第3話「底辺からのスタート」

「では、早速街の方に向かおう」

私が落ち着いたのを見計らい、女騎士が告げる。

「ここは街から外れた草原でな、我々の本拠地までは約20キロほどだ」

「わ、わかりました……」


2、20キロか…かなりキツいが弱音は吐けない、どうにか耐えるしかないな……


「待て、歩いて行くわけではない、安心しろ」

ヤーデルという男が私に向けてそう言う。

顔に出ていたのか、もしくは心を読まれたのだろうか?


「向こうにバイクがあるだろう、あれに乗って行く。」

ヤーデルが指差す方向を見ると、黒光りするかっこいいバイクのようなものが立てられていた。


「な、なるほど…」

これは驚いた、まさかこちらの世界にバイクがあったとは…

私は彼らの姿からてっきり中世頃をベースにした世界を想像したが、早計だったかもしれない。


「悪いが、一台しかないから私と相乗りだな。痛むだろうから、鎧は脱いでおこう。」

女騎士がバイクに手を掛け、鎧を素早く脱ぎ始める。

彼女の鎧の下は上下を茶色系のTシャツとハーフパンツで纏められており、黒いベルトが背中でクロスしている。

やはり予測した遠り、デカい。非常に魅力的だ。


「あ、あの、ヤーデルさんは……」

「俺か?俺のことなら心配いらん。」

彼はそう言うと足元から黒い正方形状のものを見せる。

「俺にはこれがあるからな。」


あれは何だろう?板のようだが、背面にも何も付いていない。

元の世界のセグウェイのようなものだろうか?しかしタイヤは無い。


そこまで考えた時、ヤーデルは地面にそれを置き、上に乗った。

すると板が怪しげに光り、浮ヤーデルを乗せたまま浮かび出した。

「これは俺の知り合いが作った物でな、中近距離の移動に最適なんだ。」


驚いた…!一体どんな仕組み……?

いや、私程度が考えても理解できそうにないしやめておこう。


「準備できたぞ、さあ乗ろう。」

振り向くと、女騎士がすでに準備を整えバイクに跨っていた。

先ほどの鎧は正方形にまとまり、収納されている。これも仕組みはわからない。


恐る恐る近づき、女騎士の後ろに続いて乗る。

「しっかり掴まっていろよ!」


怖くて仕方ない気持ちを沈めて、騎士にしがみつく。

こんなに女性に密接したのは赤子の頃以来だろうか…既に気を失いそうだ……


するとバイクがフォォォーーン……という音を出しながら少しづつ動き出す。

音を抑える機能まであるとは感服する。

バイクは徐々に加速し、周囲の景色を置き去りにして行く。


なんて早さだ…しかし私にとって今はそれどころでは無い。

今、自分は女性に密着しているのだ、滅多に無い機会だ…

どさくさに胸でも触ってやろうか、もちろん恩人にそんな真似はしないし、する度胸もないのだが。


(おい……)


するといきなり頭の中に声が響く。

(な、一体なんだ……!?)


声は答える。

(俺だ、ヤーデルだ。今直接お前の頭の中に話しかけている。)


なんと、催眠系の能力者なだけあってそんなことまでできるのか…凄い能力だな……


しがみついたまま後ろに目をやると、物凄い速度で移動する黒い板に彼は乗っていた。

普通なら落ちそうだが、仕掛けがあるのだろう。


(そいつに、手を出そうなどとは考えるなよ……)

また重く暗い声が響く。

(す、すいません、つい出来心で…)

(まあ良い、未遂だからな…)


やはりバレていたか、凶悪な能力だな…

この2人は交際しているのだろうか?お似合いだと思うが。


(交際してる訳では無い......)

(し、失礼しました!)


全てお見通しか...本当に恐ろしい。

2人の関係性は気になるが、今は置いておこう。


意識を移し、景色を眺める。

冷たい風が気持ちいい。

この世界に四季があるなら、今は春だろう。



バイクに揺られて2、30分たった頃だろうか。商店街の入口のような所で止まった。


「ハイユ、なぜここで止まる?支部まではまだ距離があるぞ。」

「買い物を頼まれていたのを忘れていた!ちょっと寄って帰るから、先に行っていてくれ。」

「いや、俺も付き合おう。見たい物もあるからな。」


なるほど、2人の会話で事情は分かった。

この町のような場所で買い物をして行くようだ。


「よし、じゃあ行くぞ!少年!」

「は、はい...!」


女騎士に促されてバイクを降りる、いったいどんな感じなのか...不安9割、楽しみ1割といったところか。



異世界への扉を潜ると、そこは別世界であった。当たり前だが...


「凄いな...」

ふと口にする。

この世界の商店街では、見たこともないものが多く売られている。


淡い銀色に輝くひらべったい魚や、金色に光る鳥なんかも売られている。

活気ある商店街はファンタジーの街並みを彷彿とさせるが、レジ打ち機のようなものが見られるし、建物の建築はしっかりとしたものだ。


はぐれないよう注意して歩きながら、店の看板や値札を見やる。が、先程までの言葉同様理解できない文字列が並んでいるばかりだ。


「暴れるなよ…」

いきなりヤーデルに頭を鷲掴みにされる。

「あ゛…あ゛あ゛あ゛……!」

何度やられてもこれには慣れそうにない。

また頭に色々と流し込まれる刺激が与えられる。

それに伴い、意味不明の文字列が徐々に変化し、懐かしき母国語へと変化した。


「文字までは入れてなかったからな……」ヤーデルは決まり悪そうに手を放す。

「あ、ありがとうございます。」

話し振りからすると、この世界の文字が日本語に見えるようになったのではなく、私の頭に新言語が追加されたようだ。元の世界ではあれだけ苦労した言語取得が、ものの数秒で完了してしまった…本当にチート能力だな。


「おっと、米を買っていかないといけないんだった!」

女騎士は思い出したように口にし、手早く2つほど米の入った袋を買った。

1つはバイクの後ろ部分に縛り付け、左手でバイクを支えながら、もう一つの米の袋を右手のみで抱えた。見た目に反して、とんでもない怪力だ。


途中、卵らしきものや野菜のようなもの、いくつかの魚などを購入した。

何もしないと言うのは気が引けて、自分がそれらを持つことを申し出たが、色々入った袋はあまりに重く、かなりキツかった。


「おいおい少年、大丈夫か?」

女騎士が笑いながら話しかけてくるがそれどころではない…

だいたい一人称が「私」の貧弱で女々しい雑魚に肉体労働を任せる方が間違っている!

まあ自分から申し出たのだが…


こんな愚痴も既に読まれているだろうが、そちらに気を配るだけの余裕はない。

ヤーデルという男は荷物持ちを手伝う気は無いらしい。

最も怪力な女性が目の前にいるのだから、任せる方が賢い判断だろう。


そんな状態のままひいこら歩き、街を通り過ぎ、開けた場所に出ると、その先に大小2つの建物があった。


左奥にどす黒いとんがり帽子のような建物が一つ、そして正面に側面にごちゃごちゃと部屋やら道やらが付いた三角錐状の建物がある。

近くに設置された看板には、「王国軍第13支部」と書かれている。


「着いたぞ!ここが我々の拠点だ!」

女騎士が元気よく告げる。


「な、なるほど......」

正直ハプニング続きの上に荷物を運んだせいで疲れてそれどころじゃないが、もう歩かなくて済むと思うと嬉しい。


「ん...?あっ!」

2人に続いて近づくと、建物の入口近くに先ほどの2人の強盗がいた。虚ろな目で立ち尽くしている。


「ああ、さっきこいつらに歩いてここに来るよう催眠をかけておいたからな。俺はこいつらを連行してくる。」

ヤーデルは女騎士にそう告げ、2人を引き連れてどこかに歩いて行った。


「おし、じゃあ私はこれらの荷物を裏手から台所に置いてくる!先に入って待っていてくれ!荷物ありがとな!」女騎士にそう言われ、自分が持っていた袋を渡した。


彼女はバイクと荷物を上手くバランスを取りながら建物の背後へと歩いて行く。


「参ったな...」

扉を前にして呟く。自分1人で初めての場所に足を踏み入れるというのは、かなり怖い。

「お、お邪魔します...」

誰かに出くわさないよう祈りながら、ゆっくりとドアを開けて、ゆっくりと入る。


扉を開けるとそこは、居間のようなスペースだった。開けてすぐ右手に下駄箱のようなものがあり、大小様々な靴が置かれている。

前方には大きなテーブルがあり、ソファーやイスやら座布団らしきものなどがそれを囲むようにして置かれている。


天井は遥か上にあり、設置された窓からは日が差し込んでいる。

そして壁に沿ってぐるぐると回りながら上へと階段が伸びている。そこまで見た時ーーー


目が合った。階段を登った少し先、部屋から階段へと出てきた大男と。


彼はこちらを少し驚いたように見ている。

無理もない、普通軍の施設に一般人など入って来ないに違いない。

なら、私が取る行動は1つしかないーーー


「お初にお目にかかります!」

叫びながら姿勢を正して即座にお辞儀をした。

「私は滝山と言うものでして、道に迷っていたところをハイユという方とヤーデルという方にこちらに連れてきて頂いた次第にございます!」

不審人物に思われないよう、わかりやすく、簡潔な説明を心がけた。


「ああ、なんだそういうことか。大変だったね、ゆっくりしていくといい。」

大男は穏やかに笑いながら、扉を閉めた。


ほっと胸をなで下ろす。少ししか見えなかったが、あの男、只者ではない。


男はマッチョであった。

上半身裸で、下は黒いズボン。鍛え上げられた肉体はてかてかと光を放っており、日に焼けたような色をしていた。

しかし口調は見た目に似合わぬ英国紳士のそれであった。


マッチョ紳士にローブの男、元気の良い女騎士…

どうやらここのメンバー相当個性が強いらしい。


おずおずと空いているソファーに座る。ふかふかだ。

他にすることも無いので、周囲を見渡す。大きい暖炉に古ぼけた時計、犬の仮面に空になった酒瓶…奇妙なものがあちこちに置かれている。不思議な空間だ。



それにしても……暇だ。

異世界に来てからというもの、刺激的な出来事の連続だったな。


「ふわぁ…あ…」

一息ついたらどっと疲れが出てきた。

マズい…ねむ……く………


意識が…遠のく…




ーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー



あれ………私は…どれくらいの間寝ていたのだろうか………


眠い目をこすり、寝ぼけた頭を働かせて、自分の状況を必死で思い出そうとする。


えっと…異世界に来て、助けられて、支部に連れてこられて………


そこまで思い出し、思わずハッと飛び起きる。

しまった!無断で眠りこけているなんて、見つかったらなんと思われるか!


おや…

ふと、寝ていた自分に毛布のようなものがかけられていることに気がつく。

いったい誰がかけてくれたのだろう、さっきの筋肉紳士だろうか。


目をあげると、向かい側の椅子の裏に、動く人影が見えた。

ここの人だろうか?だとしたらなぜ隠れるのかはわからないが、あまり悪い印象は与えたくない。…勝手に入ってきて寝ている時点で印象は最悪かもしれないが。


「あ、あの…すいません。」

椅子の裏で何かがガクッと動いた。正直顔も見えない相手に自己紹介をしなければならないというのは少し怖いが、このままではいられない。


「私、滝山というものでして、道に迷っていたところをここの方に連れてきていただいた次第で……」

椅子の裏側の人影に動きはない。

参ったな、どうするべきか…


思いあぐねていると、椅子の陰からそーっと頭が出てきた。

その人物は、私と同じ年頃の少女であった。


彼女は黒い大きな目で、得体の知れない私を探るように見ている。

所々に黒みを帯びた茶髪は、縛られてポニーテールになっていて、あちこちで少し跳ねている。

体は椅子に隠れてよく見えない。

だが少しだけ見える手はスラッとしていて実に綺麗だ。


「こ、こんにちは……」

少女はおずおずと口にする。

綺麗な声だ。


「こんにちは…」


「……」

「……」

「……」

「……」


(き、気まずい!)

参ったな…こんな時にどうすればいいのかさっぱりわからない。

女性の扱いというのは本当に難しい。

しかし、このままというのも…


その時自分にかけられていた毛布っぽいものの存在を思い出す。


「あ、あの…」少女の頭が不安げに動く。

「この毛布って、あなたがかけてくださったんですか…?」


「は、はい…」

少女は私から目を離さず、少しだけ頷く。


「どうもありがとうございました!とても…えぇ…良かったです!」

「は、はい、どういたしまして…」


少女は決まり悪そうに言う。

そのまま少しもぞもぞとしていたが、ゆっくりと立ち上がり隠れていた椅子に座る。

グレーのパーカーに紺色のハーフパンツという出で立ちで落ち着かなさそうにしている。かなりラフに見えるし、人が来るとは思っていなかったのだろう、悪いことをしてしまった。


いや、しかし…なんというか……


「可愛いな……」

言ってすぐにしまったと思い口を押さえる。しまった!何をやっているんだ私は!?


しかし時すでに遅く、聞かれてしまったらしく、戸惑うような恥じらうような顔をしながらこっちを見てくる。

「え……?」


「いえ、あの、その…つい出来心で……すいませんでした!」

しまった、なんてことをしているんだ私は!

私のような不審者風の男に可愛いなどと言われては、彼女の心に取り返しのつかない傷をつけてしまいかねない…!とんだ失態だ…!

普段の私ならこんな真似は絶対にしないというのに、つい思ったことを口にしてしまった。


「あ、あの…大丈夫ですのでそんな気にしないでください……」

彼女は頬を赤らめ斜め下の方向を見つめている。

どうしよう、これがきっかけで男性不信にでもなられたら…


「いやぁ、ごめんごめん遅れてしまって。おや、どうかした?」

するといきなり、部屋後方のドアから先ほどの女騎士が入ってきた。


全く来るのが遅すぎる。いったいこの状況どうすればいいのか…


するといきなり彼女が立ち上がり、女騎士の手を取り入ってきた方へと引っ張っていく。


「おや、どうした?」

「いいから!ちょっと来て!」

そのまま2人は奥へと行ってしまった。


「ハイユ!お客さんが来るならどうして言っておいてくれなかったの!?こんな格好じゃ恥ずかしいよ!」

「そんなこというなよ、いつも通り似合っているぞ。」

「そういう問題じゃないでしょ!」

「仕方なかったんだ、巡回の途中で見つけて、困ってたから連れて来たんだ。お前もちゃんと自己紹介しといた方がいいぞ」

「全くもう、いつもやることが急なんだから…」


声が大きいから、話の内容が丸聞こえだな…

こんなときどういう顔をすればいいのだろうか。


「ごめんごめん、もう大丈夫だ。」

「……」

2人がまた部屋に入って来る。


「ほら、ミリー」

ミリーと呼ばれた少女は恥ずかしさを堪えるようにしながら自己紹介をしてくれた。

「ミリー・ロールと言います…初めまして……」


私も慌てて立ち上がり、後に続く。

「私は滝山です、は、初めまして!」

やはり先ほどの失言が不味かったのだろうか、目を合わせてはくれない。


「そうだ、ミリー!タキヤマはこことは別の世界から来たんだぞ!凄いだろ!」

騎士は楽しそうに告げる。笑い事じゃ無いというのに…


ミリーという少女は驚き、目を丸くしながら私を見る。

「えっ…ほ、本当ですか?」

「は、はい一応…」

いきなりこんなことを言われたらそれは驚くだろう。

当然の反応だ。


「そんでさ、ヤーデルや隊長たちと話すことがあるからちょっとタキヤマをお前の部屋に連れて行ってくれないか?」


「えぇ!?」(えぇ!?)ミリーという少女は戸惑っている。そしてそれは私も同様だ。

女子の部屋に行けだと!?マジで勘弁して欲しい。


「頼むよ、そんな長くはかからないからさ!お願い!」

「わかったよ…」

騎士に頼まれ、彼女は渋々といった感じに頷く。

この娘も軍人だとしたらやはり上官には逆らえないのだろうか。


「じゃあ、ついて来てください…」

「は、はい…」

彼女に連れられて階段を登り始める。こんな曲がった階段など登るのは初めてだ。


「そうだ!河崎にも来るように言っておいてくれ!」

下の方から騎士の声が響く。

「自分で言って!!!」

しかし彼女は不機嫌そうに叫び、階段を登っていく。

私が思っていたより、ここの上下関係は緩いらしい。


そのまま上まで登っていき、焦げ茶色のドアの前で彼女は足を止めた。

「こ、ここです…」

「なるほど…」

なんと言えば良いのかわからず、つい変な返事になってしまった。


ドアを開ける彼女に続き、私も部屋に入る。


女子の部屋に入るなど何年ぶりだろうか、昔は幼なじみの家に遊びにいったりしたものだ。


彼女の部屋はーー思っていたより散らかっていた。

あちこちに紙が落ちていたり、お菓子と思われるゴミがあったり、引き出しが出たままだったり、ベッドの上に衣服が散乱していたりする。


「あぁ…!片付けるのすっかり忘れてたぁ…あ、あのすいません散らかってて…」

彼女が恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら必死になって言う。


「いえいえ、全く気にしませんから御安心を。」

お世辞などではなく、私は心底安心していた。

これが整頓された可愛いもの溢れる部屋などであったら、卒倒していたかもしれない。

私が安心できるような雰囲気にで満たされていて、実に居心地がいい。


気まずい時間が流れる。

もとより私は女性と関わるのは得意な方ではない。

普通の会話やら同じグループでの作業なんかなら問題無いが、2人きりとなると話は別だ。


「あ、あの…」

考えあぐねていると、彼女が遠慮がちに口を開いた。

「なんでしょうか?」対する私の口調もつい敬語になる。


「異世界から来たって、本当なんですか?」

「はい、一応…。証明するものなんかは無いのですが。」

「いえ、信じます!ただ初めての経験で、ちょっと驚いちゃって…」

「ミリー…様はこちらの施設で働いていらっしゃるのですか?」

「はい、まだ二等兵なんですけど。あ、それとミリーでいいです。敬語も、使わなくていいですよ。」


苦手な流れだ…打ち解けて会話できたのは嬉しいが、敬語を使わなくていい、か……

苦手なんだよなそういうの…


「えっと、じゃあ私も気軽に接してください。よろしくお願いします。」

やはりそんなすぐには対処できやしない。


「うん、よろしくね。私もこういう喋り方とか苦手だし、それに多分これから一緒に…」

彼女はそこまで言いかけて、慌てて口を押さえた。

「な、なんでもない…」


?彼女は今何を言いかけたのだろうか?

気になるが、聞くこともできないし…


「おーい!ミリー!タキヤマを連れて来てくれーー!!!」

ちょうどその時下の方から先ほどの女騎士の声が大音量で響いてくる。


名残惜しいが、行くしかない。ミリーに続いて下へと向かう。


下に着くと、先ほどの女騎士、ローブの男、筋肉紳士、それに加えて初めて見る顔の2人が中央のテーブルを囲んで座っていた。


1人は、髪を短く束ね、眼鏡を掛けている女性。

胸の部分が開いてリボンが付いた、薄い紫色をベースにしたスーツに上下を包んでいる。

キッチリとした雰囲気をしている彼女は、鋭い目でこちらを見て来て、ちょっと怖い。


もう1人はどことなく軽いが、落ち着いた雰囲気もする男だ。

髪は少し荒れた茶髪で、ヒゲは綺麗に剃られている。

なかなかのイケメンだ。

マントに身を包んだしっかりとした雰囲気からすると、もしかしたら彼がここの責任者かもしれない。


「おっ、来たか〜♪」

陽気な感じで足を組んで座っていた彼は、私が来るなり姿勢を正した。


「今、お前の扱いに関して話し合っていた…」

フードを被った、先ほどヤーデルと名乗った男は、腕を組んだまま呟くように告げた。


それを聞き、突如として背筋に冷や汗が走る。

(これは…マズい……)


私が異世界出身なのは、先ほど記憶を読まれたからわかっているだろうが、それで私をどう扱うかまでは考えていなかった…!


もしこの国が平和な民主主義国家ならいいが、もし政府によって自由を抑圧された独裁国家とかだと、私の思想や記憶は害になりかねない…

最悪のパターンは、自由やら記憶やらを奪われて奴隷行きか(奴隷制があるのかは知らないが)、ここで殺されるかだ。


(逃げるか?しかし逃げ場はないし、催眠術氏がいる時点でもう何をしても無駄だな…)


「お前から、なにか希望はあるか?」

そんなことを考えていると、チャラそうな男が私に向き直り声をかけてきた。


どうする?何を言えばいい?何が求められている?

考えても答えは出ず、絞り出すように

「い、命ばかりは…お助けください……」

と言うので精一杯だった。


するといきなりその場がシンと静まり、すぐにみんな大声で笑い出した。

何が起きたか理解できず、私が困惑していると、先ほどのチャラげな男が話しかけてきた。

「お前、怯えすぎだろ〜そんな心配しなくていいって!」


そう言った後、幾分真面目な顔をし、

「あー…王国軍第13支部 支部長ライツの名の下に命ずる。貴殿を王国軍三等兵として、我々第13支部に迎え入れる。」と言った。


そしてまたすぐに先ほどまでの気の抜けた顔に戻り、仲間同志での会話を始めた。

「お前、ミリーちゃんに言っとくように言わなかったのかww?」

「ぬぅ…どうせうちで預かるとは思っていたが、サプライズにしようと思って……」

「ヤーデル、必要以上に不安にさせるのは良くないよ」

「まあまあ、いいじゃないか!メンバーが増えて今はめでたいんだし!」


私は彼らの楽しそうな会話を唖然としながら眺めていた。

あずかる?私を?ここで?

軍の支部ともあろうものが、そんな簡単に人を入れていいのか?

随分ゆるいんだな…


「じゃあ、これからよろしくね!」

隣にいた先ほどミリーと言っていた少女が嬉しそうに笑顔で話しかけてきた。

「あ、ああ、うん。よろしくお願いします…」

いまいち心の準備ができないうちに、どんどん話が進んでいく。


「滝山、もう一度自己紹介をしてくれ…」

見ると、皆んなが私の方を見ていた。大勢の初対面の目に晒されて既に胃が痛い…


しかし、私を引き取ってくれるというのだから、ここはしっかりと挨拶すべきだ。


「えっと…私は滝山富世といいます!力も弱いし、頭も悪いし、本当に駄目な人間ですが、どうか…よろしくお願いします…!」

頭を下げ、できるだけハッキリと聞こえるように話した。


「ようこそ!歓迎するぞ!」「これからよろしく。」

「よろしくな〜♪」「……よろしく」「頑張ってください」


などなど、様々な声が私の頭上で響く。

初めての世界…どうにかここで、上手いことやっていかなくては……!


私は決意をし、腕を強く握りしめた。



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