第十六話 チュートリアル

「そうそう、≪ドラゴンスポット≫に近寄ったら画面がめんをスワイプ。すると色々いろいろゲームに必要ひつようなアイテム出てくるから」

 俺は小笠原おがさわらのケータイを覗き込みながらう。ギルドラのマップ上に、土手近くの祠が≪ドラゴンスポット≫として表示ひょうじされている。

「こう……かな?」

 小笠原が画面に指を滑らす。ドラゴンスポット上のリングを回すと、画面にアイテムが飛び散った。

「そうそう、そんな感じ。いいじゃん」

 と俺。実はリングの回し方にもテクニックがあって時間効率をあげようとおもうとそれについても考えた方がいのだが、そんなことを説明せつめいしても小笠原を混乱こんらんさせてしまうだけだろう。

「ふーん、なーんだ!簡単かんたんじゃない?」

 小笠原が俺に笑顔えがおを向けた。日の光に彼女かのじょの長い黒髪くろかみが艶やかにかがやいている。

「うん、まぁ普通ふつうにやる分にはそんなに難しいもんじゃないよ。楽しんで」

「それで、色々アイテムを手に入れたら、次は何するの?」

「ポイントたまったらノーマルガチャやったり、ドラゴンスポットのうばい合いしたり、ネットでマルチプレイで対戦たいせんしたり協力きょうりょくしたりかな。あとゲーム内のイベントが開催かいさいされたりするから、それで上位目指したかったら目指めざしたりとかさ。そんな感じかな?」

 俺の得意分野の話を聞いてくれて、ちょっと嬉しい気持ちもあるのだが、ここで調子ちょうしに乗るのもなんだか、かっこ悪い気がする。俺はつとめて落ち着いた調子で話すよう心がける。

「なんだっけ。ランカーとか言ってた?松波まつなみってギルドラでは有名ゆうめいなんでしょ?」

「有名……まぁ、有名ってほど有名ってわけでもないと思うけどね。知ってる人は知ってる程度ていどじゃない?ゲームの有名人ってそんなもんだよね」

「でも勝ったり成績良かったから有名になったんでしょ?」

「まぁ……そうだね……」

「そんなにゲーム好きだったっけ?」

「高校入ってからかな。ゲームの仕様しようを調べて、自分じぶんでこうやったら勝てるんじゃないか?とか考えて、やってみたら何も考えないより断然勝てることに気づいてさ。それが嬉しくていつの間にか結構けっこうハマってて」

「へぇ、そうなんだ。スゴイじゃん」

「まぁでもね、ゲームの話だからさ」

「でも世界せかいレベルなんでしょ。スゴイよ」

 小笠原は微笑みながら言った。その表情ひょうじょうに俺はなんだか、あたたかい気持ちになった。ゲームくらいしか人より出来できることがないと思っていたけど、それでも凄いと言ってもらえることもあるんだ。幼なじみで相手あいてにされてない感ハンパないとはいえ、小笠原だってかなりの美少女びしょうじょではないか。嬉しくないわけもない。

「あ……うん。ありがとう……」

 なんだかいつにない素直すなおさで、俺は礼の言葉ことばを口にした。

「うん」

 小笠原はケータイをスリープさせてポケットにしまうと、微笑みを浮かべたままゆっくりと土手どてを歩く。俺もその隣をゆっくりと自転車じてんしゃを押して歩いた。こんな時間じかんがいつまでもつづけばいい。

 そう思ったその時——

「松波……何あれ?」

 小笠原が言った。俺にも気になる光景こうけいが、目に飛び込んできた——

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