Ⅵ
夜月が出掛けている昼間のこと。日がちょうどいちばん高くまで昇った頃だ。
玄関の扉をノックする音が乾いた廊下に響いた。
花は不思議に思いながら扉を開ける。まだ夜月が帰ってくる時間ではない。
「こんにちは、お嬢さん」
扉の向こうには黒いサングラスとやわらかい笑み。
「……こんにち、は」
花は小さな声で返し、扉を半分閉じる。
「夜月はいないよ?」
早く帰ってほしい、と思った。夜月のいない独りぼっちの不安もあったからだろう。
「わかっていますよ。今は君ひとりでしょうか」
「………………」
「お邪魔してもよろしいですか?」
彼は穏やかな笑みを浮かべて問う。そして怯えた様子の花を安心させるようにある提案をした。
「そうですね、夜月の昔話でもお聞かせしましょうか」
「夜月……の?」
「僕は彼の古くからの知り合いですから。君よりもよく彼のことを知っていると思いますよ」
夜月の過去。彼が花には話したがらない秘密。
それらは花の興味をひいた。夜月のことを知りたい。もっと深く。彼を知りたい。
「せっかくですから、僕は君のことも知りたいですね。どうです? 話の交換というのは」
「私の、こと?」
「はい。僕は君に興味があるんですよ」
花は時々開けてはいけない扉を開けてしまう癖がある。それは彼女の心に埋められない隙間が存在しているせいだろうか。イレモノである彼女には行動にブレーキをかけるストッパーも危険を知らせる信号も備わっていない。
扉にかかった花の手が、くいっと引き付けられた。キイッと音を立てて扉は彼を招き入れた。
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