花は目覚めた。

  そこは見知らぬ部屋だった。真っ白な壁に四方を囲まれ、わずかに木材の香りがする。


  静かだ。なんの音もしない。不自然なほど静まり返っている。


「……夜月」


  ここは夜月の家ではない……のだろうか。わからない。


「ここはどこ?」


  つぶやいた声が壁に吸収される。


「夜月」


  駄目だ。ハッと気づく。

  もう会っちゃいけない。もう夜月に会ってはいけないのだ。


  大好きだからこそ、諦めなくては。

  大切な人を、もう苦しめたくない。


「夜月……バイバイって言えなくてごめんね」


  大好きだよ、夜月。私は夜月だけが好き。世界でいちばん好き。

 

「花」


  なぜだろう。彼の声が聞こえる。


「花」


  どうして。


「目を開けてくれ……花」


  会いたくて会いたくて会いたくて。

  だからこんな幻聴が聴こえるのかもしれない。


  花は涙を流しながら微笑んだ。

 

  夜月……さよなら。


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