第4話「自己紹介の時間」

「さて、それではみんな自己紹介でもしようか」


場が静まったのを見計らい、マッチョ紳士が切り出した。

それに従い私も空いていた椅子に座る。

隣にはミリーが座った。


(と、隣に女子がいる……)

私は元の世界では男子校に通っていた。故に女子に対する免疫があまりない。

ただでさえここには女騎士とか眼鏡っ娘とかいるのに…

(持ってくれよ…私のメンタル……)


「まず、僕から始めよう。」

マッチョの男は姿勢を正して、胸を張った。

「僕は河崎、マッスル河崎と呼ばれたりしてる。階級は准将だ。よろしくね。」

「はい、よろしくお願いします河崎さん…」

差し出された手に応じ、握手を交わす。力は抜いてくれたらしい。


なんというか、マッスルな人はもっとこうやかましいというか声が大きいイメージがあったが、この人は口調が穏やかで紳士っぽい。人を見かけで判断するのは良くないな…


「ちなみに、僕の魔力は…」そう言いながら河崎はおもむろに服を脱ぎ、丁寧に畳んだ。

そしてゆっくりとポージングをし…

「むん!!!」

彼が叫ぶと同時に、ただでさえムキムキだった身体がさらにムキムキに強化された!

「これが僕の魔力…《筋肉/マッスル》の魔力だよ。」

この見た目に反して口調は至極穏やかなのだから、ギャップが物凄い。


「さて、次は…」

「あたし!あたしがやる!」

河崎が服を着ている横で、女騎士が勢いよく手を挙げた。

女騎士は嬉しそうに立ち上がり、自己紹介を始めた。


「こほん、えーっと、さっきも言ったけど、私はハイユだ!大佐だぞ!よろしく!」

「よ、よろしくお願いします…」

なかなかに元気一杯な人だ、テンションについていくのが大変そうだ。

「私の魔力はだな…ふん!」

ハイユ両手を近づけると、その中心に球体ができ、風が噴き出してきた。

「私の魔力は…《突風/ウィンド》だ!」

「っ……!」

あまりの風に思わず身を屈める。なるほど、目にも留まらぬ速度で盗賊の前を通り過ぎたのはこんなトリックがあったとは…!


「どうだ!」「す、凄いです…」

ハイユは満足げにドヤ顔をしている。可愛い。


「次は俺だな…」

フード付きのローブに身を包んだ、最初に会った時にヤーデルと名乗った男が身を乗り出す。


「俺の名はヤーデル、ヤーデル・フェンダーだ。階級は大佐だ。」

気怠げな感じでヤーデルは話す。顔はよく見えないがイケメンの部類だろう。

「俺の魔力は、《催眠/マインド・コントロール》だ。人の記憶、常識、人格を改変し、五感を操りあ、身体の支配権を奪ったりできる。」

(チートすぎる…!)

「そ、そんなことまでできるんですか…?」「ああ、色々と制約はあるがな。」


なんてことだ、そんな能力幾ら何でも強すぎない?天に立てるラスボスクラスの能力じゃないか…!序盤からこんなの出して大丈夫なのか?


「ああ、それと、俺は仲間の思考は覗かないようにしている。その点は安心してくれ。」

「は、はい。」

これには私も少し安心した。思考ぐらいは自由にさせて欲しいし、クズだとはあまりバレたくない。


「次は私だな。」

言いながら、眼鏡をかけてキツい目をした女性が名乗りをあげる。

「私はフィフス・ウィルズだ。ここの副支部長で階級は准将、能力は《触手/フィーラー》だ。よろしく。」

「よろしくお願いします…」

な、なぜ彼女はさっきからこっちを睨んでくるのだろう?

いや立場的に不審な奴だとは自覚してるがそれにしたって…


「おーいおい、フィフちゃん、恐い顔してるよ〜?スマイルスマイル!」

いきなり隣に座っていたチャラい雰囲気の男がフィフスの頬を掴み、揉み始めた。

「隊長、やめてください。」

「ごめんな〜こいつ目つきがキツいから厳しい奴みたいに思われちまうんだが、全然そんなことないんだぜ〜♪」


そういうと男はフィフスから手を放してこっちに向き直った。

「俺はライツ・デュイスブルク、ここの支部局長で隊長だ。よろしく頼むぜ〜♪」

「よろしくお願いします…!」

一見若くてチャラい雰囲気だが、隊長と言われるとそんな雰囲気がしてくる気がする。


「んで…俺の魔力なんだが……」

言いながらライツはポケットから一枚の硬貨を取り出し、指で弾いて上へと弾いた。

そしてその硬貨がーーー消えた!


「え……!?」

一瞬のことでよくわからなかったが、確かに上に弾いた硬貨が消えた…

一体どんなトリックを!?


「で、ここにある。」そう言ってライツはポケットから先ほどと同じ硬貨を取り出した。

さっき確実に取り出した硬貨がなぜまたポケットから…?


「んで…ほい!」「んっ…あぁっ…!」

ライツが手を叩くと同時に、隣に座っているフィフスが艶かしい声をだし、身をよじった。


「......?」

私が呆気に取られていると、ライツが不敵な笑を浮かべた。

「フフ...これが俺の、《時間/タイム》の能力だ。時間を止めたり、時間の流れをちょいとイジったりできるんだ♪」


(最後にとんでもないのがきた......!)

(えぇー?何それ?時間操作!?)

(どっちにしたって軍の支部長程度の人間に思えないんだけど!?)

(ていうかなんでちょくちょく卑猥なことに使えそうな能力があるんだ......)


「そ、それは...凄いですね...」

「ま〜な、色々と制約はあるがな。」


「......隊長。」

見ると、フィフスがライツのことを鋭く睨んでいる。

「勤務中にセクハラはやめてくれませんか...💢」

「ハハ!悪い悪い♪」


ライツは笑いながら全く悪びれる様子もなしに言う。

時間停止を利用したセクハラとは…ここの女性職員はみんなこんな高度なセクハラを受けているのか?


「安心しろ…隊長がセクハラをするのはフィフス副隊長に対してだけだ。それに本人も満更でもない。」

「考え読みました…?」

「顔に出ていた」

私の心配を見通したかのようにヤーデルが告げた。それを聞いて一安心だ。


「さ〜てと、それじゃあ今日は新メンバーの加入を祝して宴といこうか〜!!」

「「「「お〜!」」」」


(う、宴!?)

一転した歓迎会のムードに私は戸惑う。いやしかしそれより…

「あの、ここのメンバーってここにいる人で全員なんですか?」

「ああ…他の支部はもっといるがうちは少ない」


いや、少ないってレベルではないだろう!?

軍の支部なら数百、数千人いてもおかしくないだろうに、ここには私を除いて7人しかいない、果たして支部として成り立つのか?


「ほらほら、準備しろ〜♪」

言いながらライツが両手にコップや酒瓶を持って来た。

それぞれが肉やらチーズやらワインやら菓子を持ってくる。


「さあさあ!今日は飲むぞ!食べるぞー!」

「程々にな、ハイユ...」

「そういえば実家から美味しいハムが届いたんです。みんなでいただきましょう。」

「美味しそう〜!」


自分より年上の人間に囲まれての歓迎会など経験が無い...が、大丈夫だろうか...?


「はい、タキの分。」

困惑していると、ミリーが何かよく分からない液体の入ったコップを手渡してくれた。

「あ、ありがとう。」


「準備はいいな〜!それじゃーーー」


「「「「「かんぱーいー!!!」」」」」


私がここで上手くやっていけるのか、心配は尽きないが...

なんとしても、生き残ってやる...!!


決意を新たにし、コップの中身を一息で飲み込んだ。謎の液体は、スッキリとした甘い味がした。

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