第4章 無題

  君は気づいているでしょうか。

  君の愛する主人が何者なのか。


「しゅ……じん?」


  夜月のことです。


「……夜月は夜月だよ」


  ああ、やはり君は賢い。

 

「夜月のことを話してくれるの?」


  ええ、もちろんです。そうですね、何から話しましょうか。

 

  僕は彼と子供の頃にある場所で出会いました。

  大変驚いたものです。彼は僕とよく似ていた。

  僕らは共に周りの誰からも理解されない存在でした。


「夜月はどんな子供だったの?」


  君の知っている夜月でした。彼は昔から変わりません。

  冷静で何があっても笑わない、子供らしくない子供でしたよ。

 

  夜月は自分という存在に疑問を抱いているようでした。彼はその矛盾に飲み込まれたように思われましたが、それは僕の勘違いだったようです。

  彼は君を見つけたのですから。


  彼は道を違えることにためらいを感じなくなっていたところに、君という人形を手に入れてしまった。相当もて余したことでしょう。君はその幼い姿とは裏腹に構造が複雑ですからね。


「私が、複雑?」


  君は生まれながらに特別な使命を負っています。

  夜月もそれはわかっています。それでも君を縛っているのは彼の欲でしょう。


「夜月と一緒にいたいって言ったのは私なの。私が」


  君は夜月以外を知りません。君の身体は夜月だけでできていると言っても過言ではありません。


  身体といえば、君は初めて会ったときから随分成長しましたね。


「……うん。夜月もよく大きくなったなって言って頭をなでてくれる」


  そう言うときの夜月の表情はどのようでしたか?


「少しだけ……寂しそうな顔」


  そうですか。きっと君が遠くに行ってしまうように思われるのでしょう。


  と言っても僕が懸念しているのは別のことです。

 

  君が夜月に囚われているように、彼も君に囚われている。

  彼が最後に食事をしたのがいつか知っていますか?


「………………」


  君と僕が初めて会った日ですよ。


「………………」


  君を守るためにアクマの子供たちを食べたあの日です。

  彼はそれから1度も。


「夜月は……大丈夫、なの?」


  大丈夫ではないでしょうね。


「どうして? どうして夜月は」


  君のせいですよ。


  おや、随分と驚いた顔をしますね。君も気づいているものだと思っていましたが。


  正直に言いましょう。僕は今日、君を連れていく気で訪ねたのです。

  どうです? 君は夜月の元に残りますか?

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