精霊界での2日目。

- ピピピピピ -


聞きなれない音で目が覚めた。

知らずのうちに眠っていた?

いや、ベッドに入って即効、寝てしまったらしい。(汗)

かなり、疲れていたようだ。窓からさしこむ光りが心地良い。

外を見てみると、見た事のない鳥がベランダにとまっていた。

さっきの音は、この鳥の鳴き声だったらしい。

精霊界の朝は、暖かい光りに包まれる感じで、人間界とは全く違う。

本当にここは平和だな。

出かける前に、お風呂にでも入りたいが、服がこれしかないので入ってもなんかピンと来ない。服を買ってからでも遅くないか。そう言えば、この服、人間界のものだから精霊達が着ている服とは全く違う。私、ういてるな…。

多分。


- コンコン -


ドアをノックする音がした。

ドアを開けると、レイが朝食を持ってきていた。


レイ  「おはようございます。 昨夜は、よく眠れましたか?」


私   「疲れていたせいか、横になってすぐ寝てしまったよ。

     ついさっき、起きたばかりで、ちょっと眠い。」


レイ  「それは良かったです。 食事を済ませたら、出かけましょう。

     私は、1階の休憩室でお待ちしています。」


私   「食器とかは、部屋に置いたままで良いのか?」


レイ  「はい、昨夜の食器類は私が持っていきます。

     今後は、清掃担当が居ますので、そのままで大丈夫です。」


私   「分かった。 じゃあ、食べたら1階までおりるよ。」


レイ  「はい☆」


レイは、朝食を置いて行ってしまった。これが、精霊界の朝食。何もかもが新鮮だ。

精霊界の朝食は、パンのようなものがメインなのか?

パンのような物と飲み物が用意されている。

ピンク色の飲み物で、コーヒーでも紅茶でも無さそうだ。

一口、飲んでみると口いっぱいに甘さが広がった。

私は甘党なので、嫌いな味ではない。

パンも中に色々と入っていて美味しかった。

なんの食材かは全然、分からないけど、美味しいから良いか。

ささっと食事を済ませ、私はレイの待つ1階へ向かった。

部屋に鍵をかけないのは、何も置いていないけど少し抵抗はある。

1階へ行くと、レイが出迎えてくれた。


レイ  「昨夜の食事と先程、お持ちした食事、口に合いましたか?」


私   「あぁ、美味しかったけど食材とかはあまりよく分からない。」


レイ  「まぁ、精霊界でとれる魚や野菜、お肉なので人間界の食材とはまた

     全然違うと思います。でも、口に合ったのなら良かったです。」


私   「ちなみに、さっきの食事は精霊界での朝食でよく出るのか?」


レイ  「はい、朝食はだいたいあんな感じですよ。

     昼や夜は、色々な物が出ますけど…。」


私   「なるほど…。」


レイも昨日とは違って、外出用の服?だと思うがお洒落をしている。

それに対して、私の服は、ボロボロだ。早く服が欲しい。


私   「で? 出かけるって、まずは何処から行くんだ?」


レイ  「勿論、服ですね。着替えも買いましょう♪」


私   「良かった。この服、もうボロボロな上に精霊界では絶対に

     馴染まないような服だったし。

     でも、お金を持っていないんだけど?」


レイ  「あぁ、そこは気にしないでください。実は、ギールさんから

     あらかじめ生活に必要な物を買うお金はいただいています。

     ある程度の生活が送れるようになれば、仕事を見つけて働いて

     いただくようにはなるのですが…。」


私   「で、そのお金を働いて返せと?」


レイ  「まさか、精霊界で育っていないのでそこは返さなくても大丈夫です。

     あくまで、生活が一人ででも送れるようになるまでは負担はありま

     せんから☆」


少し安心した。返すとなると、意外と負担が大きい。

ファルルも買うとなれば意外と値段が高そうだ。

人間界でも、携帯電話なんかは高いし…。

しかし、私に合うような服はあるのだろうか?


私   「なぁ、私に合うような服はあるのか?」


レイ  「ありますよ♪ ただし、あなたに合う服は私が選びますのでっ☆」


私   「ぇ? 私は選べないの?」


レイ  「自分で選びたいなら、自分で稼いだお金で買いましょう♪」


私   「ごもっともな意見だな。」


レイは、とても楽しそうだ。

確かに、私のお金ではないので選ぶ権利が無いと言われても納得できるし、従うしかない。もっと言うなら、生活に必要な物を揃えてくれるだけでも、とてもありがたい。

精霊の心の温かさを感じる。少し歩いていると、大きなお店についた。


レイ  「ここが、精霊界で一番、大きなお店です。

     ここに来たら、揃わない物はありません。

     何かが足りない時は、ここにくるのが一番です♪

     私も久しぶりに来ましたので、ドキドキしています♪」


私   「ちなみに、レイも何か気になる物があれば買うのか?」


レイ  「勿論です♪ でも、今日はあなたの買い物がメインですよ☆」


お店の中は、とても広くてはぐれたりしたら迷子になりそうだ。

広いお店なのに、そんなに精霊の数は多くはない。

人間界でのデパートとか言ったら、すごい人なのに…。


私   「精霊の数が店の大きさにしては、少なくないか?」


レイ  「今日は、仕事の人が多いので少ないだけで休みの日とも

     なれば入れないくらい、混んでいますよ。

     確か、あなたは人混みが苦手とギールさんから聞いています

     ので、ちょうど良いかと?」


私   「全てお見通しか…。」


レイ  「えぇ、ギールさんは人間界を見る力もありますので尚更です。」


私   「なるほど…。」


会話をしながら店内を歩いていると、服屋さんについた。


レイ  「ここのお店が、私は好きなんですよ。流行物から少し古い物

     まで色々揃っています♪」


そう言うと、レイは私に合いそうな服をパパっと選んだ。

そして、試着させてくれるのかと思ったが試着もせずに、買ってしまった。


私   「ちょ…、レイ。 試着もせずに、そんなに買ったらお金が

     勿体ないよ。似合うかどうかも分からない。」


レイ  「試着? 試着なんてしませんよ?」


私   「ぇ?」


レイ  「精霊は、試着なんてしませんし…。試着ルームもありません。」


レイに言われて周囲を見渡してみる。

確かに、試着ルームなど無く商品だけが沢山置かれている。

ところどころに、鏡は置かれていた。


私   「あの鏡は、何のために?」


レイ  「あぁ、服を着たイメージを映し出す鏡です。」


すると、レイは私を鏡の前まで連れて行った。


レイ  「こんな感じで使います。あなたが、風船を動かした時のように

     服を見て強くイメージすることで着た感じが映し出されます。

     今は、私の力で映し出していますけど、どうですか?

     似合っているでしょう?」


私   「あぁ、確かに似合っていないことはない。」


これは、本当に精霊界では力をつけないと生活を送るのは不便そうだ。確かに人間界の鏡であれば、服を前に出して似合うかどうかを見るだけだが、精霊界だとそのイメージで完全に着た状態を再現できるから、失敗する事も無さそうだ。


私   「で、下着とか服とか何日分くらい買ったんだ?」


レイ  「とりあえず、1週間分くらいですね。

     重いので、持つのはお願いします。」


そう言うと、買った商品を持たされた。が、意外に軽い。


私   「なんか、妙に軽くないか?」


レイ  「人間界の服よりは軽いと思いますよ。軽い素材ですし…。」


私   「なるほど、次は何を買いに行くんだ?

     これ以上は、軽くても持てないぞ?」


レイ  「安心してください、あとは髪を洗う物と身体を洗う物を買えば

     だいたいは生活できるでしょ?

     食事関係や宿泊設備は、うちにありますし。」


私   「あぁ、確かに…。」


レイ  「それに、商品を買い終えた後は配送してもらいます。

     精霊が少ない日なので、今日の夕方には届いていると

     思います。」


私   「おぉ~! 凄く便利!」


レイ  「でしょ☆」


精霊界にも配送してくれるサービスがあるのか。これは、便利だ。


レイ  「で、ここが私のお勧めのお風呂グッズ販売店です!」


私   「ぇ? 凄い品数…。」


お風呂グッズ販売店。グッズの数が凄かった。

入浴剤っぽいものとか色々と置いてある。


レイ  「うちのお風呂は温泉ですので、入浴剤は使用できません。

     なので、髪を洗う物と身体を洗う物だけ買いますね。」


私   「了解。」


レイ  「で、髪を洗う物と身体を洗う物の香りは、選んでください。

     結構、精霊は皆、香りにはうるさいので種類が豊富です。

     あそこで、荷物を預けられますので預けましょう。」


私は、荷物を預けて、レイと一緒に色々と見てまわった。

確かに、香りの種類は多く、多すぎて逆に迷ってしまう。外れの香りがあまり無く、

これと言う物をなかなか選べない。じっくりと時間をかけて、これと言う物を選んだ。


レイ  「おぉ~、髪を洗う物の香りは私と同じ物ですね。

     身体を洗う物の香りは違うけど。

     私も今度、それ買ってみようかな…。」


私   「そうなのか? 仲間だな。」


レイ  「はい、髪仲間ですね。」


私   「なんだ? 髪仲間って…。」


レイ  「気にしてはいけませんよ。」


自分で発言しておいて、気にしてはいけないらしい。カオスだ。


レイ  「これで必要な物は揃いましたので、届けてもらう手続きをしに

     行きます。」


私   「あぁ…。」


こうして、届けてもらう手続きをして買い物は終了した。これで、着る服とお風呂も充実する。あとは、ファルルが欲しいところだが、いつ持たせてくれるのだろう。


レイ  「さて、それでは最後にファルルを見に行きましょう。」


私   「すぐに買える物なのか?」


レイ  「はい、種類は1種類しかありません。

     あとは、デザインと色で選んでいただくだけです。」


私   「デザインと色の種類が多そうだな…。」


レイ  「はい、多いですよ。また、迷うと思います。

     私が決めましょうか?」


私   「いや、そこは私に選ばせてほしい。」


レイ  「そう言うと思いました。(笑)」


レイは、笑顔で返した。


レイ  「ここが、ファルルを販売しているお店ですよ。」


私   「確かに商品自体は全部同じだけど、デザインと色は豊富だな。」


レイ  「はい。ゆっくり見て、選んでください。」


おそるべしファルル、デザインも豊富だし色も豊富。青色だけでも、薄い青から濃い青まで、グラデーションのように置かれている。私としては、ホワイトかブラックが良いのだが、この際、新しい色にチャレンジしてみるのも良いかもしれない。となると、あとはデザインか…。

デザインも簡単な物から複雑な物まで揃っている。

どれも、捨てがたいデザインだ。色々と悩んだ末、色はホワイトで少しこっているデザインのファルルにした。契約手続きもレイに任せて、すぐに使用できる状態になった。


レイ  「それでは、お互いに登録しましょう。」


私   「え? まだ、使い方も分からないのだが…?」


レイ  「ファルルは、1対1なら背面を合わせるだけで連絡先が

     交換できるんですよ。やってみましょう。」


そう言うと、レイは私のファルルの背面にファルルを合わせた。

すると、ファルルの音が鳴り、お互いの連絡先が交換された。


レイ  「説明書はありませんので、使いながら覚えてください。

     人間界の携帯と同じような感じだし、表示されている文字は

     精霊界の文字ですが、これはギールさんに見せたら、あなた

     にも読めるように術をかけてくれますからご安心を☆」


私   「ギールって、本当に物知りなんだな。

     流石は、偉いと言うだけはある。」


レイ  「あの知識と術の力、見習いたいものです。」


そんな訳で、レイとの連絡先の交換は出来た。ファルルも手に入ったし、日常生活で必要そうな物は買ったし、これで今日は終わりか…。

そんな事を思っていたら、レイが話しかけてきた。


レイ  「これで、ある程度、日常生活は出来ると思います。

     そろそろ、お昼にしましょうか?」


私   「あぁ、そう言えば時計って無いのか?」


レイ  「ありますよ。 ファルルに表示されているじゃないですか☆」


私   「本当に時計だけって言う物は、無いのか?」


レイ  「精霊界には、無いですね。

     皆、ファルルを時計として使っています。」


私   「そうなのか…。」


レイ  「時計の見方は、人間界と同じですね。

     数字は人間界と同じですし、違うのは数字以外の文字ですね。」


私   「じゃあ、今は昼前なのか?」


レイ  「そう言う事になります。」


時刻は既に、11時50分になっていた。ちょうど、お昼ご飯の時間だ。

色々、買い物をしていて時間など忘れていた。

この建物の中に、さっき食事が出来るレストラン街みたいなのがあったな。

でも、何が食べたいとか食材が分からないから無いなぁ。

ここは、レイに任せておこう。


レイ  「メニューは分からないと思うし、私の好きなお店で

     良いですか?」


私   「良いよ。」


レイ  「ありがとうございます。」



そう言うとレイは、好きなお店まで私を案内した。結構、お洒落な店で音楽も流している。

しかも、生演奏で精霊達が曲をひいている。聞いた事のないメロディだが

少し癒される感じがする。私とレイは、適当な席についた。


レイ  「えーっと、私が適当にメニューを決めましょうか?」


私   「あぁ、頼む。」


そう言えば、精霊界で外食をするともなれば言葉は覚えないといけないのか…。

本当に、この世界に慣れるのだろうか…? 色々と不安だ。

しばらく待っていると、レイが注文した料理が来た。同じ物を頼んだらしい。


私   「同じメニューを頼んだのか?」


レイ  「はい、私はこのお店で、これが一番好きなので☆」


私   「ちなみに、これは麺類?」


レイ  「そうです。低カロリーの麺です☆ お腹もいっぱいになるし☆」


私   「低カロリーは、魅力的だな。」


しかし、なんだか食べるのが恐ろしい麺が来た。

麺の色は、クリーム色とまぁまぁ普通なのだが、そこにかかっている食材が紫色。

だしが、白色。ちょっと、怖い。

でも、せっかくレイが注文してくれたので食べないわけにはいかない。

それに、今まで食べた料理も美味しかったじゃないか。

生演奏までしているお洒落なお店は滅多にないだろう。

曲を聴きながら、だしを飲んでみる。意外と美味しい。

次に麺を紫色の何かにからませて食べてみる。美味しい。

見た目はちょっとアレだけど、美味しいことにはかわりない。

あっと言う間に食べきってしまった。確かに、お腹いっぱいになる。

これで、低カロリーなら本当に魅力的だ。


レイ  「さぁ、行きましょうか?」


私   「あぁ、そうだな。」


他にも色々な料理があるので、また今度、来てみよう。

食事もすませたし、あとは宿に戻るだけか…。


レイ  「それでは、次はギールさんの所へ行きましょう。」


私   「ぇ? 何のために?」


レイ  「ファルルの調整とお話ししたい事があると先程、連絡が

     ありました。」


私   「あぁ、ギールさん。 昨日の話は、終わりじゃなかったのか…。」


まぁ、ファルルの調整はしてほしいし、話もあるなら聞くしかない。

なんか、学校の新入生か新人社員みたいな感じで色々と大変だな。

その後も、レイと話をしながらギールの家まで歩いた。

ギールの家では、昨日の兵士が迎えてくれた。


兵士  「ようこそいらっしゃいました。 中へどうぞ…。」


レイ  「ありがとう。」


私も軽く会釈して、家の中に入った。


レイ  「ギールさん、ファルルの調整をお願いします。」


ギール 「おぉ、ファルルを買ってあげたのか…。」


レイ  「はい、無いと不便ですので買いました。」


ギール 「どれ、ファルルを貸しなさい。」


私   「はい…。」


私は、ファルルを渡した。

ギールは、何か呪文のようなものを唱えただけで、私にファルルを返した。

ファルルを見てみると、私にも読めるようになっていた。


ギール 「お前さん、意識をファルルに向けておったじゃろ?

      私が調整したのは、ファルルではなくお前さんの脳に

      精霊界の文字を入れ込んだだけじゃよ。

      ファルルには、何もしていない。」


私   「そう言えば何故、精霊は人間界の人間と同じ言葉を

     話しているのです?

     人間界では、国が違うだけで言葉も文化も違うのに…。」


ギール 「精霊にも文化の違いはある。それに、私達が話している

      言葉が理解できるのは、この世界の力じゃ。

      どう言う仕組みかは知らないが、会話だけであれば

      お互いに出来る。通じない言葉も中にはあるが、ある程度は

      通じる事が出来る。

      それが、精霊界の不思議じゃ。

      かと言って、私が今、術をかけるまでは文字は読めなかった

      じゃろ?

      言葉で話す事は出来ても、文字は分からない。

      もともと、言葉はコミュニケーションとして使われていた。

      文字は、精霊が作り出した物であるために分からないのかも

      しれない。精霊界には、未知な部分が多いのです。

      もしかしたら、あなたが本来はこの精霊界の住人であるから

      コミュニケーションはとれるのかもしれない。」


少し難しい話になってしまった。

少し混乱してしまう。


ギール 「しかし、これで不便さは解消されたはずじゃ。

      文字が読めて、コミュニケーションもとれる。

      あと、この世界の食材なんかについては、少しずつ学んで

      いけば良い。分からない事は、全力で助けよう。」


私   「ありがとうございます。」


確かに、不便さはある程度、解消されているという実感はある。

これで、ファルルに関する問題は解消したが、ギールが話したい事も気になる。

そこに、兵士が現れた。ちょっとしたお菓子のような物と飲み物を持ってきた。


兵士  「どうぞ、召し上がってください。」


レイ  「ありがとうございます。」


私   「ありがとう…。」


ギール 「さて、話したい事があるのじゃが…。 良いかね?」


私   「はい…。」


ギールの表情が少し変わった。今までとは違い、真剣な顔つきだ。


ギール 「実は、少し前にこの精霊界に異変が起きた。」


レイ  「・・・・・。」


私   「異変…? ですか?」


ギール 「精霊ではない何者かが入ってきたのだ。

      例えるなら、人間でも精霊でも無い。

      悪魔のような存在。奴らが、精霊を攻撃してきたという情報が

      入っている。幸いにもまだ、怪我人は出ていない。

      だが、怪我人が出てくるのも時間の問題だと思う。

      しかし、この精霊界の住人は戦いと言うものを知らない。

      私の兵士も、身を守る鎧は持っていても武器は持っていない。

      他の精霊達も、身を守る事は出来ても戦えないのだ。

      お前さんは、人間界で色々と学び、戦い方も知っている。

      どうか、平和を取り戻すために、協力してくれないか?」


私   「それなら、すぐにでも…。」


私には、その依頼を断る理由など無い。

むしろ、人間界から精霊界に戻してくれた事に感謝している。

人間界では、中立軍と言う立場できたが、これは精霊同士の争いでもなく、ましてや精霊は戦い方を知らない。少なくとも、私には戦い方は分かるし、精霊達に危険が及ぶのは耐えられない。だが、私の即答もむなしくギールは言葉を返してきた。


ギール 「今、すぐはダメだ。」


私   「何故ですかっ!?」



ギール 「もう一度、言う。精霊は武器を持っていない。

      武器を作り出す事も出来ない。

      つまり、武器を作るのはお前さんの思いの力だ。

      風船を動かすのとは、また違った難しさがある。

      思い通りの武器を生み出せるようになり、それを

      うまく使う事が出来なければ戦う事も出来ない。

      まさか、生身で立ち向かう気か?」


私   「いや、そんな無謀な事は…。」


ギール 「今のままでは、戦いに行っても負ける。最悪、死ぬぞ?

      私が許可するまでは、戦いには行かせない。 良いな?」


ギールは、真剣な顔で言った。確かに、筋が通っている。生身で立ち向かう勇気など、私には無い。せめて、鎧のような防具、それがなくてもシールドとか欲しい。

そして、何より武器は必要だ。でも、どうすれば良いのだろう。早く、その悪魔という存在を消し去らなければ、精霊界が危険だ。それに、怪我人や死者が出る前に消し去りたい。温かい思いで生きている精霊達に悲しみと言う思いは抱いて欲しくはない。一人が怪我を負ったり、殺された時点で、そこから悲しみが広がり憎しみが広がり、良い事など何も起こらない………。思いを力にして生きている精霊にとっては、これほどの毒はない。


ギール 「お前さん、そこまで考えておるのか…。」


ギールは、私の心を読んだらしい。


私   「精霊は、私の心を読めないようにしたのでは?」


ギール 「それは、私がかけた術じゃ。 私自身は、読める。

      やはり、迎えに行くのが遅かった。お前さんの心の傷は

      想像以上に深いようじゃ…。

      精霊界でこの先、過ごしていったとしてもその

      心の傷が消えるかどうか、私にも分からない。」


私   「そうですか…。」


ギール 「まぁ、そこまで考える事が出来るのであれば心配はない。

      あとは、お前さんの能力次第じゃ。

      明日から、ここに通うが良い。

      私は人間界を見てきた。訓練施設のような物は作れる。

      そこで訓練し私が許可を出せば、戦いに出させよう。

      勿論、お前さん一人ではない。

      仲間も揃える。レイ、お前さんは一緒にいくうちの一人じゃ。」


レイ  「私が一緒に行くのですか? ご迷惑では…?」


ギール 「こいつには、シールドを作る事は出来ないからのぉ。

      あと、色々、助けてやれる事もある。

      迷惑だとか考えず、行ってきなさい。」


私   「私も一緒に来て欲しい。」


レイ  「分かりました。 それでは、ご一緒します。」


レイが一緒に行く事は決まったようだが、他の精霊ってどんな精霊だろう…。

それに、私にはシールドは作れないのか…。そこまで、お見通しか…。

でも、人間界を見てきて戦う事が出来るのであれば、ギールも戦いに参加すれば良いのではないだろうか?


私   「ギールさんは、一緒に戦わないのですか?」


ギール 「私が居なくなれば、精霊界は混乱する。

      それを避けるために、私は戦いには参加しない。

      精霊界の代表のような存在の私が、戦っていては精霊達に

      合わせる顔がない。」


私   「色々と複雑なのですね?」


ギール 「まぁ、分かってくれ…。」


私   「はい。 で、その悪魔のような存在の本体の場所は

     つかんでいるのですか?」


ギール 「勿論だ。その点に関しては、ファルルを使用して情報を

      送ったりするから心配する事はない。

      まずは、私が納得する力を手に入れるのじゃ。

      話は、そこからだ。」


私   「はい、分かりました。」


悪魔のような存在の本体が分かっている時点で、いっきに消し去ることは可能。

あとは、私の能力次第。私にはいったい、どんな力が眠っているのだろうか…?

明日から、ここに通う事で能力が目覚めるのか?


ギール 「これで、私の話は終わりじゃ。協力してくれる事に感謝する。」


そう言うと、ギールは席をたち何処かへ行ってしまった。すぐに兵士が現れ、私達に今日は帰るよう指示した。ギールの家を出てすぐに、レイが話しかけてきた。


レイ  「悪魔のような存在と戦う事、怖くないのですか?」


私   「怖くないと言えば嘘になる。だが、精霊界に戻してくれて

     今は平和だ。

     その平和を守るために戦うなら、それは良いんじゃないか?

     精霊同士の戦いなら、私はまた中立の立場をとるが…。」


レイ  「そうですか。精霊を護るために、戦ってくれるのですね?」


私   「それもあるけど、精霊の心を守りたい。」


レイ  「ギールさんも言っていましたが、そこまで考えていたのですね?

     すごいです。」


ギールの家でどれほど、話をしていたのだろうか?

外は少し暗くなりかけている。もう、夜が近いのか…。

宿に戻ったら今日、買った商品が届いているのか?


私   「そう言えば、レイの家の人に挨拶はしなくて良いのか?」


レイ  「あぁ、それなんですが…。

     人間界から来たと言う事で、少し抵抗を持っているんです

     よね。挨拶は、今はしないでください。」


私   「やはり、精霊であっても人間界に居た事は抵抗があるんだな?」


レイ  「あまり、人間界を良いものと認識していないみたいです。」


私   「確かに、良いものではないな。

     戦争をしたり、無差別に殺したり…。

     そう言う世界で生きる事が健全で、私のように人間が

     怖いような生き物は、健全ではないように思えたりしていた。」


レイ  「まぁ、あなたは精霊ですけどね。住みにくかったでしょう?」


私   「かなりな。」


そんな話をしているうちに、宿に着いた。が、届いている商品は1階には無さそうだ。

まだ、届いていないのだろうか?


私   「なぁ、レイ? 今日、買った商品って、もう届いているのか?」


レイ  「はい。 部屋に直接、届けていますので自由に使ってください。」


私   「あぁ、了解。」


レイ  「で、夕食はまた、お持ちしますのでくつろいでいてください。」


私   「分かった。 色々と整理したりしているよ。」


そう言って、レイとは1階でわかれた。私は、自分の部屋に向かって歩き出す。

そう言えば、お金はまだ持っていないから自動販売機で物は買えないなぁ。

お金を稼ぐ、この精霊界では、どんな仕事があるのだろう?

これもまた、難しい問題かもしれない。自分の部屋につくと、確かに荷物が届いていた。

箱を開けると、今日、レイが買ってくれた服やシャンプーやリンスが入っていた。

シャンプーやリンスはお風呂場へ、服に関してはハンガーにかけたりして整理した。

夕飯が届くまでは、まだ時間がかかるだろう。お風呂に入る事にする。

そう言えば、ベッドもちゃんと整えられている。

清掃担当の精霊が、きちんとしてくれたのだろう。ベッドには、しわ1つない。

完璧なベッドメイキングだ。お風呂を入れつつ思う。毎日、温泉か…。

贅沢と言えば贅沢だけど、たまには入浴剤も使ってみたいなぁ。

あれだけの種類があるのだから全て制覇してみたい。そう言えば、精霊界の服。

軽いし、着たらふわふわしていたりするのかな?そこも気にな………っ!?

歯ブラシを買い忘れている。(汗)

流石に昨日も歯を磨いていないから流石に今日は磨かないと、人間界の宿泊施設で良いところなら歯ブラシ程度は置いてあるが、この棚の中に入っているような都合の良い事は無いか…?


- バタン -


扉を開けてみると、そこには歯ブラシセットが置かれていた。良かった。すごく助かる。

精霊界、流石だ。そろそろ、湯船にいっぱいの温泉が入っているはず。

服を脱いで、温泉に入る。やっぱり、疲れがとれる。

これと言って、何もしていないのだが効いている感じがする。早速、今日買ったシャンプーとか試してみよう。手にシャンプーを出した瞬間、良い香りが広がる。泡立ちも凄く良い。

リンスも髪の毛が引っ張られたりギシギシしないからストレスなく洗える。

これだよ、こういうのが良いんだよ。

感動にふけりながら、身体を洗っていくが本当に香りが素晴らしい。

ずっと、洗っていたいくらいの良い香りがする。

さっぱりしたので、もう一回、温泉に入って出よう。


私   「明日から、ギールの家で訓練か…。」


思わず、声が漏れてしまった。

そう言えば、部屋の鍵がないのは良いが、お風呂に入っている最中に訪問者がきたら色々、アウトっぽくないか?まぁ、その辺は気にしたらダメなのかな?(汗)

そんな事を考えながら、お風呂を出た。

新しい服、すごく良い。着ている感じが、ふわっとする。

材質が軽いとこうも良い感じなのか…。なんか、精霊界に馴染みつつあるかもしれない。

新しい服を着てベッドにダイブする。布団のふわふわ、服の軽さ♪ とっても、良い感じだ。


- コンコン -


部屋をノックする音が聞こえた。レイが、食事を持ってきたのだろう。

ドアを開けると、そこにはレイが居た。


レイ  「こちらが、今日の夕食になります。

     食器はまた、そのまま置いておいてくださいね。 

     で、明日の予定なのですが、朝食を済ませた後、ギールさんの

     家に行くようになりますので…。」


私   「あぁ、分かった。 ありがとう。」


そう言うと、夕食を置いてレイは行ってしまった。

そう言えば、精霊から私の心を読まれる事は無いが、私は精霊の心を読める。

でも、今はまだ読めない。これも能力の一つで、鍛える事が出来るのだろうか?

とりあえず、食事をする事にする。

今日もまた、見慣れないメニューが勢ぞろいしている。これは、麺?冷麺っぽい?

麺の上に野菜らしきものが沢山のっている。ヘルシーメニューだな。

麺はこしが強く、うどんのような感じだ。

野菜は、人間界の野菜とはまた少し違う味がするが、苦みとかは特になく甘みがあり美味しい。あっと言う間に食べてしまった。それにしても、何もする事がない。

ファルルでも、適当に使ってみるか…。

えーっと、これがメール機能? これが、電話の機能かな? で、これは…。

ボタンを押してみると映像が流れた。これは、テレビの機能みたいだ。

レイにメールを送ってみよう。『ヤッホー』って送信したら、『何かありましたか?』

って返ってきた。特に、用も無かったので、『使えるか送ってみただけだ。』と返した。これで、メール機能は使えるようになった。本当に人間界の携帯と似ている機能だ。

残念ながら、テレビの番組には、私の興味のありそうなものはなかった。

今日は、もう寝ることにしよう。私は布団に横になった。精霊界での2日目の夜か…。

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