Ⅴ
花は目覚めた。
そこは見知らぬ部屋だった。真っ白な壁に四方を囲まれ、わずかに木材の香りがする。
静かだ。なんの音もしない。不自然なほど静まり返っている。
「……夜月」
ここは夜月の家ではない……のだろうか。わからない。
「ここはどこ?」
つぶやいた声が壁に吸収される。
「夜月」
駄目だ。ハッと気づく。
もう会っちゃいけない。もう夜月に会ってはいけないのだ。
大好きだからこそ、諦めなくては。
大切な人を、もう苦しめたくない。
「夜月……バイバイって言えなくてごめんね」
大好きだよ、夜月。私は夜月だけが好き。世界でいちばん好き。
「花」
なぜだろう。彼の声が聞こえる。
「花」
どうして。
「目を開けてくれ……花」
会いたくて会いたくて会いたくて。
だからこんな幻聴が聴こえるのかもしれない。
花は涙を流しながら微笑んだ。
夜月……さよなら。
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