町中を歩く男女のふたり組。

  ひとりは黒いコートを着こんだ若い男である。背が高く、鋭い目を持っている。

  隣を歩くのは人形のような少女。ドールハウスに並べられている方がよほど自然に見える。まるでおとぎ話の世界から飛び出してきたかのような風貌だ。レースとフリルをふんだんにあしらったワンピースに、頭にはリボンをカチューシャの代わりに巻いている。生まれてこの方陽を浴びたことがない真っ白な肌。ふわふわと緩くカールした髪。愛でる目的のためだけに作られた精巧な人形。彼女は素直な黒い瞳を輝かせて彼を見上げている。


  じゃれつく少女をいとおしそうに見つめながらも、彼は時折鋭い視線で辺りをうかがっている。何かを警戒しているようだ。


「……気も休まりませんね。僕のことを警戒しているのでしょうか」


  ふたりのあとを離れたところからついていく影があった。


「無駄なことですが」


  彼はアクマだ。影は彼のことをよく知っている。彼と影はかつて親交があった。あの少女が現れるずっと前。


  それにしても。

  あの気難しい彼を虜にするとは。


「シニガミの娘……面白い。面白いです。大変興味深いですね。そして美しい・・・。ぜひとも手に入れたいものです」


  影はかつての親友の持ち物である人形かのじょを見て、静かに手を伸ばす。歪んだ唇から笑い声が漏れる。


「さあ、こちらへいらっしゃい……」

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