第3章 紅い月


  ふわりとした長い髪。淡いピンクのリボンとワンピース。

  背丈は彼の肩の辺り。

  真っ白な脚はむき出しで、踊るようにステップを踏む。


  優雅な仕草で扉を開ける。


「お帰りなさい」


  扉の向こうにいた彼は、


「……ただいま」


 と言って家に入った。


「花」

「なあに、夜月」


  首を傾げた花を夜月が抱き締めた。


「また大きくなったな」

「ふふっ。もう子供に見えない?」

「いや……まだまだお前は幼い」

「うーっ。意地悪」


  花は頬を膨らませながらも、嬉しそうに夜月の胸に顔をうずめる。

  夜月はその花の頭をいとおしそうになでた。


「言っただろう、そのままでいいと」

「夜月と同じぐらい大きくなりたいの」

「……なぜ?」

「だって……そうしたら、背伸びしなくても夜月の頭をなでてあげられるから」


  そう言った花の頬に夜月が口づける。花はくすぐったそうに笑った。


「やはりお前は不思議なことを言う」


  花を解放し、夜月は家に上がる。


「あのね、今日はマフィンを焼いたの。食べてくれる?」

「ひとくち、な」


  ふたりは広間に向かった。いつもの甘い香り。夜月は唇の端を上げた。

  広間のテーブルにはユリの花が飾ってある。皿の上には綺麗に盛られたマフィン。


  ひとくちを花が夜月の口に入れる。


「甘い……が、美味しい」


  夜月の言葉を聞いて、花は頬を染めて喜んだ。

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