第十一話 挑戦

(やはり、何か変だ……)

 ケータイのディスプレイに映し出された、俺の部屋へやに立つ≪首無し[SSR+]≫をおもう。見た目が不気味ぶきみすぎる上に報酬ほうしゅうもかなりおおい。

 ディスプレイの中の≪首無し≫の足は、きっちりと俺の部屋の床に着き、その不気味なシルエットが床や机に影を落としている。ケータイのカメラ、加速度かそくどセンサー、ジャイロからの情報じょうほうを元に≪ギルドラ≫のアプリ内で部屋、家具かぐの大きさを判定はんていして映像処理が行われているのだ。ゲームとしての面白おもしろさだけでなく、このような高度こうど技術的ぎじゅつてきチャレンジも≪ギルドラ≫のヒットの要因よういんわれている。

「……」

 俺は答えに逡巡しゅんじゅんして黙った。

「マツ?始めようぜ?」と宇陀川うだがわ

「ああ」「やるべ」蛭田ひるた毒島ぶすじまつづく。

 俺には強烈きょうれつ違和感いわかんがあるが、それを言葉ことば説明せつめいすることができない。ザワザワとした心のざわめきがあるだけだ。

「どうした、はやくしろよ?」宇陀川が焦れたように言った。

 理由りゆうが説明できない以上、やらないと言っても宇陀川たちは納得なっとくしないだろう。


「よし!やろう!」俺は言う。

【≪首無し[SSR+]≫に挑戦ちょうせんしますか?】

 と表示ひょうじされたメッセージウインドウ下の【はい】ボタンをタップする。

【ほぉ?楽しもうではないか】

 首無しは鎌をった右手みぎてをダラリと垂らし、左手ひだりてはボクシングのファイティングポーズのように構えると、ゆらゆらとしたフットワークでれ出す。と同時どうじに頭があったであろう場所ばしょに、鮮やかな白いヒットポイントゲージが表示される。

「ゲッ、白かよ」と俺。

「かなりツエーぞ、この血まみれ作業着さぎょうぎ」と宇陀川。

 ≪ギルドラ≫のボスキャラクターのヒットポイントゲージ色は、黄色きいろ<緑<水色みずいろ<青<白の順に多い仕様しようだ。つまり白は、もっともヒットポイントゲージが多いということ。

「俺からか。いくぜぇ」

 蛭田から攻撃こうげきだ。マルチプレイでは、それぞれのプレイヤーが順番じゅんばんに攻撃する。蛭田のモンスターは≪ファイヤードラゴン[SR+]レベル50≫。まぁまぁという強さのモンスターだ。合成ごうせいによって最大さいだいレベル50に到達とうたつしている。このモンスターカードをケータイの画面がめんに指を滑らせて、敵に投げつけることによって攻撃する。

 首無しをり囲むように、宇陀川、蛭田、毒島のアバターが表示されている。蛭田のアバターの上には、奴のターンであることを表す紫色むらさきいろ逆三角形ぎゃくさんかくけいが表示されている。

「おら行け!」

 と蛭田のアバターからカードが投げつけらる。そのカードは空中くうちゅうでファイヤードラゴンの形へと滑らかに変化へんげする。ファイヤードラゴンは狙い違わず首無しの腹に命中めいちゅうした。さらに反射はんしゃして宇陀川のアバターに衝突しょうとつ仲間なかまのプレイヤーに衝突すると、その所持しょじモンスターが攻撃に加わる。

「おら、行け!≪シン・ハバムート≫!」宇陀川が言う。言わなくても勝手かってに攻撃するのだが、シン・バハムートも首無しに追加攻撃。首無しのヒットポイントバーが見る見る現象げんしょうし白から青へと変わった。

「あれ?なんか打たれ弱くない、コイツ?」俺が言うと

「そうだな。こりゃ報酬余裕で頂きだな」と宇陀川が答える。

 

「俺のターンかぁ……」と毒島が、ゆっくりと言う。

 毒島の投げつけた≪ストーンゴーレム[SR+]レベル50≫も、首無しの右肩に命中。ヒットポイントゲージはみるみる下がり水色に。

(なんか思ったより歯ごたえないな。何か変だと思ったけど杞憂きゆうだったか)

 と俺は思う。

 次は俺のターン。ケータイを首無しのいる部屋の中心ちゅうしんに向け、画面の中央ちゅうおうに奴を捉える。呼吸こきゅうを整え、右手の人差し指を画面中央下に置く。一瞬いっしゅん、呼吸を止めると画面の上を首無しに向けて指を滑らす。俺のカード、≪ケルベロス[SSR]レベル60≫——宇陀川にうばわれたシン・バハムートの前のメインカード——が首無しの左胸に狙い違わず吸い込まれる。人型モンスターでは、ここがダメージ補正ほせいが働きもっともダメージが与えられるはず——

 首無しはダメージモーションをとると、画面には

【クリティカルヒット!】

 の表示。首無しのヒットポイントは大幅たいふくに削れ黄色に変化した。

「お、スゲ!」「おぉ!」「やるなぁ」と宇陀川たちのこえがボイスチャットで流れる。

「俺でトドメだな!」と宇陀川。

 だが画面に表示されたのは

【首無しのターン】

 との表示。宇陀川の前に、≪首無し≫の攻撃ターンとなった。

 首無しは死神しにがみのような鎌を、ゆっくりと持ち上げると横薙よこなぎに振るった。その鎌から俺たちプレイヤー四人よにんに向かって、青くかがや衝撃波しょうげきはのような半円形はんえんけいの弾が飛んでくる。避けようがないので甘んじて受けると、蛭田、毒島のアバターが赤く表示されヒットポイントゲージが黒に変色へんしょくした。

「あれ!?一撃いちげきでやられちまったのかよ!?」と蛭田が言った——

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