とうとう手に入れた。

  影は満足そうに微笑んだ。


  シニガミの娘。神の手によって作られた精巧な人形。美しく麗しい。

 

  一目見たときからひどく心を惹かれた。彼女は美しい。

  影は美しいものを求めていた。

  どうしても手に入れたかった。どんな手を使ってでも。


  美しさに執着するのは、自身が醜いせいかもしれない。

  影は自分の醜さを知っている。醜いせいで捨てられた。醜いせいで誰も救いの手を差し伸べてはくれなかった。

  だから顔を隠した。誰にも見せない。誰にも醜いとは言わせない。


  影は彼女を支配したかった。彼女を自分のものにすることで、その美しさまでも支配しようとしたのだ。

  彼女が別の誰かのものであったとしても関係ない。

  奪えばいい。ただそれだけだ。


  彼女は美しく、そして興味深い。


  影は彼女の安らかな寝顔を見ながら、自分の顔を隠すものを剥いだ。

  赤い瞳とただれた痕があらわになる。


  彼は取り返しに来るだろうか。


  影は唇を吊り上げて笑う。

  来たとしても無駄だ。既に彼女は自分のもの。

  そうやすやすと手放してなるものか。


  さて、楽しみがひとつ増えた。

  彼がやって来るのをのんびりと待つとしよう。

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