第五話 読み

 どうしたものか、俺は考える。

 ニヤついた表情ひょうじょう宇陀川うだがわが俺をるとう。

「ヘヘ、ビビってんのかよ、おい?なぁに、ちょっと覗いて見るだけさ。死体はきっともう警察けいさつって行っちまってる。大丈夫だいじょうぶさ。せっかく珍しい事がきてんだ。覗きに行かない手はねぇぜ?」

 宇陀川の表情と発言はつげんから、俺は「読み」始めた。俺の得意とくい作業さぎょうだ。ケータイゲームでもオンラインゲームでも相手あいてに勝つには、相手の心理しんりと狙いを読む必要ひつようがある。相手も自分じぶんも、持ってる手駒てごまやカードは同じようなものだ。なら、相手の狙いを正確せいかくに読んだほうが勝つ。≪ギルドラ≫の世界せかいランキングでトップ50につねに入っている俺は、ある程度ていど「読み」に自信じしんがある。

(どうやら今の宇陀川の発言から、アイツもまだ行ったことがあるわけじゃないな。となると現地げんちの状態を知らないわけだから、俺と小笠原おがさわらわなにハメようとしてるわけじゃない。単なる自分の好奇心こうきしんとイタズラ心から、俺たちを誘ってるはずだ)

 俺はそう読んだ。そうなると、宇田川うだがわ思惑しわくかんしては気にせずに俺がどうしたいかを考えるべきだ。

 確かに死体が見つかった現場げんばは気にはなるが、俺は行ってみようなんておもいもしなかった。そこを自分の欲求よっきゅう素直すなおに従い、見に行こうとする宇陀川の発想はっそうにはおどろかされた。さすが学校がっこう人気にんき女子じょしを複数同時に口説くだけのことはある。宇陀川はマジでムカつくが、その動物どうぶつのような欲求への素直さは凄い。しかしそんなヤツだから、人の苦労くろうして手に入れたカードをり上げたりできるんだ。ほんと、ムカつく野郎やろうだ。

 その宇陀川たちと行動こうどうを共にするのは気に入らないのだが、こんな機会きかいでもければ現場を見に行くことなんてないだろう。ならば結論けつろんは一つだ。俺は言う。

「そうだな。行く。行くよ」

「え、行くの?気持ち悪いよ」

 浅野あさのがイヤそうに言った。

「小笠原はどうするんだぁ?お嬢様じょうさまにゃ刺激が強すぎるか?」

 宇陀川は小笠原をバカにしたように言った。小笠原はムカッと来たのか、鋭い目つきで宇陀川をにらむ。

「なに、その言い方?松波まつなみも行くなら、私も行くわ。松波が一人ひとりかえらないように付いて来たんだから」

 それを聞くと宇陀川は言う。

「愛、小笠原は行くってよ。お前はどうすんだよ?後で話に付いて来れなくても知らねぇぜ?」

 浅野は小笠原へライバル心に燃える視線しせんを送ると言う。

「……わかったわ。アタシも行く」

 宇陀川は満足まんぞくそうに笑った。

「ククク、し。俺様の考えた楽しい『肝試きもだめし』は全員出席だな。お前らも行くよな?」

 軽薄けいはくな笑いを浮かべた蛭田ひるた毒島ぶすじまが、うなずく。

 俺は、宇陀川に乗せられているのが気に入らないが、乗ってしまったものは仕方しかたない。

「さて、そうと決まれば行こうぜぇ。楽しいレクリエーションの時間じかんだぜぇ?」

 宇陀川はチャリに乗ると、後ろに浅野を乗せ、土手どてを南に走り出した。蛭田、毒島がそれにつづく。

 徒歩とほの小笠原を見て、俺は言った。

「どうする?」

 俺のチャリの後ろに乗ってくれるのが良いと思うが、照れ臭い。

「え、決まってるでしょ?遅れちゃうじゃない。後ろ乗せてよ」 

 小笠原がキョトンとした目で俺を見て言う。

「そう……だよな。うん、わかった」

 俺がチャリにまたがると、小笠原は荷台にだいに膝を揃えてちょこんと座った。俺のこしに手を回すと言う。

「さ、行こう」

 小笠原が言う。背中せなかから小笠原の甘い匂いと感触かんしょくを感じる。

「うん……行こう」

 俺は言うと、宇陀川たちを追ってチャリを漕ぎ出した。


 しばらく南下なんかしてから東へ。土手どてを降りて工場地帯の路地ろじへと入る。少し行くと、あの不気味ぶきみなほど青いブルーシートの貼られた廃工場はいこうじょうがすぐそこに見えた——

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