1.04 妖精のお菓子

「はい。じゃあここで料理してね。ディース、後はよろしく」


「かしこまりました」


何が起こっているのかわかっていない妖精のケアをディースに任せて、私はリビングに戻る。


「そわそわしすぎたよ。そんなに美味しいの?」


ルルカが机を拭きながら私に問いかける。


「ええ。間違いなく世界一よ」


妖精が作るお菓子はすごく美味しい。一度だけ父さんの城で食べたんだけど、ほっぺたが落ちるってのを本当に体験した。あの時の私はすごくだらしない顔をしていたと思うけど、何故か私だけ隔離されてご飯を食べていたので誰にも見られることはなかった。

私がケアを奪い取ったのはこの美味しいお菓子を食べるため。ディースが許してくれないかと思ったけど、意外とあっさりと許可してくれた。

ディースには食べたその日にあの感動を話したから、自分も食べてみたかったのかもしれない。ディースも結構甘いもの好きだし、こんな機会逃したらもう二度と食べられないかもしれないしね。

そういえばその頃はまだルルカがやってきてなかった。ついこの間の話だった気がするけど、もう五万年も経ってるのか。


「でもそんなに美味しいんだったら、もっと出回ってもいいと思うんだけどなぁ……」


「今の魔国じゃ無理でしょうね」


私たちが住む国は魔国っていう名前がついているんだけど、ほとんど魔族が魔界とごっちゃにしているから、魔国のことを魔界という魔族は多い。実際に魔界を統治しているのは魔国の王である大魔王だからあながち間違ってないけどね。

で、魔国と妖精の国との間には、お互いに干渉しないという条約が締結されていたんだけど、父さんはその条約を一方的に破棄して妖精の国に攻め入った。そしてその時に多くの妖精を連れ去ったらしい。でも今は父さんの身の回りに妖精はいない。妖精たちは綺麗な環境でなければ一か月と持たずに弱ってしまう。そうじゃなくても、父さんのもとで働いていたらね……。

そんな虚弱で戦闘能力が皆無の妖精を格下に思っていて虐げている魔族は多いけど、一度食べたら忘れられないくらい美味しいお菓子を作る妖精達が魔族より格下なはずがない。むしろ崇める対象だ。


「あ、そうだノワエ様、ディースから伝言。お菓子を食べる前にきちんとご飯を食べること、だってさ」


「えー……」


お菓子や甘いものが何よりも好きな私にとって、その前に食べるご飯ほど苦痛な物はない。

あ、決して二人が作る料理が不味いわけじゃないからね。むしろ父さんの城にいる一流のシェフが作る料理よりも美味しいと思う。家庭の味ってやつかな。私の口にはディースとルルカの料理が一番合っている。


「じゃあできたら呼んで」


「え? ノワエ様どこ行くの?」


「外。ちょっと体動かしてくる」


ルルカがまたかよ。といった顔をする。


「わかった。できたら呼ぶね」


「よろしく」


ルルカに軽く手を振ってから館を出る。少し冷たい夜風が私を迎えてくれる。今晩は冷えそうからちゃんと布団をかけて寝よう。

大きく息を吸ってゆっくり吐く。私の体がきれいな空気で満たされる。うん、やっぱり町よりも自然に囲まれている方が気持ちいい。でも町の喧騒もなんか恋しいな。ちょっと前までこんなこと思わなかったのに。もしかして老けたのかな。老けると嗜好が変わるって言うし。


「さて、いっちょやりますか」


このボロ洋館の周りはどこまでも続く深い森だ。土地勘のないものが森に迷い込んだら最後、よっぽど運が良くない限り出てこられない。それに奥には強力な魔物や動物もいるから危険だ。たまに館の周辺をうろうろしているのを感じる。おとなしい子も多いけど、ちょっかい出したら確実にやられる。

そんなおとぎ話に出てくるような怖い森にためらいもなく入り、集中できそうな所で足を止める。


「ふぅ」


まずは息を吐いて体の力を抜く。

足を肩幅くらいに開けて、大きく息を吸い込んでゆっくりと吐く。身体が落ち着くのと同時に集中力が増していく。

もう一度、深呼吸。身体を流れる魔力をはっきりと感じる。

もう一度。風ささやきや大地の鼓動が聞こえる。

もう一度。辺りにいる虫一匹の動きさえ鮮明にわかるほど感覚が研ぎ澄まされる。

私は持ってきた剣を鞘から抜き、ゆっくりと魔力を込める。青白く光る剣が身体の一部になるのを待ってから、切っ先を何もない空間に向ける。その剣先のほんの一部だけ空間を裂いて、その先にある魔力の流れを読み取る。

私も、魔物も、その辺にいる小さな虫も、この魔界だって生き物だ。だから全てに魔力の流れがある。それをずっと追っていけば目的地に辿り着く。


(よし、あった)


五分くらい色々な場所を探して、遠く離れた目的地をようやく見つける。まだ寝るにはずいぶん早い時間だけど、住民たちはほとんど寝てしまっているようだ。

いくつか同じような魔力を感じる場所を探してから剣を下ろす。その中でどれがお目当ての目的地なのかはわからないけど、それは本人に確認してもらうかしかない。


「ふぅ」


私は一息つく。それと同時に今まで感じていた魔力の流れが消える。この作業、かなり集中力がいるから結構しんどいんだよね。本当は剣の練習もしようと思っていたんだけど、今日はもういいや。面倒くさい。

私はゴロンと仰向けになる。火照った体をそよ風と冷えた草がゆっくりと冷ましてくれる。

町の魔族たちは、下手な布団よりもクッション性があって足の負担も少ない天然の芝生を、硬くてすぐに足が痛くなる煉瓦に変えてしまう。やっぱり見栄えが良いからとかそういう理由なのかな。私にはよくわからないけど。

そんな柔らかい芝生に体を預けながら、木々の隙間から広がる夜空を見上げる。私を吸い込もうとする夜空と、そうはさせまいとする芝生。二方向から引っ張られる感覚が楽しい。

自然ってやっぱり素敵だよね。これ以上に素晴らしいものって、魔族では絶対に作り出せない。


「あの星にも世界があって、魔族が住んでたりするかもしれないんだよね……」


手を伸ばして星を掴もうとするけど、当然この手には何も掴めない。

魔界ではそう強くない魔族でも、他の世界に行くとその世界を征服しちゃうことが多々ある。人間と魔族だと戦闘力の差がすごい。下級魔族くらいの戦闘力があれば、ギャグマンガみたいにデコピンで人間を吹っ飛ばせる。まぁ魔王族と下級魔族はもっと差があるけど。


「世界征服ねぇ……」


やろうという気もないし、やってみたいとも思わない。仮にやってみたいと思っていても絶対にやらない。だって協会に申請しなきゃいけなくて、それが途方もなく面倒くさいからね。別世界に行くだけでも結構な量の書類を書かないといけないのに、征服なんてしようと思ったら面接とか適正チェックとかもされる。そこまでやっちゃったら征服って言わない、ただの統治だ。

もう誰もわからないくらい遥か昔、魔界で魔王になれなかった魔族が他の世界を征服し、それを天使が倒しに行くということが頻発していたらしい。

魔族にしろ天使にしろ強さは尋常じゃないから、別世界で戦うと魔力が枯渇して一瞬で世界が荒廃する。荒廃するどころか跡形もなく消えてしまった世界も多かったと聞く。

数えきれないほどの世界を滅ぼした魔族と天使は、これではいけないと天魔総括協会っていかにも機能しなさそうな協会を作り、別世界に行くこと、別世界で能力を使うことなどを禁止した。

発足当初は当然のように機能しなかった天魔総括協会は、当時の大魔王と大天使が直々に指揮を執ることで、次第にその役目を果たすようになっていき、今では立派な機関として成立している。務める魔族や天使は、戦闘力だけじゃなく、性格や判断力、一般常識などかなり厳しい試験を受け、合格した超一流の者ばかりだ。

そこにいる連中も一ひねりにできる自信はあるけど、徒党を組んでこられたら私だってただじゃすまない。だから別世界に行くときは、ちゃんと申請してから行くようにしている。

けど世界の数に対して、天魔総括協会に勤める魔族と天使の数は圧倒的に足りていない。監視できているようで全然監視できていないのが現状だ。それに協会が見つけていない世界は沢山あるし、その中には私たちと別の進化を遂げた魔族がいるかもしれない。そう考えると宇宙って本当に広い。


「そろそろ戻ろうかしら」


星が瞬くのをじっと見ていた私はおもむろに立ち上がると、森を抜けて館に戻る。

館に近づくにつれて良い匂いが鼻をくすぐる。にんにくの香ばしい匂いがするから今日はお肉料理かな。久しぶりに長時間歩いたからお肉料理はありがたい。そしてその後にケアが作るお菓子が待っている。

ああ、早くお菓子が食べたい。せっかくならちょっと甘いお菓子、ワッフルとかパンケーキ、欲を言えばケーキなんかだとすごく嬉しい。

扉までもう少し、というところでルルカが私を呼ぶために出てきた。


「ノワエ様、やっぱタイミングいいね」


「もちろん。妖精さんのお菓子が私を待っているからね」


「ちゃんとご飯も食べなきゃダメだよ」


「わかってるって。ほらほら。さっさとリビングに行くわよ」


「は~い」


ルルカの背中を押してリビングに戻る。ルルカはそのままキッチンにいって前菜を持ってきてくれる。今日はフルコースのようだ。


「じゃあいただきましょうか」


「いただきま~す」


ルルカと一緒に手を合わせて食事を始める。

ディース曰く、従者と主が一緒にご飯を食べるのはご法度らしいが、ルルカに関しては例外的に許している。

メイドという役職の従者は、主がご飯を食べている間は横に控え静かにしているものらしいが、ルルカはそれができない。ずっと物欲しそうに私を見てくるし、美味しそう、お腹すいた、などと独り言を言うのだ。そしてその度に、ごめんノワエ様、って謝ってくれるんだけど、なんか私がルルカ苛めているみたいで気分が悪いし、とてもじゃないけどゆっくり食べていられない。ディースはめげずに五年くらいずっと注意してたのだけど、ついに諦めて私と一緒に食事を取ることを許した。私がそうしてほしいって頼んだことも影響していると思うけどね。それまでご飯は一人で食べていたから寂しかったんだよね。

ルルカは素直すぎる言動のせいで、仕事はすごく出来るのに千を超える職場を追われてきたらしい。怠惰を司る魔王のフェルパ姉さんの城で働いていたこともあるらしい。

私と出会った時も絶賛離職中で、私を見るなり、メイドいらない? って詰め寄ってきた。

なんの威厳もない私を見て、従者を雇っているような高貴な魔族だと見抜いた洞察力、そして何より面白そうだったから、姉さんとディースを口説いて私の専属メイドとして雇った。ディースは一応、父さんの従者になるのから、私にとって初めての従者だ。

敬語が使えないことと、思ったことをすぐに口にすることを除けばルルカは非常によく働く優秀なメイドだ。そして私に取ってこの二つは欠点にならない。だからルルカは私の元でその力をいかんなく発揮している。


「今日の料理はいつもと味が違うわね」


スープを持ってきたディースに声をかける。


「お気に召しませんでしたか?」


「ううん。いつもよりも美味しいわ。もしかして……」


「ええ。ケアに色々と助言をいただきました」


「ノワエ様、妖精ってすごいんだよ。野菜を見たらその野菜の細かい状態がわかって、どうやって切ったら味が損なわれないかとか、どの調理方法が良いかとか、どの料理が一番合うかわかるんだって」


出された牛肉のスープを飲む。こってりとした味をなのに、水のようにスッと喉を通る。口の中に嫌な脂が残ることもない。今までにない不思議な口当たりだ。


「ですから、私が予定していたメニューとは少し異なっています。こちらのメニューの方が美味しくできるとのことでしたので……」


「へぇ~。その能力ほしいな」


平たく言えば対象の状態を確認できる能力だ。改良して戦闘で使えるようになったら戦術の幅が一気に広がるだろう。


「ノワエ様、料理出来ないでしょ?」


「やったことないだけで、やればできると思うわよ」


ディースとルルカに付いて教えてもらえばの話だけれども殺人料理とかにはならないはず。


「うーん。なんか教えてもゲテモノ作りそう……」


「そんなことないわよ。たぶん。というかその場合、教える側が悪いんじゃないの?」


「う~ん。普通ならそうだけど、ノワエ様だからなぁ……」


「どういうことよ?」


「そのまんまの意味だよ」


「あんたねぇ……」


「わ、わ、ストップストップ。力比べじゃ勝てないから」


私が手に魔力を集めると、ルルカがあわてて私を制止する。まぁ本当にやることはないけどね。いつものじゃれ合いだ。


「わかってるなら口を慎みなさいよ」


「本当のことを言っただけなんだけど、ってストップ!」


「二人ともやめなさい。はしたないですよ」


ディースが一喝。ここでディースを怒らせたらお菓子が出てこないかもしれない。私は素直に従って魔力を霧散させる。

ディースが持ってきたメインデイッシュは予想通りデビカウっていう牛のステーキだった。このお肉は相当高いから、何かのお祝い事でしか買ってきてくれない。私が町に行くとか言い出したから、それの記念で奮発してくれたのかな。

これもケアが口を出したようで、いつものお肉料理と少し味付けが違う。そして父さんの所でも食べたことがないほどお肉が柔らかくて、お肉とは思えないほど口どけが良い。ちょっといびつな形に切ってあるのは、素材の味が最も引き立つようにしたためだろう。

ディースとルルカが作ってくれる料理も私には勿体ないくらい美味しいけど、妖精のアドバイスが入るとさらに美味しくなる。やっぱり妖精ってすごい。


「これもケアが?」


「はい。お肉の切り方から焼く時間、調味料の分量まで、全て彼女の指示に従いました。魔族の食事をよく勉強しているようで、手際も良くて助かります」


「なんか魔族に出す料理に慣れてるよね。ノワエ様の好みとか聞きながらメニューを考えてたしね」


妖精について書かれた本って少ないし、こうして会って話すのは初めてだけれども、ケアって妖精の中でも当たりだったのだろうか。もしそうだとしたら私の従者にぴったりだ。


「ごちそうさま」


こういうフルコースって堅苦しいし量も多いから箸が進まないんだけど、今日はいつもより美味しくて、そしてこの後にあるデザートが楽しみで、出された料理は全て綺麗に平らげた。お腹にズッシリと来る物も多かったけど不思議と苦しくならない。

これならこの後出てくるデザートをいくら食べても文句は言われまい。


「お粗末様でした。では、デザートを持ってきますね」


お腹は一杯だけどデザートは別腹。何が出てくるのか楽しみで鼻歌が自然と出てくる。


「本当に楽しみなんだね」


「そりゃそうよ。お菓子のために生きてるんだから」


「……ノワエ様が言うと冗談に聞こえない」


言い返そうと思った時、ディースとjケアが厨房から出て来る。

目の前に出された大きなお皿には一口大のクッキーがたくさんのっている。


「あ、えっと精一杯作りました! お召し上がりください!」


ケアが丁寧に頭を下げるてくれるけど、私は心の中でため息。デザートにクッキーを出されるとは思わなかった。しかもチョコチップとかオレンジの入った甘いやつじゃなくて、何も入っていないプレーンクッキー。ワッフルとかケーキとか甘い物を期待してただけに本当に期待はずれだった。

ルルカは知っていたようで落胆の色は見えない。主である私に譲ってくれているのか、そわそわしながらも手を出さない。

デザートは別腹と言ったけれどもクッキーはちょっと重たい。あんまり食欲が湧かなかったけれども、焼きたての良い匂いに釣られて、私は一つ口の中に入れる。


「え、なにこれ、すごく美味しいんだけど……」


二つ目。うん、美味しい。

サクって音が口の中で響いてふわっとした甘みが広がる。咀嚼していくと水のようにサラッと喉を通っていく。口の中の水分を取られる感じとか、喉に絡みつく感じとかが一切ない。それなりに厚みもあって重たいはずなのに、食べるたびに口と胃の中がすっきりして、食後でもどんどん食べられる。


「これ美味しいわ。私が食べた中じゃ、間違いなく一番」


「ご満足いただけたようで良かったです」


ケアが胸をなでおろす。やっぱり緊張してたんだ。


「でもこのクッキーは攻めたわね?」


下手なものを出せば殺されるかもしれない状況で、味にあまり差ができないプレーンクッキーで勝負してくるのは相当勇気が必要だと思う。結果は大成功だったわけだけど、なかなか思い切ったことをしてくる。


「自信があったんです。クッキーだけは絶対に負けないって。これでダメだったら全部ダメだって。あとこれ、実はハーブを入れてあります」


「口の中がすっきりするのはハーブのおかげか」


「はい。かなり苦いハーブなんですけど、砂糖につけてからちょっとだけ茹でると味が薄くなるんです。長いとダメですよ。また苦くなりますから。あとはかなり細かく刻んでほんの少しだけ入れるんです」


「へぇ……。クッキー食べてるのに、シャーベット食べてるみたいな感じなのよね」


私は無職とは言えども魔王族だし、それなりに良い物を食べてきているけど、美味しすぎてどう評価したらいいのかわからないお菓子って初めてだ。


「とっても美味しいわ。ありがとう。……あとルルカ、食べ過ぎ」


私は黙々と食べるルルカの手を掴む。


「え、いいじゃん別に」


「よくないわよ。私の分まで食べるつもり?」


「名前書いてないよ?」


「書けるわけないでしょ? それにこういう場合、主に譲るものじゃないかしら?」


「ああそう言えばノワエ様ってご主人様だったねぇ~。何もしてないから忘れてたよ」


「ぐっ……」


その通り過ぎて言い返せない。残念な主でごめんなさい。


「ルルカ、ほどほどにしなさい」


ディースがルルカを叱ると、ルルカが私に笑顔を向けてくれる。


「冗談だって。ほらノワエ様、あ~ん」


「あ~ん」


いくつ食べても飽きない、形はちょっといびつだけどとても美味しいクッキー。チョコチップとかオレンジを入れなくてもこんなに美味しく出来るんだと感動。


「ケアはご飯を食べたの?」


「いえ、まだです」


「なら一緒に食べましょう。ディース、用意して」


「かしこまりました」


「え、そ、そんな、自分で用意しますよ」


「いいから座って。って椅子を用意しないとね。ディース、なんかピッタリの椅子と机ないの?」


「私の部屋に模型の机と椅子があります。ルルカ、右の棚の上から三番目に入っているわ」


「ほ~い。ノワエ様、私の分残しといてね」


「え~。どうしようかしら?」


「相変わらず性格悪いなぁ~」


「あんたに言われたくはないわよ。ほら、ちゃんと残しとくから行ってきなさい」


絶対だよ。と言ってから席を立つルルカ。廊下を走る音がリビングまで響く。一分もかからずに、ディースの部屋から模型の椅子と机を持ってきた。


「ありがとうございます」


ケアが椅子に座ると、ディースがお盆に林檎と葡萄を載せてやってくる。


「あれ、それだけ?」


「はい、妖精は果物しか食べられないんです」


そう言って自分の身体の大きさほどある林檎の皮を、ほんの少しだけ剥いてかぶりつく。


「でも不思議だよね。果物しか食べられないのに色々な料理を知っているし」


「妖精達は元々、魔族の従者として生きていました。いつから独立したのかはわかりませんが、料理はずっと伝わっていて、子供の頃に教えられるんです」


おそらく伝統なのだろうが、そのせいで連れ去られる確率が上がってしまうのなら捨ててしまったほうがいいと思う。でも魔族に連れ去られた時に生き延びるための唯一の手段でもあるから、そう簡単には手放せないか。


「ケア、妖精の国ってどんなところなの?」


「どんなところ、ですか? う~ん」


ケアが少しずつ、言葉を選びながら妖精の国のことを教えてくれる。

妖精の国も王が国を統治しており、ケアはその王のお世話係として、主に掃除と料理を担当しているらしい。料理と言っても果物を小さく切り、盛りつけるくらいらしいが、工程の少なさのせいで食べ物の状態を見極める能力が味に大きく影響するため、こういった豪華な料理を作るよりも疲れるそうだ。またケアはよく食事担当に指名されるらしい。つまりそれだけ食べ物の状況を見極める能力が高いってことだ。

妖精達の国では争い事がほとんどなく、また小さいくて戦闘能力もほとんどない。町があるのは霧の森と呼ばれる巨人族の領土で、町の周りは魔法で霧をさらに濃くして、魔物や他の種族に見つからないようにしているらしい。

妖精の魔法は魔族が使う魔法と少し毛色が違うため解除に手間取るのだが、強い魔法使いだとあっさりと魔法を解除されて襲われてしまうらしい。

魔族だけでなく魔物にも襲われることがあるため家などは建てず、木に穴を開けて家にしているそうだ。そして一年に一回は必ず移動する。

妖精が住んだ木は大きく育つって聞いたことがあるけど、妖精達は家を提供してくれたお礼として、移動する際に木を元気にする魔法をかけていくそうだ。たぶんこれ、今私が頑張って会得しようとしている草花を回復させる魔法のルーツだ。また新しい知識が増えた。


「それにしても酷いことする魔族がいるもんだねぇ」


「まぁ魔族ってそういうものでしょう? それにこんなに美味しい料理を作ってくれるのなら、強引にでも連れてきたくなる気持ちはわかるわ」


実際に連れてきたりはしないけれども、仮に町で妖精が売られていたら買ってしまうと思う。奴隷みたいで嫌なんだけれども、それほど価値のある種族なのだ。


「巨人族の領土に町があるっていても、巨人族とも仲が良いわけじゃないでしょう?」


「はい。話したことすらありません」


妖精たちは父さんに領土を奪われたため、隣にあった巨人族の領土に逃げ込んだ。

巨人族は移民されたところで大して影響のない妖精たちを拒否はしなかった。魔国とはその頃から敵対関係だったから、配慮する必要もなかったしね。

でも巨人族はあまり対外的では無いし、自分たちよりも圧倒的に弱い妖精族と仲良くしようなんて気は全く無いみたいだ。


「守ってくれって頼んだら? あいつらの食事を作ってやれば喜んで守ってくれそうだけど」


「え~っと。こんなことをいうのはあんまりよくないんですが、巨人族の方って味音痴の方が多いので……」


「ああ。そういえばそんなことを聞いたことがあるわね」


だから食べられればなんでもよくて、木の皮とかを茹でて食べたりするって冗談か本当かわからない話を聞いたことがある。


「なので、交渉に行くだけ無駄かと……」


「むしろ行ったら捕えられて、売られるのがオチね」


「はい……」


「巨人族が妖精を捕まえに来ることはないの?」


「今のところありませんね。巨人族じゃ魔法の霧をどうしようもないので……」


「ああ。なるほどね」


巨人族は総じて魔法が使えない。だから魔法の霧をどうすることもできず、妖精を捕まえるどころか迷う可能性すらある。

プライドの高い巨人族のことだから、魔族の魔法使いや魔女族を雇ったりもしないだろう。巨人族に関してはほぼ無害ってことか。


「あ、ルルカ。あんたほとんど食ったな」


「いや~。ノワエ様、話し込んでたからつい」


「ついってねぇ……」


「あ、明日も作りますから、落ち着いてください」


喧嘩になりそうな私たちを必死で止めるケア。まぁ実際、喧嘩するつもりなんてないけどね。ってか喧嘩にならない。私がルルカを秒殺してしまう。

ルルカの名誉のためにも補足しておくけど、ルルカは上位魔族に引け劣らない戦闘能力を持っているからかなり強い部類の魔族だ。自慢でもなんでもなく私が強すぎるのだ。


「ノワエ様、お話のところ申し訳ありませんが、そろそろ……」


ディースがキッチンから出てくる。もうお風呂の時間か。少し話しすぎた。


「それじゃあ先に入ってくるわ」


名残惜しいけど後でも話せるんだしさっさと入ろう。私は立ち上がり、リビングを出る寸前で止まった。


「ケア、あんたも一緒に入らない?」


「へ?」


「でたよノワエ様の性癖……」


「変なこと言わない」


炎魔法でルルカの目の前を軽く爆発させる。それを見てケアが驚いている。


「大丈夫よ、変なことしないから」


「イかされるかもしれないけどね」


「おい。本当に燃やすぞ」


手に大きな火の玉を作る。


「冗談だって。私も今日は早く入りたいから、ケアも一緒に入ってくれると嬉しいかな」


「わ、わかりました」


「じゃあ行きましょ。ディース、準備をお願い」


「かしこまりました」


「ノワエ様、今日は早く寝たいからさっさと上がってきてね」


「わかってるわよ。じ~~~っくり浸かってくるわ」


「うわ、性格サイアク……」


「ルルカよりはマシよ。ほら、ケア行きましょう」


私は戸惑うケアを連れて、リビングを後にした。






「ふぃ~。気持ちいいわねぇ~」


このボロ洋館の良いところは意外とたくさんあるけど、一番素晴らしいと言っても過言じゃないのが、お風呂の大きさと材質だ。

浴槽の大きさはだいたい六畳くらい。泳ぐことは出来ないけど、ディースとルルカと私、三人で入って足を伸ばしても有り余る大きさだ。

そして材質は檜の石っていう木なのか石なのかわかりにくい合成石だ。檜の香りと肌触りが楽しめる上に、石なので腐らないし掃除も楽な代物で、貴族連中だってなかなか手が出ない超高級品だ。

お風呂にお金をかけすぎて予算が尽きてしまったのか、外装とかはけっこうちゃっちいし処理も甘いけど、女の子にとってお風呂は一番重要だから、例え窓枠が腐ってたり、床が割れそうだったりしても私は気にしない。隙間風がひどいのは何とかしてほしいけどね。


「ん~。気持ちいいわねぇ~」


大きく伸びをする。こうやって思う存分足を伸ばして、お風呂に浸かれるのは本当に幸せだ。


「ノワエさん、お肌綺麗ですね」


「そう? ありがとう」


私に仕えるディースとルルカは私よりも綺麗だし、姉さんなんてこの世のものとは思えないほど艶めかしくて美しい肌をしている。だからあんまり自信がなかったんだけど、お世辞でも褒めてもらえるのは嬉しい。


「何かされてるんですか?」


「う~ん。そうねぇ……。姉さんに小さい頃から言われているのは、お風呂上がりはきちんと保湿をすること、ストレスを溜めないことと、バランスよく栄養を取ること、恋愛をすること。この四つね」


「お姉さん?」


「ええ。第百二十七代色欲の魔王よ」


「色欲の魔王様が言うなら正しいんでしょうね」


「たぶんね」


淫魔は何もしなくても肌が綺麗な種族だから、姉さんがいうこの四つが本当に正しいのかはわからない。でもこの四つをしっかりと守っている私は、お肌はそこそこ綺麗だと思う。

でも実は生活で意識したことはほとんど無い。保湿はルーチンとして定着してるし、ストレスはほとんど溜まらないし、栄養のバランスはディースがきちんと考えてくれている。恋愛は、まぁしてるかな。


「ケアだって十分綺麗じゃないの」


「ノワエさんには負けますよ」


「そうかしら? 私はケアの方が綺麗だと思うけど……」


ケアの手を取る。お湯がサッと流れていって、水滴一つ残らずに、赤ちゃんのような柔らかくてすべすべした肌が露わになる。うん、やっぱり私より綺麗だ。

力仕事とかも魔法で片付けているのだろう。筋肉もほとんどなくて、女の子らしい柔らかい体をしている。私は腕とか筋肉で硬いからうらやましい。

それにしても妖精さんって小さくて可愛い。私たちと変わらない体なのに、全部のパーツが小さいから余計に可愛く見える。


「あ、あの、ちょっと恥ずかしいです……」


「ん? ああごめん」


ケアの顔が赤く染まっている。もしかして見られるのに慣れていないのかな。……ってか私が慣れすぎてるだけか。いろんな意味で。

お互いにちょっと気まずくてしばらく無言だったけど、ケアがゆっくりと口を開いた。


「……でも不思議です。ノワエさんと今日初めて会ったのに、もうずっと前から知り合いだった気がします」


「もしかしたら前世で友達だったのかもしれないわよ?」


「もしそうだったら、今世でも友達ですね」


ケアが満面の笑みを向けてくれる。


「もちろん。よろしくね、ケア」


「はい」


お風呂に入る前は緊張していたケアともすっかり打ち解けた。やっぱり裸の付き合いって大事だよね。

ケアと一緒に長い息を吐く。そんな変なところが一緒だったので、お互いに笑ってしまう。

またしばらく無言。こうして話してなくても良い空気のままいられるのが友達ってもんよね。でも私はその友達に、別れを告げなければいけない。


「……ケア、明日あなたを妖精の国に帰すわ」


「え?」


ケアが豆鉄砲を食ったような顔になる。ずっとここで生活すると思っていたのだろうか。


「あなたにも大切な人がいるんでしょう? いつまでも拉致してたら可哀想じゃない」


「で、でも……」


「帰りたくないの?」


「……帰り、たいです」


俯くケアは涙を堪えているようにも見える。もしかしてここの生活が気に入ってくれたのかな。それはとても光栄だしすごく嬉しいけど、家族に心配をかけたらダメだよ。それに妖精の国には大切な仲間もいるでしょ。

でもケアを帰しても、また襲われる可能性がある。もう一度、運良く助けられる保証はないから、連絡先は教えておかないといけないな。


「ならそれでいいじゃない。あ、でもクッキーは作ってからね」


明日はルルカに取られる前に食べないと。


「わかりました。じゃあ朝食と昼食のお手伝いもさせていただきます」


「ありがとう。期待しているわ」


また無言でお風呂を楽しむ。今日はちょっと肌寒いから、お風呂の気持ち良さはいつも以上だ。叶うのならこのままずっと浸かっていたいくらいだ。


「……魔界って恐ろしい魔族ばっかりだと思ってたんですけど、ノワエさんみたいに優しい魔族もいるんですね」


「魔族って優しい奴の方が多いと思うわよ。……まぁ弱い者を助けようとする、正義感あるやつは少ないけどね」


厄介ごとにかかわると命を落とすことが多い魔界では、仮に目の前で残虐な行為が行われていたとしても、見て見ぬフリをする魔族が圧倒的に多い。仮にその場をうまく収められても、後で報復されるなんてことも日常茶飯事だから、下手なお節介をせずに関わらない方が正解だ。力のない優しさは自らの身を滅ぼすだけと子供のころに教えられる。

だから仮に助けを求める声がしても、誰も助けようとはしない。せいぜい見回りの兵士を呼んでくるくらいだ。そしてその兵士が助けてくれるとは限らない。力だけがものを言うのが魔界という世界だ。


「その、ありがとうございます。あのまま捕まっていたら私……」


「……私は自分の欲求を満たしただけよ。ありがとうって言葉は無事に帰れてから使いなさい」


「はい」


「そろそろ上がりましょうか。あんまり長いとルルカがうるさいし」


髪を乾かすのも含めてだけど、二時間以上お風呂場を占領する自分の事は棚に上げて、ルルカは私のお風呂が長いのを怒る。その半分以下の時間しか使ってないんだけどね。

ちなみにディースは滅茶苦茶早い。平均二十分くらいで髪の毛も乾かして出てくる。保湿とかあんまり気にしていないらしいけど、それでも肌が綺麗なんだから本当にずるい。


「あ、ケアはちゃんと温まれた?」


「はい。ちょっとのぼせてるくらいです」


「じゃあ上がりましょう。脱衣所に水も用意してくれているはずだから」


飲まない子も結構いるらしいけど、お風呂上がりにはちゃんと水を飲まないといけないわよ。気が付かないだけですごい量の水分が失われてるんだから。あと冷たい水もダメ。お腹に負担がかかるしせっかく温めた体が冷えちゃうからね。

って偉そうに言ったけど、これ全部姉さんの受け売りだからね。私はそこまで気にしてません。気にしようとは思ってるんだけどね。






夕方。

お昼のお菓子を作ったら帰ってもらう予定だったのだが、ケアが夜ご飯後のお菓子も作ると言い出したので、予定よりも少し遅れてしまった。

ケアはこれから妖精の国に帰る。本当はこのままここにいて欲しいんだけれども、私のせいでケアの家族や仲間達が心配するのは嫌だ。人の嫌がる顔とか悲しむ顔とか、仮に見えなくても気にしちゃうの性格なの。少なくとも私の知り合いにそんな顔をして欲しくない。


「ケア、私の耳に手を当てて」


「はい」


耳に温かくて小さな手が触れる。私は空間に切れ目を入れて、昨日探した妖精の魔力が溜まっている場所をケアに伝える。


「どう、知っている場所はある?」


「うーん……」


魔界のありとあらゆる物は魔力を宿しているから、集約して上手く具現化すると、頭の中にその場所の景色なんかを投影することが出来る。かなりの上級魔法で情報量が多いから魔力の消費がとてつもなく多いけど、私くらい魔力が有り余っていると投影した景色を共有する魔法を同時に使うことだって出来る。こう見えても一応魔王族だし、暇人だから魔法の習得とか改良とかは好きなだけ時間を割ける。だから私しか使えないような魔法も結構あるし、古代魔法なんかも一通り使えたりする。

魔法を勉強したり改良したりするのは本当に楽しい。時間を忘れて没頭してしまうことが多くて、いつもディースに怒られる。


「あ、ここです。私たちの国は」


三つ目の場所でケアが反応する。


「了解。街に近いと影響がでちゃうかもしれないから、ちょっと離して……。この辺りからなら帰れそう?」


「はい。ここならわかります」


私には右も左もわからない濃い霧の森。でもケアは自信満々に答える。


「オッケー。じゃあここに繋げるわね」


「はい、お願いします」


ケアが耳から手を放すと、振り返ってディースとルルカに頭を下げる。


「ディースさん、ルルカさん、ありがとうございます」


「こちらこそありがとうございます」


「うん、私も楽しかった。また来てね」


「はい!」


ケアの満面の笑み。ここで楽しい一時を過ごしてくれたのなら幸いだ。


「ディース、ルルカ、ちょっと行ってくるわ」


「いってらっしゃ~い」


「お気をつけて」


ルルカは大きく手を振って、ディースはいつも通り綺麗なお辞儀をして私を見送ってくれる。って言っても三十分もしたら帰ってくるだろうけどね。

私は空間を裂いてケアの国の近くに繋げる。霧が濃くて一寸先も見えない森の中だった。


「どう、わかりそう?」


「はい、バッチリです」


私には何もわからないんだけど、たぶん妖精だけにわかる魔力の流れとかがあるんだろう。もしそうなら、ケアに教えてもらって私もわかるようになりたい。もしかしたら町でまた妖精を助けられるかもしれないしね。


「ここで十分くらい待ってくるから、もし違うかったら戻ってきてくれる?」


「わかりました。ってノワエさん、街には来ないんですか?」


「行かないわ。私が行ったら、妖精さん達が怯えるでしょう? それに他の妖精さん達とは初対面なんだし、場所をばらさないって言っても信じて貰えないでしょ?」


「それもそうですね」


この辺りの場所は把握したからいつでも来られるんだけれども。私は私欲のために妖精さんを襲って拉致するような酷いことはしません。でもそれを説明するのは面倒くさい。だから行かない。


「あ、そうだ。ケアにこれを渡しておくわ」


「これは?」


昨晩、私が睡眠時間を削って作った、親指の爪ほどの大きさの水晶。通信用の水晶だ。

水晶に魔力を込めて通信用にするのは簡単なんだけど、これはケアに合わせてかなり小さくしたから、作るのがとにかく大変だった。水晶は小さければ小さいほどデリケートだから、ちょっとでも多く魔力を込めたら割れてしまう。私はこの作業で十個以上水晶を割った。

そしてこの小さくて容量の少ない水晶に、通信の魔法を書き込み、妖精でも使えるほど低燃費にするのは更に大変だった。この作業でたぶん三十個以上割った。ぶっちゃけた話、気が狂いそうだった。


「通信用の水晶よ。国が襲われたりしたらそれで私を呼びなさい。すぐに助けに来るから。使い方はわかるでしょう」


「はい」


これで襲われた時に私が赴けば大事には至らないはずだ。


「ノワエさん、本当にありがとうございます」


「ま、その水晶を使わないことを願っているわ。あ、助けたら食事を作りなさいよ。飛びっ切り美味しいやつ」


「はい。もちろんです。ノワエさんが食べきれない量を用意します」


「あらありがとう。でも私けっこう食べるから、泣いても知らないわよ?」


「覚悟しておきます。では、またお会いましょう」


「ええ」


そう言ってケアが霧の中に消えていく。その姿はすぐに見えなくなった。

私は約束通り十分待ったけど、ケアが戻ってくる気配はない。念のためにもう十分待ったけど帰ってこない。


「帰るか」


またかなり長い間、妖精さんの作る料理が食べられないのか。そう思うとけっこう憂鬱だ。

相手のことばっかり考えて、自分が損しちゃうように動く癖は直した方がいいかもしれないな。なんかそれで損をしていることも多い気がする。

まぁいつでもやり取りは出来るわけだから、本当に我慢できなくなったらケアに来てもらおう。

私は気持ちを切り替えて、空間を裂いて館の前に繋げる。

この三日間はすごく充実していた。ヴァルハルトの所に飲みに行って、十年ぶりに町に行って、妖精を捕まえて帰す。人生で最も充実した三日間かもしれない。


「あら……」


いつも見ているボロボロの洋館が、少し寂しく見えた。

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