第4章 無題
Ⅰ
君は気づいているでしょうか。
君の愛する主人が何者なのか。
「しゅ……じん?」
夜月のことです。
「……夜月は夜月だよ」
ああ、やはり君は賢い。
「夜月のことを話してくれるの?」
ええ、もちろんです。そうですね、何から話しましょうか。
僕は彼と子供の頃にある場所で出会いました。
大変驚いたものです。彼は僕とよく似ていた。
僕らは共に周りの誰からも理解されない存在でした。
「夜月はどんな子供だったの?」
君の知っている夜月でした。彼は昔から変わりません。
冷静で何があっても笑わない、子供らしくない子供でしたよ。
夜月は自分という存在に疑問を抱いているようでした。彼はその矛盾に飲み込まれたように思われましたが、それは僕の勘違いだったようです。
彼は君を見つけたのですから。
彼は道を違えることにためらいを感じなくなっていたところに、君という人形を手に入れてしまった。相当もて余したことでしょう。君はその幼い姿とは裏腹に構造が複雑ですからね。
「私が、複雑?」
君は生まれながらに特別な使命を負っています。
夜月もそれはわかっています。それでも君を縛っているのは彼の欲でしょう。
「夜月と一緒にいたいって言ったのは私なの。私が」
君は夜月以外を知りません。君の身体は夜月だけでできていると言っても過言ではありません。
身体といえば、君は初めて会ったときから随分成長しましたね。
「……うん。夜月もよく大きくなったなって言って頭をなでてくれる」
そう言うときの夜月の表情はどのようでしたか?
「少しだけ……寂しそうな顔」
そうですか。きっと君が遠くに行ってしまうように思われるのでしょう。
と言っても僕が懸念しているのは別のことです。
君が夜月に囚われているように、彼も君に囚われている。
彼が最後に食事をしたのがいつか知っていますか?
「………………」
君と僕が初めて会った日ですよ。
「………………」
君を守るためにアクマの子供たちを食べたあの日です。
彼はそれから1度も。
「夜月は……大丈夫、なの?」
大丈夫ではないでしょうね。
「どうして? どうして夜月は」
君のせいですよ。
おや、随分と驚いた顔をしますね。君も気づいているものだと思っていましたが。
正直に言いましょう。僕は今日、君を連れていく気で訪ねたのです。
どうです? 君は夜月の元に残りますか?
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