第九話 ネット

「まぁ別に好きとかそういうのではいわけだからな。うん。そんな硬くなることは無いよ……うん。普通ふつうに幼なじみにさ、気楽きらくにメッセージを送るだけですからね」

 自分じぶんい聞かせるように独り言を言うと、LINEのトーク画面がめんを開き<ゆか>と表示ひょうじされた名前なまえをタップする。

 さて、何を書いたものか?とおもい、フーっと息をく。しばらく考えたが、い考えは思い浮かば無い。だが、ここで送らないとまた宇陀川うだがわ連絡れんらくとってたらどうしよう?という考えに囚われてしまう。

 ままよとばかりに、ケータイに指を滑らす。

<今日きょう色々いろいろありがとう。助かったよ>

 ん、こんなんでイイのか!?まぁイイや、送っちゃえ!と【送信そうしん】ボタンをタップする。

(あ……小笠原おがさわらに送っちゃったよ……)

 と、ジタバタしたくなるほど恥ずかしくなる。画面をしばらくつめていると、そのメッセージ下に<既読きどく>と表示される。

(あ、見たんだ?)

 と思うやいなや、すぐさま「いいね!」とばかりに親指おやゆびを立てたスタンプが送られてきた。しばらく画面を見つめるが、そのあとに何を送ってくるわけでもない。

 なんだ、その素っ気ない対応たいおう!?なんか緊張きんちょうして損した気がするな。俺の緊張と思考時間を返せ。

 まぁイイや。小笠原は、見た目はおじょうだけど、サバサバした男っぽい性格せいかくしてるからな。こんなもんだろう。俺も親指を立てた似たようなスタンプを送り返す。すると

「お兄ちゃん!ご飯できたよ!」

 美夏子みかこが下からこえをかけてきた。

「わかった!」

 俺は返事へんじをすると、ケータイをベッドに置いて階段かいだんを降りて行った。


「お兄ちゃん、はい」

 美夏子は味噌汁みそしるを椀によそうと、俺に差し出した。

「サンキュー」

 受けると、食卓しょくたく椅子いすに座る。うちの母親ははおやが皿を並べている。

 今日の夕飯ゆうはんは、ハンバーグに味噌汁、ポテトサラダにご飯というメニュー。何だか今日は疲れていて凄い空腹感くうふくかんだ。飯がことさら美味びみそうで、かがやいて見える。

 俺は「いただきます」と軽く手を合わせると、猛然もうぜんと食べ出した。

 母親と美夏子が、呆然ぼうぜんとそれを見ている。

「あれ、いつもそんなだっけ?今日すごいガッついてない?」

 美夏子は自分の飯茶碗をって椅子に座ると言った。

「ほんとにねぇ。あんた、いつも食が細いのにねぇ」

 と母。

「うん、今日はね。とにかく腹が減ってる」飯から目を離さずに、俺が言う。

「ご飯持ってくる?」

 と、すぐに空になった俺の飯茶碗を見て美夏子が言う。

「いや、いいや。自分でやる」

 俺はせきを立つと、炊飯器すいはんきから飯を山盛りによそう。まるで「まんが日本昔ばなし」に出てくる飯のようになってしまったが、その茶碗ちゃわんとともに席にもどると、また黙々とご飯とおかずに取り組みだした。

「まぁよく食べるのは良いけどねぇ」と母。

「なんだか、いつに無い感じね……」と美夏子。

 山盛りの飯とハンバーグを片付け、味噌汁を一息ひといきに飲むと「ごちそうさま」と、俺はまた手を合わせた。

「はい……」あっけに取られた母が言う。

「じゃ、俺休むわ」と俺は二階にかい自室じしつへとサッサと向かった。

「お兄ちゃん、なんか今日変じゃね?」と美夏子の声。

「そうねぇ……」と母が答える声が背後はいごに聞こえる。


「あー、疲れた。腹いっぱいになったぁ」

 と俺はベッドに寝転ぶ。天井てんじょうをぼんやりと眺めていると、ケータイが震えた。手を伸ばして画面を見ると、<ウダ>なるアカウントからLINEの友だちに追加ついかされた事が通知つうちされている。

(宇陀川かぁ)

 思うやいなや、すぐさまにヤツからメッセージが飛んできた。

<マルチプレイやろうぜ>

 俺は返事を入力にゅうりょくする。

<≪首無し≫とのバトル?>

 間髪入れずに宇陀川から返事が来る。

<当たり前だろ。蛭田ひるた毒島ぶすじまにも≪ギルドラ≫起動きどうするように言っとくから、お前ゲーム立てろよ>

(≪首無し≫か……何か引っかかるよな……)

 俺は思った。まるでホラーゲームだ。俺は≪ギルドラ≫の上位じょういプレイヤーの一人ひとりで、かなりやり込んでるし、このゲームの世界観せかいかん理解りかいしてると思う。その俺が違和感いわかんを感じるということは、やはり何か不自然ふしぜんなことは間違いないはずだ。だが、アプリの画面に≪首無し≫の名は表示されているし、運営うんえいが今までにないキャラを入れてみたのかもしれない。

 何だか、得体えたいの知れない不安ふあんを感じるが

<わかった>

 と、俺は宇陀川にメッセージを送った——

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