主人公は、あなただと思う。

神崎

精霊界での1日目。

今日は、何月の何日なのだろう…?


- ドーン -


また、地響きが起きた。

爆弾か? ミサイルか?

同国内で戦争を起こす程、醜いものはない。

同じ国民であり、同じ人間であるのに…。

戦争が激化したのは最近だが、何月の何日かまでは正確には分からない。

私は今、ただ一人の中立軍として存在している。

勿論、この場所での話で、他の場所にも中立軍は居るかもしれない。

もともと、この中立軍を作ったのは私だが、私についてきた者達も残酷な時間の

流れによって、命を落としていった。

ある者は、中立軍としてただ身を潜めるだけと言う生活が耐えられなくなり自分の支持する軍に入った。

ある者は、身を隠している場所を発見され、その後はどうなったかは分からない。

最悪、殺されているだろう…。

もしかしたら、中立軍として生き残っているのは私だけかもしれない。

食料も水も、あと何日もつかは分からないが数日間はもつだろう。

カレンダーも無い、電気も無い。

不便な生活。

一人で過ごすには、ここは広すぎる空間だ。

夜になると精神状態が不安定になる。

安心して夜も眠れない。

とは言っても人間、少しは寝ないと身体がもたない。

今日も恐怖に怯え、見つからない事を信じて眠りにつこう………。


- ゴトッ! -


何かの物音で目が覚めた。

時刻は、何時だろう?

時計も無いが、深夜である事は間違いない。

間違いなく今、私の居る空間と同じ空間に何者かが居る。

まさか、動物ではないだろう。

電気も無い真っ暗な空間に足音が近づいてくる。

徐々に明るくなる空間。

人間だ。

ついに、私も死の覚悟を決めなければならない時が来た。

これ以上の隠れようはない。

現実を受け入れよう…。

光をまとった人間が現れた。

何かがおかしい。

外から来たにしては、あまりに無防備すぎる姿。

服も綺麗で傷一つ負っていない女性。髪は、ロングヘアーでサラサラとしている。

身長は、それほど高くはない。優しそうな印象を受ける。

武器を持っているのに、私に武器を向けてこない。

私の目の前に立った女性は、武器を投げ私の前に落とした。

私を殺す気どころか戦う気も無いらしい。


私  「・・・・・。」


女性 「・・・・・・・。」


少しの間の沈黙も女性の一言で幕を閉じた。


女性 「さぁ、行きましょう。」


私は、呆然とした。

行きましょうと言われても、この空間から外へ出るのは、かなりの危険行為。

命を捨てに行くようなものである。


私  「行きましょうって、何処へ? それに、あなたは何者ですか?」


頭に浮かんだ疑問を、そのまま声に出してしまった。

何処に行くのかも気になるし、この女性が何者なのかも気になる。

冷静に考えてみても、この女性には不思議な点が多すぎる。

この質問に少し失礼かもしれないとは思うが、逆に声に出して良かった

かもとは思う。


女性  「あ、すみません…。 私の名前は、レイです。

      レイとお呼びください。」


私   「私は…。」


私の事も話そうとしたが、レイは話す隙を与えず、更に話し出した。


レイ  「あなたの事は、ある程度は知っています。 あなたは、私達の事を

     知らないと思いますが…。」


私達?

仲間が居るのだろうか?

敵とも思えないし、中立軍でもなさそうだ。


私   「とりあえず、外から来たのに何故、無傷なんだ?」


レイ  「あ、それは、私が精霊だからです☆」


レイは自信を持って、精霊です☆と言っているが…。

またもや、私は呆然としてしまった。

疑問が次々とわき出てしまう。


私   「ところで、行くって何処へ?

     ここから一歩でも外へ出たら、命の保証はない…。

     私は、中立軍として戦わず、ここに身を潜めてきた。」


レイ  「あなたには、精霊界に来ていただきます。

     まだ、理解は出来ないかもしれませんが、あなたは本来

     この世界の住人では無いのです。」


私は、聞き方を誤ってしまったのだろうか?

更に疑問と言うか、謎が深まってしまった。

どっちにしても、この空間から外に出るなんて私には考えられない。

危険すぎる。

私が考えているところに、レイは更に話しかけてきた。


レイ  「私が持ってきた武器。 それで、なんとかなると思います。」


レイが持ってきた武器、これはマシンガン?

私は、戦わない事を選んだため、扱い方が分からない。

トリガーを引けば、撃てるならまだマシだが、安全装置がついていて解除

しなければならないのであれば、安全装置の外し方から考えないといけない。

私が外に出る事を断っても、レイは無理矢理にでも連れ出すだろう。

答えは分かりきっているが、それでも私は質問を投げかける。


私   「私が断っても、連れて行くのか?」


レイ  「勿論です。(笑)」


レイは、笑顔で返した。

とりあえず、外へ出るなら今の時間が適切だ。

昼間よりは、少しは安全だと思う。

マシンガンを試し撃ちしてみることにした。

撃てないのが分かっていて外に出るのは、かなりの危険行為だ。

試し撃ち、うまく出来れば良いけど…。


私   「ちょっと、試し撃ちしてみる…。」


- カチッ カチッ カチッ -


どうやら、弾切れのようだ。

結局、ここにある唯一の武器、マシンガンも持たずに手ぶらで外に出る事になる。


私   「あの…、弾が無い。」


レイ  「あー、なんとかなります。」


何がなんとかなるのだろうか?

視線を横にそらして、自信が無さそうなレイ。


レイ  「とりあえず、それを持っているだけでも効果はありますよ!

     弾の入っていない武器を持っているなんて、誰も予想しませんから。」


私   「確かに、そう言われたらそうだけど…。

     これ、意外に重い。 外に出てから、かなりの距離があるのか?」


レイ  「いえ、歩いて7分くらいです。」


7分間。

外の状態が今、どんな状態になっているのか予想すら出来ないが、おそらく悲惨な状態であろう。

そんな中、7分間も生きていられるのだろうか?

幸いにも弾が無いとは言え一応、武器を持っているのだから中立軍だとは思われないだろう。

あとは、敵味方の区別を外の人間達がどう判断しているのかが分からない。

そう言えば、精霊界って、どういう世界なのだろう?

聞き辛いが、どうせ連れて行かれるなら聞いてみよう。


私   「精霊界って、安全な場所なのか?」


レイ  「安全もなにも同族、精霊同士の争いはありませんし…。

     分かりやすく言うなら、同族と言うのはこの世界で例えるなら

     人間同士の争いになりますね。

     文化が違っても、同じ国の中でも争いなんてありません。

     ただ………。」


レイは、少し複雑そうな顔をして言葉を止めた。

今は、あまり言いたくはないのだろう。

私も深くは追求しない事にした。

とりあえず、この世界よりは安心できそうだ。


私   「言いたくないなら今は言わなくて良い。

     精霊界に行く事を受け入れよう。」


レイ  「はい。 歓迎しますよ。」


私   「歓迎もなにも、そこまでたどり着けるかが怪しいけど…。」


レイ  「たどり着ける可能性は、50%です!」


レイは、笑顔で答えたが…。

50%って一番、無難な数字過ぎる。(汗)

成功の可能性は半分か…。 せめて、70%くらいは欲しいところだな。

そんな事を思っていると、レイが更に話を進めた。


レイ  「ただし、それは、あなたがそのままで外に出た場合の確率です。

     私が用意した精霊界への入り口までの道中。

     私とあなたの分のシールドを張ります。

     シールドは、数発の弾なら防げます。

     透明なシールドなので目には見えませんが、シールドの状態は

     私が報告しますので、ご安心を☆」


私   「分かった。 ぇ?」


レイ  「はい?」


更に私の中で疑問が生まれてしまった。

精霊界への入り口を用意している?

何故、離れた場所にわざわざ入り口を用意して自分の身を危険に晒してまで

ここまで来たのだろう?

私の、【ぇ?】と言う発言に対して、レイが疑問を持っている。


私   「精霊界への入り口を用意した?」


レイ  「はい…。」


私   「何故、ここに用意しなかったんだ?」


レイ  「鋭いですね。実は私、まだまだ精霊の力を使いこなせなくて

     所謂、見習いのようなものです。ここに繋げようとして失敗しました。

     ちなみに、完全に使いこなせるようになったら、シールドだって

     完璧に作れて、ちょっとやそっとの銃弾は防げますよ♪

     そうなれば、100%、無事に行けますね☆」


この人? 精霊は、天然なのだろうか…?

今は見習いと言う事で、やはり100%、無事には行けないのか…。


私   「ちなみに今、無事に行ける可能性は何%だ?」


レイ  「秘密です☆」


私   「ぉぃ!」


華麗にツッコミを入れてしまった。

間違いない。

天然キャラ、レイ。

そう言う風に思っておこう。


レイ  「それでは、行きますか?」


私   「あぁ…。」


そう言うと、レイは私にシールドを張った。

透明なシールドが故、見えない。

本当に、そこにシールドがあるのかも分からない。

まぁ、レイは無傷でここまで来たのだから、レイにはシールドが見えるのだろう。

私は重いマシンガンを抱え、歩き始めた。


- ドーン -


また、爆弾かミサイルが落ちたらしい。

地面が地味に揺れる。

この空間から一歩外は、本当に酷い世界なのだろう。

そう思うと、この空間から外へ出たくないという気持ちが強まっていく。

見つかって、命を落とす覚悟までしていたのに、精霊に護られていると言う不思議な感覚。

まぁ、残酷な人間に見つかるよりはよっぽど、マシなのかもしれない。

囚われていたかもしれないし、殺されていたかもしれない。

はたまた、どちらかの軍に入れられていたのかもしれない。

中立軍に対する世間の目は、かなり冷たいものだ。

どちらにもつかず、ただただ身の安全だけを求めて身を潜めている。

そんな存在は、彼らからしたら邪魔でしかないのであろう。


私   「ちなみに、一つ聞くが、爆弾やミサイルとかの被害はこのシールドで

     防げるのか?」


レイ  「爆弾やミサイルの直撃は、流石に防ぎきれません。

     ただ、直撃の可能性は、かなり低いですよ。

     近くに落ちた時の爆風なんかは、対処できますのでご安心を…。」


私   「それを聞いて、少し安心したよ。」


それほど、弱いシールドでもないらしい。

しかし、7分間は短いようで長そうだ。

ついに、扉の前まで来てしまった。

この扉から先は、私にも予想のつかない世界が広がっている。

私は覚悟を決めて、扉を開けた。

そして、周囲を確認して一歩を踏み出した。

周囲は暗くて、あまり物は見えないが、だんだんと目が順応する。

高層ビルは、崩れ…。

崩れていなくても、建っているのがやっとの状態で今にも崩れそうだ。

小さい家は、崩壊している。

コンクリートの地面も滅茶苦茶になっている。

この近くには、人気がない。

先程の爆弾かミサイルが落ちた場所も、この辺りと言うよりちょっと距離が

離れた場所だったのだろう。

それでも、安心は出来ない。

何処に人間が潜んでいるか分からない、警戒態勢は精霊界に行くまでは解除する

訳にはいかない。

気付かれないよう、慎重に進んでいく。

時には、壁に身を潜めたりする。

私が一歩を踏み出した時、レイが私を止めた。


レイ  「待って…。」


言われるがまま、待っていたら影から人間が現れた。

銃を持っているのが分かる。ライトも持っている。

照らされたら、確実に終わりだ。


私   「なんで、分かった?」


レイ  「私は、精霊です。人間では、気付けないところも分かったりします。」


なるほど、人間と精霊では感じ方にも違いがあるのか…。

これなら、精霊界の入り口まで生き延びられる可能性は更に高くなるな。


レイ  「もう、大丈夫です。 行きましょう。」


私   「あぁ…。」


そう言えば、確かにレイは強力なサポートはしてくれているが、レイの姿が人目に触れた日には皆、驚くだろうな。

ライトに照らされている人間を見る限り、すでに服もボロボロになっている。

そんな中、ほぼ新品の様な服をまとっているレイは不思議な存在だろう。

逆に彼らからしたら、恐怖を覚えるかもしれない。

この戦いの中、そんな人間がまだ居たのかと…。

中立軍にも間違えられかねない。

とにかく、今は早く精霊界への入り口までたどり着きたい。

レイの案内の通りに、突き進んでいく。


レイ  「隠れましょう。」


私   「また、人か?」


レイ  「動物かもしれませんが、気配を感じます。」


動物であれば特に隠れる必要も無いが、安全の為にはやむを得ない。

息を潜めて隠れた。何者かの足音が聞こえる。それも、複数の…。

おそらく、人間だろう。

話し声も聞こえてきたが、何を話しているのかまでは聞き取れない。

ライトの明かりが地面を照らす。

男二人組の姿が見える。見回りでもしているのだろうか?

こんな戦いの中でも、笑顔で話せるなんて、どういう神経なのか…。


- ドーン -


外でこの音を聞くのは久しぶりだ。男二人組は、音のした方へ走って行った。

外にいても爆弾なのかミサイルなのかは、分からない。

もしかしたら、新しい武器かもしれない。

爆発音のした方向に目を向けると、空が少し明るい。

犠牲者が出ていない事を祈る。


レイ  「さぁ、進みましょう…。」


私   「あぁ…。」


レイに言われるまま、レイの進む方向へと身を任せる。

隠れながら突き進む我々は、戦いがない時だったら、滅茶苦茶怪しい不審者だ。

それにしても、足の裏が痛い。大きな石や木が散乱している。

気をつけて歩かないと捻挫してしまう。


レイ  「隠れてください。」


私   「またか?」


レイ  「精霊界の入り口から出てきた時は、これほど人は居なかったのですが

     今は結構、居るみたいです。勿論、動物の可能性もありますが…。」


私   「安全が一番と言う事か?」


レイ  「はい、その方がシールドも保護できますし、いざと言う時にこそシールド

     を使うのがベストかと思います。まぁ、私が完全なシールドを作れたら、

     そんな面倒な事しなくても堂々と突き進めるのですが…。」


私   「まぁ、無事にたどり着ければ、それで良いよ。」


あと何回、身を潜めることになるのだろうか?

普通に行けば、7分程度の場所なのに…。もうすでに、余裕で7分は経過している。

気のせいか、銃撃戦の音は、ほとんどしない。思っていたより、外の世界は静かだ。

もうここまで、建物も破壊されていては攻撃する価値も無いのだろう。

見回りをして敵が居たら対応するくらいの感じなのかもしれない。

また、足音が近づいてくる。だいたいの感じは掴めてきた。人の足音、そして近づいてきたら必ずライトの光が見える。通り過ぎるのを待ち、再び突き進んで行く。

それの繰り返し。かなり地味な作業だが、失敗すると命に関わる。地味なはずなのに真剣である。シールドに護られてはいるが、今のところはシールドも活用せずにきている。


私   「そろそろ、進むか?」


レイ  「いえ、まだです。 まだ、近づいてくる気配がします。」


私   「そうか…。」


見回りなのか? 何なのか?

彼らはただ、何の根拠もなく歩き回っているだけのような気がする。

見つかると、どうなるのだろう?

一応、武器も持っているし最悪の場合は攻撃されるのか?


レイ  「こっちには、来ませんでした。 進みましょう。」


私   「了解。」


幸いにもこっちに向かってくる途中で、来る方向を変えたらしい。

その方が危険も回避できるし、ありがたい。

しばらく進むと、池に出た。こんな所に、池などあっただろうか?

でも、目の前に広がっているのは池以外の何物でもない。


レイ  「それでは、ここを渡ります。」


私   「ぇ?」


私だけなのか? 私はまた、呆然としてしまった。

池を渡るって? しかも、間違いなくレイの指さす方向は池のど真ん中。

泳げとでも言うのだろうか?日中ですら、泳ぐのは怖い。

おまけに、今はまだ暗い。


私   「泳いで渡れと…?」


レイ  「いえ、私の力で浮いたまま行けますよ?」


私   「それ、確実に危ないって…。(汗) 池のど真ん中だよ?」


レイ  「あ~、それもそうか…。 ごめんなさい。」


少しへこんでいるようにも見えたが、ここまで来てそんな目立つような行動は出来ない。

池のど真ん中なんて、的になるようなものだ。池の周囲を進む事にした。

流石に池の周囲となると、何か鳥でも犬でも出そうな感じがする。

足音を立てないように、慎重に歩く。池の周囲とは言え、身を潜められそうなところはある。瓦礫とかトラックで運搬してきたのだろう。


私   「この付近にも人の気配はあるのか?」


レイ  「分かりません。 水の音で少し感覚が狂います。」


私   「私には、水の音は感じられないが?」


レイ  「普通の人間には、分かりませんよ。 あなたは、別ですけどね。

     まぁ、そのうち分かるでしょう。」


私   「そのうちって…?」


レイは、意味深な言葉を放った。そして、私の疑問は華麗にスルーされた。


レイ  「人の気配がします。 あそこに隠れましょう。」


私   「了解。」


だいぶん、武器を持つ腕が疲れてきた。最初は、軽々しく持てても時間が経過するにつれ同じ重さのはずなのに、重くなってくる。これは、人が居なくても隠れて腕を休ませる事になるかもしれない。身を隠していると、足音が近づいてきた。

もう、同じパターンだ。ライトの光で分かる。すると、何を思ったのかライトを我々の居る方に向けてきた。気付かれたか…!?息を潜めてじっとする。

どうやら、バレてはいなかったようだ。それにしても焦る。嫌な汗をかいてしまった。


レイ  「危なかったですね。」


私   「あぁ、気付かれたかと思ったよ。」


レイ  「ギリギリセーフですね。」


私   「とりあえず、精霊界への入り口までは、まだ距離はあるのか?」


レイ  「もう少しですよ。」


私   「そうか、近いようで遠いな。」


レイ  「そうですね。 私も、こんなに距離があったのかって感じですよ。」


私   「そろそろ、進んでも大丈夫か?」


レイ  「はい、大丈夫です。かなり近くに人が来ないと、気配を感じられない事が

     分かりました。慎重に行きますね。」

私   「あぁ、頼む。」


瓦礫に身を潜めつつ、進んでいく。やはり、足の裏も痛い。少し休憩が欲しい。


私   「少し休憩をとりたい。 足の裏も痛いし、何せ武器のせいで腕も

     休めたい。レイは、大丈夫なのか?」


レイ  「あぁ、私も痛いですけど、早く安全なところに行きたい気持ちの方が

     勝ってますね。腕が疲れているのでしたら、少し休憩をとりましょう。

     あと少しで、精霊界の入り口にもつけますし、入り口に関しては

     建築物の中に開いていますので、そこまで行けば安心です。」


私   「そうだな。」


案の定、この危険な中、休憩をとる事になってしまった。これ、弾が入っている状態だったら相当、重いな。こんなのを持って見回りしている奴らは相当、身体を鍛えているのだろう。

それか、何か持ち方とかあるのか?腕が疲れないような?

そんなのがあるなら、教えて欲しいくらいだ。これは、明日は筋肉痛だな。

そもそも、安全な空間で過ごしてきたから普通の人よりも体力は落ちているかもしれない。やっぱり、人間は運動をしないとダメになるな。精霊界に行ったら少し運動とかしてみるか…。いや、そんな事より精霊界の食べ物とか飲み物とか私の身体は対応できるのか?

謎ばかりだな。(汗)


レイ  「そろそろ、行けますか?」


私   「もう歩けません。」


レイ  「えぇっ!? そんな…。」


レイが凄く驚いている。真に受けるとは思わなかった。


私   「冗談だ。」


レイ  「心臓に悪いですよ、それ…。」


レイが、ほっとする。まぁ、流石に度の越えた冗談だったか。


私   「さぁ、行きますか?」


レイ  「はい、あと少し頑張ってください。」


そしてまた、進み始めた。池の周囲をぐるっとまわって、反対側についた。

確かに池のど真ん中を突っ切れたら、どれだけ楽だった事か…。

そこからの景色はまた、一変していた。この池が対立の境界線なのか、全く風景が違う。我々が歩いてきた方向の建築物は、ほぼ壊滅的だったのに対し、こちら側の建築物は、まだ損傷の程度が軽いように思える。たまに、建築物に明かりが見える所もあるが、おそらく基地のようなものだろう。人が生活している雰囲気はある。

ただ、運の悪い事に人の数も少し多い。見つかる可能性も高くなる。早く、安全な場所へ行きたい。


レイ  「あの建築物の中に、精霊界への入り口があります。」


レイが指さす方向を見ると、その建築物は破壊されていた。その建築物の地下に入り口が開いていて、地下には誰も居ないと言う。


レイ  「おかしいですね。私が来た時より、人の数が多いです。」


私   「夜明けが近いのかもしれないな。時計が無いから分からないが…。」


レイ  「ぇ? 夜が明けたら、もっと人が増えますか?」


私   「それは、増えるだろう。」


レイ  「あと少しなので、急がなければなりませんね。」


私   「あぁ、そうだな。 でも、慌てると良い事は無いからくれぐれも

     慎重に行くぞ?」


レイ  「はい、分かりました。私の感覚も元に戻ると思いますので…。」


今まで歩いてきた道よりも遥かに危険な気がする。人の数が少し多いだけでも脅威だ。おまけに、武器はあるが、見せかけだけ。私には弾が入っていたとしても人に向けて撃つ事など考えられない。弾が無くて、正解だな。おそらく、ここから先は瓦礫とか崩壊した建築物とかも言うほどは無い。普通に建築物の影に身を隠すしか無いのだろう。ゲームで言う所のラスボス前か?そんな雰囲気だ。


レイ  「あそこに隠れましょう。 人の気配がします。」


私   「あぁ…。」


建築物の影に身を潜める。人の歩く音と共に、エンジン音まで聞こえてくる。

エンジン音からして車。まだ、走れる車が残っていたのか…。日中になると空からの攻撃もあるかもしれない。今のうちに、精霊界の入り口へ到達しておく方が身のためだ。


- ドーン -


- ドドドドドッ…。 ドーン…。 -


かなり近くで、爆発が起きたらしい。爆風を少し感じたように思える。

砂煙が酷い。先程の車のエンジン音が消えた。近くに止まったらしい。

早く、この辺りから抜け出さなければ見つかるのも時間の問題になってしまう。


私   「別の所に身を潜めよう。 ここは、危険だ。」


レイ  「ぇ? でも…。 危険ですよ。」


私   「流石に、ここに居るよりは安全だと思う。」


レイ  「分かりました。」


そして、危険だと分かりつつも別の建物の影に身を潜めた。普通に歩けば、そんなに時間もかからない建物へ行くのにかなりの時間を要する。それにしても、これ…。

普通でも7分の距離ではないような気がする。精霊と人間とでは、時間のとらえ方も違うのか?


私   「なぁ? 精霊と人間とでは時間のとらえ方は違うのか?」


レイ  「いえ、ほとんど同じだと思いますよ?」


私   「この距離、普通に歩いても7分では無理じゃないか?」


レイ  「私も時計を持っていないので感覚で言いましたが、確かに7分では

     無理がありましたね。ごめんなさい。」


私   「いや、別に謝る必要はない。 外に出たら、時間なんて気にする余裕は

     誰も持てないよ。感覚でも大幅に狂ってしまう。」


この危険な外、時間なんて関係ないのは事実。大事なのは、生きている事。

ただ、それだけだろう。


レイ  「さて、進みましょう。ここから先は、精霊界の入り口を用意している

     建物まで身を潜められそうな所はありません。走って行くしかないで

     す。」


レイの言う通り、目と鼻の先にあるような建物までは近くて遠い距離。身を潜める場所が無いと言う事は見つかれば終わり。あとは、シールドに頼るしかないと言う事になる。


私   「ここから先、もし見つかって攻撃を受けたとすれば、シールドの力を

     信じるしかないと言う事か?」


レイ  「はい、そうなります。でも、ここまでシールドを使用していません。

      突破できますよ。」


私   「シールドの強度を信じよう。じゃあ、行くか…。」


レイ  「はい、行きましょうっ!」


私とレイは、出来る限り足音を立てず走って建物に向かった。が、運が悪い事に見つかってしまった。


レイ  「人の気配がします。そのまま、走り続けてください。」


軍人A 「おい! 待てっ!」


軍人が現れた。ライトでこちらを照らし、銃を向けてくる。


軍人A 「止まれ!止まらないのなら撃つぞっ!」


勿論、こちらは止まるわけもない。そのまま走り続けた。


- ズキューン -


何のためらいもなく、軍人は弾を撃ち込んできた。弾は、シールドによってはじかれ傷を負う事は無かった。シールドが無かったら、確実に大怪我をしていた。


軍人A 「こいつら、何者だ? 不審者を見つけた。至急、応援を頼む!」


軍人は、無線機を使い仲間を呼んだ。私とレイは、そのまま建物に向かって走り続けた。軍人からしたら、命中したはずの弾がはじかれた。それだけでも、我々を普通ではないと思っているのだろう。仲間を呼ぶ声に、驚きが混じっている。


レイ  「人の気配がします。おそらく、応援でしょうが1人です。

     これなら、なんとかなります。」


私   「武器が重い…。あと少しだから、頑張れるけど…。」


軍人A 「止まれ。 止まれ~!」


軍人B 「不審者は、あいつらか!?」


レイの言うとおり、応援で来たのだろう。軍人が1人、増えてしまった。

建物までは、あと少し。


- ズキューン ズキューン -


二発の弾が撃たれたが、一発は外れ、一発はシールドにはじかれた。


軍人B 「何故だ!? 当たったはずなのに、なんであいつら無傷なんだ?」


軍人A 「分からない。とにかく、不審者だ。捕まえる。」


軍人B 「了解!」


軍人との距離はあるが、建物の中まで侵入されると厄介な事になる。

そもそも、建物内に人が居ない保証はない。

まぁ、そこまで考えていたら何も出来ないか…。


レイ  「建物の入り口に入ったら、入り口にシールドを張ります。

     それで、時間を稼げますから…。」


私   「とりあえず、安全第一で行こう。」


そして、やっとの思いで建物の入り口にたどり着いた。レイは、すぐにシールドを作った。私は、弾の入っていない武器を軍人に向けた。それだけで、軍人は近づくのをためらった。まさか、弾が入っていない武器だとは思っていないのだろう。

私は、足を止めた軍人に向かって重かったマシンガンを投げた。軍人は、私のその行動にも混乱した。


レイ  「行きましょう。」


私   「あぁ…。」


私とレイが歩き出すと、軍人達は急いでかけよって来たが当然、建物の中には入れない。銃を何発か撃ってきたが、それもむなしくシールドに防がれていた。レイは、地下に向かって歩いている最中も数ヵ所にシールドを作って、安全を考慮した。

幸いにも、この建物の中には人の気配はない。地下に向かって、歩いて行くと水が漏れている場所があったり、湿気も多い。おまけに、温度も低くなり若干、寒ささえも感じる。

まぁ、こんな所に人が居たら逆に何をしているのか気になる。

レイの持つ明かりで、なんとか歩けるがこの明かりが無ければ真っ暗でとても歩けたものじゃない。


レイ  「もう少ししたら、精霊界への入り口があります。

      ここまで来たら安心でしょう?」


私   「流石に、ここに人が居たら、逆に何をしているのか気になるよ。」


レイ  「それもそうですね。」


お互いに少し、ほっとした。シールドのおかげで無傷で、ここまで来られたし…。

シールドが無ければ、負傷していたに違いない。シールドの凄さを実感した。

そして、精霊界への入り口に到達した。が、そこには入り口らしきものは何もなかった。


私   「ぇ? 何も無くない?」


レイ  「そのままの状態で置いておいたら、誰が入るか分からないじゃ

     ないですか? ちゃんと、ロックみたいに見えないようにしています。」


そう言うと、レイは呪文らしきものを唱え精霊界への入り口を開いた。

ドアのようなものかと思っていたら、暖かい光りのような感じの入り口だった。

白く光り眩しい。


レイ  「ね?」


レイは、笑顔で自慢げに言った。


私   「この中に入るのか?」


レイ  「はい、そうです。」


この場におよんで、私の頭の中では疑問が浮かんだ。光りの向こう側は壁。

そのまま壁にぶつからないのだろうか?


私   「これ、光りに向かって歩いて行くのは良いが、そこの壁にぶつかったりは

     しないのか?」


レイ  「大丈夫ですよ☆ ちゃんと、道は続いていますから☆」


レイは、少し笑いながら答えた。


レイ  「私と手をつないでください。そうしないと、行けませんので☆」


私   「え?」


そんな私のとまどいも無視して、レイは私の手をつかみ強引に光りの中へ入った。

確かに、壁にぶつかることは無かった。


レイ  「はい、到着です♪」


私   「ぇ?」


なんか、ワープみたいな感じになるのかとか想像していたが、そんなの一切なく普通に光りの中に入ったら精霊界についてしまったらしい。ただ、周囲は白く暖かい光りに包まれていて、眩しくて何も見えない。


私   「ぇ? もう到着? 何も見えないけど…?」


レイ  「少しの間は、眩しくて何も見えないと思いますのでこのままで…。

     まぁ、精霊界に入るために消毒しているとでも思ってくれれば良いと

     思います。」


私   「消毒って…。確かにそれっぽいけど…。

     そう言えば、精霊界への入り口はもう消したのか?」


レイ  「はい、勿論です。

     私が中に入った時点で消えていますし、あちらの世界に張った

     シールドも消えています。私達のシールドもすでに消えていますよ。

     見えないので、気付いていないかもしれませんが…。」


私   「精霊界への入り口の鍵がレイのようなものか…。」


レイ  「そうですよ。だって、私が開いた入り口ですから~。」


そんな会話をしているうちに、だんだんと光りは弱まり、徐々に周囲の状態が見えるようになってきた。何と言うか、見た事も無い生物がいたりするし…。

何より、景色が凄く綺麗で空気も美味しい………ような気がする。

さてさて、精霊界に来たのは良いが、私はこれからどうすれば良いのだろう?

レイに出会ってから、疑問が次々と湧いてくる。


私   「で? 私は、これからどうしたら良い?」


レイ  「とりあえず、この精霊界で一番偉いとされている方に御挨拶ですね。

     ちなみに、偉いと言っても王様だとか精霊王だとか言う堅苦しい

     地位は持っていませんので、その辺は気が楽かと思います。」


私   「なるほど。 まぁ、挨拶はしておかないといけないか…。」


レイ  「それに、あなたの知らない事も色々と教われると思いますので…。」


私   「私の知らない事?」


レイ  「私も全てを知っている訳ではないので、間違った事は教えられませ

     ん。なので、私の方からは何も言いません。」


私   「そうか…。」


いったい、私の知らない事って何なのだろうか?

かなり、気になってしまう。


レイ  「さぁ、行きましょうか…。 案内します。」


そう言って、レイは私を案内するために歩き出した。私もついていく。

それにしても、歩き疲れた。そんなに距離は歩いていないけど、どれくらい歩かないといけないのだろうか?


私   「ちなみに、距離はあるのか? この辺り、何にもないけど…。」


レイ  「そうですね。少し歩かなければなりませんが、20分程度です。

     ゆっくり行きましょう♪」


レイは、どこか楽しそうだが、私はもう疲れている。

そう言えば、レイはシールドとかを作っていたが体力の消耗は無いのだろうか?


私   「シールドを作ったりするのに、体力は消耗しないのか?」


レイ  「体力と言うよりも、精神的なエネルギーを消耗します。

     今の私には、先程のシールドで精一杯で、あれ以上のシールドは

     作れません。作れたとしても、強度が弱くなると思いますし、私が

     倒れてしまいます。」


私   「精霊も色々と大変だな…。」


それから、約20分程度、歩いて精霊界の偉い人が居ると言う建物まで来た。

途中、街中っぽいのも歩いた気がするが商品を見る余裕は無かった。

それにしても、偉い方のはずなのに、そんな感じを一切、受けない建物。

普通の建物でちょっと大きいかなと言うくらいで、決して豪邸だとかお城とか言う物ではない。


私   「偉い方なのに、豪邸やお城には住んでいないのか?」


レイ  「そう言うのを嫌う方なので…。でも、その分、地位とかも関係なく

     周囲に馴染んでいますし、精霊関係も悪くないですよ。」


私   「精霊関係? 人間関係のようなものか?」


レイ  「はい、正解です♪ それでは、挨拶に参りましょう。」


そう言うと、レイはチャイムのようなボタンを押した。


- ガチャ -


扉がそっと開く。どう見ても、偉い方とは思えない。若い兵士が出てきた。

鎧のようなものを身にまとっている。


レイ  「例の方を人間界からお連れしました。」


兵士  「ご苦労様です。 どうぞ、中へお入りください。 あなた様も…。」


レイ  「家の中に入る許可がおりました。 行きましょう。」


私   「あぁ…。」


なるほど、この偉い方の命令か何かで、私を精霊界に連れてきたのか…。

私を精霊界に呼んだ偉い方、どんな精霊なのだろうか?

精霊王と言わないだけであって、それに近い精霊だろ?少し恐怖を感じてしまう。

兵士が案内した先に、一人の男が椅子に腰掛けていた。

私とレイが入るなり、その男は椅子から立ち上がった。

日焼けでもしているのだろうか? 少し肌の色は黒く、体格の良い中年男性。

髪は短髪で、目が細い。


男   「ようこそ、精霊界へ。 さぁ、好きな場所に座ってください。

      話す事は、山ほどありますのでね。」


レイ  「分かりました。 さぁ、あなたも…。」


私   「あぁ…。」


レイに言われ、私も適当な場所に座った。


男   「私の名前は、ギール。これから、よろしく頼む。」


レイ  「私も改めて自己紹介。私は、レイです。これから、よろしく。」


私   「私の名は、○○○。(読者の名前か好きな名前を入れてください。) 

     よろしくお願いします。」


ギール 「さて、何から説明すれば良いのやら。 困ったものだ。」


レイ  「焦らなくても、時間はたっぷりありますよ。」


ギール 「それもそうか、もう少ししたらここまで案内した兵士が食べ物と

      飲み物を持ってくる。お腹がすいているだろう?

      食べながら、話を聞いてくれ。」


私   「はぁ…。」


そんなに、説明する事があるのだろうか?私からしたら、別に話されるような事は何もないのだが…。


ギール 「まぁ、食べ物が来る前に、お前さんに謝罪しなければならない事が

      ある。迎えに行くのが遅くなってしまい、すまなかった。」


私   「・・・・・。」


ギール 「実はだな。人間界の事は、ずっと見ていたんだ。戦争が激化する前に

      迎えに行きたかったのじゃが、ちょっと精霊界にも事情があっての…。

      迎えに行くのが遅れた分、お前さんにも迷惑をかけている。」


私   「迷惑? 私は、あなたに会うのも初めてですが? 迷惑もなにも…。」


ギール 「戦争が激化して、お前さんの心にも悪影響が出ておるじゃろ?

      中立軍とは言え、身を隠すのに必死で人を誰も信じられないような

      状態に陥ったり、経験あるじゃろ? 戦争が激化する前に比べたら。」


私   「それは、確かにありますが…。 それとこれとは、話が別じゃ…?」


私には、この男が何をそんなに深刻に思い詰めているのかが分からない。

そんなに、気に病むような事なのだろうか?


ギール 「実は、お前さんも精霊なのじゃよ。」


私   「・・・・・!?」


突然、意味不明な事を言われた。私は、人間なのに精霊って…。(汗)

驚きを隠せない私、それを分かりつつも男は話を続ける。


ギール 「お前さんは、今まで自分を人間だと思って生きてきた。

      突然、精霊だと言われてもピンとはこないじゃろうなぁ。」


兵士  「お食事をお持ちしました。」


ギール 「おぉ、ありがとう。皆、適当に食べてくれ。

      食べながら話を続けよう。」


兵士が持ってきた料理は、私の住んでいた世界の料理とは、雰囲気が違っていた。

これは、食べられるものなのだろうか?そんな疑問を持った私に、レイは言った。


レイ  「先程も言いましたが、あなたも精霊ですので、精霊界の食べ物は

     身体に合いますよ。いただきましょう♪」


そう言うと、レイは食べ始めた。お腹がすいていたのだろう。私もお腹がすいていたので、料理をいただく事にした。確かに味は悪くない。美味しい。


ギール 「口に合いましたかな?」


私   「えぇ、美味しいです。」


ギール 「それは、良かった。 それでは、話を続けていこうか…。」


私が精霊? それが、本当なのであれば話す事は確かに多いかもしれないが、私自身、自分が精霊であると言う実感が全くない。


ギール 「本当は、もう一人、自分を人間だと思っている精霊が人間界に

      居たのだが連れてこられなかった。戦争が激化する前に迎えに

      行ったのだが失敗してしまった。どうなったかは、想像に任せよう。

      それが、もう一つの謝罪だ。」


私   「そうですか…。 分かりました。」


私以外にも同じような人間? いや、精霊が居たのか…。

どうなってしまったのかは気になるが、私とレイもかなり大変な思いをしてここまでたどり着いた。失敗してしまったのか…。


ギール 「さて、ここまで話をしてもまだ、お前さんは自分が精霊であると言う

      事実を受け入れられないであろう?」


私   「そうですね。 全く、分かりません。」


ギール 「それでは、精霊であるが故に感じる事と簡単なテストをしてやろう。」


精霊であるが故に感じる事と簡単なテスト? いったい、何をするのだろうか?


ギール 「まず、季節の感じ方についてじゃが、お前さん季節をどのように感じ

      取っていた?」


私   「それは、感覚でしょうか…。そう、肌に当たる風やその季節独特の

     香り、まるで妖精か何かが居るような?」


ギール 「そう言う感じ方が既に精霊なのじゃよ。たいていの人間は、この時期

      だからこの季節だろうとか、目に見える気温で季節を感じ取っている

      に過ぎない。感じ方も、精霊なのじゃよ。お前さんは。」


私   「はぁ…。」


確かに、私の季節の感じ方は、他の人間とは何か違うなと思った事はあった。

こう言う感じ方を精霊はしているのだろうか?


ギール 「それに、人間関係の中で、自分は普通の人間の考え方ではないと思った事

      はないかね?」


私   「それは、あります。」


ギール 「それも、人間の考え方では無く精霊の考え方によるものなのだよ。

      そして、悲しい事に人間の考えは精霊には理解できない。

      人間界の戦争について理解できなくて、中立軍と言う立場をとった

      のも、その影響だ。もし、お前さんが普通の人間であれば、どちらか

      の軍に入り、他の人間達と同じように戦っておる。」


確かに、この男の言う事に間違いは無いように思える。私の今までの生活感を全て言い当てている。私は、本当に精霊だったのだろうか?


ギール 「それでは、最後に簡単なテストをしよう。」


私   「テスト………、ですか?」


ギール 「そんなに構える必要はない。失敗しても、訓練次第で力は元に戻る。」


私   「力?」


ギール 「そう、精霊の力じゃよ。」


精霊の力? 私も、レイと同じようにシールドを作ったりとか出来るのだろうか?

それはそれで、なんか楽しみだったりもするが、そんな力が自分にあるとなると色々な意味で不安もある。ギールは、風船をふくらませて私の前に置いた。これで、テストを行うのだろうか?でも、何のテストだろう?


ギール 「今、私が作った風船。これを、手を使わずに動かしてみなさい。」


私   「は?」


つい、声が出てしまった。目の前に置かれた風船、手を使わずに動かす。

息をふきかけろとでも言うのだろうか?でも、この場では、そう言う事でも無さそうだ。


レイ 「思いの力で動かします。風船をどのように動かしたいか強くイメージして

    その思いで動かすんです。勿論、弱い思いでは何も起こりません。

    かなり強い思いの力を送るのです。」


なるほど、思いの力が風船に伝わって動くのか…。でも、そんな事ってあるのか?

人間界では、いくら念じても動いたりはしない。精霊界では、思いの力が実際に起こってしまうのか?いや、でもそれでは説明がつかない。レイは、人間界でもシールドを作ったりしていた。レイの力が、それだけあると言う事なのか?

とりあえず、動かしてみたいと何故か思う。私は、風船が動くようにイメージし、そのイメージを風船に送った。が、動かない。


ギール 「もう少し強くイメージするんじゃ…。その程度では、ダメだ。」


かなり強くイメージしているのに、ギールはダメだと言う。私は更に集中して風船にイメージを送ってみた。すると、少しだけ?ほんの気持ちだけ風船が動いた。


レイ  「おぉ~~~☆」


ギール 「お前さん、今度は風船を浮かせてみるのじゃ。少し難易度は高いが

      それが出来れば、人間とは違う何かを更に感じる事ができ、自分を

      精霊だと今以上に思う事が出来るようになるはずじゃ。」


私   「分かりました。」


レイは、楽しそうに私と風船の動きを見ている。男は、私が風船を浮かせる事が出来ると思っているらしい。難易度の高いものは、流石に無理だろう…。

無理だと思いつつも、私は風船が浮く事をイメージして風船に思いを送ってみた。

すると、わずかだが風船は浮いた。すぐに、落ちてしまったが…。


ギール 「ほぉ、なかなかやるのぉ…。 それが、精霊の持つ力じゃ。

      お前さんは、まだまだ初級以下の力じゃが、この世界で過ごしていく

      うちに身に付くじゃろう。」


どうやら、本当に私は人間ではなく精霊らしい。すぐには、受け入れられない自分も存在しているし、受け入れても良いと思う自分も存在している。かなり、複雑な気分だ。


ギール 「それでじゃな。この精霊界でのルールとかは、特には無い。

      人間界のように戦争で殺し合う事も無ければ、無差別に殺されると

      言う事も無い。ここは、平和であると言う認識を持って欲しい。

      今のお前さんには、難しい事だと思うが、それも時間が解決して

      くれるじゃろう。

      ちなみに、精霊同士は、心を読む事が出来るのだが、私の

      特別な能力で精霊達にお前さんの心が読まれないように

      しといてやろう。

      ただし、お前さんは慣れてきたら精霊の心が読めるようになってくる。

      そこは、そのままにしておく。人間は、表面上の言葉を多く使うが

      精霊達は、そんな言葉は使わない。そこを勉強して欲しいからのぉ。」


そう言うと、ギールは私に呪文のようなものを唱え魔法の杖のようなものを向けてきた。精霊は、魔法も使えるのだろうか?むしろ、私の心は精霊に読まれない方が、都合が良い。人間同士でもお互いの心は、読めないのだから。それに、私の汚れた心を読まれたら、精霊達にも害が及ぶに違いない。


私   「今の私の心を読まれては、精霊達に害が及ぶから、その能力を

     使ったんですよね?」


ギール 「鋭いのぉ。 その通りじゃ、私がお前さんを認めるまではこの力を

      解除する訳には、いかない。許してくれ。」


そう言えば何故、こんなに精霊の数が多いのに、その中からレイが選ばれたのだろうか?


私   「なぁ、レイ?」


レイ  「何ですか?」


私   「なんで、精霊の数はこんなに多いのに、レイが私を迎えに来たんだ?」


ギール 「それは、簡単な事じゃよ。

      人間界でも同じ力を使える精霊は、ほとんど居ない。

      この精霊界で大きな力を持てたとしても人間界では全く力を持てない。

      世界の違いは、持てる力の大きさも変える。

      レイは、人間界でもある程度の力は使え、何より精霊界への入り口を

      人間界に開いて、入り口を安定させて人間界にとどめられる。

      だから、レイを選んだのじゃよ。」


私   「なるほど、そうだったのですね。」


多分、レイはかなりの力の持ち主なのだろう。でも、会った時、見習い的な事を言っていたような気もするけど、そこは気にしないでおこう。


ギール 「レイよ。食事が終わったら、色々と案内してあげると良い。

      この近辺だけでも…。」


レイ  「はい、分かりました。」


私   「ところで、私は何処で生活をすれば良いのでしょう?」


ギール 「おぉ、そうかそうか。生活する場所が無いのじゃな。

      レイの家は、宿を経営していたな? 1部屋くらい空きは無いのか?」


レイ  「はい、ありますよ。最近は少し、お客様も減っているので…。」


ギール 「そこに少しの間、住まわせてやってはくれぬか?」


レイ  「私は、構いませんよ?」


私   「良いのか?」


レイ  「はい、私の家の宿はこの近くですし、その方がギールさんに

     会いに来る事も多いと思うので便利かと思います。」


私   「そしたら、お願いします。」


レイ  「こちらこそ…。」


その後、食事を終わらせた私とレイは、ギールの家をあとにした。


兵士  「また、いらっしゃってくださいね。」


兵士は、最後まで見送ってくれた。

その後、レイは街中や色々な場所を案内してくれた。レイの家についた時には、周囲は少し暗くなっていた。精霊界にも、夜はあるらしい。


レイ  「ここが、私の家 & 宿です。」


私   「挨拶はした方が良いのか?」


レイ  「今日は、大丈夫です。それに、人間界から来たというと心の準備も

     出来ないと思いますから。そのまま、空いている部屋に案内しますね。」


そう言うと、レイは私を空いている部屋まで案内しようとした。

空いている部屋は、色々とあるらしい。結構、立派な宿で何階建てくらいだろう? 長方形の建物で、4階から5階はある。1階は、ほとんど休憩室や温泉? それに、食堂や娯楽設備らしきものがある。泊まる部屋があるのは、2階からなのだろう。

かなり、お洒落な宿のように見える。


レイ  「最上階のお部屋とかは、どうですか?

     人気がありますけどいっぱいになる事はないので、1部屋くらいは

     大丈夫です。」


私   「空いているところで、迷惑にならない場所なら何処でも良いよ。」


レイ  「それでは、最上階の部屋を案内しますね。」


最上階までは、歩きなのだろうか? それとも、エレベーターみたいなものが…。


レイ  「一応ですね。ほとんど、人間界と同じような設備があると思っていただいて

     大丈夫ですよ。エレベーターもありますし、自動販売機もあります。

     お風呂は、温泉ですので☆ 疲れもとれるかと思います。」


私   「あぁ、そうなのか…。」


人間界と同じような設備があると言う認識で良いのか…。

そして、ここに居る間は毎日、温泉に入れるのか…。

早速、今夜、利用させてもらおうかな。


レイ  「このお部屋になります。で、驚かれるかとは思いますが鍵は

     ついていません。精霊界では、精霊の物をとったりすることは

     目に見えない神から天罰を受けると言う認識ですので…。

     それに、精霊同士、心を読みあえるので、盗んでもすぐに分かります。」


私   「心を読まれるのは、あまり嬉しいものではないな。

     でも、心が分かるのは安心だし親密度も高まりそう。」


レイ  「そうですね。まぁ、そのうち慣れますよ。」


私   「慣れると良いけど…。 不安だな。」


レイ  「慣れますよ☆」


レイは、笑顔で返した。本当に、住めば都らしいから慣れる事を祈ろう。人間界に戻る事も多分、無いだろう。争いが早く終わる事だけ祈っておこう。

部屋の中は、暗い。大きな窓が見えるが、外が明るければ明るい部屋なのだろう。もう、夜が近いからか暗い。電気のスイッチは、何処にあるのだろう。


レイ  「電気のスイッチは、ここにありますよ。」


レイは、電気のスイッチを押して電気をつけた。よく思ったら、ここは精霊界。

電気が無くてもおかしくはないな。でも、電気があると言うのは、本当に人間のような暮らしをしていると言う事か…。


レイ  「で、守っていただきたい事が数点あります。

     お風呂は、この部屋のお風呂を使用してください。

     大浴場もあるのですが、ギールさんから心を読まれないための

     術をかけられていますので、混乱を招く可能性があります。

     勿論、こちらのお風呂、大浴場と同じ温泉のお湯が出ますので

     くつろいでいただけるかと思います。」


私   「いや、どちらかと言うと大浴場で入るよりは、一人の方が好きだから

      この部屋のお風呂を使用させてもらうよ。」


レイ  「そうですか、それなら良かったです。あと、お食事に関しては色々と

     調整しながら、出させていただきますね。

     栄養バランスとかもちゃんと考えますので☆

     とりあえず、お食事は今夜から出させていただきますね。

     で、お食事の方も食堂ではなく、こちらでお召し上がりください。

     お持ちしますので☆」


私   「あぁ、ありがとう。 助かるよ。」


実際、部屋まで食事を持ってきてくれるのも嬉しいし、この部屋にお風呂がついていてくれて助かった。大勢の人の中に居るのは苦手だし…。いや、この世界では人間ではなく精霊か。どちらにせよ、精霊の中も今の私には苦手だな。精霊の事、好きになれると良いな。でも、今は一人で過ごせる時間を大切にしたい。色々あって、かなり疲れたし…。そう言えば、ベッドは見えるがテレビはあるのだろうか?


私   「テレビみたいなものは、無いのか?」


レイ  「テレビ………、ですか?」


私   「えっと…、精霊界の情報とかを流しているような物…。」


レイ  「あー、フェリルですかね? 映像で精霊界の情報やアニメみたいなの

     流しています。

     ただ、かなり高級な物なので、宿には置いていないんです。

     その代わり、精霊の皆さんは人間界で言う携帯電話のようなものを

     持っていますよ。ファルルと言う名称です。」


私   「そのファルルと言う物は、電話とか…。そのフェリルみたいに映像を

     見られたりするのか?」


レイ  「はい、また今度、それもお渡ししますね。

     無いと不便ですし、持っていない精霊は居ないくらいに

     普及していますから☆ 持っていないと時代遅れですね。

     なので、あなたは今、時代遅れです♪」


レイは、楽しそうに言っている。

時代遅れって、普段はあまり気にしない言葉だけど、妙に気になってしまう。精霊界に来たばかりで早速、時代遅れ呼ばわりは辛い。(涙)

しかし、ファルルが手に入るまでは何もなく暇なのか…。

まぁ、ゆっくり過ごそう。


レイ  「それでは、私は失礼します。

     だいたい1時間後くらいに食事をお持ちしますので、それまでお風呂に

     入るなりなんなりくつろいでいてください。」


私   「あぁ、ありがとう。」


そう言うと、レイは何処かへ行ってしまった。さて、どうするか…。

まぁ、疲れたしお風呂にでも入る事にしよう。お風呂は、何処だろう?

部屋は意外と広い。ここは、収納スペースで…。これは、洗濯機?

ここは、トイレで…。よし、じゃあお風呂はここだな。ドアを開けると意外と広いお風呂が姿をあらわした。人間界と同じように、シャワーもある。これなら、私にでも使えそうだ。それはそうと、お湯だけ? 水は出ないのだろうか…。

どうやら、温泉の温度、そのままで入れと言う事らしい。

まぁ、良いか。お風呂は好きだし、入れないよりはマシだ。

蛇口をひねり、湯船にお湯を入れる。人間界の温泉のような硫黄の香りはしない。

さて、湯船がいっぱいになるまで少し時間がかかりそうだし、部屋を私用にするか…。………。あ、荷物がない。(汗) 収納する物が無い。暇だ。大ピンチだ。

服くらいは脱げるから、ハンガーにかけられるがパジャマも無い。

これは、確実に明日は買い出しにいかないとだが…。ぇ?お金なくない?

精霊界のお金って、どんなお金…? そんな事を色々と考えているうちに、湯船がいっぱいになった。とりあえず、入る事にしよう…。服を脱いで、湯船につかる。

熱くもないしぬるくもない。ちょうど良い。そして、何より疲れに効いているような気がする。若干、手足がしびれているのは血行促進か? 肩こりにも効いているって感じがする。お湯の色は、温泉らしいけど無色透明ではなく入浴剤を入れたような白とピンクが混ざったような色。甘い香りがする。入浴剤を入れているような気分になれる。

あぁ、そう言えばシャンプーとかリンスとかボディソープとか欲しいなぁ。タオルは置いてくれているから使えるけど…。多分、あそこに置いてある容器の中身がシャンプーとかなんだろうけど、精霊界の文字で読めない。今日は、温まるだけにしておこう。どれが、シャンプーかとかレイに聞かないとダメだな。そろそろ、出ようか。湯船から出てもポカポカ温かさが続く。少し幸せな気分になれる。これが、人間界だとお風呂にも安心して入れない。ここは、全く逆の平和な世界なのか?

平和の裏には闇が潜むように思えるが…。今は、考えないようにしておこう。服もないので、脱いだ服をもう一度、着る。新しい服が着たかったなぁ。気を落としながら、私はベッドに横になった。ふかふかのベッド。枕もふかふか。布団もふかふか~。せめて、服だけでも新しければすごく心地いいのになぁ。残念。そう言えばちゃんとしたベッドに横になるのも久しぶりだな。人間界では、こんな生活は確実に出来ない。目を閉じたら、すぐにでも寝てしまいそうだが寝ないで我慢する。

流石に、お腹がすいているので食事をしたい。食事は、まだかなぁ…。


- グゥ~ -


地味にお腹がなってしまった。それにしても、暇だ。食事をしたらすぐに寝ようかなぁ。少しの間、現実逃避をしていたらドアをノックする音が聞こえた。レイが食事を持ってきたのだろう。私は、ドアを開けた。


レイ  「少し早いですが、料理をお持ちしましたよ。あ、この香りはお風呂に

     入られたのですね?」


私   「香るのか? まぁ、入ったのは良いが着替えも持ってきていないし

     少し辛い。あと、精霊文字でどれがシャンプーかとか分からない。」


レイ  「服に関しては明日、買いに行きましょう。

     あと、しばらくここに住むのですから、髪を洗ったり身体を洗ったり

     するものも買いに行きましょう。」


あれ? もしかして、シャンプーとか通じていない?

髪を洗ったり身体を洗ったりするもの、名称はないのだろうか…?


レイ  「とりあえず、お食事をどうぞ。明日、食器類はさげにきますので…。

     それでは、お休みなさい。朝はゆっくりしていてください。

     昼になったら、また来ますので、少し外出して生活用品を

     揃えましょう。」


私   「あぁ、そうだな。 ありがとう。」


そう言うと、レイは何処かへ行ってしまった。そう言えば、精霊界のお金について聞き忘れてしまった。まぁ、なんとかなるか。それより、早く食べよう。外見は美味しそうだが、どれも見た事の無い料理で少し食べるのに勇気がいる。

パンのような物と見た事の無い魚の焼き魚。あとは、サラダだと思われる。

パンのようなものは、普通にパンだった。魚は、なんか不思議な味だった。

私は、それほど野菜は好きではないのだが、このサラダは美味しくいただけた。

それほど、量がある訳ではないが妙にお腹がいっぱいになった。これが、精霊界の食材の力なのか? まさか、お腹の中で膨らんでいたりとか?

普段は考えないような事を考えている自分がおかしい。

食べてすぐ寝るのは良くないみたいだが、流石に今日は疲れたので寝る事にしよう。

少なくとも、爆弾やミサイルが飛んでくるような事はなさそうだ。安心して寝られる。電気を消して、ベッドに入る。ふかふか~♪ 素晴らしい寝心地だ。精霊界での1日目の夜…。

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