Ⅵ
「和泉! 和泉、頼む。開けてくれ!」
夜月は扉を叩き続けた。ほとんど扉に身体を押しつけるようにして。
「和泉!」
扉の向こうは沈黙している。
それでも夜月はやめなかった。
「和泉! 開けてくれ!」
花は彼の元にいる。それはわかっているのだ。
彼は嘘をついている。花を夜月から奪うために?
わからない。なぜ彼は花を手に入れたがっているのだろう。
花が夜月に会わないというのは本当だろうか。それも彼の嘘なのか。いや、違う。それはおそらく事実だろう。
花は夜月を諦めた。
だから彼の元にいるのだ。
夜月が手放すのをためらっているうちに彼女の方から夜月の元を離れた。
「花……」
彼は花にどこまで話したのだろう。
花を放すのが嫌で夜月が秘密にしていたこと。
両親の魂を食べてしまったことは話した。そのときは花が怖がって離れていけばいいと思った。自分で手放すより彼女からいなくなってくれた方がいいと思っていたのだ。
しかし実際にいなくなってみてどうだ。
自分は彼女に見捨てられたのか? 自分の欲のために彼女を閉じ込めていた愚かな男は見捨てられて当然なのか?
何よりもつらいではないか。
愛する人に決断させてしまった。苦しい決断を迫ってしまった。
後悔に溺れている暇はない。
今、夜月にできることは。
「……和泉! 和泉、頼む!」
懇願するという憐れな行為だけ。
このまま彼女を失うわけにはいかないのだ。別れも言わないまま、きちんと彼女の想いに応えないまま。
夜月はまだ花に伝えていなかった。1度も、伝えていない。
彼女は何度も伝えてくれていたのに。
夜月は花を愛している。
花は夜月を愛した初めての相手で、同時に彼が愛した初めての相手。
もしも彼女に会えたら、彼女の身体を思い切り抱き締めて、甘い香りのする髪を掻き分けて彼女の唇を奪い、それでも足りなくて首筋に、額に、頬に、髪の1本1本にまでキスをして。
でもその前に。
伝えることがある。
「花」
世界でいちばんお前のことが――――――――――
「好きだ」
孤独な魂を、この手に 水谷りさ @mizutanirisa
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