夜月の亡くなった両親の骨は魂の墓場にある。

  彼らの身体にはたくさんの人間の魂が詰まっている。


  魂の墓場というのは元々、役目を終えたシニガミを埋葬する場所だった。シニガミ、人の魂を消化する者を。

  人は身体を先に亡くす。心臓の機能が停止したり、血管が詰まったり。そうして機能をなくした身体には行き場のない魂が残る。その魂を土に還すのがシニガミの役割だ。

  シニガミの身体の中は誰かの魂を容れておくために空洞になっている。魂を消化できるといっても容量というものはあり、消化した魂が空洞を埋め尽くすと彼らの役目は終わりとなる。あとは魂の墓場に埋められ、土に還るのを待つだけである。


  世の中にはアクマという生き物もいる。

  彼らは人の魂を喰う。それを栄養として生きているのだ。

  アクマは魂を喰うが、中にはうまく魂を消化しきれない者もいる。人間が食べ物の中から必要な要素だけを吸収して、残りを排出するように。彼らは消化しきれなかった魂を捨てる場所を求めた。

  その場所に選ばれたのが魂の墓場だった。


  清浄な魂と未遂の魂と純粋な魂と混濁の魂と。本来まだ生きているはずの魂が廃棄されたその場所は混沌の地となった。

  秩序も安寧もなくしたそこには、魂だけではなく身体・・まで捨てられるようになった。アクマに魂だけを抜き取られた不完全な身体。そこに行き場のない魂が結合しようと入り込む。身体は本来の役割を失っても溶け込む異物タマシイを拒めない。


  魂を奪われた夜月の両親も同じである。魂の墓場に彼らの身体があるのはそういうわけだ。

  夜月は自分の両親を決して愛してはいなかった。しかし彼らの魂を奪おうなどと考えたことはあるはずもない。夜月は自分がアクマだということを、両親を喰う・・まで知らなかったのだから。

 

  夜月は知ってしまった。自分の生きる術を。自分が生きるために必要なことを。

  魂がいるのだ。

  夜月は喰った。名前も知らない人の魂を喰った。知っている人のものは食べられる気がしなかったが、どうだろう。意識が正常である限りは避けた。

 

  消化不良のアクマ、というのに夜月も当てはまる。彼は消化しきれないほどの魂を食べてしまうことがある。夜、月のない日は特に。何かが彼を狂わせるのだ。惑わせて誘う。口にする魂がいったい誰のものなのかなどという疑問も忘れてしまうぐらいに。

 

  彼女に出会ってからはそんな夜が怖くなった。それまではどうにか魂の墓場に不要物を捨てることで凌いでいた。しかし、彼はイレモノを手に入れてしまった。

  愛らしい人形の形をしたイレモノを。


  彼は誰かを理解したりしない。誰にも心を開かない。幼い頃の記憶がそうさせるのだ。


  そんな強ばった夜月の心を、花は溶かしてしまった。

  彼は彼女を愛している。

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