第十二話 騎士道

 俺のヒットポイントゲージも、わずかに数ドットを残すのみ。宇陀川うだがわ同様どうようだ。宇陀川と俺はカードのレア度、強さが蛭田ひるた毒島ぶすじまより上回っていたために、一撃死をまぬがれたようだ。

「うわ、これ厳しいなぁ……」と毒島のこえが、ボイスチャットで流れる。

 首無しのヒットポイントゲージは黄色きいろ。もう少しで倒せそうではある。宇陀川のシン・ハバムートでクリティカルヒットが出るか、順当じゅんとうに宇陀川と俺がノーマルヒットでも倒せそうな残量ざんりょうだ。

「なぁに、大丈夫だいじょうぶさ。イケるだろ。オレさまの番だな」と宇陀川。

「さぁて、オレ様の最強さいきょうカードで決めてやるぜぇ?行けぇ!シン・バハムート!」

 宇陀川のアバターがカードを投げつける。カードはシン・バハムートへと変化へんげすると[SSR+]の特徴とくちょうであるかがやく青い光跡こうせきを引いて首無しへと飛んでいく。

「あ!」その軌跡きせきて、俺はおもわず声をあげる。

「あ!」「あ!」と蛭田、毒島も声をあげる。

 シン・バハムートは右方向へとそれ、首無しに命中めいちゅうしなかった。

「あ、やべ!ミスったか!わりいな!」と宇陀川。

 ケータイのディスプレイに指を滑らす際に、右利きのプレイヤーが力むと右側みぎがわにカードがそれやすい。典型的てんけいてき失敗しっぱいスローだ。

勘弁かんべんしてくれぇ。俺がそのカードでクリティカル出してたら勝ってたじゃんよ……)

 と俺は思うが、

「……ドンマイ」

 と、とりあえずっておく。俺のターンだ。

松波まつなみ、たのむぜ!クリティカル出してくれ!」と蛭田。

「オウ……やってみる……」

 俺は言うと、呼吸こきゅうを整えて右手みぎての人指し指をケータイのディスプレイの上に置く。クリティカルヒットを決めないと、次の首無しの攻撃こうげきでゲームオーバーだ。かくれキャラに負けた場合ばあい、再挑戦できる時もあるが、半分はんぶんくらいの確率かくりつで隠れキャラはげてしまう。

 精神せいしん集中しゅうちゅうすると首無しの左胸、心臓しんぞうめがけて指を滑らせた。ケルベロスのカードは首無しの左胸へと一直線いっちょくせんに飛んでいく。

「行け!!」

 俺は思わず声をあげた。とどめを刺せば順位じゅんいボーナスのクリスタル300個、三万円相当の課金かきんアイテムもゲットだ。

 首無しの緩やかに左右さゆうれるボクシング風のステップのせいで、ケルベロスは奴の左肩ひだりかたにヒット。ヒットポイントは減らしたが、まだ黄色いラインが残っている。ゼロにはなっていない。倒すには至らなかった。

「ダメかぁ……」と蛭田。

 正直せいちょく、俺もガッカリだ。

【首無しのターン】

 とウインドウに表示ひょうじされる。先ほどと同じように、首無しは、死神しにがみの鎌を横薙よこなぎに振り払う攻撃モーションをとる。鎌から高速こうそくで飛んでくる青い光弾。生き残っている俺と宇陀川のアバターに当たれば、俺たち四人よにんは倒されゲームオーバーだ。

 だが俺には狙いがあった。

 宇陀川のアバターへと向かっている青い光弾目がけてカードを投げる。ケルベロスは狙い違わず、その光弾に衝突しょうとつした。首無しからのダメージは、これで全て俺がかぶることになる。俺のヒットポイントはゼロに。アバターは死亡しぼうしたことを現す半透明になる。だが宇陀川は生き残る。

「≪騎士道きしどう≫か!!」宇陀川が言った。

 この味方への攻撃をカードをぶつけて一人ひとりがかぶることを≪騎士道≫とばれている。正式せいしきには≪インタラプトディフェンス≫という名前なまえのようだが、昔流行ったロールプレイングゲームで——俺はやったことはないが——職業しょくぎょうに≪ナイト≫を選択せんたくしていると≪かばう≫というコマンドが使えて味方への攻撃をナイトが受けるというゲームがあったらしい。どうもそれが由来ゆらいで≪騎士道≫と呼ばれていると聞く。

「あの速さで、よく当てたなぁ」と蛭田。

偶然ぐうぜんだよ」と俺は答える。

 実際問題じっさいもんだい、狙ってはいたが当たるかどうかは運次第うんしだいだった。つづけて言う。

「頼むよ、宇陀川。どこでもいいから当たれば勝てる!」

「あぁ!まかせろよ!」

 宇陀川は言うと、フー!っと強く息をいた。

「頼むぜ」と蛭田が言うと

「うるさい、集中してんだ。静かにしろ」宇陀川が答える。

(なんとか当ててくれ!)

 不気味ぶきみな首無しを画面がめん中央ちゅうおうに入れて、俺は祈った。

 スー、ハーっと宇陀川が呼吸を整える音が聞こえる。

 ふっとその音が途切れる。

「セイ!」

 と宇陀川のアバターから、シン・バハムートのカードが中空ちゅうくうへと投げられた——

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