王子様はまだ恋を知らない。〜After story〜

王子様はまだ恋を知らない。〜After story〜(1)



もうすぐクリスマス。


今年より私は浮かれているように思う。


「良いなぁ、蜜葉ちゃん。クリスマスは高宮くんとデートなんでしょ?」


「う、うん!」


私と優里香ちゃんはホームルーム前に語る。


「やっぱり、クリスマスってカップルにとって大事なイベントだよねー!あたしもいつか桜小路と!」


「優里香ちゃんも誘ってみたらどうかな?最近仲良いって陸斗くんが」


「だめだめ!あいつは女の子より自分大好きなんだもん」


「誘ってみなきゃ、わからないよ」


「蜜葉ちゃん、変わったね」


「そうかな?」


「やっぱり旦那様のおかげ?」


「旦那様って・・・」


そうなのかな?


「みっちゃん、ゆーちゃん!昨日のドラマ見たぁ?あたし、めちゃくちゃドキドキしちゃった!あたしも早く彼氏を作りたい!」


綾ちゃんが興奮気味で私達に話しかけてきた。


「綾斗、彼氏欲しいんだ?」


「うん!たまには迫られてみたいわぁ。でも、ユイユイがお前はどっからどう見ても攻めって言ってぇ」


「攻め?」


綾ちゃんは肉食系だからなぁ。


「ドラマの話?俺も見た。ヒロインがめちゃくちゃ可愛いよな。あんな嫁が欲しい。綾斗はヒロインより相手役の男にときめくのか、やっぱり」


「心はJKな綾斗くんなんです!」


「こないだの合コンは惨敗だったけどな。女として見られてなかった」


「つらみ!あーあ。空からイケメンなホモ落ちて来ないかしら」


「そこは美少女だろ!」


「なんか、創作研究部の男子って会話が独特だよね」


「いつもこんな感じだよ?」


「へ、へぇ」


こないだは綾ちゃんと姫島くんがどのカプが一番萌えるかで言い争ってたっけ。


多分、クラスの皆は二人がこんなヲタらしい会話をしてると思っていない。


二人が言い争う度、不良と柔道の有段者のケンカって怖いって言われてしまっているくらいだ。


実際、姫島くんは不良じゃないし、綾ちゃんも柔道の技をかける機会は一切ないのだけど。


「蜜葉、眠い・・・」


「きゃっ!」


陸斗くんが突然来て、私の肩に顔を乗せて来た。


「こら、陸斗!教室内でイチャつくな」


「だって眠いんだもん。蜜葉、お花の香りするから落ち着く」


「陸斗くん、最近ずっとアルバイトしてるもんね。疲れちゃったんだね」


「今日もバイト・・・デート、出来ない」


「無理しないでね?」


そんなに欲しい物、あるのかな。


陸斗くんは今月からずっと陸斗くんのお母さんの知り合いがオーナーをしているカフェでアルバイトをしている。


「陸斗、基本無表情だけど大丈夫か?接客のバイト」


「あー!確かに高宮くん、クールだよね」


「最近は表情くるくる変わってきたんだよ?陸斗くん。よく笑うようになったような?」


私は二人に言う。


「みっちゃんの前だけではね。みっちゃんの前だと人間らしくなるんだよね、陸斗は」


「そうそう。普段はカピバラなのによ」


「つーか、陸斗。みっちゃんにべたべたしすぎ。甘えたい気持ちは分かるけど」


「陸斗くん、人前なんだからだめだよ?べたべたは」


「寒いからくっつきたい。あと蜜葉の匂い好き」


「お前は犬かよ!」


「そうだわ!ユイユイなら問題ないんじゃない?イチャイチャ感出ないし」


「結斗にべたべたするのか?」


「おい、陸斗。まさか・・・」


陸斗くんは姫島くんの肩に顔を乗せる。


「きゃあああ!陸結、陸結!」


綾ちゃんはたくさん写真を撮る。


「もう!綾斗はすぐホモに結びつけるんだから。ね、蜜葉ちゃん・・・」


「陸斗くんが姫島くんに奪られた・・・」


「蜜葉ちゃん!?」


「なんか違う。蜜葉が良い」


陸斗くんは私の元に戻って来た。


「なんなんだよ、陸斗!」


「ユイユイったら寂しいのぉ?陸斗がユイユイ離れして」


「なんだよ、ユイユイ離れって。親離れみたいに言うな!」


「でもね、陸斗。あまりみっちゃんに甘えすぎちゃだめよ。女の子は男らしい人が好きなんだから。甘えられまくると面倒くさくなるのよ」


「あー、分かる!こっちも甘えたいよね」


「陸斗、下手したらみっちゃんに振られちゃうわよ?」


「やだ。捨てないで、蜜葉」


「だ、大丈夫だよ!陸斗くん!そんな泣きそうな顔しないで!ね?」


「陸斗はもっと男気がいるよな」


「身体も男っぽくないし!ユイユイ、陸斗改造計画しちゃう?」


「それ良いな!綾斗!」


でも


こないだ初めてキスした時の陸斗くんはいつもと違ったなぁ。


強引でドキドキした。



「今日もアルバイト?」


「ん。冬休み入るまではずっとアルバイト」


「そっか。陸斗くん、頑張ってるね」


放課後になると、陸斗くんは帰る支度をしていた。


「今日だけ早く来いと言われたから部活休むしかない」


「大丈夫だよ!仕方ない事だし」


陸斗くん、バイト漬けだなぁ、最近。


デートはクリスマスまで我慢。


だけど


一緒に帰れないのは寂しい。


「あ、あの!陸斗くん」


「ん?」


一回くらい・・・


「陸斗くんのアルバイト先、行っても良いかな?今日」


「もちろん。待ってる」


「あ、ありがとう!」


陸斗くんのアルバイト先に行くの楽しみ!!


部活今日はいつも以上に頑張れそう。


「みっちゃん、今日はテンション高いわね」


「そ、そうかな?」


「陸斗のせいね?」


アルバイト先に行くのは陸斗くんがアルバイトを終える1時間前。


久々に一緒に帰れるかもしれない。


キスも・・・初めてした日以来、できていない。


本当はイチャイチャというものを思う存分にしたいんだ、私。


もっと仲良くなりたいから。



「き、来ちゃった」


部活が終わるとすぐ、私は陸斗くんのバイト先へ。


オープンテラスがあり、オレンジ色のランプが気持ちを落ち着かせてくれるカフェだった。


私はテーブル席へ案内される。


壁には新商品のドリンクの広告がたくさん貼られていた。


モカ系も美味しそう。


うーん。


ケーキ、ちょっと高いけど美味しそうなケーキがたくさん!


やっぱり苺のタルトかなぁ?


飲み物は紅茶で。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」


聞き覚えのある愛しい声が聞こえ、私は声のする方を見る。


り、陸斗くん!


陸斗くんはウェイターの格好をしていて、優しい笑みを浮かべている。


ウェイター陸斗くんの破壊力!!


桜木蜜葉にクリティカルヒット!


「じゃあ、紅茶と苺のタルトで」


「かしこまりました」


な、何!?


あの陸斗くん!


私の彼氏がカッコ良すぎて辛い件!!


周りの女性客皆、陸斗くん見てるし。


「お待たせ致しました」


ケーキと紅茶を持って来たのも陸斗くんだった。


「美味しそう・・・」


「来てくれてありがとう」


「み、見てみたかったから!陸斗くんのバイトしてるとこ。めちゃくちゃかっこいいね!」


私が言うと、陸斗くんは口元に手を当て、顔を赤らめる。


「照れる」


「ふふっ。すごく似合ってるよ、陸斗くん」


照れてるの可愛すぎる!


「お兄さーん!注文お願いします!」


陸斗くんは女性客に呼ばれる。


モテモテ!


なんか複雑。


「7時になったら店の入り口の近くで待ってて。一緒に帰ろう」


陸斗くんは私に耳打ちをする。


陸斗くん!


私が頷くと、陸斗くんはお客さんの元へ。


ここで頑張ってる陸斗くんを眺めているだけですごくすごく幸せー!


でも


陸斗くんはどうして急にそんなにバイト入れたんだろ?


ライアスの限定フィギュアの為かな?



私は紅茶を飲みながらぼーっと考える。


すると


いきなり皿が割れる音が店中に響き、私は驚く。


「大変・・・失礼致しました!」


私と同い年くらいの黒髪のポニーテールの女の子が謝る。


可愛らしい子だなぁ。


有村ちゃんっぽいかも。


だけど


「何やってるんだ!お前は!ミスばっかり!本当に使えないな!」


え!?


30代くらいのウェイターが彼女を怒鳴りつける。


「大変申し訳ございません・・・」


何、あの人!


あんな言い方ないよ!


だけど


「言い過ぎなんじゃないですか?」


陸斗くんが来て彼に反論する。


陸斗くん!


「何だ?お前」


「まだ彼女は入って間もないんですよ。そんな言い方は無いんじゃないですか?皿を割ったのは今回が初めてですし。もっとサポートしてあげてください」


「てめぇ・・・」


「こら、山瀬くん!お客様の前だぞ。佐々木さんも気にしなくて良いからね?今後気をつければ良いさ。高宮くん、箒と塵取りを」


「承知致しました」


店長っぽい人が現れ、皆を宥めると陸斗くんは箒と塵取りを取りに行った。


あんな嫌な先輩いるんだ、陸斗くん。


「あの、高宮さん!ありがとうございました」


「また山瀬さんが突っかかって来たら俺に。あの人機嫌悪いと、すぐ誰かに八つ当たりする人だから」


「はい!本当に助かりました。ありがとうございます」


あれ?


陸斗くんが割れた皿を片し、厨房の方へ向かうと彼女は陸斗くんの背中を見つめている。


あの子、もしかして・・・?



(桜小路をミュージカルに誘っちゃった!あたしもクリスマスデート決定だよ!蜜葉ちゃん!)


(やったね!優里香ちゃん!応援してる!告白もしちゃおう(*^^*))


(それは無理だよー 泣)


私は7時近くになると、優里香ちゃんとLINEをしながら陸斗くんを待つ。


すると


「ライアス初号機がパワーアップして戻ってきた時は本当に感動もんだったよ!劇場版楽しみすぎる」


「そうそう。ただ、コルティス軍が新しく兵器用意してるって台詞があったのが気になる。コルティス軍、めちゃくちゃ強いロボを使うから」


陸斗くんはさっきの女の子と話しながら裏口の方から出てきた。


陸斗くんがあんなに笑顔で話す女の子珍しい。


従姉妹さんぐらいだよね?


「じゃあ、お疲れ様でした!また語りましょう」


「うん!ライアストークしよ。じゃあ、お疲れ」


彼女と別れると、陸斗くんは私の元へ。


「お待たせ。ごめん。寒かったよね」


「陸斗くん、あのバイトさんと仲良いんだね?」


「佐々木さん?ああ、同い年でライアスガチ勢だったんだ。あそこまで語れないからなぁ、結斗や綾斗とは」


「そ、そっか。仲良い友達ができて良かったね」


胸がかなり痛む。


陸斗くんに友達ができるのは良い事。


なのに


不安になった。


私は陸斗くんとライアスの話で盛り上がれない。


私以外の女の子にはクールだと思ってたからちょっとびっくりした。


だめだめ、不安になるな!私。


でも、私には分かる。


あの子は陸斗くんが好きだ。


「蜜葉?どした?」


「陸斗くん、バイト楽しそうだね」


「うん。初めてだから不安だったけど、楽しい。ライアス仲間もできたし。山瀬さんには腹立つけど」


「ああ、あの怖い人」


「あんま素行良くなくて。何かと佐々木さんに構うんだよね。店長も辞めさせたら良いのに」


「そ、そっか」


「蜜葉は?漫画どんな感じ?」


「もうすぐ連載になるか決定するよ」


「そっか。そうだ、休憩中にクリスマスデートに良さそうな場所調べたんだが・・・」


陸斗くんを信じなきゃ。


不安になるな、私。


陸斗くんの彼女は私、なんだから!


だけど


陸斗くんは毎日のようにアルバイト漬け。


「陸斗くん、今日もバイト?」


「ああ。冬休みが始まるまでは毎日」


私が聞くと、陸斗くんが答えた。


「そっか。店長に頼まれたの?」


「いや、自分から」


自分から・・・?


「そ、そっか」


「ごめん。冬休みになったら辞めることにはなってるから」


「う、うん!」


だけど、怖い。


あの女の子の方が陸斗くんと密接に関われるのかな?



(ライアス二期再放送録画したのを見てる。やっぱり5話は神回)


私は放課後になると、陸斗くんのTwitterを見る。


陸斗くんに蜜葉もやろうと言われ、私も始めた。


私もライアス二期再放送見たし、コメントを・・・


だけど


(私も泣いた!超絶神回!カイト、死んだかと思ってたよ(;_;))


(本当それ。俺は信じてたけど!)


(私も(*^^*)あ、Rickさんはライアスのイベント行くー?)


同じ人のコメントがいっぱい。


「な、長い・・・」


陸斗くんのツイートのコメント欄には長いやりとりがあった。


ささやんって人、最近よく陸斗くんとやりとりしてるよね。


桜小路くんと同じくらい。


どんな・・・人なんだろう。


私は気になってその人のプロフィールを見に行く。


あ・・・


(カフェでアルバイト中の16歳。ライアスが好きすぎてライアスライアスうるさいです。早く劇場版が観たい)


カフェ!?


もしかして・・・


(今日はRickさんと一緒に帰宅。アルバイトおつでした!ライアス語りまくれて楽しかった!)


あの子だ・・・。


私はツイートを見て分かった。


分かってる。


陸斗くんにはそういう気持ちは無い。


だけど


あの子は違う。


『蜜葉、ごめん。俺、佐々木さんの事を好きになったから』


陸斗くんは彼女の肩を抱いて言う。


『陸斗くん?』


『ごめん。そういう事だから俺を忘れて』


『待って!待って、陸斗くーんっ!!』


陸斗くんの背中が小さくなる。


やだ、やだ、やだ!


「はっ!夢!?」


私は夢を見ると、飛び起きた。


ついに悪夢まで見るようになってしまった。


いやいや、私!


重症すぎ!


でも


陸斗くんはアルバイトを自分から入れてるって言ってた。


私に嫌気がさした?


あの子と話す方が楽しい?


私だって陸斗くんと一緒に帰りたい。


もっともっと話したい。


私、ワガママかな?


だけど・・・


「今日も部活休むんだ?陸斗くん」


「今日は早く入れるから。たくさん働いたら稼げるし」


放課後になると、陸斗くんはまた部活を休むと言ってきた。


「やっぱり部活よりアルバイトなんだね」


「蜜葉?」


「佐々木さん、可愛いし・・・ライアス語れるし、楽しくて仕方なくなったんでしょ」


「え?」


「私ばっかり好きなのかな」


「蜜葉、俺は・・・」


「陸斗くんのバカ。陸斗くんなんか嫌いだよ!もっと私の気持ち考えてよ!」


「蜜・・・葉」


私は泣きながら教室を出て行った。


バカは私だ。


信じたいのにヤキモチ妬いて、陸斗くんにひどい事を言った。


でも、怖かった。


私は陸斗くんとTwitterでやりとりしても、短い会話で終わる。


ライアスは見てるけど、詳しくない。


夢の通りになったら嫌だ。


でも


あんな子供みたいな怒り方した私に陸斗くんは嫌気がさすかもしれない。


「嫌だよ・・・大好きなのは私だけなんて。もっと一緒にいたいのは私だけなんて嫌だよ。でも、だめなのかな・・・」



私は本当に大馬鹿だ。


バカ蜜葉、バカ蜜葉!!



(つづく)

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