第十七話 緊急メンテナンス

 あの変死体へんしたいつかった廃工場はいこうじょう。その周囲しゅういに人が溢れかえっている。

「わからないけど……何だろう?」

 俺はった。何か胸騒ぎはする。

 もう少し距離きょりがつまると、皆ケータイの画面がめんを見てることがわかる。

(これって、もしかして≪ギルドラ≫プレイヤー?)

 もしも最強さいきょうカード≪首無し≫目当てのプレイヤーが集まってきてるのだとしたら、最初さいしょにゲットしたプレイヤーとして少し責任せきにんを感じる。

「俺、様子ようすを見てくるよ。小笠原おがさわら一人ひとりかえって」

 俺は小笠原の目を見ていった。

「え?ダメよ。松波まつなみが一人で帰らないように今日きょう一緒いっしょに帰ってきたんだから。行くなら、アタシも行くわ」

「でも、なんだか危ない気がするし……」

「松波だけで行かせた方が、危ない気がするわ。行くなら行くわよ」

 小笠原は、俺より先に土手どて階段かいだんを降りていった。

「もう、先に行くなよ!」

 俺は小笠原を追って階段を降りる。


 廃工場周辺まで近づいてみると、中学ちゅうがく高校生こうこうせい、スーツ姿の外回りの営業えいぎょうマン。中には小学生しょうがくせいが数百人集まっている。

「このロープから先には入らないでくださいね!ここからは入らないで!」

 まだ現場検証げんばけんしょうつづくブルーシートの貼られた廃工場の前を封鎖ふうさする警官数人がロープのすぐ後ろに立ち、その群衆ぐんしゅうに向かってさけんでいる。

 集まった人々ひとびとは、皆ケータイの画面を見ている。その画面を後ろから覗き込んでみる。

「ギルドラね」小笠原が言った。

 人々のケータイに映っているのは、見慣れたギルドラの画面だ。その群衆の中に、山口やまぐちの姿を見つけた。

(なんだよ、速攻そっこうで来てるじゃん)

 と俺はおもうが、話しかける。

「山口くん、何これ?どういうこと?」

「どうもギルドラの攻略こうりゃくサイトに、ここで最強カード首無しが手に入るって情報じょうほうが書き込まれたみたいなんだよ。あ、僕じゃないよ?松波くんに聞いて来てみたらもう、こんな感じだったんだ。えっと書き込まれてるのは……あ、ここだ」

 山口がケータイの画面を俺に向け、攻略サイトのそのページを俺に見せる。ネットで検索けんさくすると、よく辿り着く大手攻略サイトだ。

 ブルーシートの内側うちがわから、筋肉質きんにくしつでスーツ姿の刑事けいじが出てきた。相葉あいばだ。

「あぁ?なんのさわぎだ?」

 忌々しそうに、群衆をにらみつける。

「なんだかわからんが、とりあえず増援ぞうえんを呼べ」

 相葉は若い警官けいかんを見て言った。その若い警官は無線機で会話かいわを始める。

 相葉はまた群衆へと視線しせんを移す。その相葉と俺はバッチリ目を合わせてしまった。

(あ、ヤバイ……)

 と思うが、相葉は間髪入れずに俺に言った。

「おい、おまえ。昨日きのう宇陀川うだがわと一緒にいたよな?」

「あ……はい」

「その制服せいふく、西高の生徒せいとだろ。名前なまえは?」

「え?」

「名前は?」

「あの……松波です」

「そうか、松波。おまえ、この騒ぎどういうことかわかるか?なんでコイツら集まってきてる?」

「はい、ゲームです。ケータイゲーム」

「ゲーム?」

「ギルドラってゲームの最強カードが、この周辺しゅうへんで手に入るんですよ」

「あぁ?ギルドラか。チッ、迷惑めいわくな話だ」

 どうも相葉はギルドラを知ってるようだ。

「松波くんはギルドラの上位じょういランカーで、ゲーム内の有名人なんです」

 と、横にいた山口が言う。

(コイツ、余計よけいなこと言うなよ……)

 俺は山口を睨むが、山口は素知らぬ顔だ。

「ふーん、上位プレイヤーね?」

 相葉は、鋭い目つきで俺を見て言った。

「お!やった!≪首無し≫発見はっけん!」

 周りにいた学生がくせいグループが盛り上がっている。パトカー数台のサイレンの音が聞こえる。増援ぞうえんの警官がやってきたようだ。相葉の視線がパトカーに移る。

 その隙に、俺は相葉から少しずつ距離をとり、群衆に紛れる。横の小笠原に

「帰ろう」

 と言い、土手へと向かった。


「で、なんだったの?」

 土手を歩きながら小笠原が言う。

 俺は事情じじょう説明せつめいした。

「なるほどね。あの場所ばしょで手に入る最強カードが欲しくて、みんな集まったってことね」

 頭脳明晰の彼女かのじょらしく、理解りかいはやい。俺は言う。

「まぁ、そういうことだね。でも、あの廃工場周辺で手に入るってだれがネットに書いたんだろう。俺たちがファーストゲットボーナスを取ったから、手にいれたのは最初だとは思うけど。宇陀川たちのうちの誰かか、山口か。それともほかにも誰かがあの場所で≪首無し≫が見つかることを知ってたのか」

「さぁ……どうなのかしら」

「まぁ、書いてもいいんだけど……なんか変な感じだよね。殺人現場にあんなに人が集まってるっていうのも」

「そうね」

 小笠原は言って黙った。空は少しづつ夕方ゆうがた茜色あかねいろびていく。

 そのあとは彼女と、とりとめもい話をした。昔あったことや近所きんじょのこと、学校がっこうのこと。

「じゃ、ここで。また明日あすね」小笠原の家の近くで、彼女は言った。

「うん、それじゃ」

 俺も言うと、家へと帰った。


「お兄ちゃん、今日も小笠原さんと帰ってきたでしょ!?なに、付き合ってるの!?」

 家に着くなり、美夏子みかこが言った。また妹に見られてたのか……。

芸能げいのうリポーターか!もうなんでも無いから!」

 苦笑くしょうして俺は自分じぶん部屋へやへと向かう。


 部屋で荷物にもつを下ろしベッドに腰掛ける。昨日から自分のゲームプレイのペースが乱れている。このままだとランキングもだだ下がりだろう。そろそろペースをもどそうかなと、ギルドラを起動きどうする。

 ゲームデータをネットから読み込んでいるのか

【通信中……】

 のウインドウが表示ひょうじされる。次に表示されたメッセージを見て、俺は

「あれ?」

 と呟いた。

 そこには、

【ただいま、緊急メンテナンスを実施しております。


 [2019/09/18 17:00 〜 終了時刻未定]


また、今後こんごの情報に関しては、公式サイト・Twitter・Facebookでご報告いたします。

ご利用のお客様には、ご迷惑をおかけいたします事をお詫び申し上げます。】

 とある——

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