王子様はまだ恋を知らない。〜assort〜

胡桃澪

ifストーリー(1)

ifストーリー〜綾斗ルート〜


私、桜木蜜葉が創作研究部に入ってからもう二カ月。


部員達ともだいぶ仲良くなれてきた気がする。


今、創作研究部では各々部誌に載せる原稿を作っているところ・・・なんだけど。


「詰んだわ」


「どしたー?綾斗」


「さすがに部誌にBLはまずいと思ってNLを書いているのだけど、ついついBLにしたくなっちゃって!」


「やばいな、お前」


綾ちゃんだけ悩んでいるみたい。


「四コマ、出来た。これは良い出来」


だ、大丈夫かな?


「女の子に告白されたいとか女の子とデートしたいとかお前が思わないから経験ねぇんだよな。」


「ユイユイだってフリーじゃない!」


「うるせぇ!俺は2次元に嫁がいるから良いんだよ」


だけど


「みっちゃん、お願い!協力して」


綾ちゃんが私の手を取り、言う。


「あ、綾ちゃん!?」


「少女漫画についてあたしに教えて」


「あ、綾ちゃんの役に立てるなら手伝うよ」


「ありがとう、みっちゃん!」


綾ちゃんってやっぱり可愛いな。


女友達感があるから話しやすいし。


でも、少女漫画みたいな経験とは?


「みっちゃん、今日はユイユイと陸斗が予定あって部活難しいから無しだよ、部活」


「あ、ありがと。綾ちゃ・・・」


綾ちゃん!?


綾ちゃんは化粧を落とし、髪を下ろし、制服を着崩している。


「だ、男子モード綾ちゃん・・・」


「僕と一緒に帰ろう?みっちゃん」


「は、はい」


綾ちゃんなのに緊張するんですが!


「ドキドキするシチュエーションを僕がたくさんするから覚悟してね、みっちゃん」


「ど、ドキドキするシチュエーション!?」


「そう。そしたらみっちゃんが描くような少女漫画、描ける気がする」


「綾ちゃんは創作にかける情熱がすごいね」


「だって部長だもん」


「さすが部長」


「まあ、ただの口実なんだけど」


「へ?」


綾ちゃん?


「あっ!みっちゃん、みっちゃん!見て!ウェディングドレスが飾られてるわ!綺麗ねぇ」


綾ちゃんはウェディングドレスが飾られてるショーウィンドウを見て言う。


「綾ちゃん、オネエに戻ってるよ?」


「はっ!これじゃあだめだろ、僕!」


「綾ちゃんもウェディングドレス着たいんだ?」


「まあ、憧れるわね。でも・・・もし、みっちゃんが僕の嫁になってくれるなら僕はタキシードを着るよ。みっちゃんのドレスが見たいからね」


わ、私が綾ちゃんの嫁!?


「あ、綾ちゃん!冗談が過ぎるよ!」


「本気だよー?僕」


「もう!からかわないの!」


「でも、みっちゃんはタキシード萌えでしょ?漫画にも描いてた」


「た、タキシード萌えというわけでは!」


「あはは」


たまに綾ちゃんってびっくりする発言するよね。


「これでも僕、最近はオネエより男子の部分強いと思うんだけどな」


「綾ちゃんが?」


「うん。みっちゃんがいけないんだからね」


綾ちゃんはそう言うと、私の頰をつねる。


「綾ちゃん、ちょっと痛いよっ」


「みっちゃんってさ、僕の事女の子として見てるでしょ?」


「うん。綾ちゃん、女の子みたいに可愛いから」


「みっちゃん。油断は禁物だよ?」


「へ?」


「僕だってケダモノかもしれないんだから」


「ケダモノなの!?」


「うん。僕だって男だし」


「そうなんだ・・・」


「さて、今日は学校早く終わった事だし、たくさん遊びましょうか」


「う、うん!」


「じゃあ、僕の家へ」


「綾ちゃんち?」


「イェース!色々アイデア膨らませたいし」


綾ちゃんち・・・かぁ。


そういえば、男子の家行くのは初めてだ。


「ここが橘家でーす」


「綾ちゃん、日本だよね?ここ?」


海外映画に出てきそうな豪邸!


バラ園があるし。


やっぱりお坊ちゃまだな、綾ちゃん。


「今日はうちの家族いないから気にしないでね」


「う、うん!」


しかし


私の家とは比べ物にならない広さだ。


門から玄関まで遠い。


家具が全部高そうなアンティーク調だ。


シャンデリアある家、初めて見た!


「ここが僕の部屋だよ」


「お、お邪魔します」


綾ちゃんの部屋は天蓋付きのベッドがあり、勉強机と本棚とクローゼットくらいしかない。


「意外とシンプルだ!」


「ああ、もしかしてBLグッズや推しキャラのグッズだらけだと思ってた?」


「正直・・・」


「大丈夫!クローゼットにあるから!」


綾ちゃんがクローゼットを開けると、中にはたくさんのアニメグッズと漫画が。


「隠してたんだね。え?でも、お洋服は何処に?」


「隣の部屋が衣装部屋なの。私服もあるし、コスプレもあるよ」


「衣装専用の部屋が・・・」


さすが綾ちゃん。


「ふふっ。衣装部屋に行きましょうか」


私と綾ちゃんは衣装部屋へ。


「わっ!服がいっぱい!何百着はあるよね!」


「ふふっ。さ、ファッションショーしましょうか。みっちゃん」


「ファッションショー?」


「そ。みっちゃんはこのメイドさんの衣装。僕はこの緑の貴族っぽい衣装ね」


「き、着なきゃだめ?」


「部誌の漫画にメイドさん出したいからさ。お願い、みっちゃん」


「わ、分かった」


綾ちゃんの為だし、うん!


私はスカート丈が短いメイド服に着替える。


胸元も開いてるような?


「あ、綾ちゃん!この格好は刺激的なんじゃ」


「えー?これくらい色気がなきゃ。男子も部誌読むし」


綾ちゃんは貴族の格好似合うな。


さすがセレブ。


「こんな短いの恥ずかしい・・・胸元も強調されてるし・・・」


私はスカートの裾を掴み、言う。


「みっちゃんって本当隙だらけだよね。ピュアすぎ」


「綾ちゃん?」


私はいきなり綾ちゃんに腕を引っ張られる。


え・・・


「きゃっ!」


私は綾ちゃんにベッドに押し倒された。


「あ、あ、綾ちゃん!?」


「今はご主人様だよ。みっちゃん」


綾ちゃんは私の頰を撫で、言う。


「ご、ご主人様・・・?」


「言ったでしょ?僕はケダモノだって」


「綾ちゃん、だめ・・・」


「やめてください。ご主人様って言わないとだめだよ?みっちゃん」


そう言うと、綾ちゃんは私の胸元にキスをする。


「ひゃっ!や、やめて・・・ください。ご主人様」


「そんな困惑した顔で言われると、やめたくなくなるよ?」


「やっ・・・」


綾ちゃんは私の太腿にキスをした。


「ご、ご主人様・・・?」


「っ・・・もうおしまい。どう?メイドに迫る貴族ごっこ。こういう設定、漫画に使えるかな」


「え?あ、うん!良いんじゃないかな」


「ごめんね。みっちゃんがあまりにもピュアだからからかいたくなっちゃった」


「も、もう!綾ちゃんはー!」


私、すっごくドキドキしてる。


綾ちゃんの事、ずっと女友達と同じ感覚で見てたはずなのに。


「てか、みっちゃんは無防備すぎ。もっと警戒しなきゃ」


綾ちゃんは私の頭を撫で、言う。


まだドキドキ言ってる。


「漫画描けそう?」


「うん。ご主人様に振り回されるメイドさんの話にしようかな!」


「ああ、Sなヒーローにするんだ」


「うん!」


綾ちゃんの漫画、楽しみだなぁ。


「みっちゃん、次はお医者さんごっこする?」


「し、心臓に悪いからやめよう!」


「ふふっ。みっちゃん、ドキドキしたんだ?」


「あ、当たり前だよっ」


「みっちゃんが僕を男として見てくれないから意地悪したんだよ、僕」


「へ!?」


「男子としての僕も見てね」


綾ちゃんはそう言うと、私のおでこにキスをする。


「あ、あ、綾ちゃん!」


「顔真っ赤。みっちゃんさ、僕が男子にしか迫らないと思ってた?」


「え?」


「みっちゃんは特別。可愛くて仕方ないから男子がどうしても出ちゃう。意地悪したくなる」


「い、意地悪されると困ります・・・」


「良いよ、困って。そしたら、僕しか見れなくなる?」


綾ちゃんは私を見つめ聞く。


「あ、あの・・・綾ちゃん・・・」


「僕をもっと見て?みっちゃん」


そう言うと、綾ちゃんは私の唇を突然奪った。


え・・・


「好きだよ、僕は本気で君の事が」


っ・・・


綾ちゃんが私を?


だけど、私・・・


「ごめん、綾ちゃんは友達で・・・私はそういう風に考えた事ないの。ごめん、帰るね!」


「みっちゃん!」


私は綾ちゃんの家を出た。


逃げてしまった。


自分でも自分が分からない。


恋愛に無縁でずっと漫画が友達だった私には。


非常に困惑している。



「おはよう、桜木」


「あ、おはよう。姫島くん、高宮くん」


翌日になると、私は姫島くんと高宮くんと朝から語る。


「昨日のライアス見たか?桜木。神回だった」


「あ、ごめん。ライアス最近録画組なんだ」


「マジか。この興奮を早く誰かと語り合いたい」


「さっきうるさかったんだよ、陸斗。普段俺のが喋るのに今日はやたらと陸斗が」


「でも、結斗はヒロインのおっぱいしか見てないから」


「あ?ちゃ、ちゃんと話も見てるわ!」


「あははっ」


だけど


「おはよう」


「あ、綾斗!おはよう。今日は珍しく男子モードか。女装してない」


っ!


「わ、私!図書館行くね」


「あ、桜木・・・」


綾ちゃんが来ると、私は逃げるように教室を出た。


何、逃げてるんだろ?私。


「桜木、昼飯一緒に食おうぜ!」


「創作研究部皆で食べよ、桜木」


「ご、ごめん!私、鬼島先生に呼び出されてるから」


「あ、桜木・・・」


どうしたら良いか分からない私はランチの誘いを断わってしまった。


綾ちゃんは友達・・・友達だよね?


だけど


キスされてからずっと綾ちゃんの顔が頭から離れない。


「しっかりしろ、桜木蜜葉」


しっかりしなきゃ、しっかり。


放課後の部活をサボるわけにはいかないし。


ちゃんとしなきゃ。


「桜木、そこ字間違ってる」


「え?」


「漢字が違う」


「本当だ!ありがとう、姫島くん。やっぱりそういうのすぐ気付くんだね、ラノベ作家志望だから」


「結斗は国語だけは成績良い」


「陸斗、だけはってなんだよ!」


はぁ、漫画上手く描けてないし!


私、困惑しすぎ。


「校閲ボーイ結斗」


「ふざけるのはやめてくれ、陸斗」


「地味にすごい結斗くん」


「桜木、煮詰まってんならアイディア出し協力すっぞ。俺、ひと段落ついたとこだし」


「あ、ありがとう」


「結斗スルー!?」


綾ちゃんを傷付けてるよね、私。


でも


分からない、どうしたら良いか。


綾ちゃんと話していない。


部活が終わると、私達は四人で帰る事に。


だけど


「結斗、今日はお前んち寄る」


「おー」


「じゃあな、桜木!綾斗!」


へ?


高宮くんと姫島くんと途中で別れ、私は綾ちゃんと二人にされる。


「じゃ、じゃあ・・・私は本屋に・・・」


「みっちゃん。どうして逃げるの?」


「へ?」


「僕はみっちゃんが本気で僕と付き合いたくないならほっとくよ。でも、全然僕の目見ないし・・・顔ちょっと赤いよ?」


「そ、そっかな」


「意識してるのバレバレだから」


「や、だって・・・綾ちゃん今迄ずっと女の子みたいにしてたのに急に押し倒してきたり、キスしてきたりしたからどうしたら良いか分からないよ!私!急に男子・・・なんだもん」


「みっちゃんがいけないんだよ。みっちゃんが僕を男子にさせた」


綾ちゃんは私の顎をくいっと持ち上げ、言う。


「男の僕は怖い?嫌?」


「嫌・・・じゃないよ」


「何で僕の目、見ないの?」


「見つめるのなんか恥ずかしい・・・」


「だから言ったでしょ。僕も男。みっちゃんを僕しか考えられなくしちゃいたい」


綾ちゃんはそう言うと、私を抱きしめる。


「どうしたら良いか、分からなくて。あんな事されてからずっと綾ちゃんが頭から離れなくて。私、変みたい・・・」


「それって僕に惹かれ始めてるって事だよね?みっちゃん。試しても良い?」


「試す?それって・・・」


私が言いかけると、綾ちゃんは私の唇を突然奪った。


長い長いキス。


どうしてかな?


私、夢中になってる!?


「あ、綾ちゃん・・・」


「ほら、みっちゃんは拒めない」


綾ちゃんはそう言うと、にやっと笑った。


徐々に惹かれていってるのが分かった。


私、綾ちゃんが・・・


「また、キスされたら余計に綾ちゃんばっか意識しちゃう・・・」


「しちゃえよ。彼氏が僕じゃ、だめ?みっちゃん」


「そ、そういうわけじゃ・・・」


「みっちゃん、顔がまっかっか。そんなに可愛いと襲っちゃうよ?」


「お、襲っちゃう!?」


「ふふっ。良いよ、ゆっくりで。ね、みっちゃん。僕と付き合お?」


「綾ちゃん・・・」


「僕はみっちゃんじゃなきゃだめなんだ」


「わ、私で良いの?」


「みっちゃんが良い」


綾ちゃんは私の頰に触れ、言う。


少しずつ、惹かれていってるのが分かった。


私は綾ちゃんを意識し始めた。


「よ、よろしくお願いします・・・」


私が言うと、綾ちゃんは笑った。


そして、


ーー三ヶ月後。


「すっかり夏だね」


「クーラー効かせてるから熱中症にはならないはずだよ。安心して、みっちゃん」


夏休みに入り、私は綾ちゃんちでお家デートを。


「あ、あの・・・綾ちゃん。こんな密着してると暑くなるんじゃ?」


私は綾ちゃんの膝の上に座らされていて、私の腰には綾ちゃんの腕が回されている。


「イチャイチャ、嫌?みっちゃん」


「や・・・じゃないけど」


私達はレンタルショップで借りてきた海外の恋愛映画を観る。


身分違いの恋かぁ。


なんだか切ないなぁ。


でも、めちゃくちゃキュンキュンする。


だけど


べ、べ、ベッドシーン!


ベッドシーンになると、途端に恥ずかしくなる。


さすが海外!


「みっちゃん、顔真っ赤」


「あはは。こ、こういうシーン見慣れなくて」


「僕、エッチな気分になっちゃった」


「あ、綾ちゃん?」


「みっちゃん・・・だめだ」


綾ちゃんは私の耳を甘噛みする。


「やっ・・・綾ちゃん・・・」


「みっちゃんって弱点だらけだね。耳もだめなんだ?」


「違・・・きゃっ!」


私は綾ちゃんに突然押し倒される。


「あ、綾ちゃん!映画観れなくなっちゃう」


「みっちゃん、だめ?僕に抱かれるのが怖い?」


っ・・・


「き、緊張はするかな。で、でも・・・」


今の私は違う。


「あ、綾ちゃんになら良いよ。私は綾ちゃんが大好きだから」


「みっちゃん・・・」


「だから、触っても良いよ・・・」


「みっちゃんってたまに色っぽいんだね」


「そうかな・・・」


「もっと色っぽいみっちゃんが見たい。優しくしないかもだけど、覚悟してね」


「う、うん・・・」


「大好きだよ、みっちゃん・・・」


「わ、私も綾ちゃんが大好き・・・です」


私が言うと、ようやく私から聞けた愛の言葉に綾ちゃんは笑って私に優しくキスをした。




(END)


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