっともな答えが返ってきた。
悪魔 「それと、面白い事を一つ教えてやろう。
精霊の心こそが聖なる光のようなものだ。
その光の中で、私が存在していると言う事は聖なる光に、この私を
抑え込むような力は無いと言う事だ。」
なるほど、確かに精霊達の心は温かい。それは、聖なる光のようなものなのか。
本当に、私に勝ち目はないのか? 負けてしまうのか…?
何か、何か方法はあるはずだ。完璧なシステムにも何処か弱点はある。
悪魔 「それでは、こちらから攻撃させてもらおう。」
そう言うと、悪魔は強い風を送ってきた。
その中に、無数の弾のようなものが入っている。
レイが作ったシールドは、すぐに消えてしまった。
悪魔 「シールドは、消えた。 これで、お互い同じ状況だ。」
私 「強い………。」
最悪だ。シールドが無い状態では、下手に攻撃できない。
それでも、攻撃しないと悪魔を消し去る事は出来ない。
それなら、聖水と聖なる光を混ぜたものを浴びせるのはどうだ?
少なくとも効果はありそうだ。私は聖なる光を放つ聖水を作り出し、それを悪魔に浴びせた。悪魔も同じように私に、浴びせてきたが私には効果は無い。
悪魔 「聖なる光をまとう聖水か…。何度も言うが、私には効かな…。
な、何故だ。 身体を維持できない。」
効果があったのか?
悪魔は、身体を維持できないと言うとまたアメーバのような状態になった。
悪魔 「そんな、身体を球体にする事も出来ない。」
効いたようだ。だが、悪魔はなおも存在している。
形を維持できないだけで消え去ったわけではない。
あと一歩で消し去れそうだ。
私は、もう一度、聖なる光をまとった聖水を悪魔に向けて浴びせた。
が、消し去る事は出来ない。
悪魔 「や、やめろぉ~~~!!!」
悪魔は、攻撃してくる事もなく、ただ苦しんでいるだけだ。
今のうちに何か消し去る方法を考えないと、元に戻られては厄介だ。
それに、私の心を読んで、攻撃してくる余裕はもう無いようだ。
こちらからの一方的な攻撃は出来る。でも、どうやって消し去ればいい?
そうだ、ウイルス。ウイルスを撃ち込んでみてはどうだ?
どう言うウイルスが効くかは分からない。
悪魔に効くウイルスと強く思って撃ち込むだけだが、何もしないよりは良いだろう。
私は、強く思いウイルスを撃てる銃を作り出した。
そして、その銃口を悪魔に向けた。的は大きい。はずしたりはしない。
悪魔 「や、やめろぉ~~~!!!」
悪魔の言葉もむなしく、私はウイルスを撃ち込んだ。
悪魔 「私は、私は強い悪魔なのだ。 私は、私はぁ~!!!!!」
私 「……………。」
悪魔 「お前、何を身体に撃ち込んだ?」
私 「悪魔に効くウイルスだ。」
悪魔 「私は、私は負けないぞ。 消し去られてたまるかぁ!」
- ギャーーーーー! -
悪魔の叫び声と共に悪魔は、跡形もなく消え去った。私が作り出したウイルス。
いったい、どのような物だったのだろうか…。さぁ、これで目的は達成した。
疲れ切ってしまった。思いの力は、精神的にくる。どうやって、戻れば良いのか分からない。私は少し休憩する事にした。ファルルで、レイにメッセージを送った。
私 『悪魔のような存在は、悪魔そのものだった。消し去る事に成功した。』
レイ 『こちらに居た謎の生物も全て消えました。
バルトは気を失っていますが無事です。』
私 『そうか。それは良かった。通信終了。』
謎の生物は消え去った。そして、悪魔も消え去った。これで、精霊界に平和が戻った。
残念だが、私は外の世界に戻れそうもない。
バルトの心の中で、私は一人、生きていかなければならないのかもしれない…。
目を閉じた瞬間、ファルルにメッセージが入る。
レイ 『通信終了ってなんですか? 戻ってきてください。』
私 『戻り方が分からない。 思いの力も発揮できない。』
レイ 『そんな…。』
私 『精霊界の平和は、取り戻した。 それで、良いだろう?』
レイ 『全員で、ギールさんのもとへ戻ります!』
私 『少し休憩したら、戻れるように努力はしてみる。今は休ませてくれ。』
レイ 『分かりました。』
確かに、ギールのもとへは全員で帰らないと意味がない。でも、私は人間界で育った精霊。私一人が消えても、特にこの精霊界には影響は無いと思うが…。
思いの力は、時として凄い力を発揮する。
まさか、本当にバルトの心の中へ空間移動できるとは思ってはいなかった。
さて、もう一度、外の世界に戻れるように頑張ってみるか。
私は最大の思いで、外に戻れるよう思ったが、やはり戻れない。
私 『レイ、戻れそうにない…。 何も起こらない。』
レイ 『諦めないでください!』
私 『通信終了。』
私は、ファルルの電源をきった。これで、終わりか…。
精霊の記憶を見るのは、あまり気が進まないが、ここから出られない以上、見ても問題は無いだろう。私は、バルトの記憶をところどころ見てまわった。膨大な記憶の量だ。バルトは、頭の良い精霊なのかもしれない。ノイルとの記憶が多いのは、友人だからだろう。
まぁ、精霊の記憶を見ていても何にもならない。私は私なのだから、じっとしていよう。
私は、目を閉じた。 少し眠たい。
レイ 「サリア! サリア!」
レイが私を呼ぶ声がする。目を開けると、そこにはレイが居た。あれ…?
私は、バルトの心の中に居たはず。寝てしまっていたのか…。
でも、なんでここにレイが居るのだろう…。 夢………?
サシャ 「サリア、おかえり~。」
ミリア 「無事で良かったです!」
ノイル 「心配させるな!」
周りを見ると全員、揃っている。
起き上がろうとするが、起き上がれない。
ミリア 「じっとしていてください。 今、治療中です。」
私 「あぁ…。 私は、バルトの心の中に居たはずじゃ…?」
ノイル 「バルトが自分で心の中を見て、サリアを見つけ、ここに戻した。」
どうやら、バルトが私をこの世界に戻してくれたらしい。
ノイルが言うように、バルトは友人だったのだな。
そして、バルトが本当に敵だったなら、私をこの場に戻す事はしなかっただろう。
バルト 「迷惑をかけたようで、申し訳ない。
記憶がないので、それしか言えない。
操られていた事をノイルから聞いた。」
バルトが話しかけてきた。バルトの心を読んだ。本心から思っているらしい。
私 「バルト、ノイルは友人か?」
バルト 「あぁ、友達だ。 古くからの…。」
私 「そうか…。」
バルトも元に戻ったし、精霊界の平和もこれで護られた。それにしても、酷い有様だ。
ミリアが作った建物は、ボロボロに崩れている。レイのシールドも消えていたのだろう。
あと一歩、私が悪魔を消し去るのが遅ければ皆、死んでいたのかもしれない。
私 「ギリギリで戦っていたのか?」
レイ 「そうですね。私のシールドも完全に消えてしまいましたし…。」
ミリア 「私の建物も強度はあったのですが、この有様です。」
ノイル 「皆、怪我していたんだが、ミリアのおかげで今は無傷だ。
サシャの力で、出発時の状態だしな。あとは、お前だけだぞ?」
私 「私が今、一番、迷惑をかけているのか…。」
ノイル 「そう言う事だ。 でも、感謝はしている。 ありがとう。」
皮肉か? でも、感謝はしてくれた。私のやり方は、間違ってはいなかったのだろう。
バルト 「サリアと言ったな。 何故、私が操られていると思った?」
私 「他の精霊の心は読めるのに、バルトの心は読めなかった。
そこに疑問を感じただけだ。」
バルト 「それだけで、精霊の心に入り込む術を使えたのか?」
私 「あとは、ノイルがバルトの事を友人だと信じていたからな。
強い思いには、色々な要因が重なっている。
思いの力は時として、奇跡を生むのかもしれないな。」
バルト 「人間界で育った精霊。 それだけでも、不思議なのに…。
サリア、唯一の存在と言う意味…。 本当に唯一の存在だな。」
私 「まぁ、これで精霊界に平和が戻った。」
バルト 「いや、まだだ。」
バルトの口から信じられないような言葉が出てきた。悪魔は消し去った。
平和が戻っていない訳がない。私は、ファルルの電源を入れた。
そして、悪魔の存在が消えた事を確認した。
私 「やっぱり、悪魔のような存在。 本体の反応は消えている。」
レイ 「確かに消えていますね。」
ノイル 「バルト、まさか…。」
バルト 「ノイル。悪い。そのまさかだ…。」
ノイルは、何かを知っているのだろうか? ノイルの発言にバルトが返す。
私 「平和が戻っていないって、どう言う事だ?」
バルト 「ノイル。話しても良いのか?」
ノイル 「必要なら、話さなければならないだろ? 大丈夫。
サリアは見捨てたりしないさ。」
見捨てる? いったい何の事だろう…。話が見えてこない。
バルト 「実は…。 悪魔のような存在は、私が生み出したのかもしれない。」
私は、返す言葉が無かった。
そもそも、悪魔と言うものは生み出すようなものでも無い。
いったい、バルトは何を言っているのだろう。操られていた事を後悔しているのか?
それとも、自分の心に悪魔が入ってきた事を自分の責任だと思っているのだろうか?
どちらにしても、バルトが気にする事ではない。
私 「バルトは何も悪くない。 操られていた事を後悔しているのか?」
バルト 「……………。」
ノイル 「サリア、バルトはそう言う事を言おうとはしていない。
もっと衝撃的な事実がある。」
ノイルの言う衝撃的な事実とは、何の事だろうか?
バルト 「私は、動物に関する実験をしていた。
その際、書物の中に悪魔の文献を見つけ、面白半分で悪魔を
呼び出し、その実験に活用した。
悪魔に心を奪われた動物達は施設内に閉じ込める事に成功して
いたが、ある時、呼び出した悪魔は、私の力以上の存在で、その
まま私の心の中に入ってきて、私を操り始めた。
相当の力を持っている悪魔だっただろう?」
私 「あぁ、色々と試行錯誤して消し去った。」
動物に関する実験。面白半分とは言え、度が越えている。
ノイル 「バルトは学校でも成績優秀で、色々な研究をする仕事についた。
新しい薬を作りだしたり、数多くの精霊達の命を守ってきた。
それが、いつからか動物に関する実験を始めた。
作りだした動物は、ペットで精霊達に飼われたりしている。
でも、中には危険な動物も生み出された。
そして、今回は最悪な事に面白半分とは言え、悪魔を利用した
結果、逆に悪魔に利用された。」
ミリア 「そんな、酷い。」
バルト 「私も反省している。 もう、こう言う実験は二度としない。
ギールの所に戻ったら、流石に罪に問われるだろう。」
悪魔を呼び出し、その悪魔の力が自分より強く、悪魔に心を操られた。自業自得の結果だ。悪魔さえ呼び出さなければ、今回のような事は起こらなかった。ただ、それだけ…。
バルトの心を読んでみるが、本当に反省している。
罪に問われると分かっているはずなのに、逃げもせずギールに会いに行く。
かなりの覚悟をしているのに違いない。まぁ、過ちは誰にでもある。
反省するかどうかで、未来が変わってくる。
バルト 「この先に、私の研究施設がある。 研究施設を破壊したい。
それに、協力してほしい。」
研究施設を破壊する。
つまり、それは今まで研究してきた事を捨てると言う事と、イコールではないのだろうか?
そこまでの覚悟が、バルトにはあるのか。
バルト 「研究施設の中が、どうなっているのか分からない。私の心を操って
いた悪魔が施設の中を破壊しているかもしれない。」
ノイル 「バルト、今までの研究は良い物も含めて消し去るのか?」
バルト 「やむを得ない。その覚悟だ。あの生物達が、精霊界に進出すれば
精霊達が危ない。精霊達には、怪我をさせたくない。」
ミリア 「もしも、すでに外に逃げているとしたらどうなるのですか?」
バルト 「悪魔に心を奪われている生物達には、こう言う事もあろうかと
小さい機械を埋め込んでいる。
その機械を停止させれば、その生物達は活動できなくなる。
その機械を全て停止させるシステムが、研究所の奥にある。
それを作動させてから、施設を破壊する。」
ノイル 「なるほど、そうする事で全てが終わるのか…。」
私 「精霊界に平和が戻っていないと言うのは、そういう事か…。
バルト、気が進まないが協力する。 私も、精霊が怪我をするのは
嫌だからな。」
バルト 「ありがとう。」
バルトは少し安心している。悪魔に心を奪われた生物ほど、危険なものはない。
早く活動を出来なくして、研究施設を破壊しなくては…。
私 「今回の作戦、皆、協力するのか?」
レイ 「ここまで来ましたし、私は協力しますよ。」
サシャ 「私も~。」
ミリア 「協力します。」
ノイル 「バルトのためだ。 俺も協力する。」
全員、協力すると言う事で一致した。
バルト 「ありがとう。 それでは、研究施設まで案内します。
ついてきてください。」
そう言うと、バルトは歩き始めた。
それに皆、ついていく。研究施設と言う事は、大きいのか?
こんな事になるなんて想定外だ。
もしも、生物が襲ってきたとしてもあの悪魔よりは弱い事を祈ろう。
バルト 「この先に、研究施設があります。あれが、私の研究施設です。」
ノイル 「バルト、こんなに大きな研究施設で研究をしていたのか?」
バルト 「あぁ、最初は小さかったが研究をしているうちに大きくな。」
ノイルが驚くのも無理はない。ここに居る全員が、その施設の大きさに驚いた。
何階建てと言うわけではないが、かなり大きな研究施設だ。
バルトは、この施設で一人、研究をしていたのだろうか?
バルト 「あそこが入り口だ。」
バルトが指差す方向に入り口はあった。入り口は破壊されていて、大きくなっている。まさか、すでに生物は外に出て行ってしまったのか?
信じたくはないが、バルトに聞いてみる。
私 「バルト、入り口が壊されている。 まさか、生物が?」
バルト 「いや、その可能性は否定できないが、あの入り口を吹き飛ばしたのは
私自身だ。悪魔から逃げていた時に、私が破壊した。」
どうやら、入り口を破壊したのはバルト本人だと言う。
ただ、生物が外に出た可能性も否定できないらしい。
バルト 「施設の中も私が案内します。指示も私が出します。
生物が襲ってきた場合、容赦なく倒してください。」
バルトは、そう言うと施設の中に入った。それに、皆でついて行く。
施設の中は暗い。かろうじていくつかの電気はついている。その明かりを頼りに進む。
少し進んだところで、バルトが小さな扉を破壊して中からライトを取り出した。
バルト 「この中に、攻撃や防御の術を使えない者は居るか?」
ミリア 「私は、特に攻撃や防御は出来ません。」
ノイル 「俺も料理担当だからな。」
バルト 「それでは、2人はライトを使って周囲を警戒してください。
これで、生物が潜んでいてもすぐに発見できます。」
ノイル 「バルト、こう言う事も想定していたのか?」
バルト 「備えあれば、安心だろ?」
ノイル 「用心深いくせに、悪魔に心を操られるとはな…。」
バルト 「それは、言わないでほしい…。」
バルトは、返す言葉が無く、なるべく触れないでほしいと返した。
ミリアとノイルは、ライトを持って周囲を照らしながら警戒している。
サシャ 「あのぉ~? 私も特に攻撃や防御は出来ないのですが~?」
サシャがバルトにそう伝えると、バルトはポケットから小型のライトを取り出した。
バルト 「そのライトは小型だが強力だ。 扱いには気を付けて…。」
サシャ 「分かりました~。」
若干、サシャにその強力なライトを持たせる事は私からしたら不安だが…。
今のところは、生物は出てきていない。不気味な闇が施設を包み込んでいるだけだ。
バルトは、施設の中の部屋に入った。
ロッカーを開けて、何を取り出すのかと思ったら、ただの着替えだった。
バルト 「悪い。 今、着ている服がボロボロなので上着だけ新しいのに
させてほしい。」
ノイル 「なんか、余裕だな?」
バルト 「そうでも無いよ。 不安は大きい。」
そう言うと、バルトはまた歩き始めた。
- ガタン -
何かの音がした、ノイルがライトで音がした方向を照らす。そこには、生物が居た。
毛むくじゃらの1m位の大きさの生物。
私が、銃を作りだしているうちに、バルトは武器を作りだし生物を消し去った。
私 「バルト、攻撃できるのか?」
バルト 「あぁ、私も攻撃する術は持っている。人間界を覗いた事があってな。
人間同士が戦う際に、弓矢や盾、銃を使うのを見た事がある。
それを真似しているだけで、原理は分からない。」
私 「思いの力で、分からない部分は補助できている感じなのか?」
バルト 「そうなるね。 本当は、人間界を見てはいけないんだけど…。」
まさか、バルトも武器を作りだせるとは…。
バルト 「私は色々と知りすぎているのかもしれないな。
サリア、お前の心が読めないのは、ギールがかけた術のせいだろ?」
私 「あぁ、精霊の心に悪影響が出るからな。」
バルト 「でも、サリアは心が読めなくても、いつも本心で話しているから
安心できる。本当に不思議な存在だな。私の心も、精霊達には
悪影響を与えると思うのだが、ギールがその術をかけないと
言う事は、私はまだサリアよりは、マシなのかもしれない。」
私 「精霊は皆、優しい。」
バルト 「それは、違う。 私は、酷い事をしてきたからな。」
私 「でも、その過ちを自分で直そうとしている。それだけでも凄い事だ。」
バルト 「そう言うものか? ギールは、私を許さないはずだ。」
私 「………。」
確かに、あのギールがどう言う反応をするかは分からない。
バルト 「それに、人間界を覗く事自体も本当はダメな事なんだ。」
私 「そうなのか?」
バルト 「人間界には争いが多い。
それを精霊界で真似をされれば、精霊同士も争いかねないからな。」
私 「なるほど、そういう事か…。」
バルト 「でも、私は人間界で育ったサリアに感謝している。
生きて、精霊界にきてくれて、私を救ってくれた。私の恩人だ。」
私 「複雑な気分だな。」
バルト 「まぁ、そう言うな。 感謝しているんだから…。」
私 「そうか…。」
返す言葉が見つからなくて、素っ気ない返事をしてしまった。
- チャポン -
水の音がした。周囲に水は無いのに、何処から?
音がした方に、サシャが小型の強力なライトを浴びせる。
施設内に通っている管から、水が漏れている。その水漏れは次第に酷くなってきた。
バルト 「サリア、あそこを15秒後に火の属性の銃で撃ってくれ。」
バルトが指差したのは、ただの管だった。
私は、火の属性の銃を作り、そこに銃口を向けた。
私 「バルト、あれはただの管だ。」
バルト 「水が通っているはずの無い管だ。 水の属性の生物が居る。」
私 「……………。」
バルト 「カウントダウンだ。 5、4、3、2、1、今だ!」
私は、バルトに言われるまま弾を放った。
弾は管を破壊し、管の中から蛇のような生物が落ちてきた。
その生物の上に、バルトは重い塊を落とした。
バルト 「こんな所にまで生物が…。」
ノイル 「バルト、何種類の生物が居る?」
バルト 「分からないが、かなりの種類だ。」
ミリア 「少し怖いです。」
サシャ 「早く終わらせて、ここから出ましょう。」
ミリアが怖いと思うのも無理はない。サシャの早く終わらせたいと言う気持ちも本心だろう。私も早く、この場から立ち去りたい。悪魔との戦いに比べれば、マシだとは思うが、それでもここには居たくない。いや、ここに居る生物達の一部は悪魔に心を奪われているから、悪魔と戦っている事とイコールになるのか?
バルト 「皆、お腹はすいていないか?」
私 「お腹、すいている。」
レイ 「私も…。」
サシャ 「空腹ですぅ~。」
ミリア 「お腹、すいているけど、こんな所に食べ物は無いでしょ?」
ノイル 「こんな時に空腹の心配か?」
ミリアの意見に同感だ。
皆、お腹はすいているとは思うが、流石にこんな所に食べ物があるようには思えない。
バルト 「もう少し進んだ先の頑丈な部屋に、食材を大量に保管してある。
ノイル、料理を頼む。」
ノイル 「どうせ、良い食材は無いだろ?」
バルト 「高級食材も保存してある。」
ノイル 「仕方がないな。お腹がすいていては、まともに戦えない。
料理、作ってやるよ。」
食材を大量に保管って…。確かに、これ程の施設。そして、用心深いバルト。
こう言う事も想定していたのだろう。まぁ、ノイルが料理をするのであれば安心だ。
バルトは、大量の食材を保管している部屋に案内した。
そして、バルトは食材を保管している保管庫を指差して言った。
バルト 「ここは、頑丈な作りの部屋だから安心してくれて構わない。
ただ、念には念を入れる。サリア、火と水の属性の銃を…。
私は、別の武器を用意する。中に何か居たら、容赦しなくて良い。
食材ごと吹き飛ばせ!」
私 「了解。」
私は、バルトに言われた通り、火と水の属性の銃を作りだした。
バルトも武器を用意して、食材を保管している保管庫に向けた。
バルト 「ノイル、保管庫の扉を開けてくれ…。」
ノイル 「……………。」
ノイルは無言のまま、保管庫の扉を開けた。特に何も起こらない。
バルト 「サシャ、ライトで中を照らして…。」
サシャは、バルトに言われた通りに中を照らす。中には、食材以外何も無かった。
バルト 「よし、中には何も居ない。ノイル、適当に何か作ってくれ。」
ノイル 「高級食材って言う程の物でも無いな。
こんな状況で料理を作る気にはなれない。
簡単な物で我慢しろよ?」
バルト 「簡単な物でも良いよ。
ノイルの料理は簡単な物でも美味しいからね。」
ノイルは、そう言うと料理を始めた。
ただ、待っていれば良いものだと思っていると、バルトが真剣な表情で話しかけてきた。
バルト 「この中に、シールドを使える者は居るか?」
レイ 「私は、シールドを使えます。」
バルト 「ここから先は、かなり危険な場所だ。全員にシールドを張れるか?」
レイ 「大丈夫です。」
バルト 「それは、心強い。 食事後、全員にシールドを頼む。」
レイ 「はい。」
バルト 「サリアは、私と一緒に生物を片付けてくれ。」
私 「了解。」
バルト 「サシャ、ミリア。二人は、同じ方向をライトで照らさない事。
必ず、違う方向を照らせ。」
サシャ 「頑張ってはみますぅ~。」
ミリア 「はい。」
バルト 「ノイル、料理をしながら聞いてくれ。
ノイルもライトで照らすだけではなく、食材を捕獲する為に
使う武器を使って生物を片付けてくれ。」
ノイル 「は? 何を言っている?
食べられない食材に向ける武器はねぇよ!」
バルト 「お願いだ。」
ノイル 「断る。」
バルト 「……………。」
ノイルだけは、バルトの指示に従わなかった。ノイルには、ノイルの気持ちもあるのだろう。食材以外には武器を向けない。それも、ノイルの中でのルールか…。
私 「ノイルも悪気はない。」
バルト 「分かっているよ。 予想していた答えだからね。」
私 「それなら、良いけど…。」
バルトは、予想していたらしい。友人同士、ある程度は予想できるものなのか?
その後、皆で軽い食事を済ませ部屋を出た。皆、バルトの指示通りに動く。
サシャとミリアは、同じ方向を照らさないように。
ノイルは、適当に周囲を照らしている。
レイは、全員にシールドを張っている。
私とバルトは、警戒態勢でいつでも攻撃が出来る状態にしている。
- ドン! ガシャーン! -
目の前の通路で、ロッカーのようなものが飛んできてガラスを割った。
バルト 「ロッカーを飛ばす程の力を持つ生物。あいつか…?」
私 「どうすれば良い?」
バルトは、しばらく黙りこんだあと一言、告げた。
バルト 「サリアは、何もしなくて良い。」
そう言うと、バルトはまだ生物が出てきてもいないのに銃を放った。
弾は、角を曲がりその先で爆発したようだった。
不気味な鳴き声が、施設内に響き渡った。
バルト 「命中したようだ。 あの生物は、周囲の色と同化できる。凶暴で我々
の姿を見たら、周囲の色と同化して攻撃できなくなる。手荒な手段を
とったが成功だ。」
ノイル 「おい、その生物。 他には居ないだろうな?」
バルト 「一匹しかいないから、安心してほしい。」
ミリア 「怖い。」
サシャ 「私も怖いですぅ~。」
レイ 「大丈夫ですよ。 私のシールドがありますから☆」
レイが、ミリアとサシャを勇気づける。
私 「バルト、まだ進まないといけないのか?」
バルト 「もう少しです。システムのある部屋までは…。」
バルトの表情が本当の事を言っているようには、思えない。
私 「本当にもう少しなのか?」
バルト 「私の心を読んだのか?」
私 「いや、表情から感じ取っただけだが…。」
バルト 「嘘はつかない。本当の事だ。だが、その前に破壊しておきたい
部屋がある。そして、そのシステムのある部屋は頑丈な作り
だが、そこにたどり着く手前に広い部屋がある。
そこの部屋に何か生物が居るような気がするんだ。
考えすぎかもしれないが…。」
ノイル 「バルト、最悪の事ばかり考えるな。 もっと前向きで行け!」
バルト 「常に最悪の事を考える。それで、危険は回避できる。」
ノイル 「そんな考え方していたら、身が持たないぞ?」
バルト 「安全が一番だろう?
危険な予測をしないで、怪我するのはバカバカしい。」
バルトの考えも分かるが、ノイルの考えも分かる。
性格的には、この二人は真逆なのかもしれない。
真逆だからこそ、支えあえて友人でいられるのかもしれないな。
バルトは、一つの部屋の扉を開けた。
バルト 「皆、そこに居てくれ。 この部屋を破壊する。」
私 「この部屋は?」
バルト 「実験に使う危険な液体とかを保管している。
今のうちに破壊しておく方が安心なんだ。」
私 「念には念をと言う事か?」
バルト 「そうだ。」
そう言うと、バルトは一瞬でその部屋を破壊した。
私 「爆弾か?」
バルト 「爆弾って何だ? 強烈な風を当てて、破壊しただけだ。」
バルトの術は凄い。風だけで、一つの部屋を破壊してしまった。
バルト 「この扉を開けると、大きな部屋に出る。
ノイルは上を。ミリアは右、左、後方を…。
サシャは前方を照らして欲しい。サリアは、前方以外を警戒。
私は、前方を警戒する。レイは、シールドをしっかりと…。」
ノイル 「上か…。」
ミリア 「右、左、後方。 分かりました!」
サシャ 「私は、前方を照らします~。」
レイ 「シールド、大丈夫です。 今も張っています!」
私 「前方以外を警戒する。 了解。」
各自、役割を指示され受け入れた。
バルトが扉を開くと、確かに大きな部屋が姿を現した。皆、慎重に歩いて行く。
特に、何かがいる気配は無い。そのまま、システムがあると言う部屋の前まで来た。
バルトは、パスワードみたいなものを入力して部屋のロックを解除した。
そして、扉が開くとシステムが姿を現した。
バルトは急いで、私達を部屋の中に誘導し、扉を閉めた。
- ギャーーーッ! -
聞き覚えのある声が部屋に響き渡る。
レイ 「何? この声、頭が痛い。」
サシャ 「頭が、痛いですぅ~。」
ミリア 「この音、何? うるさい。」
ノイル 「耳が痛い。」
バルト 「何か居る…。」
私 「悪魔だ。 バルトを操っていた悪魔の声だ!
消し去ったはずなのに、なんで!?」
システムの影から、見覚えのある姿が現れた。間違いない。悪魔だ。
まだ、身体を元に戻せないのかアメーバ状になっている。消し去ったはずなのに、何故…?
私 「バルトはシステムを止めてくれ。 私は、悪魔と戦う。」
バルト 「分かった…。」
そう言うと、バルトはシステムの操作に入った。
私 「悪魔よ。 消し去ったはずなのに何故、ここに居る?」
悪魔 「精霊界を悪魔の世界にするまで、私は消える訳にはいかないのだ。」
悪魔の動きは凄く弱々しい。
私 「助かった命だ。 自分の本来、居る世界に戻れ。」
悪魔 「断る。 私は、この世界を、この世界を~~~!!!」
私は、銃を作りだし悪魔に銃口を向けた。
聖水、聖なる光、その他にも色々な思いを複雑に混ぜ合わせた弾を悪魔に撃ち込んだ。
今の私が作り出せる、対悪魔用の最強の武器だと思う。
悪魔 「ギャーーーッ!!!!!」
悪魔は、最後の叫びと同時に消えていった。
レイ 「凄い…。」
サシャ 「悪魔を一撃で…。」
ミリア 「サリア、凄い武器を使ってる。」
ノイル 「流石だな。 サリア。」
バルト 「システムを完全に停止させた。 このシステムを破壊する。」
そう言うと、バルトは扉を開けて外に出るよう指示した。
そして、バルトは部屋の外からシステムに向けて、破壊の術を使った。
バルト 「そんな…。」
だが、システムは損傷すらしていない。
間をあける事なく、バルトはもう一度、破壊の術を使った。
それでも、システムは損傷すらしなかった。
バルト 「システムを止める事は出来たが、破壊できない。」
私 「破壊できないと、どうなる?」
バルト 「誰かが作動させたら、終わりだ。」
私 「二人の攻撃を合わせたら、なんとかならないか?」
バルト 「それだ。 試してみよう。」
バルトは、私にシステムを破壊するための方法を教えてくれた。
私は、バルトに教えてもらった通りの銃を作り、システムに銃口を向けた。
バルト 「それじゃ、カウントダウンをするぞ?」
私 「了解!」
バルト 「5、4、3、2、1、今だ! 撃てっ!」
バルトは、破壊の術を使い、私は弾をシステムに撃ち込んだ。
もの凄い音を立てて、システムは破壊された。
私 「これで、全てが終わったんだな?」
バルト 「まだだ…。」
ノイル 「おい! バルト、いい加減にしろよ! 次は、なんだ!?」
ノイルがバルトの胸ぐらをつかんだ。
バルトは、落ち着いて答える。
バルト 「システムを破壊した事により、数ヵ所の部分にしかけている装置が
作動する。急がなければ、この施設から外に出られなくなる。
万が一の事を考えての安全装置だ。皆、急いで施設を出よう。
出来る限り、走って欲しい。」
ノイルは、胸ぐらをつかむのをやめた。そして、全員で出来る限り走った。
そして、なんとか無事に施設から外に出る事が出来た。
私 「これで、全てが終わったのか…。」
バルト 「そうだな。このボタンを押してくれ。」
そう言うと、バルトはファルルを差し出してきた。
私 「このボタンは?」
バルト 「この施設を完全に破壊するボタンだ。」
私は、ファルルを受け取らなかった。
私 「バルト、自分の事は自分で片付けた方が良い。
私がボタンを押す事は簡単だが、それではダメな気がする。」
バルト 「あぁ、分かった。」
バルトは、しばらく施設を眺めていた。そして、ボタンを押した。
大きな研究施設は、爆発し崩れ去った。そして、何事も無かったかのように、消えていった。残骸、一つ残さずに…。そこには、施設など最初から無かったかのようにただの空き地が広がっている。
ノイル 「バルト、お前にはボタンを押せないと思っていたが、見直したよ。」
バルト 「サリアの言う通りだ。自分でした事は、自分で片付ける。
気持ち、心がすっきりしたよ。」
ノイル 「そうか…。」
レイ 「終わったんですね。 シールド、消しました。」
サシャ 「はぁ~、疲れましたぁ~。」
ミリア 「怖かったけど全員、無事ですね。 良かった♪」
さて、精霊界もこれで平和になった。
あとは、ギールのもとへ帰って報告するだけだな。
また、帰るのに数日かかるが、もう安心だ。
ミリア 「さぁ、それでは大きな空き地が出来ましたので…。今夜はここに
とびっきり大きな宿泊場所を建てますね☆」
サシャ 「その前に、皆さんには清潔になっていただきたいですぅ~。」
ノイル 「お前ら、何を言っている?」
ミリア 「え?」
サシャ 「何を…って…?」
ノイル 「今、すぐにギールのもとへ帰るぞ。」
私 「ノイル、何を言っている。もう日暮れが近い。泊まっていこう?」
ノイルは何を言っているのだろう?
流石に今夜は皆、疲れている。
今夜、ミリアの建物で寝たところで明日、丸一日歩いても、ギールのもとへは
帰れないだろう。
バルト 「私は、長距離の空間移動が出来ます。
ギールの家の近くに、私の空間移動のポイントがあります。
すぐに戻れます。」
私 「じゃあ何で、システムの場所まで空間移動しなかった?
それに、システムを破壊したあとも空間移動でなんとか
なったはずじゃ?」
ノイル 「空間移動は複雑なんだ。そこは、触れないでやってくれ。」
ノイルの言葉に、私はうなずくしかなかった。
その後、バルトの空間移動ですぐにギールの家の近くまで戻り、ギールの家に向かった。ギールの家では、もう日が暮れていると言うのに兵士が出迎えてくれた。
兵士 「お疲れ様です! さぁ、皆さん、中へお入りください。」
兵士の言葉通り、全員でギールのもとへ向かった。ギールは、椅子に腰かけていた。
ギール 「サリア、レイ、ノイル、サシャ、ミリア。
精霊界は元の状態に戻った。悪魔のような存在も消え去った。
そして、全員無事に帰ってきた。よくやった。ありがとう。」
バルト 「………。」
ギール 「バルト、行方不明になっていて心配していたぞ。
まぁ、どう言う状態だったのかは皆の表情と心の状態で分かる。
背負う罪は大きいぞ?」
バルト 「はい、覚悟はしています。」
私 「どうか、罪を軽くしてあげてください。全員、無事に戻って来れまし
たし、バルトの支えもありました。そして、バルトは反省しています。
これ以上、深くは言いません。」
ギール 「サリア、お前は優しいな。 なるべく、軽い罪にしてやろう。」
バルト 「ギールさん、ありがとうございます。」
ギール 「私は何もしていない。 礼を言うなら、サリアにだろう?」
バルト 「サリア、ありがとう。」
私 「気にしなくて良い。」
バルトの罪は軽くしてくれるらしい。
それが、本当かどうかは分からないが、ギールに任せるしかない。
ノイル 「これで、このメンバーも解散だな。」
ギール 「解散? まだ、解散するとは言っていないぞ?」
ノイル 「なんだよ? 戦いは終わった。 解散だろ?」
ギール 「まだ、解散ではない。 落ち着け。」
サシャ 「まだ、何かあるのですかぁ?」
ミリア 「まだ、解散しないのですね☆」
サシャは疑問を抱いているが、ミリアは楽しそうだ。
レイは、何も言わずにやり取りを聞いている。
ギール 「精霊界を護ってくれた事に感謝している。
本来なら、精霊界全体に知らせたい程、価値のある功績を
残してくれたが、事態が事態の為、そこまで大々的には出来ない。
そこで、規模は小さいがここで明日、皆の為の祝いの場を設ける。
全員、参加するように…。男性はラフな格好でも良い。
女性は、ドレスなりなんなりお洒落をしてくると良い。
以上、私からの話は終わりだ。皆、今日は家に帰りなさい。
バルト、お前さんは今日、この家で泊まりなさい。」
バルト 「はい…。」
レイ 「それじゃあ、サリア、帰ろうか?」
私 「そうだな…。」
私とレイは、先にギールの家を出て宿に向かった。久しぶりの自分の部屋だ。
ふかふかのベッドに温泉。楽しみだ。流石に、サシャが清潔を保ってはくれたけど、やっぱり温泉とベッドが一番だ。宿に着くと、レイとわかれて私は部屋に戻った。
すぐにお風呂に温泉を入れる。ファルルで、映像を見ていたらすぐに湯船がいっぱいになった。服を脱いで、お風呂に肩までつかる。疲れがとれていく感じがする。
色々あったが、無事に帰ってきたんだな。髪と身体を洗って、服を着替えたらそっこう、ベッドにダイブした。ふかふかだ。このふかふか感が良い。そう言えば、私もそろそろ仕事を見つけなけらばならないな。いつまでも、この宿にお世話になっているわけにはいかない。
仕事、適職はあるのだろうか?
皆、今夜はどんな夜を過ごしているのだろう?
もう、疲れ切って寝てしまっているかな。私ももう寝る事にしよう。明日は、ギールの家で祝いの席と言っていたな。精霊界に来て、9日目の夜…。
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